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熱分野での脱炭素化へCNL広めたい【4Revs】日本のイントラプレナー③

熱分野での脱炭素化へCNL広めたい【4Revs】日本のイントラプレナー③
東京ガス法人営業本部ソリューション共創部VPP・グリーンソリューショングループ係長/大川里枝

地球温暖化対策として、カーボンニュートラルへの歩みは着実に進めたいもの。電力分野では耳にする機会の多いその取り組みを、熱分野でも加速させたい。東京ガスの大川里枝さん(42)は、脱炭素化に寄与する天然ガスの使い方が広まるよう力を注ぐ。(聞き手 編集長・高橋万見子)

日本初のカーボンニュートラルLNG導入へ

――現在のお仕事を教えてください。

2020年4月から、ソリューション共創部という部署で働いています。ガスや電気などの既存事業にこだわらず様々なパートナーと共創し、新たな収益の柱をつくることをミッションとした部署ですが、私自身は従来の事業に近い分野を扱っています。具体的には、カーボンニュートラルな液化天然ガスの販売企画やプロモーションです。

カーボンニュートラルLNGのマーク
カーボンニュートラルLNGのシンボルマーク(東京ガス提供)※商標登録済み

天然ガスは、化石燃料の中では環境負荷の小さいエネルギー源ですが、採掘から燃焼に至るまでにLNG船1隻あたり約24万~25万tの温室効果ガスが発生します。これを新興国などでの植林や森林保全といったプロジェクトで創出される二酸化炭素(CO2)クレジットと相殺する(カーボン・オフセット)することで、地球全体で見ればこの天然ガスを燃焼してもCO2が発生しないとみなすのがカーボンニュートラルLNG(CNL)です。

東京ガスは2019年に日本で初めてシェル・イースタン・トレーディング社からCNLを導入しました。当時の合言葉は、「For our grandchildren~私達の孫のために~」だったと聞いています。将来を担う未来世代のために今自分たちができる新しいことにチャレンジしよう」という気概で始まった取り組みと認識しています。

東京ガス袖ケ浦LNG基地
東京ガス袖ケ浦LNG基地(東京ガス提供)

――電力分野でのカーボンニュートラルに向けた取り組みはよく聞きますが。

日本で、エネルギー分野から発生するCO2は年間約9.7億t(2020年度)です。確かに、火力発電など発電所から出るCO2が全体の4割と最も大きな比重を占めるのですが、家庭や業務・産業部門での熱エネルギー消費から出るCO2もまとめると約4割になります。私たちは、熱分野での脱炭素化も非常に大きな課題だと考えています。

――通常の都市ガスより割高なんですよね。

具体的な価格はお客様との相対交渉で決めていくのでお伝えできませんが、環境価値が付帯された付加価値の高い液化天然ガスを輸入して販売することになりますので、どうしても少し割高になります。当初は社内でも営業サイドから「売れるのか?」といった冷ややかな反応がありましたし、実際にお客様にご案内しても厳しい反応をいただくことが多くありました。

地球温暖化対策推進法(温対法)で、事業者は自身が排出した温室効果ガスや削減した量を算定して国に報告する義務が定められているのですが、CNLが「排出削減」の対象として認められていないこともネックになりました。今でもその課題は残っています。

大川里枝さん
東京ガスの大川里枝さん

雇用・教育など社会的な効用も

――どうやって成約にこぎつけたのですか。

当初はCNLが持つ一つの側面、環境価値(t-CO2の価値)をアピールするという一本やりの提案で行き詰まったのですが、CO2クレジットを生み出す現地の環境保全プロジェクトの副次的な効果をはじめ、SDGsへの貢献という大きな視点・文脈からこの商材をとらえ直しました。

例えば、植林したり森を守ったりすることで雇用が生まれ、雇用が生まれればその地域が潤うことになります。学校の建設がかない、子どもへの教育を充実できたり、森林の伐採から森を守ることで生物多様性が守られたり、といった効果効用がたくさんあることに気が付きました。

旗印となるシンボルマーク(ロゴマーク)をつくり、専用のウェブサイトを立ち上げ、お客様の採用ストーリーに加え、なぜ東京ガスがCNLに取り組むのか、化石燃料を扱うガス事業者の責務、といった自社としての「ストーリー」も動画の中に込めました。

