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リカレント教育とは?注目の理由や従業員教育への導入ポイントを解説

リカレント教育とは?注目の理由や従業員教育への導入ポイントを解説
リカレント教育の定義と導入のポイント(デザイン:吉田咲雪)
これあらた代表取締役/冨山佳代

リカレント教育は、社会人の学び直しとも呼ばれ、仕事に生かすために知識・スキルを学び直すことです。リカレント教育とはどんなものなのか、なぜ注目されているのか、どのように推進されているのか、どんな支援制度があるのかを解説したのち、従業員教育への導入ポイントを解説していきます。

冨山佳代さん
冨山佳代(とみやま・かよ)
キャリアコンサルタント・研修講師。1972年生まれ。日本女子大学卒。東京海上日動火災保険(法人営業、人事:研修企画・講師)、スコラ・コンサルト(人事総務など、執行役員2年)を経て、2009年独立。著書『期待している人が辞めずに育つ 女性部下マネジメントの教科書』(同文舘出版)。日本女子大学リカレント教育課程 担当講師・キャリアカウンセラー。長男妊娠出産前後に専門学校リカレント教育受講、精神保健福祉士合格。

1.リカレント教育とは

リカレント教育とは、「学校→就職→学校→転職……」というように、学びと仕事の間を循環(リカレント・recurrent)しながらの学びのことです。仕事を休職もしくは退職して学び直すものが元来の定義ですが、日本のリカレント教育には仕事を休まず学び直すものも含まれ、社会人の学び直しとも呼ばれています。

日本のリカレント教育は、従前から企業内教育が果たしてきた役割が大きく、文部科学省や経済産業省は、リカレント教育の事例として、日産化学の「博士号取得奨励制度」や三菱商事 の「IT・デジタル研修」などを紹介しています。新しい取り組みとして、経済産業省「未来の教室」事業「社会課題の現場への越境プログラム」の活用や日本経済団体連合会(経団連)による「産学連携によるリカレント教育の推進」も注目されています。

国内におけるリカレント教育の2021年度の市場規模は前年度比7.1%増の467億円と見込まれ(参照:リカレント教育市場に関する調査を実施(2021年)│矢野経済研究所)、年々注目度が高まっている状況です。

企業がリカレント教育へ投資をすることは、生産性が向上する、成長分野の事業へ人材を移行できる、自社内の異動で人材が確保できるので採用コストが抑えられる、イノベーションを生み出す可能性を高められる、などの利点があります。一方で、意に沿わない教育と異動の打診により従業員が退職してしまう、教育を受け市場価値が高くなった従業員が転職してしまうというリスクも抱えます。

リカレント教育は、企業、従業員それぞれに利益をもたらすプラスの側面と、お金、時間、労力などコストがかかるというマイナスの側面があります。開始にあたっては双方が納得し、かつ仕事の成果につなげられるように、「十分なコミュニケーションをとること」「この企業で働き続けたいと従業員が思える自社の魅力を高め続けること」が大切です。

(1)生涯学習やリスキリング(リスキル)との違い

リカレント教育と混同されがちな言葉に、「生涯学習」と「リスキリング(リスキル)」があります。

日本で「生涯学習」というと、一般的に趣味的な学びのイメージが強く、必ずしも仕事に生かす学びとは認知されていません。リカレント教育は、多様な分野の知識やスキルが学習対象となっていますが、“仕事に生かすための”知識やスキルの学び直しであるため、生涯学習とは区別されます(参考:「学び」に遅すぎはない!社会人の学び直し「リカレント教育」│政府広報オンライン)。

一方、リスキリングとは、デジタル時代・DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に必要な知識・スキルを学び直すことであり、リカレント教育のなかで最も注目されている分野の一つに位置づけられる言葉です。

世界経済フォーラムは、2020年1月の年次総会(ダボス会議)で、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言。同じ2020年の報告書「The Future of Jobs Report 2020」では、「2025年には人間と機械の分業が進むことで8500万人の雇用が失われる一方、9700万人分の新たな仕事が生まれる」との予測も発表しました。日本でも、その対応が待ったなしの状況であり、経済産業省が主体となって進められています。

