SDGs ACTION!

カーボンプライシングとは? 海外と日本の動向、課題を解説

カーボンプライシングとは? 海外と日本の動向、課題を解説
カーボンプライシングの概要(デザイン:吉田咲雪)
サステイナビリティー分野専門ライター/佐藤みず紀

世界が脱炭素社会に向けて動き出すなか、炭素に価格づけをする「カーボンプライシング」に注目が集まっています。この記事では「カーボンプライシングとはなにか?」という疑問にわかりやすく答えながら、海外や日本の動向、課題などについて解説します。

佐藤みず紀さん
佐藤みず紀(さとう・みずき)
大手自動車リース会社の法人営業、広報、CSR担当を経て、退職後サステイナビリティー分野を専門とするフリーランスライターに転身。現在はおもにESG/SDGsに特化した非財務データプラットフォームを提供するサステナブル・ラボのパートナーライターとして鋭意活動中。2019年からスペイン在住。

1.カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、炭素(二酸化炭素=CO2)などの温室効果ガスに価格づけをすることです。温室効果ガス排出量の削減に向けて、排出者の行動を変容させるための手法のひとつとして、注目されています。

カーボンプライシングは、明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングに大きく分けられます。

明示的カーボンプライシングは温室効果ガスに対して、その排出量に比例した価格をつけることです。温室効果ガス排出量に応じた費用負担が生じることで、温室効果ガス排出に伴う社会的費用を「見える化」できるというメリットがあります。

一方、暗示的カーボンプライシングの代表的な施策にはエネルギー課税、エネルギー消費量や機器などに関する規制・基準などが挙げられます。暗示的カーボンプライシングは元々の導入目的が温室効果ガスの排出量削減以外の理由であることなどから、温室効果ガス排出量削減の観点では非効率となる場合があります。

カーボンプライシングとは
「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」取りまとめ 参考資料集 p.92│環境省をもとに筆者作成

明示的カーボンプライシングには、政府によって価格づけされる「炭素税」や「国内排出量取引」、民間企業が独自にプライシングする「インターナル・カーボンプライシング」や「国内クレジット取引」などがあります。

政府によるプライシング 民間によるプライシング
国内 炭素税
燃料・電気の利用(=CO2排出)に対して、その量に比例した課税を行うことで、炭素に価格をつける仕組み
インターナル・カーボンプライシング
企業が独自に自社のCO2排出に対し、価格をつけ、投資判断などに活用
国内排出量取引(上限規制あり)
企業ごとに排出量の上限を決め、上限を超過する企業と下回る企業とのあいだで「排出枠」を売買する仕組み
国内クレジット取引
CO2削減価値をクレジット・証明書化し、取引を行うもの。政府では非化石価値取引、Jクレジット、JCM(二国間クレジット制度)などが運用されているほか、民間でもクレジット取引を実施
国際 炭素国境調整措置
CO2の価格が低い国で作られた製品を輸入する際に、CO2分の価格差を事業者に負担してもらう仕組み
海外ボランタリークレジット制度
海外におけるCO2削減価格をクレジット・証明書化し、取引を行うもの。VCSやGSなどが代表的 取引の標準化と市場規模を15倍に拡大するイニシアチブ(TSVCM)が進行中

世界銀行の報告書「State and Trends of Carbon Pricing 2021」では、世界で炭素税や排出量取引制度などのカーボンプライシングを導入している国や地域はあわせて64と報告されています。2011年時点では21だったので、この10年間で3倍以上に増加したことになります(参照:同資料 p.21、23)。

カーボンプライシングの世界地図
The World Bank. 2021. “State and Trends of Carbon Pricing 2021” (May), World Bank, Washington, DC. Doi: 10.1596/978-1-4648- 1728-1. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0 IGO ※凡例の原文は英語で、筆者訳の日本語に差し替えています

カーボンプライシングに関する動きは、2015年に採択されたパリ協定で世界共通の長期目標として2度目標が設定されてから一層活発化しています。パリ協定では主要排出国を含むすべての国が、5年ごとの削減目標の提出・更新を求められます。これにより各国政府が自国の排出量削減の道筋をより具体的に示す必要が生まれ、カーボンプライシングの導入検討や拡大を促す契機となりました。

日本も2019年に「パリ協定に基づく成長戦略に基づく長期戦略」を国連に提出し、2020年10月には当時の菅義偉首相が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会)の実現を目指す」ことを宣言しました。

カーボンニュートラルに移行するためには、関係分野への投資や経済政策、イノベーションの推進などが不可欠です。日本でもカーボンプライシングはカーボンニュートラル実現に有効な手段のひとつと考えられています。

カーボンプライシングを通じて脱炭素社会を目指すことはSDGs目標13「気候変動に具体的な対応を」と深く関連しています。それだけでなく、目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」や目標8「働きがいも経済成長も」などを達成するために必要なイノベーションや行動変容とも影響しあうことになるでしょう。

目標13、目標7、目標8のアイコン

2.海外とカーボンプライシング

それでは、世界の国や地域におけるカーボンプライシングの現状と、取り組みの内容を見てみましょう。

(1)欧州連合(EU)

