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プラスチック使用98%減の「紙カミソリ」、貝印が発売 脱プラだけじゃない利点とは

プラスチック使用98%減の「紙カミソリ」、貝印が発売 脱プラだけじゃない利点とは
貝印の紙カミソリ
編集部

刃物メーカーの貝印が、ヘッド部分の金属以外は紙でできた「紙カミソリ」を2022年3月に発売した。プラスチックの使用量を従来比で98%削減。折り紙のように組み立てて使うことから、海外でも「Origami Razor」として注目されている。シック・ジャパンも持ち手の素材に竹を使ったカミソリを5月に投入しており、カミソリ業界で「脱プラ」の動きが活発化している。(編集部・竹山栄太郎)

組み立て前は厚さ3mm、持ち運び簡単

「紙カミソリ」は、ハンドル(持ち手)に紙、刃を含むヘッド部分に金属を使った使い捨てカミソリ。厚さ3.1mmの平らな状態でパッケージに入っており、取り出して組み立てると高さ96mm、幅41.6mm、厚さ17mmのコンパクトなカミソリになる。重さは約4gで、20g前後という従来のプラスチック製のものより軽い。3月から全国のローソンで販売しており、価格は税込み152円。

紙カミソリのパッケージと組み立て前後
「紙カミソリ」のパッケージ(左)と組み立て前(中央)、組み立て後(右)の状態

一般的なカミソリは、刃以外にはプラスチックが使われることが多い。貝印によると、紙のハンドルと金属のヘッドでできたカミソリは「世界初」。残る「2%」のプラスチックは、金属と紙の接着剤と、耐水性を保つためのフィルムに使われているという。

素材を紙にしたことで、「脱プラ」以外のメリットも生まれた。紙カミソリは、パッケージに平らな板の状態で入っており、番号と矢印に沿って折り紙のように組み立てる仕組み。そのためかばんなどに入れて持ち運びやすくなった。

折り紙のように組み立てる
番号と矢印に沿って折り紙のように組み立てる
組み立て前は厚さ3.1mm
組み立て前は厚さ3.1mm
刃を保護するシール
刃を保護するシールをはがし(手順⑧)、ハンドルに巻けば完成(手順⑨)
できあがった紙カミソリ
できあがった紙カミソリ

また、ハンドルにさまざまなデザインを印刷できるようにもなり、すでに人気アニメや有名人とコラボした限定デザインも製作している。貝印で紙カミソリのプロジェクトリーダーを務める塩谷俊介さんは「ご当地のお土産や企業ロゴを入れたノベルティー(記念品)など、さまざまな展開が期待できる」と話す。

アニメ「攻殻機動隊SAC_2045」とコラボした紙カミソリ
アニメ「攻殻機動隊SAC_2045」とコラボした紙カミソリ(貝印提供)

試作品は100以上 重ねた改良

塩谷さんによると、紙カミソリの開発が動き出したのは2018年。「これまでにないカミソリをつくろう」という目標のもと、社内で部門横断のチームを立ち上げた。当初浮かんだ案は、使い捨てコンタクトレンズのようにいつも清潔に使える「1Dayカミソリ」。さらに検討を進めるなかで、SDGsや環境問題への関心の高まりを意識し、紙を使ったカミソリに行き着いた。

初期の試作品は、アイスクリームの紙スプーンにカミソリのヘッドをつけたような簡単なもの。開発にあたっては、カミソリとして必要な耐水性や強度を確保しつつ、コストを抑えることに苦心し、100以上の試作品をつくって改良を重ねたという。

紙カミソリの試作品の進化
紙カミソリの試作品の進化(貝印提供)

テスト販売、3日で完売

2021年4月に貝印の公式オンラインストアでテスト販売したところ、発売3日で完売。海外で「Origami Razor」として紹介され、SNSのTikTokでも話題になった。「これまで世の中になかった製品なので、どんな反応になるかわからなかったが、想定以上の反響だった」(塩谷さん)。その後量産態勢を整え、2022年3月からローソンでの販売を始めた。今後、ドラッグストアでの販売やホテルでの取り扱いも予定しているという。

