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健康経営とは?認定制度や導入メリット、取り組み方、企業事例を解説

健康経営とは?認定制度や導入メリット、取り組み方、企業事例を解説
健康経営の定義と推進のメリット(デザイン:増渕舞)
中小企業診断士/北原竜也

健康経営とは、従業員の健康増進につながるさまざまな施策を経営目線から戦略的に実施する取り組みです。この記事では、健康経営エキスパートアドバイザーが、健康経営に取り組むときに知っておきたいこととして、国の制度やメリット・デメリット、取り組み方、参考となる企業事例をご紹介します。

北原竜也さん
北原竜也(きたはら・たつや)
中小企業診断士で心理・キャリアカウンセラー。カウンセラーとしての聴く技術も生かしクライアントの望む姿を明確にし、具体的な行動に移せるコンサルティングを行っている。健康経営エキスパートアドバイザーの資格も保有し、健康経営に関するコンサルティングも実施。著書に『うつ病、就活200社落ち。なので、ぼくは起業しました。』(文芸社)。

1.健康経営とは

健康経営とは、「従業員の健康増進」を経営的な視点で捉え、戦略的に実施していく取り組みです。

従来のように「従業員の健康は個人の問題である」とするのではなく、「従業員の健康は企業の収益向上に必須であり、従業員の健康促進に関する支出は投資である」と捉えます。

日本の健康経営の考え方は、1990年代にアメリカの臨床心理学者であるロバート・ローゼン博士によって提唱された「ヘルシーカンパニー」にもとづきます。日本では2009年ごろから大企業の取り組みとして始まり、現在では企業の規模に関わらず注目を集めています。

注目の理由は多岐にわたりますが、特に大きいのが健康経営が高い投資効果を生むためです。アメリカのジェンソン・エンド・ジェンソンが健康維持促進プログラムを実施し、投資に対するリターンを試算したところ、健康経営に対する投資1ドルに対して、3ドル分のリターンがありました(参照:健康経営優良法人2018(ホワイト500)認定のお知らせ|ジョンソン・エンド・ジョンソン)。実際、筆者が支援する企業でも、従業員の健康を促すために報酬制度を取り入れたところ、業績が上がったというところもあります。

また、健康経営は、近年、世界的な取り組みとなっているSDGs(持続的な開発目標)の目標3「すべての人に健康と福祉を」や目標8「働きがいも経済成長も」の達成につながります。SDGsの取り組みという点からもさまざまな企業に重要視されています。

SDGs目標3と目標8のアイコン

2.国が実施する健康経営推進の制度

健康経営は、国としても重要な施策と位置づけています。ここでは、国が健康経営普及のために実施している「健康経営優良法人認定制度」「健康経営銘柄」という二つの制度をご紹介します。

(1)健康経営優良法人認定制度

健康経営有料優良法人認定制度は、健康経営を実施している優良法人を認定する制度で、2017年に始まりました。経済産業省が推進し、経済団体や医療団体などでつくる「日本健康会議」が毎年、認定しています。

「健康経営優良法人」に認定されると、認定法人として情報が公開されるため、社内・社外から健康経営を実施している企業としての評価が得られます。

加えて、金利や融資の優遇措置、健康経営に関連する助成金の支給、国が発注する工事などの公共調達の加点、保険料の割引が受けられるなど多くのメリットがあります。

(2)健康経営銘柄

健康経営銘柄は、経済産業省と東京証券取引所が、優れた健康経営に取り組んでいる上場企業を毎年選定する制度です。

選定されるには、健康経営への取り組み内容はもちろん、経営状態の健全性や法令順守などの面で高い評価を受ける必要があります。

ただ、ハードルが高い分、選定されると健康経営を率先して取り組む企業として、知名度や社会的な評価が向上し、投資先として選ばれる可能性が高くなるなどのメリットがあります。

健康経営銘柄は年々増加しており、2020年は40社、2021年は48社、2022年は50社です。

3.健康経営のメリット・デメリット

では、企業が健康経営に取り組むと、実際にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。それぞれ詳しくご説明します。

(1)メリット

初めにも少し触れましたが、ジェンソン・エンド・ジェンソンが健康維持促進プログラムを実施したことにより、1ドルの投資に対して3ドルのリターンが得られたという調査結果を公表しています。

健康投資には、一般的に以下のような効果があると考えられています。

・生産性の向上:欠勤率の低下や、プレゼンティーイズム(出勤しているものの、心身の不調でパフォーマンスが上がらない状態)の解消

・医療コストの削減:傷病手当支払いの減少や、長期的な医療費の抑制

・モチベーションの向上:従業員とその家族の忠誠心と士気の向上

・リクルート効果:採用したい人材の獲得率アップ

・イメージアップ:ブランド価値の向上

このように、従業員の健康に対する投資は、企業価値を向上させるさまざまなリターンにつながります。

特に、人材の定着と確保を促せることは、人材の確保が困難になっている昨今において、特に大きなメリットといえます。 

健康づくりのため朝礼でラジオ体操をする企業の従業員
健康づくりのため朝礼でラジオ体操をする企業の従業員=2016年4月、新潟県三条市(撮影・朝日新聞)

