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有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示が拡充 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【6】

有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示が拡充 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【6】
Getty Images
大和総研/藤野大輝

藤野大輝さん
藤野大輝(ふじの・だいき)
株式会社大和総研 金融調査部 研究員。2017年大和総研入社。2018年より金融調査部制度調査課で開示・会計制度などについて調査、2019年4月よりSDGsコンサルティング室(現・ESG調査課)を兼任し、SDGs・ESGに関する制度なども担当。著書に『ESG情報開示の実践ガイドブック』(中央経済社、2022年)など。

有価証券報告書における開示拡充

上場会社は法令に基づいて毎年「有価証券報告書」を開示することが求められている。有価証券報告書とは、上場会社が自社グループの経営状況や財務情報などについて記載したものであり、投資家などが投資判断を行う上で重要な情報源の一つである。

有価証券報告書での企業の情報開示に関連して、2022年6月に「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下、DWG報告)が公表された。

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)とは、企業の情報開示のあり方について議論を行う会議体で、数年に一度開催される。DWG報告はこのDWGの検討の結果をとりまとめたものである。

今後、DWG報告に基づいて有価証券報告書の開示内容が改正された場合には、企業は開示しなければならない事項が増え、対応の必要が生じる。投資家にとっては、企業から開示される情報が増えることで、より多角的な視点から投資判断を行うことができるようになる。そのため、DWGの議論に関しては、企業、投資家の両者から注目されていた。

今回のDWGでは、いわゆる「サステナビリティ」(持続可能性)の重要性の高まりを踏まえ、投資家の投資判断のために必要な、企業の中長期的な企業価値に関連するサステナビリティ情報の開示に重点が置かれて検討が進められた。

DWG報告においても、企業の開示の拡充について各種の論点が示されているが、特に有価証券報告書でのサステナビリティ情報の開示の拡充が一つの大きなポイントとなっている。

サステナビリティ情報の四つの柱

DWG報告では、まず、企業のサステナビリティ情報の開示を拡充すべく、新たに有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄を新設すべきだと示されている。記載欄においては、企業のサステナビリティに関する「ガバナンス」「戦略」(サステナビリティによる企業の戦略や財務への影響)「リスク管理」「指標と目標」の四つの柱に基づいて開示を行うこととされている。これは、気候変動に関するリスク・機会の情報を開示する上で広く利用されているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークを参考にしたものである。

これらの四つの柱の中でも、「ガバナンス」「リスク管理」については全ての企業が開示しなければならないとされている。理由としては、サステナビリティに取り組み、自社のビジネスモデルや外部環境を踏まえて重要なサステナビリティ情報を開示するためには、これらの枠組み、体制が必要だと考えられているためと想定される。

一方で、「戦略」「指標と目標」については開示することが望ましいものの、各企業が投資家の投資判断にとっての情報の重要性を判断したうえで開示を行うこととされている。これは、TCFDのフレームワークでも同様の考え方が示されていること、また、「戦略」「指標と目標」といった定量的な情報の開示は企業への負担が大きいためであろう。

情報の重要性を判断する上では、有価証券報告書での財務情報以外の記述情報の開示の考え方や望ましい開示の内容などを示した、金融庁の「記述情報の開示に関する原則」が参考になるだろう。重要性は投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断され、企業の業態や外部環境によって様々であるものとされている。

ただし、現時点では当原則でサステナビリティ情報の重要性についての考え方は示されていないため、DWG報告では当原則を企業の参考になるように改訂することが提案されている。

「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」のそれぞれの具体的な開示内容についてはまだ明確化されていない。足元で国際的かつ統一的な国際サステナビリティ開示基準の策定を進めているISSB(国際サステナビリティ基準審議会:国際会計基準(IFRS)の策定に関わるIFRS財団が2021年11月に設立を公表)の基準を踏まえ、わが国のSSBJ(サステナビリティ基準委員会、2022年7月に設立予定)が国内のサステナビリティ情報開示基準、具体的開示内容を検討していくことが想定されている。

また、開示に際しては、必要に応じて統合報告書やサステナビリティレポートなど(有価証券報告書のような法定書類ではなく企業が任意で開示する書類)に記載した詳細情報を参照することも考えられている。ただし、参照先の任意書類に虚偽記載があった場合の民事、刑事上の責任のあり方など、整理が必要な論点も残っている。

図表1 DWG報告の概要(サステナビリティ情報の開示拡充)

DWG報告の概要(サステナビリティ情報の開示拡充)
(出所)金融庁「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年6月13日)より大和総研作成

気候変動、人的資本、多様性の開示

そのほか、サステナビリティに関する各種テーマについての開示拡充についてもDWG報告に記載されている。

まず、気候変動に関しては、企業が自社の業態や経営環境などを踏まえ、気候変動対応が重要であると判断する場合には、上記のサステナビリティ情報の記載欄で開示すべきだと示されている。また、気候変動に関する情報の中でも、温室効果ガス(GHG)排出量については国際的に広く開示が求められる、投資家の投資判断にとっても重要性の高い情報であるが、DWG報告では開示すべきだとはされておらず、企業の重要性の判断を前提として、特に企業からの直接的な排出、電気などの使用に伴う排出に当たるScope1、2について積極的に開示することが期待されている。

続いて、人的資本については、中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」を、サステナビリティ情報の記載欄の「戦略」の枠で開示すべきだと提案されている。加えて、これらの方針と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカムなど)の設定、その目標、進捗(しんちょく)状況については「指標と目標」の枠で開示すべきだとされている。

多様性に関しては、中長期的な企業価値判断に必要な項目として「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」について、有価証券報告書の「従業員の状況」のなかの開示項目とすべきだと示されている。

開示に向けた対応

今回公表されたDWG報告に基づいて、今後、上記のような有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の拡充が行われるだろう。

開示の拡充が企業に適用される時期については明らかにされていないが、今回のサステナビリティ情報の開示拡充などの企業への負担も踏まえて適用時期を検討していくものと考えられる。

なお、前回のDWG(2017年度)においては、2018年6月に報告が公表され、これに基づいて2019年1月に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正、同年3月末から一部適用が開始された。仮に同じペースで改正や適用が進むのであれば、2023年からの適用も考えられ、企業としては開示拡充に向けた早期の対応が必要となる。

図表2 DWGと開示拡充に関する経緯

DWGと開示拡充に関する経緯
(出所)各種公表資料より大和総研作成

企業に求められる対応としては、まずはサステナビリティに関する取り組みやリスクを監督、管理する体制を十分に整えることだろう。その上で、投資家の投資判断にとっての重要性という観点から、企業価値に関連するサステナビリティ情報の開示を検討していくべきだと考えられる。

その際には、自社にとってサステナビリティに関するどのテーマ(気候変動、水、人的資本など)やどの事項が、経営戦略やビジネスモデル、収益などに特に重要な影響を与えるのかを考慮することが必要になろう。

そうして開示した情報に基づいて投資家とさらなる対話を深めていき、投資家からのフィードバックを踏まえて、より簡潔で分かりやすい開示へと洗練していくことが期待される。

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