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すべての人に衛生的な手洗いを LIXILが届ける途上国向け「SATO Tap」

すべての人に衛生的な手洗いを LIXILが届ける途上国向け「SATO Tap」
「SATO Tap」を使用して手洗いをするウガンダの女性(LIXIL提供)
フリーライター/泉ひろえ

感染症予防対策に「水と石鹸(せっけん)を使って手を洗う」は常識。だが、世界には、そのための手洗い環境を家庭に持たない人々が約23億人もいる。そんな人々が簡単に手を洗える、LIXILのソリューション(課題解決策)「SATO Tap」の開発者、石山大吾さん(LIXIL「SATO」事業部イノベーションリーダー)に、開発への思いを聞いた。

「SATO Tap」を開発した石山大吾さん
「SATO Tap」を開発した石山大吾さん(LIXIL提供)

LIXIL が取り組むソーシャルビジネス「SATO」

逆さにしたペットボトルを組み合わせた青いプラスチック容器。そこから出てくる水を使って手を洗う——そんな光景が、インドやアフリカなどの上下水道設備が不十分な開発途上国の片隅で見られるようになった。この衛生的な手洗い環境を可能にしたのが、LIXILが開発した「SATO Tap」だ。

「SATO Tap」の構造は、いたって単純。2Lのペットボトルを受けるプラスチック製の本体と、棒状のノズルのついた二つのパーツを組み合わせただけ。ノズルは中が空洞になっていて、片方に穴が開いている。ペットボトルに水を入れ、逆さにして本体に設置すると、ノズルの中に水がたまる。穴の開いた方のノズルを押し下げれば、中の水が穴から出て、反対側を押し下げれば水は止まる。無駄なく最小限の量で安定して水を放出できるこの商品、構想からわずか2ヵ月で製品化された。

SATO Tap
「SATO Tap」。高さ約12cmの本体に2Lのペットボトルをセットして使用。石山さんたちがおこなった試験では、1回の手洗いは100mlぐらいで可能だという。個人差はあるが、2Lのペットボトルで15回から20回手洗いができるそうだ(LIXIL提供)
SATO Tapの説明
ノズルの中の水の移動を利用して、水を出したり止めたりすることで、無駄なく簡単に手洗い水を利用できる(LIXIL提供)。

この画期的な手洗い器「SATO Tap」は、LIXILがソーシャルビジネスとして開発・提供している、プラスチック製の簡易式トイレシステム「SATO」で誕生した商品だ。

2012年、劣悪なトイレ環境に悩む開発途上国の問題を解決するため、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けて開発されたのが「SATO」。石山さんは、このトイレの開発者でもある。

大学と大学院で機械工学と工業デザインを学んだ石山さんは、トイレに関するメカニズムに興味があったという。また、学生時代の経験も、「SATO」開発プロジェクトへの参加を後押しした。

「学生時代に、東南アジアを回っていたことがあったので、この開発プロジェクトの対象地域がバングラデシュやインドだと聞いたとき、解決しようとしている問題がなんとなくイメージできたんです。そこで、僕もすぐに手を挙げて参加しました」。

「SATO」は、2013年にバングラデシュで初代モデルを発売。その後、地域事情に合わせて改良しながら展開し続けている。2022年6月現在、45カ国以上で3500万人に利用され、多くの人々の衛生環境を改善してきた。

また2018年からは、ユニセフとパートナーシップを結び、地域の参加を促し、衛生環境の持続的な改善に励んでいる。

簡易式トイレ「SATO」を手に持つ石山さん
簡易式トイレ「SATO」を手に持つ石山さん(撮影・朝日新聞)
「SATO」のしくみ
「SATO」は、排泄(はいせつ)後上から水を流すと、水と排泄物の重みで弁が開いて下へ流れ、流した後は弁が閉じ虫や悪臭を防ぐしくみになっている(LIXIL提供)

手洗いの重要性 コロナ禍で再認識

2019年、世界を混迷させる新型コロナウイルスが初めて確認された。瞬く間に世界中に広まったこのウイルスは、今も多くの感染者を出し続けている。石山さんも感染者の1人だ。2020年3月に感染し、幸い重症化はしなかったものの、しばらく家族とは部屋を分けて隔離生活を続けたという。

そんな生活の中で聞こえてきたのが、WHOなどが推奨する、コロナの感染拡大を防ぐ三つの対策、「マスクをすること」、「人との距離を2m空けること」、そして「手洗いの徹底」という声だった。

「この頃、『SATO』を使ってくださっている開発途上国などでも、コロナウイルスが猛威を振るっていることを知りました。これらの地域では、以前から多くの団体が健康的な生活のために手洗いを定着させようとしてきたんですが、なかなか定着させられませんでした。でもコロナ禍で、手洗いの徹底が世界中で再認識されるようになり、これまで以上に手洗い問題の解決策を求める声が高まっていったんです」

現在、世界には衛生的な手洗い環境を利用できない人々も多い。ユニセフが発表した「世界の人々の、自宅における手洗い設備へのアクセス状況」によると、正しい手洗いに必要な水道や石鹼がそろった手洗い設備がない人が、世界人口の約30%(約23億人)もいるという(2020年時点)。

世界の人々の、2020年時点の自宅における手洗い設備へのアクセス状況
世界の人々の、2020年時点の自宅における手洗い設備へのアクセス状況(ユニセフ資料から編集部作成。概数のため「%」の合計は100になりません)