(2)デメリット

①効果測定が難しく短期的な効果が見えにくい

健康経営は、短期的な効果が見えにくいのがデメリットです。

そもそも健康は日々の生活の積み重ねで成り立つものであり、例えば、1日だけ食事に気をつけたり、運動したりしたとしても、不規則な生活をしていれば効果は得られません。

これと同様に、健康経営も、始めてすぐに大きな効果の実感ができないケースが多くあります。その要因としては、健康経営の評価項目に「プレゼンティーイズムの低減」や「モチベーションの向上」など数値で表せないものが少なくないことがあげられます。また、欠勤率の低下や採用率の向上のように数値で表せるものにかんしても、健康経営との直接的な因果関係として結びつけることが難しい、という理由もあります。

②社内体制構築の負担がかかる

健康経営の実施のためには、社内でプロジェクトチームをつくる、健康経営推進の担当者を決めるなど、滞りなく進められる体制づくりをしなければいけません。

また、このような社内体制の構築は、少なからず従業員に負担をかけることになります。健康経営の担当者が心身の健康を損ねてしまえば元も子もないため、そのケアも必要となります。

4.健康経営の取り組み方

健康経営に取り組むためには、次の手順で進めるとよいでしょう。

1. 経営者が「健康宣言」をする

2. プロジェクトチームをつくり、担当者を決める

3. 課題を明確にして目標を設定する

4. 目標達成のための計画や行動指針を策定する

5. 定期的に見直しを行う

(1)ステップ1. 経営者が「健康宣言」をする

健康経営は社をあげて取り組むことが非常に重要です。そのため、まずは“経営者”が旗振り役となり、自社で健康経営を実施する「健康宣言」をしましょう。

「健康宣言」は、健康経営優良法人認定制度の認定の要件にもなっているため、認定を目指す場合にも不可欠です。

(2)ステップ2.プロジェクトチームをつくり、担当者を決める

経営者が「健康宣言」をしたら、そのメッセージを形にするため、健康経営の実践に向けたプロジェクトチームをつくります。企業の規模が小さくてプロジェクトチームを組めない場合は、外部と連携し健康経営を実施する担当者を決めます。

プロジェクトチームや担当者は、健康経営に関する研修や、健康に対する取り組みの企画などを行います。

また、健康経営の実施には産業医や保健師、健康経営アドバイザーなど外部の人材を活用するのも有効です。その場合は、自社に足りない部分を整理するとともに、どのくらいまでコストをかけられるのか事前に決めておくとスムーズに依頼できます。

(3)ステップ3.課題を明確にして目標を設定する

健康経営のデメリットとして、効果の数値化が難しく測定が困難である点をあげました。そのため、健康経営の実施にあたっては、課題を明確にし、目標を設定することも大切です。

例えば、社内の健康診断やストレスチェックの結果から、運動不足の傾向が見られれば朝に体操を行う、ストレスを抱えている傾向が大きければ働き方を見直して残業時間を削減する、などがあげられます。

設定する目標の見当がつきにくい場合は、健康経営優良法人認定を目標にするのもおすすめです。

(4)ステップ4.目標達成のための計画や行動指針を策定する

課題を明確にし、目標を設定したら、目標達成のための計画や行動指針を策定します。

目標達成の計画は、「◯◯までに健康経営有料法人認定を取得する」「◯◯までに残業時間を◯%減少させる」など「いつまでに何を達成するのか」といった目標達成の時期を設定し、逆算する形で立てるとよいでしょう。

行動指針は、「運動不足の傾向が見られるので、朝や昼などに体操の時間を設ける」など、日常的な行動に即したもののほうが従業員も取り組みやすくなります。

(5)ステップ5.定期的に見直しを行う

策定した計画に沿って健康経営をスタートさせたら、定期的に効果を測定し、目標との差異から適宜見直しを行います。

5.健康経営の参考事例

筆者が実際に支援に携わった健康経営の事例を二つ、ご紹介します。

(1)事例1.運動不足解消の促進

ある企業では、座り仕事が中心で、従業員の運動不足が課題となっていました。

そこで、この企業では、従業員に積極的にウォーキングをしてもらおうと、数人でチームを組ませてチーム内の平均歩数が多かったチームへ報酬を用意することにしました。

単に報酬を与えるのではなく、チーム制にして「自分が歩かなければ、報酬がもらえない」という仕組みが功を奏したのでしょう。結果として、多くの従業員が自発的にウォーキングをするようになりました。

また、従業員全員がウォーキングを実施しているという共通の話題ができたことで、異なる年代のコミュニケーションが円滑になり、会社全体の業績も上向きになったようです。

(2)事例2.残業時間削減

ある企業では、残業が常態化していましたが、健康経営の一環として残業時間を削減する取り組みを始めました。

具体的には、定時退社日(この日は原則、残業をしないとする日)の導入です。しかし、ただ導入するだけでは形骸化してしまうため、この企業では、定時退社日は部署の管理職が率先して退社しなければならないというルールをつくりました。それにより、定時退社をしやすい雰囲気ができ、スムーズに定着していきました。

従業員の「朝型勤務」を定着させるため、朝食の営業を始めた社員食堂
従業員の「朝型勤務」を定着させるため、朝食の営業を始めた社員食堂=2018年5月、神戸市(撮影・朝日新聞)

6.健康経営は簡単な一歩から

人手不足が深刻化している日本において、従業員の健康と経営は今や切っても切れない関係になりつつあります。

健康が1日にしてならないように健康経営も1日にしてなりませんが、毎日の小さな積み重ねが数カ月後、数年後には大きな差をうみます。

一度に多くのことをする必要はないので、簡単に手をつけやすいところから取り組んでみてはいかがでしょうか。

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