エネルギーミックスとは? 日本の2030年度目標や現状、課題を紹介

エネルギー問題を考えるうえではエネルギーミックスが重要であり、日本や世界はいま、それに向けてさまざまな取り組みをしています。この記事では、エネルギーミックスの定義と歴史的な経緯を整理し、日本政府が掲げる2030年度の目標とそれに向けた施策、乗り越えるべき課題を解説しています。

千葉みらい電力合同会社 代表社員。特定非営利活動法人自然エネルギー千葉の会 代表理事。フリーエディター、フリーライター。再生可能エネルギーのポテンシャルに着目し、市民の目線から再エネの普及を目指して活動中。有志の市民が出資して運営する「市民太陽光発電所」を3基手がけている。
目次
1.エネルギーミックスとは
エネルギーミックスとは、複数の発電方法を効率的に組み合わせ、社会に必要な電力を供給することです。
電気は火力、水力、原子力、再生可能エネルギーなどいくつかの発電方法でつくられていて、このエネルギーの種類で分類した発電設備の割合を「電源構成」と呼んでいます。エネルギーミックスとは、電源構成の最適化ということができます。
(1)各電源の特徴一覧
エネルギーミックスがなぜ求められるのかは、唯一無二の発電方法がありえないということと結びついています。いくつかある電源にはそれぞれ長所と短所があり、複数の電源でお互いを補い合うしか、必要な電力をまかなう方法はないのです。
各電源の特徴を一覧表にすると、以下のようになります。
電源の種類 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
火力 | ・安定的に大量の発電が可能 ・24時間稼働させることができる ・燃料の運搬、貯蔵が比較的容易 |
・大量の二酸化炭素(CO2)を排出する ・資源の埋蔵量に限りがある ・政治、経済情勢の変化によって、供給量や価格が大きく左右される |
原子力 | ・安定的に大量の発電が可能 ・発電コストが比較的安い ・発電時にCO2を排出しない |
・事故発生時のリスクが大きい ・使用済み核燃料の廃棄方法がいまだ確定していない |
水力 | ・エネルギー効率が高い ・24時間稼働させることができる ・発電時にCO2を排出しない |
・日本ではこれ以上開発の余地がない |
太陽光 | ・構造がシンプルでメンテナンスも容易 ・未利用スペースを活用できる ・発電時にCO2を排出しない |
・夜は発電できない ・気候条件により発電出力が左右される |
風力 | ・大規模発電ができれば経済性に優れている ・陸上だけでなく、洋上に設置することも可能 ・夜間も発電できる |
・季節や気候に発電出力が左右される ・風車が回転するときに騒音が発生 |
地熱 | ・火山国の日本ではポテンシャルが大きい ・電力の安定供給が可能 ・高温蒸気、熱水を再利用することも可能 |
・温泉事業者との合意形成が必要 |
(2)エネルギーミックスが生まれた背景
日本で電源種の多様化が強く意識されるようになったのは、1973年の第1次オイルショック(石油危機)からです。
オイルショックとは、同年10月に勃発した第4次中東戦争を契機として原油価格がわずか3カ月で約4倍に高騰、世界経済が大混乱に陥った出来事です。日本では「狂乱物価」と呼ばれたインフレが発生、日本中のスーパーからトイレットペーパーの姿が消えました。
ちょうどその頃の日本は、エネルギーの主役の座が石炭から石油へと替わる時期でした。1973年の日本の1次エネルギー(加工されない状態で供給されるエネルギー)は、80%近くを石油が占めるまでになったのです。
そこを襲ったオイルショックは、その後の日本のエネルギー政策を大きく変えるものとなりました。この時期打ち出された政策が、①石油の戦略的な備蓄、②「ムーンライト計画」と呼ばれる世界最高水準の省エネルギー技術開発、③「サンシャイン計画」と呼ばれる新エネルギー(現在の再生可能エネルギー)技術開発、④電源種の多様化=エネルギーミックスだったのです。
(3)エネルギーミックスとS+3E
エネルギーミックスとともに現在のエネルギー政策の基本となっている考え方が、「S+3E」です。これは、安全性(Safety)を大前提として、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)を同時達成するというものです。
エネルギーの安定供給(Energy Security)に関して、国産資源の乏しい日本はエネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている状況です。エネルギーミックスでは、エネルギー自給率を向上させることを意識していく必要があります。
また、エネルギーミックスでは発電コストを十分に意識しないと、電気料金が高騰し、国民生活へ多大な影響を与えかねません。経済効率性(Economic Efficiency)の視点が重要になります。
さらに、地球温暖化・気候変動が喫緊の課題となっている現在、環境への適合(Environment)も避けられません。温室効果ガスであるCO2の排出量を削減し、脱炭素社会を目指す発電方法へと向かうことが求められているのです。
そして、これらの大前提が安全性(Safety)になります。2011年に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故を教訓とし、安全性の確保を最優先課題としてエネルギーミックスに取り組まなければなりません。