折しも、機関投資家がESGを重視するようになり、E(環境)だけでなくS(社会)の面でもCNLを採用する意義がある、御社のブランディングに役立つ、といった点を強調することで、お客様のほうでも少しずつこの商材を多面的に評価し始める方が増えていったように思います。菅首相(当時)が2020年秋に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、脱炭素の機運が国内で一気に高まったことも追い風となりました。

第1号として、大丸有地区エリアを中心に熱供給を手がける「丸の内熱供給」様へのCNL供給が決まったときは本当にうれしかったです。

――2021年3月には、「CNLバイヤーズアライアンス」の設立にこぎつけました。

はい。供給者目線の自分たちだけでマーケットを切り開いていくのはむずかしく、実際にCNLを使っていただく需要家様の声を世の中に発信することが大事だと思い、需要家様が主役の連合体を立ち上げました。製造業や商業施設、金融、大学など多方面から14の法人・企業様が設立メンバーとして加わってくださいました。現在は50を超えるメンバーとなり、活動の輪が拡がっています。将来的には再エネ普及におけるRE100のように、熱分野でのカーボンニュートラルを推し進めていく団体へと成長できたらいいな、と思っています。

CNLバイヤーズアライアンス設立時
CNLバイヤーズアライアンス設立時(東京ガス提供)

メンバー対象の勉強会を開催したり、私どものウェブサイトやSNSでみなさんの取り組みや活動をご紹介したり、ということを続けています。

2021年6月には、一般財団法人日本品質保証機構様からカーボンニュートラル都市ガスプランの運用状況に関する第三者検証報告書の受領ができ、CNLを使用するお客様に自信を持って「カーボンニュートラル都市ガス供給証明書」の発行ができました。第三者検証や供給証明書の内容や意義、対外的なPRや情報開示の在り方等についてもアライアンスメンバーのみなさんにはていねいに説明しています。

そして、2022年3月には、CNLバイヤーズアライアンス発足1周年を記念し、GX(グリーントランスフォーメーション)をテーマに、国内外の有識者の先生方をゲストとしてお招きしたGXフォーラムが開催されました。こちらも大変反響が大きかったです。

――電力分野では、クレジットを買ってCO2排出を相殺するというやり方ではなく、化石燃料そのものをやめて再生可能エネルギーを主軸にするべきだ、という意見もあります。

すべてを電化するのは現実的にむずかしいでしょうし、現在すでに定着している都市ガスのインフラを有効活用しなければもったいない。日本は地震多発国であり、水害などの天災も多い国です。レジリエンスの観点からエネルギーを多重化しておくことは大切で、何か一つのエネルギーに偏るのは、国力を下げることになりかねないと思います。天然ガスを可能な限り活用しつつ、脱炭素化を進めていくことが肝要ではないでしょうか。

次世代、次々世代のため熱意もって

――事業を通じて、ご自身の生活にも変化はありましたか。

学生時代に社会心理学を専攻しており、「NIMBY(ニンビー)」=「not in my backyard」(我が家の裏庭には御免)という人間心理の難しさを学びました。この言葉はよく迷惑施設に対して使われますが、これをエネルギーを例に考えると、エネルギーは必要、だけど自分の裏庭に発電所や工場が立つのは嫌だ、ということになります。こうした人間の心理とエネルギーセキュリティーをどのように両立するか、そして裏庭にあってもいいと言えるようなサステイナブルでクリーンなエネルギーをどのように普及拡大していくか、当時の東京ガスへの志望動機はこんな興味関心から始まりました。

今は、自分にも子どもができ、次世代、次々世代のことを考えると、やはり地球を今より少しでもいい状態にして残してあげたい、引き継ぎたいという思いでこの仕事にすごく熱意をもって従事しています。

大川里枝さん
東京ガスの大川里枝さん

自分の仕事について子どもに説明することもありますし、環境とか防災といったテーマの話を家庭でする機会も増えましたね。

私が、自分のフィールドで出来ることは小さなことですが、この世に生命を受けた以上、自分の存在意義や提供価値を考え続け、少しでも世の中の役に立つような存在でありたいですね。そんな背中を見せ続けることが、目下の私の目標です。

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