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【新連載】男女賃金格差の是正へ情報開示が義務化 まずは自社の点検を 村上芽の「SDGsで使えるデータ」【1】

【新連載】男女賃金格差の是正へ情報開示が義務化 まずは自社の点検を 村上芽の「SDGsで使えるデータ」【1】
男女の賃金格差の解消を訴えるため集まった人たち=2015年4月10日、東京都千代田区(撮影・朝日新聞)
日本総合研究所シニアスペシャリスト/村上芽

長年課題とされる男女の賃金格差。岸田政権は企業に対し情報開示の義務化を表明しました。ジェンダー平等への施策がとられているか。就職活動する学生だけでなく社会から関心の目が注がれます。まずは、社会の現状を把握することから始めましょう。どのようなデータが使えるでしょうか。日本総合研究所・村上芽さんの連載「データで見るSDGs」をリニューアルした新連載「SDGsで使えるデータ」では、SDGs達成へとアクションするみなさんを対象に、より役立つデータの使い方をアドバイスしていきます。

村上芽さん
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。

労働者301人以上の企業から対象に

岸田内閣が進める「新しい資本主義実現会議」では、性別にかかわらず仕事ができる環境整備のために、男女間の賃金差異の企業への開示義務化を進めることとなりました。女性活躍推進法に基づいて省令を改正し、まずは常時雇用する労働者301人以上の企業から、今夏に始めたいとしています。

女性活躍推進法は、日本でSDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を達成するための基礎になる仕組みの一つです。賃金差異の開示義務化は「大企業から」ですが、この4月から、女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・公表の義務付け対象となる企業規模は広がっています。従来は301人以上の企業でしたが、101人以上300人以下の企業も対象となり、制度のすそ野が広がったところです。

現在想定されている行動計画では、

1. 採用者に占める女性の割合

2. 男女の平均勤続年数の差異

3. 管理職に占める女性労働者の割合

4. 各月の平均残業時間数

といった状況について必ず把握し、課題を分析したうえで取り組むことを決め、公表しなければなりません。この四つの指標の他にも、女性に十分な機会があるか(キャリア)、仕事と生活を両立させやすくする雇用環境か(ワーク・ライフ・バランス)という観点から求職者が現状を理解しやすいよう、企業として公表するべき指標候補が示されています。

企業の採用面接の受付に並ぶ学生ら
都内で実施された企業の採用面接の受付に並ぶ学生ら(撮影・朝日新聞)

日本の差異と「わが社」の差異を比べてみる

なぜ、ここにきて「男女の賃金差異」なのでしょうか。女性が活躍している企業というと「女性管理職が多そうな企業」や「育児と両立しやすそうな企業」を思い浮かべやすいのですが、同じ「係長級」「課長級」「部長級」でも賃金でみれば男女差があったり、肩書は同じでも、任せる仕事の種類に差があったりする場合があります。同じレベルの能力があるのに、同じレベルの職務が配分されていない可能性があるのです。

図表1 性別・役職賃金とギャップ

性別・役職賃金とギャップ
(出所)筆者著『図解SDGs入門』(39P)をもとに編集部作成

厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」では、3万社以上の企業の行動計画を閲覧することができます。ただ、そのデータ項目に「男女の賃金の差異」はありません。なかには個別に現状の把握や目標を設定している企業があるかもしれませんが、個々に調べなければわかりません。

これから自社の男女の賃金差異を確認し、それを埋める方策を検討する企業にとっては、参考になりそうな「他社事例」がなかなかつかみにくい状況です。

そこで、まずは全体状況を把握しましょう。男女の賃金格差に関する国際比較ではよく「日本は20%を越している」と指摘されます。確認するには、OECDのデータが便利です。

2020年まで4年連続したデータが存在する国の推移を拾ってみると、次のグラフのようになりました。ハンガリーを除いて各国とも差が縮まり、改善しています。2020年の日本の格差は22.519%。2017年に比べて2ポイント改善しました。OECD全体では1ポイント改善なので及第点ではありますが、2017年時点ですでに日本より賃金格差が小さかったにもかかわらず、4年間で日本以上に改善している国もあり、決して早いペースとは言えません。

図表2 男女の賃金格差 各国の推移(単位=%)

男女の賃金格差 各国の推移
(出所)OECDのデータをもとに筆者作成

このような国別の差異と、「わが社」の差異を比べてみることが、まずは立ち位置の確認の第一歩とできるかもしれません。実数や、年率でどの程度改善すれば「頑張っている」と思えるのかどうか、一つの目安にはなるでしょう。

所定内給与額から現状を概観する

女性活躍推進法の行動計画の指針に戻りましょう。男女の賃金差異の把握方法として、指針には「学歴別や雇用コース別に、特定の勤続年数(5年、10年、15年、20年など)の社員について男⼥別に平均賃⾦を計算することなどにより男⼥の賃⾦の差異を把握」とあります。確かにこのような把握ができ、賃金の前提条件が似た人別に比較すれば、より厳密な「男女の差異」を出すことができます。

ただ、かなり手間がかかりそうだという感覚も想像できます。であれば、とりあえず男性に支払った賃金の総額と女性に支払った賃金の総額から1人あたりの額を比較するだけでも、企業として直面している差異の現状をざっくりと把握することはできそうです。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査の概況」最新版を使ってみましょう。7ページの第2表にある「年齢計」を使って「女の所定内給与額÷男の所定内給与額」を計算します。

OECDは中央値、厚生労働省は平均値を用いているためか、ぴったりは合いませんが、時系列でみてもおおよそ似た推移となります。義務化対象外の企業や、開示義務の詳細がわかる前に大づかみの情報を得たい企業は、所定内給与額の総額でまず計算してみることをお薦めします。

職場で働く人たち
職場で働く人たち(撮影・朝日新聞、画像の一部をモザイク処理しています)

部門別でも現状把握や目標設定を

なお、雇用コース別など区分を細かくしていくと、男女の差異というよりも「同一労働同一賃金」の視点が必要になるかもしれません。

同一労働同一賃金については、男女差に限らず、同じ労働の成果に対して同じ報酬を支払っているのか、ということが本質的な論点です。SDGsに照らせば、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」ではなく目標8「働きがいも経済成長も」との関連性が強くなります。

重要な社会課題ですが、男女の賃金差異は同じ能力に対して同じ職務が配分されていないことに根本原因があるので、わけて考えておいたほうがよさそうです。

大企業では、一つの部門だけで100人以上が在籍していることもよくあります。法改正を契機に、100人以上を目安として、部門別の現状把握や目標設定に取り組んではどうでしょう。

どの企業で、あるいはどの部門で、実態としての男女差の縮小が進んでいるのか。学生をはじめとする求職者など外部のステークホルダーが、様々な指標から実像を見い出そうとする際、賃金の差異は欠かせない指標です。

今後、仕事を限定した求人(ジョブ型雇用)を増やしたい企業などでは特に、「部門単位の女性活躍推進の行動計画」づくりを検討してもよいのではないでしょうか。

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