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SXとは?重要性やDXとの違い、実現のためのポイント、事例を紹介

SXとは?重要性やDXとの違い、実現のためのポイント、事例を紹介
SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション)とは(デザイン:増渕舞)
BEX Institute代表/大塚美幸

SXとは、企業が持続可能性を重視した経営方針へ転換することです。不透明な時代には、リスクを的確に把握し、自社の柔軟性、適応力を高めることが求められています。環境、社会、経済のつながりを認識し、WIN-WIN-WINな関係性を築くことができるSXを学び、「自ら変革できる力」を培いませんか。

著者_大塚美幸さん
大塚美幸(おおつか・みゆき)
SDGs/コーポレートコミュニケーションをデザインする【BEX Institute】代表。東証プライム市場上場クリエイト・レストランツHD取締役。エグゼクティブのビジネス演出力向上や企業のサステナブル事業コンサルティング、社内外へのPR発信を支援。九州大学に属しサステイナビリティー・人的資本の変化を研究中。大妻女子大学講師。新卒TBS系列局アナウンサー。趣味:旅(約60カ国)、空手、ゴルフ(ベスト101)

1.SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション)とは

SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション:sustainability transformation)とは、企業がサステイナビリティー(持続可能性、「サステナビリティ」とも)を重視した経営方針に転換することです。

「VUCA(ブーカ)」とよばれる不確実性の高い社会においては、環境や社会と同時に経済の面でも、いわゆる企業のサステイナビリティーを高め、中長期的に企業価値も向上させていくことが求められています。

SXは、企業の稼ぐ力とESG(環境、社会、ガバナンス)の両立を目指し、経営のあり方や投資家との対話のあり方を変革するための戦略指針です。

(1)SXが注目される理由

SXが注目されたきっかけのひとつは、2020年8月28日に経済産業省経済産業政策局が発行した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~」です。

この経産省の報告書では、企業が実施する取り組みのなかで、特に投資家の理解が得られにくいものが三つあるとしています。

【投資家の理解が得られにくい取り組み】

1. 多角化経営やそれに伴う複数事業のポートフォリオ・マネジメントのあり方

2. 新規事業創出やイノベーションに対する「種植え」に関する取り組み

3. ESG/SDGsなどの社会的価値と企業の稼ぐ力・競争優位性に基づく経済的価値の両立に向けた取り組み

これらの取り組みは、不確実性の高まりや社会のサステイナビリティーの要請の高まりを受けて、企業が中長期的に企業価値を向上させるために必要とされています。

言い換えれば、変化の激しいVUCAの時代においては、「自社の強みや経営資源を把握しつつ、できるだけリスクを回避しながら経営活動を行う」とともに、「環境や社会の負担をできるかぎり軽減しながら事業展開する」ことが、企業・事業の存続条件です。

経産省では、この取り組みについて投資家に納得してもらうには、企業が投資家と丁寧に「対話」する必要があり、それこそがSXであるとしています。こうした背景から、多くの企業の中でSXの重要性が高まりつつあるのです。

また、もうひとつの理由として、SXの推進において、SDGs(持続可能な開発目標)の観点が役立つ点もあげられます。SDGsの17の目標と169のターゲットは、環境・社会・ガバナンスの課題にひもづくものであり、それらをクリアできているかどうかは、SXを推進できているか評価する指標になるからです。

SDGsへの取り組みは、いまやステークホルダー(投資家、取引先をはじめとする関係企業、自社で働く従業員、その家族、地域社会など)から信頼を獲得するために不可欠なものとなっています。そのため、SXは多くの企業に注目されているのです。

なお、SXとSDGsの関係という意味でいえば、SXを推進するうえではSDGsの目標をチェックシートのように活用し、まずはSDGs経営(SDGsの目標達成を軸にした経営)に取り組むのも有効な方法です。SDGs経営の先に、SXやサステイナブル経営(ステークホルダーと共存しながら長期的な成長を目指す経営)があるというイメージです。

(2)SXとDXの違い

昨今、企業に求められる変革のひとつに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)がありますが、SXとは何が違うのかという疑問の声をよく聞きます。

