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21世紀版の「論語と算盤」 渋澤健さんが説くSDGsの意味、ESG投資の役割

21世紀版の「論語と算盤」 渋澤健さんが説くSDGsの意味、ESG投資の役割
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渋澤健(しぶさわ・けん)
1961年神奈川県生まれ。1969年親の転勤で渡米する。1983年テキサス大学化学工学部卒。1987年UCLA大学大学院にてMBA取得。米系投資銀行やヘッジファンドに勤務。2001年40歳を機に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。2007年、コモンズ株式会社を創設し、2008年コモンズ投信株式会社への改名とともに現職。2021年ブランズウィック・グループのシニアアドバイザーに就任。経済同友会幹事、岸田政権下で「新しい資本主義実現会議」の有識者構成員、UNDP(国連開発計画)SDG Impact Steering Group委員、東京大学総長室アドバイザー、成蹊大学客員教授等を務める。『SDGs投資』『渋沢栄一 100の訓言』など著書多数。



ESG投資とは、財務情報だけではなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素を考慮した投資のことで、SDGs(持続可能な開発目標)とともに注目されています。持続可能で「誰一人取り残されない」社会を実現するために必要なお金の役割について、渋沢栄一さんの玄孫(5代目の孫)であり、コモンズ投信株式会社取締役会長、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役の渋澤健さんに聞きました。

渋沢栄一がいま注目されるのはなぜ

——渋沢栄一は、2021年の大河ドラマで主人公として描かれ、2024年に刷新される1万円札の肖像にも選ばれました。100年以上前に書かれた『論語と算盤』も再び注目を集めています。なぜ今、渋沢栄一がこれほど話題になっているのでしょう。

地球環境の問題や世界情勢、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった技術革新によって、現代社会や私たちの日常生活は大きな変化の渦の中にあります。

渋沢は江戸時代末期に生まれ、AIやIoTは存在していませんでした。ただ当時は、第2次産業革命から生じた技術革新によって世界が激変していた時代でした。渋沢は、20代後半で明治維新を迎え、その後、大正、昭和と、世界でも日本でもめまぐるしくニューノーマルが塗り替えられる時代を生きた人間です。激変する社会の中で多くの実績を残した渋沢が、どのような心構えで、何を考え、行動してきたかを、今を生きる人がヒントにしようとしているのだと思います。

私は、渋沢が残した最も大きな財産は「言葉」だと考えています。例えば、彼の著書である『論語と算盤』は、論語「か」算盤ではなく論語「と」算盤であることに大きな意味があります。一見相入れないものを組み合わせていく創造力と行動力——。現状から大きく飛躍した未来像を描き、そこから実現のための道筋を逆算して設定したうえで切り開いていくという、現在で言うバックキャスティング的な思考を持っていたのでしょう。

理想とする未来のためにできることを模索し、手段を考える能力はAIにも動物にもない。飛躍して現実とつなげられることこそが「人間力」です。それを発揮していけば、世の中にどんな大きな変化があっても適応していけるというのが、渋沢の残した大きなメッセージだと考えています。

「できるかできないか」より大事なのは

——国連が掲げるSDGsも、渋沢栄一が言うところの「理想の未来」ということでしょうか。ですが、「絵に描いた餅」との冷めた目もあります。先が見えず、前向きな未来を想像しにくい社会において理想や目標を持つのはむずかしいと感じます。

渋沢の教えの中に「大丈夫の試金石」という言葉があります。逆境に立たされた時はどうするかという話なのですが、逆境には二つの側面がある。地震や台風といった自然から発生した逆境は、人間がコントロールできるものではないので「分をわきまえる」とか「足るを知る」ことが必要です。

ですが、逆境には「人為的な逆境」もある。人と人との間や人と社会の間に生じる逆境です。そんな時は「自分から、こうしたい、ああしたい」という「やりたいベクトル」を持つべきだと言うのです。

私たちは、物事を考える際、多くの場合に「できるか」「できないか」ということを考えます。ただ、「やりたいこと」が「できない」と考えると、「やりたかった」ことが「できない」ので「やりたくない」というふうに意識が下がってしまいます。しかし、それでは逆境は乗り越えられません。時間がかかったとしても「やりたいこと」を掲げて、目標に向かうことが大切なのです。

『論語と算盤』を読み返すと、渋沢が当時の社会にかなり怒りを感じていたことがわかります。その怒りは、やはり「現状に満足してはいけない」という強い未来志向からきています。2030年までの達成を掲げるSDGsも2050年までのカーボンニュートラルも、「実現させたいというベクトル」を持って進むべきです。

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ESG投資が必要な理由

——理想的な社会が「論語」だとすると、それを実現させるための「算盤」、すなわちお金の使い方も重要になりますね。最近よく聞くESG投資とは、どのようなものでしょうか。

SDGsは2015年の国連サミットで採択されましたが、ESGはさらにそれよりも10年ほど前に同じ国連の「グローバルコンパクト」という機関が提唱し始めました。ESGは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)という、持続可能な社会のために重要な三つの要素の頭文字です。この三つの要素をしっかりと経営に浸透させている企業を選んで投資するのがESG投資です。

Eは企業の自社およびバリューチェーンにおけるエネルギーの使用量やCO2(二酸化炭素)排出量、環境に負荷がかかるプラスチックなどの削減、Sは世の中の格差、自社およびバリューチェーンにおける人権への配慮や一人ひとりの個性を重んじるダイバーシティー、ワークライフバランスへの取り組みなどが含まれます。Gは、EやSを実現するための透明で公正な経営です。

