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リスキリングとは? 企業が取り組む意味や実施の手順、事例を紹介

リスキリングとは? 企業が取り組む意味や実施の手順、事例を紹介
リスキリングの定義とメリット・デメリット(デザイン:吉田咲雪)
組織人事コンサルタント/平井彩子

DXや脱炭素社会への変化などにより企業も変化・変革を求められています。この速さは、現有スキルの陳腐化につながっているため、新たな職場教育「リスキリング」が注目されています。今回は、組織コンサルティングを専門としている中小企業診断士が、リスキリングとは何かについてわかりやすくご紹介します。

平井彩子さん
平井彩子(ひらい・さいこ)
コンサルティング会社勤務などを経て2012年に独立。人事評価制度の構築・運用、人材育成の支援を中心に人事組織の課題解決を専門とする中小企業診断士。近年は、働き方改革、ダイバーシティー推進に向けた活動も多い。従業員と経営者双方の意識改革を進め、企業が自走できる仕組みづくりを実施している。

1.リスキリングとは

リスキリング(Re-skilling)とは、時代の変化によってこれから必要とされる新たなスキルや知識を、従業員に身につけさせるために行う教育のことです。

働き方の変化やデジタルテクノロジーの進展によって仕事の進め方が大きく変化しており、その変化に対応するべく新たなスキルの必要性が叫ばれています。世界経済フォーラム(WEF)が2020年の年次総会(ダボス会議)で、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言したことで、注目度が高まりました(参照:The Reskilling Revolution: Better Skills, Better Jobs, Better Education for a Billion People by 2030|WEF)。

「Reskilling Revolution」(リスキリング革命)のウェブサイト
世界経済フォーラムが提唱したイニシアチブ「Reskilling Revolution」(リスキリング革命)のウェブサイト

EdTech(エドテック)やFemTech(フェムテック)などさまざまな領域がデジタル領域と次々に結びついているケースを鑑みると、テクノロジーの進展によるビジネスの変化、さらには消費者の価値観や考え方の変化は、今まで以上の速さで進んでいくと考えられます。このような変化の潮流を理解し適応するためには、絶えず学習していくことが求められているのです。

(1)リスキリングとリカレント教育との違い

リスキリングとともに注目されている社会人の学びに、リカレント教育(recurrent)があります。リカレント教育は、社会人になったあとに必要となるスキルを大学や資格講座などで学ぶことを指し、「学び直し」とも呼ばれています(参考:「学び」に遅すぎはない!社会人の学び直し「リカレント教育」│政府広報オンライン)。

リスキリングは企業側から従業員に対する教育の提供ですが、リカレント教育は自らの希望で新たなスキルを身につけていく点に違いがあります。

リカレント教育が注目されているのは、終身雇用が崩壊し、キャリア意識に変化が生まれたからです。大手に就職すれば一生安泰という時代が終わったため、働くことと学ぶことのサイクルを回すことでキャリアの充実を図りながら自身のキャリアプランを探索し、会社に縛られないキャリアプラン・ライフプランを描くことの重要性が着目されています。

2.リスキリングが注目されている理由は?

リスキリングの必要性は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やSDGsなどの社会変化の影響を受けています。その二つを例に注目されている理由を説明します。

(1)デジタル化で一部の仕事が消え、新たな仕事が創出されるため

デジタル化が進展することで、私たちの生活も変化しました。キャッシュレス決済が進んで小型の財布を持つ人が増えたり、オンラインショッピングを日常的に利用するようになったり、企業への問い合わせ事項も電話ではなく公式サイトからチャットでやりとりするようになったりと、その変化の数は枚挙にいとまがありません。

ただ、その変化は、これまで存在していた仕事がなくなることを意味します。キャッシュレス化が進めば、現金を数えて手渡しをするためのレジ担当のような仕事はどんどん少なくなっていくでしょう。買い物がオンラインへ移行すれば、そもそも店頭での仕事が減ります。