DXの目的は、デジタル技術を用いてビジネスの変革をおこし、できるだけ早く競争優位性を確保することです。比較的、短期的な視点での業務変革を求めるのがDXです。

一方、SXは「サステイナビリティー=持続可能であること」が重視され、先述の通り、中長期的な視点で企業に変革や価値創造を求めます。SXで重視されることは、目先の小さな利益や改革でなく、将来をみすえて、持続可能な環境、社会、企業の未来をつくることです。

企業においてどちらも重要ですが、達成したい目標と時間軸に違いがあります。

2.SXを実現するために必要な二つの観点

企業がSXを実現するためには、「企業のサステイナビリティー」と「社会のサステイナビリティー」の同期化が必要です。それぞれの観点と同期化について、以下で詳しく見ていきます。

(1)企業のサステイナビリティー

経産省のまとめでは、企業のサステイナビリティーを「企業の稼ぐ力の持続性」と位置づけたうえで、「企業としての稼ぐ力(強み・競争優位性・ビジネスモデル)を中長期で持続化・強化する、事業ポートフォリオ・マネジメントやイノベーション等に対する種植え等の取組を通じて、企業のサステナビリティを高めていくこと」が必要であると記されています(引用:サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~ p.10|経済産業省)。

企業のサステイナビリティーとは、従来の「ヒト、モノ、カネ」ではなく、「強み・競争優位性・ビジネスモデル」といった、企業における無形の(目に見えない)重要な価値、いわゆる「企業が持続的に稼ぐ力」で、将来をみすえた中長期的視点で企業価値を高める経営をしていくことです。

(2)社会のサステイナビリティー

同じく経産省のまとめでは、社会のサステイナビリティーについて「将来的な社会の姿や持続可能性」とし、「不確実性に備え、社会のサステナビリティをバックキャストして、企業としての稼ぐ力の持続性・成長性に対する中長期的な『リスク』と『オポチュニティ』双方を把握し、それを具体的な経営に反映させていくこと」を求めています(引用:同上)。

昨今にかぎっても、新型コロナウイルス感染症の拡大やロシア・ウクライナ問題など、予測困難なリスクが少なからずあります。

経済も政治も、ひとつの国だけで完結する時代は終わり、国を越えてグローバル化し、つながっているのです。遠く離れた、一見関係がないような場所で起こった出来事が、時に政府や企業へ大きな影響を与えることがあります。

このように予測困難な問題に直面した場合でも事業を継続していくために、描いた未来の社会のあり方、すなわち社会のサステイナビリティーから逆算(バックキャスト)し、中長期的なオポチュニティー(事業機会)を把握して、経営に反映することが求められます。

(3)企業のサステイナビリティーと社会のサステイナビリティーの同期化とは

SXを実現するには、企業のサステイナビリティーと社会のサステイナビリティーを同期化させなければいけません。

同期化とは、それらを両輪として不確実性の高い社会のなかを前進することであり、具体的には、二つの観点をもとに企業と投資家の継続的な対話を行い、それを通して「レジリエンスの強化」を図ることです。レジリエンスとは、企業の強靭(きょうじん)性であり、困難な状況を乗り切る力を指します。

このとき、企業は投資家との対話だけにとどまることなく、誰のどのような社会課題を解決しているのか、そのパーパス(存在意義)を社内外のステークホルダーへ発信し伝えることが大切です。

また、これらを踏まえて「目標を達成するための課題の特定」と「長期的なビジョン、長期経営計画の立案」を行い、PDCAを回すことも重要となります。

3.SX推進に重要なのはダイナミック・ケイパビリティー

SXを推進するためには、企業と投資家が対話をし、レジリエンスの強化を図る必要があります。そこで欠かせないのがダイナミック・ケイパビリティー(企業変革力)です。

(1)ダイナミック・ケイパビリティーとは

ダイナミック・ケイパビリティーとは、時代や環境が激しく変化するなかで、企業が変化に適応し、とるべき行動を変革させる能力です。

米カリフォルニア大学バークリー校ハース・ビジネススクール教授のデイヴィッド・J・ティース氏が戦略経営論で提唱しました。

変化にあわせて適応していく力として、具体的には以下の三つの能力が求められると言われています。

・感知(センシング):脅威や危機を感知する能力

・捕捉(シージング):機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力

・変容(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力

(引用:2020年版ものづくり白書・第1部第1章第2節 2.企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化|経済産業省

ダイナミック・ケイパビリティーを備える企業は、リスクを察知し、柔軟かつ適切に人的資源を再配置・組織を再編成し、新しい組織に変容できる力があるといえるでしょう。それは、まさにSX実現に必要な「レジリエンスの強化」に直結するものです。

(2)ダイナミック・ケイパビリティーを身につけるには?