理想的な社会をつくるためには「論語」だけではなく「算盤」、すなわち経済が回るようにしなければなりません。企業にとってもそれは同じで、社会に価値あるものをきちんと提供すれば売り上げも立つし、結果として利益もついてきます。

短期的な利益を追求するだけではなく、EとSを、Gを通じて取り組むことは企業の価値創造の持続可能性を支えることになります。そうすればお金が必要とされる環境や社会課題の解決にも回り、投資家の長期的な利益にもつながる。まさに論語「と」算盤、理想社会と経済を一体としてとらえるロジックが、ESGやESG投資には反映されています。

経済活動が活発になると、豊かになる反面、公害などの環境問題や格差問題といった負の問題も生じます。従来の資本主義では、これらは民間企業による市場経済の外側の問題(外部不経済)とされてきました。いろいろな要素が絡むと、経済モデルが複雑になってしまう。財務上の利益追求に焦点を絞ったほうがわかりやすかったからです。しかし、これらの課題が膨らみ続けた結果、いまや地球や社会の持続性を大きく損ねるようになってしまいました。

ESGやESG投資は、こうした従来型の資本主義・経済システムが取り残してきた「外部不経済」を、企業の取り組みの内側、市場経済や資本主義の中に埋め込んでいこう(内部経済化)という考え方でもあります。

実は岸田総理も「新しい資本主義」の関連で「外部不経済を是正」するということを何度も提唱されています。「新しい資本主義実現会議」に参加させていだたくなかで、私は「新しい資本主義」とはインクルーシブ(包摂的)な資本主義を指すのだと理解するようになりました。

最も大切なのは一人ひとりの思い

――株式を保有していない人には関係ないということでしょうか。

そうではありません。企業にESGの順守を促すのに重要な役割を果たすのは「アセットオーナー」と呼ばれる、大きな資産を保有している年金基金や生命保険会社、損害保険会社などです。彼らが「ESG経営をしていない企業の株は買わない」という姿勢を示せば、株式市場を通じて事業資金を得たい企業は対応せざるをえなくなるからです。

ですが、こうしたアセットオーナーの資金の源は、最終的に個人のみなさんの年金や保険金です。みなさんが「ESG投資を重視したい」という姿勢をアセットオーナーに示すことが、根本的に社会を変えるために不可欠なのです。

ものやサービスを購入する際も同様です。環境保全や持続可能性について考え、そこに注力している企業に投資したり、そこから商品を買ったりするという選択そのものが、ESGを重視する経営へと企業を変えていくことにつながっていく――。

渋沢栄一は「しずくの一滴一滴が大河になる」との言葉も残しています。一人ひとりの思い、行動の一つひとつはちいさな滴(しずく)ですが、それらが集まればいずれ大河となり、新しい時代を切り開くことができる――彼が唱えた「合本主義」の思想です。

政府だけ、日本だけではなく、世界中の人々が、さまざまな形で「こういう考え方が大事だよね」という方向に動き、その滴が集まって大河になっていかないと、子どもや孫の世代、その先の未来まで豊かで安心して暮らすことのできる持続可能な社会は達成できません。その「気づき」こそが大切なのだと考えています。

自分の子どもや孫に、豊かな自然環境や安心な社会環境を残したいと考える人は、今すぐお金を儲けたいと考えている人よりも圧倒的に多いはずです。一人ひとりがお金の使い方、商品の選び方を変えていけば、社会は必ず変わります。

――SDGsとESGは、どのように関わりあっているのでしょうか。

どちらにもGがありますが、SDGsのGはゴール(Goal)=目指すべき「目標」です。一方、ESGのGは、ガバナンスです。目標に向かって環境や人権・個性に配慮した経営を続けるのに必要な態勢やルールを整え、市場を通じて投資家や消費者とコミュニケーションをとりながら舵(かじ)を取っていくことが求められます。

ESGは、企業社会が事業を通してSDGsという目標を達成するために活用する手段と考えるとわかりやすいのではないでしょうか。どちらも持続可能な社会づくりに必要なものです。

大企業に限ったことではありません。中小企業やスタートアップにおいても、ESGやSDGsは企業の価値を見つけるためのヒント、ツールとして非常に有効だと考えています。

デジタル世代の可能性と上の世代の宿題

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——渋澤さんは、若い人たちと交流する機会も多いかと思います。ミレニアル世代・Z世代と呼ばれる世代の感覚やパワーをどのように感じていますか。

その時代、環境の変化に一番適応しているのは若い世代だと考えています。今は私たちの時代と比べるとはるかに情報量が多く、若い人たちは、その処理能力にたけています。多くのことをビジュアルで受け取り可視化できるため、世の中の限界が見えてしまう面もあるかもしれませんが、私たちの世代に見えていなかったものが、見えているかもしれないということでもあり、そこにはいろいろな可能性があると感じています。

今の、20代、30代は生まれたときからインターネットが身近にある「デジタルネイティブ」であり、自分が「こうしたい」というスイッチを見つけることさえできれば、ネットを通じて簡単に世界とつながることができる。

日本は少子高齢化社会ですが、世界的に見れば、ミレニアル世代・Z世代の人口は最も多い世界の主役です。新しい時代において、新しい価値観で、新しい成功体験を作っていける可能性が十分にあると思います。

逆に私たちの世代は、ポテンシャルを持った若手世代が自らのスイッチを入れて一歩を踏み出せるような環境を整えていくという、大きな宿題を抱えています。まだまだ、やらなければいけないことはたくさんありますよ。

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