欧州連合(EU)では、2005年に世界で最初となる排出量取引制度(EU-ETS/欧州連合域内排出量取引)が導入されました。

この制度はEU-ETS域内(EU加盟国プラス、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー)の対象企業に対して排出量の上限が割り当てられ、その過不足分を排出量取引制度によって市場取引する仕組みとなっています。現在対象となっている業種は発電、石油精製、製鉄、セメント事業などです。

これまでに四つのフェーズを経て、現在は最終段階の第4フェーズに進んでいます。

● 第1フェーズ(2005~2007年)試験的導入

● 第2フェーズ(2008~2012年)目標値を導入

● 第3フェーズ(2013~2020年)原則排出枠に加え、オークションでの市場購入形式へと強化

● 第4フェーズ(2021~2030年)排出枠の年間削減率引き上げ(1.74%→2.2%)

2020年12月にEUが2030年の温室効果ガス排出量目標を1990年比55%削減と掲げたことを契機に、2021年7月の改正案では対象企業が見直され、海運、道路、輸送、建設分野の追加が検討されています(参考:世界で導入が進むカーボンプライシング(前編)炭素税、排出量取引制度の現状|JETRO)。

この改正案で新たにETSの適用が見込まれる分野からは、声明が相次いで出されており、例えば欧州自動車工業会(ACEA)など道路輸送に関連する3団体が共同で発表した意見書では、この案を「歓迎する」とする一方、道路輸送に関する排出枠取引で得られた収入を同分野に限定して活用すべきだとの注文もつけています(参考:ETS: road transport revenues should be ringfenced for zero-emission trucking|ACEA)。

排出量1tあたりの価格は高騰しており、2021年5月に初めて50ユーロを突破し、2022年に入ってからは80ユーロ(約1万1000円)前後で推移しています。

(2)中国

中国は世界でもっともエネルギー起源CO2排出量が多い国で、2019年時点で98.8億tを排出しています。これは世界の排出量のおよそ30%を占める量です(参照:世界のエネルギー起源CO2排出量(2019年)|環境省)。その中国が、2020年9月の国連総会で、2060年までにカーボンニュートラルを達成するよう努力すると表明しました。

世界最大の排出権取引の市場となる可能性がある中国では、2021年7月に排出量取引制度(ETS)を開始。第1段階では発電事業者2162社が対象で、同年12月31日時点の割り当て排出量取引量は累計1億7900万t、取引額は累計76億6100万元、排出量1tあたりの平均取引額は42.85元(約770円)と報道されています(参照:中国炭素排出量取引市場の基本的枠組みほぼ構築 効果が現れる価格発見メカニズム|人民網日本語版)。

現段階の中国における規制対象は、石炭および火力発電を行う発電事業者だけですが、今後は対象事業者の拡大が検討されています。

(3)フィンランド

フィンランドは1990年に世界で初めて炭素税を導入した国で、カーボンプライシングの先進国です。

開始当初の炭素税率は1.12ユーロ/tCO2でしたが、段階的に引き上げを行いながら1997年と2011年にエネルギー税制改革を実施。2020年時点の炭素税率は、熱利用税率(53ユーロ/tCO2)と輸送燃料利用税率(77ユーロ/tCO2)の二つに分かれています。

炭素税による税収は、所得税の減税や企業の社会保障費削減による税収減少の一部を補填(ほてん)するために使われています。

炭素税という形でいち早くカーボンプライシングを取り入れたフィンランドは、CO2排出量の削減を達成しながら、経済成長も実現しています(参照:炭素税・国境調整措置を巡る最近の動向 p.22|環境省)。

フィンランドの実質GDPとCO2排出量の推移
出典:炭素税・国境調整措置を巡る最近の動向 p.22│環境省

3.日本とカーボンプライシング

次に、日本のカーボンプライシングの現状と、取り組みの内容をご紹介します。

(1)日本の現状

2020年度の日本の温室効果ガスの総排出量は、11億5000万t(CO2換算)でした。前年比5.1%減、パリ協定以前の2013年度比では18.4%の減少という結果です(参照:2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について|環境省)。順調に減少しているようにも見えますが、世界のエネルギー起源CO2排出量(2019年)において、日本は中国、米国、EU、インド、ロシアに続き排出量の多い国となっています。

日本は2021年4月、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比でマイナス46%にし、さらにマイナス50%に向けて挑戦することを表明しました。また先述のとおり、2050年までにカーボンニュートラルな社会を目指すことも宣言しています。

このような日本の現状と目指す未来の差を埋める計画の中で、カーボンプライシングの導入に向けた議論が進められています。

(2)日本におけるカーボンプライシングの内容

①地球温暖化対策のための税の導入(政府)

日本では、2012年12月から「地球温暖化対策のための税(温対税」として国レベルで炭素税が段階的に導入され、原油やガス、石炭といったすべての化石燃料に対しCO2排出量に応じた税率が課されています。