塩谷さんは「カミソリ市場は成熟し、ほぼ横ばいの状態。コロナ禍でひげをそる頻度も減ったと言われているなか、紙カミソリで新しいニーズを生み出せたら」と話す。

紙カミソリでひげをそる様子
紙カミソリでひげをそる様子(貝印提供)

ライバル社は「竹カミソリ」投入

プラスチックごみによる海洋汚染は世界的な課題となっており、2050年には海のなかのプラスチックの重さが魚を上回るとの予測もある。近年は、日本でもレジ袋の有料化や飲食店での紙製ストロー導入など「脱プラスチック」の取り組みが進み、2022年4月には「プラスチック資源循環促進法」も施行された。脱プラの流れはカミソリ業界にも広がりつつある。

シック・ジャパンは2022年5月、ハンドル部分の約70%に天然竹を使用したカミソリ「エクストリーム3 バンブー」を発売した。ハンドル部分の残り30%は、防水・防カビ加工のコーティング剤。刃を含むカートリッジ部分を交換して使う仕組みで、カートリッジにもリサイクルプラスチックを使用している。公式オンラインストアで扱っており、8月末からはドラッグストアなどでの販売も予定する。

シック・ジャパンの「エクストリーム3 バンブー」
シック・ジャパンの「エクストリーム3 バンブー」(同社提供)
「エクストリーム3 バンブー」の構造
「エクストリーム3 バンブー」の構造(シック・ジャパン提供)

脱プラに「プラスα」の価値を

貝印の塩谷俊介さんに、「紙カミソリ」開発の経緯や、新しいアイデアを形にするポイントを聞いた。

――開発当初、紙カミソリへの社内の反応はいかがでしたか。

「無理じゃない?」という声のほうが多かったと思います。「折るカミソリなんて面倒くさいし、ありえない」という意見もありました。最初の試作品はそり味もよくなかったので……。私自身は「空気を読みすぎると企画がつぶれるな」と思って、あえて空気を読まずに突き進みました。

貝印の塩谷俊介さん
貝印の塩谷俊介さん

――どのように乗り越えたのでしょうか。

当時、私は現社長の直属部門にいたのですが、社長が自由にやらせてくれて、守ってくれたことは大きかったです。それに加えて、「第三者の声で動かす」ことが効果的でした。当事者の私が「いい」と言っても説得力がないので、ユーザーヒアリングの結果など、エビデンスを蓄積して周囲を説得していきました。

当社の人間はカミソリのプロフェッショナルですから、そり味については厳しい。でもユーザーに聞いたら、「紙カミソリでも遜色ない」という声がある。だから、「100点満点ではないけど、80点で不満がなければいいじゃないですか」といった感じです。

紙カミソリ
紙カミソリ

――折り方が特徴的です。どのようにできあがったのですか。

みんなの知恵を結集して、泥臭く開発しました。コロナ禍でたいへんな時で、会社に集まれず、オンライン会議でお互い手元に紙を用意しながら議論したこともあります。

紙カミソリには(ヘッド部分が顔の形に合わせて動く)「首振り」がないので、組み立てて顔に当てたとき、多くの人が普段そるときの角度になるようにすることがポイントでした。当社のフラッグシップ(最高級)モデルと比べれば及ばない部分があるのは当然ですが、遜色ないレベルになっていると思います。

――SDGsにも関連する取り組みです。

海洋プラスチックなどが問題になるなか、プラスチックを削減できるという意義はもちろんあります。ただ、それだけではなく、SDGsに興味を持ってもらうきっかけにもなるのかなと、ユーザーの反応を見て思いました。単純に「材料を替えました」だけではなかなか話題にならず、関心を持ってもらいにくいと思います。形状が新しい、かわいいといった「プラスα」をつくることで、ユーザーの興味をひけるのではないでしょうか。

貝印の塩谷俊介さん
貝印の塩谷俊介さん

――今後の展望を教えてください。

海外も含めてもっと販路を広げ、いろいろな人の目に触れて使ってもらえるようにしていきたいです。製品自体もまだ100点満点ではないので、新しい開発をしていけたらと考えています。

竹山栄太郎
竹山栄太郎 ( たけやま ・えいたろう )
朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、2022年11月から副編集長。
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