2.リカレント教育が注目される理由

なぜ、今、リカレント教育が注目されているのでしょうか。主に次の三つの理由があると考えられます。

1. 経済社会の大きな変化への対応

2. 高まる雇用の流動性への対応

3. 急がれる人的投資とSDGsへの取り組み

それぞれ、以下で詳しく解説します。

(1)経済社会の大きな変化への対応

リカレント教育が注目される一つ目の理由は、技術革新の進展が予想される「Society5.0」の到来、長寿による「人生100年時代」、働き手が減少していく少子高齢化と人口減少のような経済社会の大きな変化への対応が求められているからです。

個々人は、人生を再設計し、学び直しを通じてキャリアアップやキャリアチェンジが可能となる知識・スキルを身につけ、学び続けながら生涯現役で活躍できるよう備える必要があります。そして、生産性向上と競争力向上のために、従業員の学び直しを推進・支援していくことが、国と企業の喫緊の課題となっています。

この課題に取り組むために、2018年に政府の「人生100年時代構想会議」がとりまとめた「人づくり革命 基本構想」において、「リカレント教育」の拡充が明記されました。リカレント教育が、当時の安倍晋三政権が経済政策の最大の柱とした「人づくり革命」のなかに位置づけられ、予算措置されたことで注目が集まりました。

(2)高まる雇用の流動性への対応

リカレント教育が注目される二つ目の理由は、雇用の流動性が高まることが避けられない状況にあるからです。

「人づくり革命 基本構想」には「職業能力の向上を通じ、キャリアアップ・キャリアチェンジにつながる社会をつくっていかなければならない」(引用:同資料 p.10)と書かれています。ここから「成長分野へ人材の流動性を高めて企業の生産性を向上させ、国・企業の競争力を高めていく」という政策の方向性と危機感を読み取ることができます。

企業としても、社内失業者を抱える余力はない一方、大量の失業者を出すことは社会的責任という点で望むところではありません。成長分野の事業へ人材を移行できる準備を進めるべく、企業として社員のリスキリングへの着手が求められています。

(3)急がれる人的投資とSDGsへの取り組み

リカレント教育が注目される三つ目の理由は、人的投資とSDGsへの取り組みが急がれているからです。

教育・研修などの人的投資が求められる背景の一つが、日本企業の人的投資(OJTを除くOFF-JTの研修費用)の低さです。世界では人材の価値を示す人的資本は「企業の競争力を左右する要素」として投資家の関心が高くなっていますが、日本企業の人的投資は、2010~2014年に対GDP比で0.1%にとどまり、米国(2.08%)やフランス(1.78%)など、ほかの先進国に比べてかなり低い水準にあります。かつ、この20年で年々低下しています(参照:第27回中央訓練協議会資料7 「経済産業省の取組」 令和4年2月 p.1│経済産業省)。

また、人材の価値を上げる人的投資は、企業のサステイナビリティー(持続可能性)という視点でも重要です。金融庁も、2023年以降、有価証券報告書に「人的資本」の記載欄を新設する見通しであることを公表しています。リカレント教育は、SDGsの17目標では特に「4.質の高い教育をみんなに」「8.働きがいも経済成長も」につながる取り組みです。この点からも、人的投資の一つであるリカレント教育は注目されているのです。

SDGs目標4と目標8のアイコン

3.リカレント教育を推進するための取り組み

リカレント教育は、「人づくり革命 基本構想」を起点に、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省庁、そして産官学連携のもとに推進されています。

ここでは、社会人にとって学びやすく、実践的なプログラムや教育方法が求められるリカレント教育を推進する取り組みとして、学び直しプログラムの拡充と、 学び直し関連情報の提供の取り組みをみていきましょう。 

(1)学び直しプログラム拡充の取り組み

①職業実践力育成プログラム(BP)認定制度(文部科学省)

