プライドセンター大阪が天満橋にオープン 常設のLGBTQセンター、「居場所」つくる

LGBTQの当事者や周囲の人、LGBTQについて学びたい人などが利用できる常設のLGBTQセンター「プライドセンター大阪」が、大阪・天満橋にできた。企業向けのLGBTQ施策の研修や政策提言をする認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪)が運営する。当事者も安心して訪れられる「居場所」となり、コロナ禍で一時失われた当事者のつながりを取り戻したり、街中でLGBTQの存在を可視化したりする目的があるという。(編集部・竹山栄太郎)
家族でも誰でもウェルカム
プライドセンター大阪は大阪市中心部、天満橋駅近くのビルのワンフロアにある。2022年4月にプレオープンし、7月から本格的な活動を始めた。LGBTQの当事者だけでなく、家族や友人など、誰でも無料で利用できる。国内の常設LGBTQセンターとしては、2020年10月に東京都新宿区にできた「プライドハウス東京レガシー」に続き2カ所目となる。

センターには、テーブルやいす、本棚があるオープンスペースや、対面相談ができる相談室のほか、虹色ダイバーシティのオフィスも併設する。開館は原則、毎週月、木、金、土の午後3~8時で、スケジュールはウェブサイトで確認できる。7月からはセンターでもオンラインからでも参加できる「ハイブリッド居場所」(原則火曜または水曜の午後4~6時、オンライン参加は申し込みが必要)や、対面の個別相談(予約が必要)もスタートした。



「OSAKA」の五つのバリューで運営
虹色ダイバーシティのPR・コミュニケーションマネージャー井上陽子さん、プライドセンター大阪運営担当の長野さんに、センター開設の意義やねらいを聞いた。
――開設の経緯を教えてください。
井上 2019年に、虹色ダイバーシティ代表の村木真紀がウィーンに視察に行ったんです。人口200万人ほどで大阪市と同規模の都市であるウィーンに4カ所もLGBTQセンターがあったそうで、帰国後すぐに「大阪でもセンターを作ろう」という話になりました。ただ、2020年に入って、コロナ禍で企業研修や事業の収入が大きく落ち込み、当面は立て直しを優先せざるを得ませんでした。
企業や個人の寄付を増やす活動が実を結んで、経営を再び軌道に乗せることができ、2021年の秋ごろにセンター開設の話が持ち上がりました。天満橋という立地は行政機関に近く、周辺には仲のいいNPOも多いため、連携しやすいのが決め手の一つでした。
――LGBTQセンターにはどんな役割があるのでしょうか。
井上 「居場所」であり、常に開いていてすぐに立ち寄れること、相談ができること、情報発信ができること、といった役割があります。最近、中学・高校のSDGs学習の一環で、虹色ダイバーシティに「グループワークで話を聞かせてほしい」という問い合わせをいただくことが多かったのですが、場所がないためほとんど対応できていませんでした。今後は学校や企業の見学もどんどん受け入れていきたいと考えています。
――運営にあたってどんなことを心がけていますか。
井上 虹色ダイバーシティでは2014年から、大阪市淀川区のLGBT支援事業でコミュニティースペースを運営してきました。そこでのノウハウも踏まえて、バリュー(価値観)として、次の五つを決めています。Open to everyone(みんなに開かれた場所に)、Safety first(安全第一)、All differences are welcome(違いは大歓迎)、Knowledge is power(知識は力、お互いに学び合おう)、Always have fun and smile(楽しむことを忘れずに)。頭文字をとって「OSAKA」です。

井上 また、ミッション(存在意義)として「Remedy for all」ということも掲げています。Remedyは「救済」や「癒やし」という意味で、みなさんが癒やされる場所であることを大切にしています。30分に1回ハト時計が鳴くとか、ホッとしたり、くすっと笑えたりする仕掛けをあちこちにつくっています。
コロナ禍で失ったつながりを回復
――居場所づくりが必要とされる背景を教えてください。
井上 コロナ禍で多くの人が傷ついていると思いますが、LGBTQコミュニティーの人たちは特に深い傷を負っています。東京なら新宿2丁目、大阪なら堂山町といったところに多くあった夜のお店は、軒並み閉店したり営業制限がかかったりしました。LGBTQコミュニティーの人たちの多くは互いの本名も連絡先も知らず、その場でしか会わないため、会える場所がなくなると、一気に人とのつながりが失われてしまったのです。また、お店が営業していても、感染した場合の経路追跡が怖くて出入りできないという人もいました。
安心して自分らしくいられる場所を確保することはすごく大事だと思います。センターがプレオープンした当初、訪れた人たちが「あんた生きてたん?」「元気そうでよかった」と「生存確認」している光景も見られ、開設してよかったと思いました。
――訪れた人の様子を教えてください。
長野 年齢は幅広く、子どもから70代の人もいます。30分くらいで帰る人もいれば、2時間以上いる人もいて、スタッフと話をするなど思い思いに過ごしています。「こういう場所がほしかった」という声が多く、コロナ禍でも人とのつながりを求めていると感じました。
――企業の支援も受けています。
井上 協賛企業に内装を整えてもらったり、書籍を提供してもらったりしています。今後は、各企業のそれぞれの得意分野とLGBTQイシューを掛け合わせたイベントも開催していきたいと考えています。

「日の当たる場所」で存在アピール
――今後の課題や展望を教えてください。
井上 なんの気なしに、「おいでおいで」「ここで過ごしたらええよ」といつでも言える場所でありたいです。活動を継続していくためには運営費を確保する必要があります。企業協賛は多くいただいていますが、行政とも連携したいと考えています。
地方のほうがLGBTQの存在が可視化されていないし、生きづらさを抱えている当事者も多いので、地方にこそセンターが必要です。大阪をモデルにして、センターを各地に広げていけたらという思いもあります。
長野 これまでLGBTQのコミュニティーは、昼より夜、というように日の当たらないところに向かいがちでした。このセンターは、むしろ日の当たるところで、存在を当事者だけでなくいろんな人に知ってほしい。社会のなかで自分らしく生きていけるきっかけとなる場所になればと思います。


朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、2022年11月から副編集長。
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