一方、新たな仕事が増えるのも明らかです。例えば、オンラインでの顧客対応や、蓄積したデータの管理や活用といった業務などがあげられます。先に取り上げた世界経済フォーラムの報告書でも、「労働の自動化で5年後までに8500万件の仕事が消失する一方で、9700万件の新たな仕事が生まれる」と指摘しています(参照:The Future of Jobs Report 2020 p.5|WEF)。

現段階でもデジタルスキルは重要で、デジタル活用した顧客対応やデータ分析スキル、ソフトウェア開発スキルなどのニーズは高いでしょう。ただし、これらのスキルも現状のものであり、時代の変化が激しいなかでは、急激にニーズが変化していきます。だからこそ、リスキリングにより、学び続ける仕組みを整えていくことが、企業の持続的成長において重要になっているのです。

(2)脱炭素社会に向けて必要なスキルが変化しているため

脱炭素社会(カーボンニュートラル)は、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す社会的な取り組みであり、SDGsの目標のうち、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」と目標13「気候変動に具体的な対策を」と関わりがあります。

例えば自動車業界では2035年のガソリン車全廃目標に代表されるように、これから自動車のEV(電気自動車)化が急速に進んでいきます。そうなれば、エンジン部品は不要になり、駆動部品なども変化していくため、今までのスキルに変わって、電気制御に関するスキルやソフトウェア開発のスキルが必要になります。これらのスキルギャップを埋めるためにも、リスキリングによる学びの継続が企業の存続にとっても重要になっているのです。

3.リスキリングのメリット・デメリット

次に、リスキリングに取り組むメリット・デメリットについて説明します。

(1)メリット

リスキリングに取り組むメリットは、従業員の成長と時代に合わせた企業の成長の2点にあります。

新しいスキルを学び続けることで、変化に対応できる従業員を育成できます。個人のスキルアップ、キャリアアップにつながり、働きがいを創出することも可能です。

また、個人の成長により、企業の社会変化対応力も向上させられるでしょう。新たなスキルが必要になったときに、常に新規採用や外部人材活用で対応しようとすると、雇用コストだけでなく離職コストも必要になりますが、内部人材で対応可能であればコストを削減しながら柔軟に対応できます。

(2)デメリット(注意点)

リスキリングには大きなメリットがある一方、コストがかかり、受動的な教育では効果が薄いといったデメリットがあります。

リスキリングを実施しようとすると、必要なスキルの見極めや習得したスキルを管理するためのコストが必要になります。高度なスキルを身につけさせようとすると、それ相応の教育コストがかかるのも注意点のひとつです。とはいえ、リスキリングを行わないことによる機会損失などのコストの方が将来的に大きくなることが予想されます。

また、これまでの日本の職場教育は、OJT(On the Job Training)による職場内教育や受講者にとって受動的な教育機会の提供が多く、未来の変化を見据えた教育になっていません。リスキリングを実施する際には、そもそもの教育のあり方や動機づけの方法を変えていく必要があるでしょう。

4.リスキリングを実施する手順3ステップ

リスキリングを実施するためには、次の手順で進めるとよいでしょう。

1. 必要なスキルの明示

2. 教育プログラムの検討と実施

3. 学んだスキルの共有・公開・活用

順にご紹介します。

(1)ステップ1.必要なスキルの明示

まずは、従業員にどのようなスキルを習得してもらうかを検討する必要があります。検討する際は、自社の事業内容を踏まえるのは当然のこと、自社の機会、脅威など現在の外部要因や環境変化を分析して検討することが重要です。

また、学び直していくわけですから、将来に必要なスキルを検討するだけでなく陳腐化するであろうスキルを洗い出して、理想と現状の対比を明確にし、新たなスキルを身につけることが将来的にどのようなメリットがあるかを示しておくとよいでしょう。

(2)ステップ2.教育プログラムの検討と実施

必要なスキルが明確になったら、それをどのように学ぶべきかを検討します。期間、ステップ、手段(eラーニング、外部研修)など、一過性のプログラムにならないよう組み立てることが重要です。