大学、大学院、短期大学および高等専門学校の正規の課程と60時間以上の履修証明プログラム(学校教育法に基づき、修了者に履修証明書が交付されるプログラム)で、主に社会人を対象とし、社会人や企業などのニーズに応じた実践的・専門的な課程を文部科学大臣が認定する制度です。

2015年度の制度開始から2021年度までの累計認定件数は357件と豊富で、現在の社会課題、社会環境変化に対応する10テーマ(女性活躍、地方創生《地域活性化》、中小企業活性化、DXなど)を中心に多様な学びが可能です。これまでの認定例には、東京電機大学の「国際化サイバーセキュリティ学特別コース」や、日本女子大学の「働く女性のためのライフロングキャリアコース」などがあります。

②第四次産業革命スキル習得講座(リスキル講座)認定制度(経済産業省)

IT・データを中心とした将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野において、社会人が高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図る、専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する制度です。

2022年4月18日現在、事業者の申請を受け93講座が認定されています。認定分野は、「AI、IoT、データサイエンス、クラウド」「高度なセキュリティやネットワーク」「IT利活用(自動車モデルベース開発、自動運転、生産システムデジタル設計)」です。

(2)学び直し関連情報の提供の取り組み

「マナパス」(文部科学省)と「マナビDX(デラックス)」(経済産業省)の二つのポータルサイトが公開されています。従業員の自己啓発のための情報提供や社内研修や従業員派遣講座の選定などに活用するとよいでしょう。

①マナパス(文部科学省)

大学・大学院・短大・専門学校における学び直し講座情報や学び直し支援制度情報を発信する、社会人のためのポータルサイトです。幅広い分野のプログラム・講座が掲載されています。

プログラム・講座検索は、学ぶ目的(分野、資格など)や学ぶ条件(学ぶ場所、オンライン講座、土日・夜間開講、無料・受講料など)や教育訓練給付制度対象講座、職業実践力育成プログラム(BP)などの検索も可能です。また、マイページ機能でお気に入り講座の登録、学習履歴の記録もできます。

②マナビDX (経済産業省)

すべての社会人にとって必須スキルであるデジタルスキルに関するポータルサイトです。「デジタル入門/基礎講座」「デジタル実践講座」「受講料の支援のある講座」「特に女性におすすめ(多様な働き方に活かせる)」など、入門者からより実践的な学びを必要としている人までが、求める学びにたどり着きやすいよう工夫されています。

また、組織内でDXを担うデジタル人材育成のために、社内研修におすすめの実践的なコンテンツが掲載されていて、それらを企業研修に活用した場合、受講料や受講期間中の賃金に対する助成金が受けられます。

4.リカレント教育の支援制度

つづいて、厚生労働省が設けている、リカレント教育を実施する企業や労働者向けの支援制度をご紹介します。

(1)企業向け

①人材開発支援助成金

職業訓練などを実施する事業主、あるいは、有給の教育訓練休暇制度や長期教育訓練休暇制度を導入・実施した事業主に対して助成するものです。eラーニング・通信制による訓練の場合も助成の対象(経費助成のみ)となっています。

②生産性向上支援訓練

民間機関などに委託し、事業主のニーズに応じて、講義だけでなくグループワークなど効果的な演習を取り入れて実施する職業訓練です。生産管理、IoT・クラウド活用、組織マネジメント、マーケティングなどあらゆる産業分野の生産性向上に効果的なカリキュラムが用意されています。「DX対応コース」も選定されています。

(2)労働者向け

①教育訓練給付金

給付金の対象となる教育訓練は、そのレベルなどに応じて、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3種類があります。それぞれに対象となる教育訓練と受講費用の補助割合・上限が定められています。

(3)企業・労働者向け共通

①キャリア形成サポートセンター

全国に拠点が設置されている「キャリア形成サポートセンター」では、在職中の個人は無料でキャリアコンサルティングを受けることができます。また、企業に対しては、企業内のキャリアコンサルティングの導入支援をしています。