コロナ禍で、身をもって感染予防の必要性、とりわけ手洗いの重要性を感じた石山さんは、一刻も早く「家庭用の手洗い器」を作ることを考えた。そして、その実現に向け行動を開始。ユニセフなど、長年手洗い定着のための取り組みを行ってきたパートナーからも助言をもらい、たくさんの貴重なアドバイスを参考にしながら、石山さんは新しいソリューションの開発に取り組んだ。

水を調達しに来た女性たち
水を調達しに来た女性たち。この貴重な水を、手洗いに使用できない人々も多い(LIXIL提供)

新たな手洗い器 お風呂でひらめき

石山さんが、「SATO Tap」の構造をひらめいたのは、2020年春。6歳になったばかりの息子をお風呂に入れているときのことだった。

息子が、おもちゃのコップからコップへ水をうつして遊んでいるのを見て「これは!」と、ひらめいた。その後自宅の地下室で、手元にあったプラスチックのコップやストローなどを使って開発に取り組んだ。

「まず『手洗い器』の条件について自分なりに考えました。そして行き着いたのが、水をあまり使わずに、衛生的に水を出したり止めたりできて、手洗いのプロセスが終わった後に手がきれいである、ということだったんです。なので、水をなるべく使わないようにということと、ユーザーが使用法を間違えずに使える道具を作らないとダメだ、そう思いながら試行錯誤を繰り返しました」

翌日には水がチョロチョロとちょうどいい具合に出るコンセプトモデルが完成。そこから5~6週間かけて、このアイデアをどう製品化するか考えた。

短期間での開発には、様々な苦労も多かったそうだ。当時はコロナ禍で、石山さんの住むアメリカのニュージャージー州はロックダウンの最中。材料調達に訪れたホームセンターは、入店制限のため入るまでに約1時間かかったこともあった。入店できたとしても、品切れが多く、使えるものをそろえるのに苦労したという。

ホームセンターでそろう材料で作るフェーズが終わると、次は3Dプリンターで作った少し形が複雑なパーツで試作品を作る。だがここにも問題があった。

「いつも頼んでいる業者が、政府のリクエストで医療関連の道具を生産していて……、無理をお願いして使っていないプリンターでパーツを作らせていただきました。また、当時は輸送状況も逼迫(ひっぱく)していて、できたパーツが自宅に届くのに何週間かかるかわからないので直接40Kmぐらいの距離を、往復約1時間半かけて自分で運転して取りに行きました」

さらに、外に出て人と会えないため、試作品のテストは家族に協力してもらった。そんな道のりを経て「SATO Tap」が完成した。

「SATO Tap」の石鹸台
「SATO Tap」の本体には、より衛生的な手洗いができるよう、石鹸台も備え付けられている(LIXIL提供)

すべての人に、衛生的な環境を届けたい

2020年夏インドで「SATO Tap」の生産が始まり、22年1月からは、小売り販売も始めた。現在ではタンザニアでも生産されている。価格は日本円で1台数百円。フィリピンで「SATO Tap」を使ったイベントの実施や、タンザニアで製造した商品を、周辺のアフリカ諸国へ出荷する計画も進行中だ。また、ユニセフを通して、貧困コミュニティや医療・公共施設などに30万台が寄付された(2022年6月現在)。

LIXILでは、「SATO Tap」の提供開始にあたり、約1億円の拠出を行っている。こうした活動について、石山さんはこう話す。

「LIXILは、『世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現』を目指しています。トイレがない家庭にトイレを届ける、手洗いができない家庭に手洗い器を届ける。人々が必要なモノを、自分の知識や経験を使ってどんどん提案して作り、届けられるということは、モノ作りをする人間としては、このうえない幸せです」

現在の「SATO Tap」は、ペットボトルを利用するシステムだ。現地でも手に入るペットボトルを再利用し、シングルユースのプラスチックゴミを削減する意図があったからだ。また「SATO」が本体に耐久性の高いプラスチックを使用しているのは、製造が早くでき、軽くて、壊れにくく、輸送が楽だから。しかも重ねれば梱包(こんぽう)がコンパクトにできるので、箱にたくさん入れられ普及に効率的という利点もある。

とはいえ、SDGsにも配慮し、すぐに壊れてゴミにならないよう、品質の耐久試験は100年は使えるような耐久性を持たせることをベースに行っているという。

「いずれは、石油を使ったプラスチック以外の、製造が地球にやさしく、生分解が可能な素材を使いたいと思っています。もう少し時間が必要ですが、現在検討中です」。

さらに石山さんは、もっと先を見据えながら、これからの地球環境に寄り添うアクションを起こしていた。

「SDGsの達成には、とても多くの材料が必要になります。でも何かをするたびに木を切ったりプラスチックを使ったりしていたら、地球はボロボロになってしまいます。それじゃあ元も子もありません。そうならないためにはどうしたらいいのかを先に考え、スケールアップするための研究開発を、現在チームのみんなで取り組んでいます」

日本から開発途上国へ向け発信されている、石山さんたちのこれからの活動に注目したい。

泉ひろえ
泉ひろえ ( いずみ ・ひろえ )
フリーライター、編集者。主に「教育」「児童書」の分野で取材執筆・編集をおこなっている。
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