特に、デジタルスキルの習得であれば、一般的な研修も多く提供されており、自社で内製化せずに進めることも可能です。むしろeラーニングや外部研修などの利用により、組織から離れた場所やメンバーで受講することで、新たな視点を身につけることによるメリットもあるでしょう。

具体的なプログラムを組み立てたら、対象の従業員に、実際に学んでもらうように促します。

(3)ステップ3.学んだスキルの共有・公開・活用

リスキリングをスタートさせたら、社内に新たなスキルを持っている人がどれだけいるのか、スキルを共有しておくことも重要です。

日本の企業はスキルの可視化が苦手で、スキルを抱え込んでしまったり、スキルの活用が新たな負荷につながるとネガティブに捉えてしまったりするケースがしばしば見られます。スキルマップやスキルデータベースを作成しても、活用で苦戦する企業が多いのもそれが理由でしょう。

リスキリングでは、そのハードルを乗り越える必要があります。そのためにも、社内プロジェクトへの参画やスキルを生かした提案機会の提供などを実施して、スキルを実践する場所を積極的に作ることが大事です。

あわせて、全社員がどのようなスキルを身につけているのかを可視化するスキルデータベースを構築し、その情報へ手軽にアクセスできる仕組みも用意しておくと、なおよいでしょう。

一方で、実際に学んだ従業員に対して、その従業員が「学んでよかった。今後も学び続けよう」と、リスキリングに対してポジティブに思えるようにするのも重要です。新たなスキルを習得したことによる個人のパフォーマンスの向上や貢献度を評価する仕組みを設けたり、スキルの活用事例を社内外に発信したりすると、リスキリングがしやすい環境を創出できます。

5.リスキリングの事例

現時点でリスキリングの事例は少ないものの、例えば、日立製作所は全社員に対してデジタルリテラシー向上させるための教育を実施しています。また、大阪ガスはデータ分析講習を実施し、実践で活用できるよう、ちょっとした意思決定でもスキルを使うことを推奨し、定着を促しています。

2022年6月には、米グーグルを主幹事に、国や自治体を含む49の団体が参画する「日本リスキリングコンソーシアム」が発足しました。ウェブサイトを通じて、200以上のトレーニングプログラムと就業支援サービスを提供することにしています。

ほかに、比較的早くリスキリングを始めた事例として有名な米AT&Tは、社内で保有スキルがいずれ陳腐化すると判断して取り組み、社員の昇進率や定着率に好影響を与えたという実績があります。

今後の社会変化を踏まえると、現状ではデジタルスキルに力点が置かれることは明らかです。ただ、筆者がさまざまな企業に関わって見ていると、まだまだ論理構築力やコミュニケーション力が不足している企業が少なくなく、そのことが企業の持続的成長力を奪っているケースもしばしばあります。

そのため、デジタルスキルなど今後必要となるスキルを見極めて教育していくことと合わせて、基礎的なマネジメントスキルやリーダーシップ、経営知識の強化についても、これまでの教育と切り離してリスキリングを実施していく必要があると考えます。

絶え間なく変化する時代だからこそ、経営陣の戦略立案能力だけに頼ることなく、教育から変化して従業員とともに変革することが求められているといえます。

6.時代変化に合わせた教育と企業の成長

リスキリングは常に不完全であり、変革を伴うものです。必要なスキルは絶えず変化し、その変化が急激に起こることもあり得ます。そうした前提を理解しつつも、教育を実践していかなければいけないほど、時代の変化は激しいということです。

また、働き方やキャリア意識が変化しており、従業員と経営陣の関係や上司と部下の関係も、今以上にフラットな協働関係になることが考えられます。従業員に対して新たな武器となるスキルを渡し、ともに成長する関係を構築することは今の時代にマッチした教育といえるでしょう。企業規模に関わらず、少しでもリスキリングを意識した取り組みを実施し、持続的な成長を図る企業が生まれることを筆者は祈っています。

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