では、ダイナミック・ケイパビリティーを身につけるために、企業はどのようなことに取り組むとよいでしょうか。

先にご紹介している「2020年版ものづくり白書」では、ダイナミック・ケイパビリティーを高めるためにはDXが必要不可欠としています。

DXは、ダイナミック・ケイパビリティーの三つの能力である「感知」「捕捉」「変容」それぞれの能力を広げて発揮させてくれるからです。例えば「感知」や「捕捉」は、素早くデータを収集・分析できるデジタル技術によって大きく高められます。また、「変容」のコアはデジタル技術によるものであり、それはまさにDXの取り組みそのものです。

したがって、ダイナミック・ケイパビリティーの理論を学びながら、自社の状況・業務を確認し、身近なところからDXを少しずつ進めてみると良いでしょう。

4.SXの事例

2022年6月に開催された「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」において受賞し、世界的に話題になった企業の取り組みをご紹介します。

「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」は1954年に設立され、毎年6月にフランスのカンヌで行われる世界最大規模の広告・コミュニケーションフェスティバルです。SDGs部門は2018年から始まりました。

(1)事例1.ユニリーバ・Smart Fill

世界的な一般消費財メーカーであるユニリーバがインドの生活用品店に設置した自動販売機「Smart Fill」は、SDGs12「Responsible Consumption and Production(つくる責任つかう責任)」部門で受賞した作品です。

消費者は、自分の手元にある、液体が入れられる容器をお店へ持参。自分が欲しい製品を選び、どれくらいの量を買うか指定すれば、ユニリーバの製品を使う量だけ購入することができます。

これによって、ユニリーバはプラスチックのリサイクル、リデュース(削減)を進めながら自社の製品を消費者に購入してもらうようにしました。

(2)事例2.コロナ・Plastic Fishing Tournament

ビールブランドのコロナは、漁業に関わる人たちに呼びかけ、メキシコ、中国、ブラジル、イスラエルで海洋のプラスチック廃棄物を回収する「Global Plastic Fishing Tournament」を開催しました。名前の通り、プラスチックを釣り上げる(=回収する)トーナメントです。

世界経済フォーラムによると、2050年までに海の中にあるプラスチックは、魚より多くなり、漁業関係者の生活に影響があることが予測されています。

日本においてもスーパーマーケットなどでレジ袋が有料化されてプラスチックが取り上げられていますが、海洋汚染の深刻さは、あまり報じられていません。

この「Plastic Fishing Tournament」は、各地域のコミュニティーと協力して環境保護活動をすることで、経済的に地域をサポートすることを目標にしています。

漁業関係者が回収してくれたプラスチック廃棄物を、各地のリサイクルセンターと協力しリサイクルできるようにすることで、収入源を漁業以外でも確保する新たな方法の提供も目指しているのです。

コロナは、2020年までに100の島を保護するミッションを経て、今も世界各地で海や浜辺の保護・保全の取り組みを実施しています。

コロナのPlastic Fishing Tournament
コロナの「Plastic Fishing Tournament」(提供)

ユニリーバもコロナも、自社のブランドイメージや商品、サービスを提供するだけでなく、環境・社会と経済を両立させることで企業価値を中長期的に向上させることに成功しています。まさにSXを体現した事例といえるでしょう。

5.変われない企業は淘汰(とうた)される時代へ

新型コロナウイルス感染症拡大の時代を迎え、日本だけでなく世界中の企業が、今まで経験したことのない不透明さのなかで前進しようとしています。

今までと同じやり方では課題が本当に課題か、その解決策があるか、果たしてそれが正解なのか分からない時代になり、今まで通りの価値提供や経営方針では、気づいたときに取り残されている可能性も出てきました。

そういった変化のなかで、リスクを的確に把握し、自社の柔軟性、適応力を高めていくことが企業存続へとつながっていきます。

誰にとっても状況は同じです。

不確実性の高い社会において、環境、社会、経済をしっかりと認識しWIN-WIN-WINな関係性を築いていくことができるSXを始めてみませんか。

環境や時代の変化と共存できるよう「自ら変革できる力」を培っていきましょう。

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