5.リカレント教育導入のためのポイント

最後に、リカレント教育を従業員教育に導入するためのポイントを確認していきましょう。

(1)学ぶ環境を整えずに導入するのはNG

従前の従業員教育に、たとえば長期の社外プログラムや討議・演習中心のリカレント教育を新たに導入する場合、次のような反応が起こりえます。

● 社員「こんな大変そうなプログラムには忙しくて参加できない」「ちょくちょく休んでいたら仕事にならないうえ、上司にどう思われるか……」

● 上司「こんなに長期間、夕方からいないなら大事な仕事を任せられない」

このような反応は、これまでとは違う学び方(長期、社外、討議・演習、課題解決型学習など)によって、学びを歓迎しない風土が表出したものです。学ぶ環境を整えずに学びだけを導入すると、職場と従業員に負荷ばかりが増え、結局、学べなくなるのです。

(2)現状把握・課題把握から具体的な進め方を決定する

リカレント教育の導入前に、以下を確認し、学ぶ環境の現状把握・課題把握から始めるとよいでしょう。

1. 経済社会の変化や学び直しに対する危機感、従業員に対する期待が共有できているか

2. お互いの学びを応援しあう風土、主体的に学ぶ風土ができているか

3. 従業員の学びを支援する制度(※)が整えられているか

4. 上司と部下で話し合い、学びを業務に生かす機会や新たな仕事・役割を作り出しているか

5. 上司が、部下のキャリアプランや能力開発計画を部下と一緒に考えているか

(※)支援制度例
働き方 フレックス、リモートワーク
時間 学習時間を業務時間とみなす
休暇 時間休暇、学びのための有給休暇、サバティカル休暇
費用補助 受講料補助(全額、一部)、自己啓発費用補助(全額、一部)
会社派遣 社外研修、大学、大学院
人事制度 長時間労働・残業を評価しない人事評価、代替要員確保
キャリアコンサルティング リカレント教育修了後のキャリアや報酬など

その上で、具体的な導入プロセスを決めていきます。

たとえば、支援制度の整備と職場での上司・部下のコミュニケーションのしくみが必要という課題が把握できた場合には、次のような進め方があります。

【例】「2.お互いの学びを応援しあう風土、主体的に学ぶ風土づくり」に向けて、トップメッセージとして「1.経済社会の変化と学び直しに対する危機感と従業員に対する期待」を伝え、そのために「リカレント教育導入予定」であることを宣言する。そして、早急に3、4、5の制度・しくみを整備する。

社会人を対象にした大阪工業大の「AIデータサイエンス」講座
社会人を対象にした大阪工業大の「AIデータサイエンス」講座=2021年9月、大阪市(撮影・朝日新聞)

6.ステークホルダーから選ばれ続ける企業を目指して

この記事では、「人づくり革命 基本構想」を起点とした各省庁によるリカレント教育の取り組みを中心に紹介してきました。

ここで紹介したプログラムや講座以外にも、専修学校リカレント教育総合推進プロジェクトキャリア形成促進プログラム経済産業省の産業人材の育成など、従業員のリカレント教育に活用できるものがあるので、各省庁のWebサイトやマナパスでご確認ください。

リカレント教育が、従業員と会社・業務・上司とのつながりを深め、一人ひとりの成長につながり、事業の成長につながり、顧客の喜びにつながり、働きがいにつながり、学びを応援しあう風土につながり、主体的に学ぶ人が増え、ジェンダー平等や不平等の解消につながり、循環していく。

リカレント教育導入の取り組みを通じて、SDGsの17目標の「4.質の高い教育をみんなに」「8.働きがいも経済成長も」を目指し、取り組みの過程では「17.パートナーシップで目標を達成しよう」を意識し、取り組み続けることで「5.ジェンダー平等を実現しよう」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「10.人や国の不平等をなくそう」にも近づいていく。

このような循環を目指して、まずは導入プロセスを、丁寧かつスピーディーに進めていくことが大切だと考えます。

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