日本はCO2排出量1tあたり289円に等しくなるよう単位量あたりの税率が設定されていますが、この価格は諸外国と比べて低い水準です。2021年4月1日時点でもっとも高い水準はスウェーデンの1tあたり137ドル(日本円で約1万5000円)で、スイス、リヒテンシュタインなどが続いています(参照:State and Trends of Carbon Pricing 2021 p.13│World Bank)。

②排出量取引制度の実施(自治体)

自治体では東京都が2010年から「総量削減義務と排出量取引制度」を実施しています。この制度の対象は、年間のエネルギー使用量が原油換算で1500kL以上の事業所で、2015〜2019年度の第2計画期間はすべての対象事業所が総量削減義務を達成したと報告されています。対象事業所のうち85%が自らの対策によって削減義務を達成、15%の事業所もクレジットなどを活用して削減義務を履行しています。

埼玉県でも東京都の制度をモデルに2011年から「地球温暖化対策計画制度」「目標設定型排出量取引制度」を開始しています。

③近年の取り組み

このように日本のカーボンプライシングへの取り組みは以前から始まっていましたが、最近新たな動きがありました。

2022年5月16日、日本取引所グループ(JPX)は経済産業省と連携し、東京証券取引所においてカーボンクレジットの試行取引を2022年9月に開始予定であることを発表しました。

また、経済産業省は、カーボンニュートラルを目指す企業が同様の取り組みを行う企業群や官・学・金と協働し、市場のあり方やルールメイキングについて議論するプラットフォーム「GXリーグ」の設立を表明しており、2022年4月1日時点で440社が賛同したことも発表しています。GXは「グリーントランスフォーメーション」の略。GXリーグは2023年度に本格稼働し、カーボンクレジット市場を通じた自主的な排出量取引を行う場としても機能していく予定です(参照:GXリーグ設立準備公式WEBサイト)。

民間セクターに目を向けると、企業が独自に排出量に価格をつけ、低炭素投資や対策推進の判断などに活用するインターナル・カーボンプライシングが進んでいます。2022年3月の環境省資料によると、日本では約280の企業がインターナル・カーボンプライシングを導入または2年以内に導入予定です(参照:インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン p.12|環境省)。

このように、日本におけるカーボンプライシングはより一層本格的になっています。

4.カーボンプライシングの課題

カーボンプライシングを巡る課題は、一国内にとどまるものではありません。

例えば、日本がカーボンプライシングを実施して国内の排出量削減を試みたとしても、企業がカーボンプライシングがない海外の国へ生産拠点を移して温室効果ガスを排出し続けてしまえば、地球全体の排出量は削減されません。さらに、規制の緩い国で生産された製品の価格競争力が増して輸入が増え、国際競争で不利な立場になることなども懸念されます。

このような競争上の不公平を防止する貿易措置として「炭素国境調整」への対応が進められています。この措置は輸入品に対して炭素排出量に応じて水際で負担を求めるものや、輸出品に対して負担分の還付を行うもの、またはそのどちらも併用する制度です。

EUでは、2023年から炭素国境調整措置の移行期間に入り、2026年から本格導入される予定となっています。

米国では、バイデン大統領が大統領選の公約に盛り込んだほか、民主党議員らも必要性に言及しています。日本も「諸外国の検討状況や議論の動向を注視しながら対応を進める」としています。

5.カーボンプライシングによる今後の影響

最後に、カーボンプライシングによって、私たちに具体的にどのような影響があるのか、家庭と企業、それぞれに分けてご紹介します。

(1)家庭の場合

カーボンプライシングは企業に経済的な負担を強いるもの(詳細後述)であり、それが製品やサービスの価格に転嫁されることで、消費者の負担が増える可能性があります。

また、家庭においてCO2の発生につながる電気やガス、ガソリンといったエネルギーは生活に必須であるうえに、価格が上がっても需要が減りにくいことや、所得が少ない家庭ほど家計に占める光熱費が高いことなどから、CO2の排出コストが上がった場合に高所得家庭よりも大きな負担となる可能性があります。

一方で、再生可能エネルギーに対しては優遇措置がとられる可能性も考えられます。今後の動向を見ながら、電気料金の安いプランに切り替えるなどの工夫で家計への対策ができるでしょう。

(2)企業の場合

長期的に大幅な排出量削減を実現するためにはイノベーションの創出が重要です。しかしながら炭素税などのカーボンプライシングは、企業に直接的な経済負担が課されることになり、イノベーションに必要な研究開発の原資の圧迫や、コストが上がることによる国際的な競争力低下などに対する危機感が示されています。

一方で、先述のGXリーグに賛同する企業があるように、企業が自発的に排出量取引の議論や実証の場に参加する姿勢をとることもできます。官民学と連携しルールメイキングする立場になって、企業の努力が正当に評価される仕組み作りに積極的に関わっていくのもひとつの戦略でしょう。

6.自分事としてカーボンプライシングを考えよう

カーボンプライシングは、脱炭素社会の実現に向けた有効な施策のひとつです。私たちの日常生活に欠かせない石油やガスにも影響が及ぶテーマなので、まだ自分には関係のない話だと思わずに、自分事としてカーボンプライシングの動向に目を向けてみましょう。

この記事をシェア
関連記事