2.エネルギーミックス実現のための取り組み
では、エネルギーミックス実現のために、日本は具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。日本の課題やそれを受けて掲げられた目標、現在の進捗(しんちょく)、実現に向けた対策という流れでご紹介します。
(1)日本に必要なのは化石燃料依存からの脱却
日本のエネルギーミックスを考えるとき、化石燃料依存からの脱却が大きなテーマとなります。
化石燃料依存の最大の問題は、温室効果ガスであるCO2を大量に排出する点です。地球温暖化対策が最優先課題となりつつある現在、世界各国は脱炭素へと向かっています。SDGs(持続可能な開発目標)のNo.13は「気候変動に具体的な対策を」をうたっていて、SDGsの観点からも日本の化石燃料依存は改めなければいけない問題です。

近年、日本の化石燃料への依存度が高くなっている理由として、原子力発電所の発電量急減という点が挙げられます。
日本の電源構成に占める原子力発電の割合は、1980年代から2000年代初頭まで25~35%程度で推移していましたが、2011年の東電福島第一原発の事故を受けて急減、2012年度以降は極めて低い値になり、2020年度でも3.9%となっています(参照:令和3年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2022)p.90|資源エネルギー庁)。
原発によって発電していた分の電力は、主に天然ガス火力発電によって補填(ほてん)される形になりました。このことで、必然的に日本は化石燃料依存度が高くなってしまったのです。
(2)経済産業省が掲げる2030年度目標
2021年10月22日、岸田文雄内閣は「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定しました。そこでは、菅義偉前首相が行った「2050年カーボンニュートラル宣言」を再確認するとともに、2030年度にCO2排出46%削減(2013年度比)、さらに50%削減の高みを目指して挑戦を続ける目標を打ち出しました。
そうしたCO2削減目標とともに、2030年度のエネルギーミックスについて以下のように見通しを立てています。
● 再生可能エネルギー:36~38%
(内訳 太陽光14~16%/風力5%/地熱1%/水力11%/バイオマス5%)
● 水素・アンモニア:1%
● 原子力:20~22%
● 天然ガス:20%
● 石炭:19%
● 石油等:2%
● 総発電量:約9340億kWh程度
この見通しが実現した場合、3Eはどうなるのか数値とともに見ていきましょう。
【エネルギーの安定供給(Energy Security)】
エネルギー自給率:30%程度
【環境への適合(Environment)】
温室効果ガス削減目標のうちエネルギー起源CO2の削減割合:45%程度(2013年度比)
【経済効率性(Economic Efficiency)】
電力コスト:kWh当たり9.9~10.2円程度
出典:同 p.13
(3)現在の進捗
2030年度の目標に向けた取り組みが続いているのですが、現時点での進捗状況はどうなっているでしょうか。2022年6月に発表された「エネルギー白書2022」をもとに、2020年度の電源構成を見ていきましょう。
● 再生可能エネルギー:19.8%
(内訳 水力7.8%/その他12.0%)
● 原子力:3.9%
● 天然ガス:39.0%
● 石炭:31.0%
● 石油等:6.4%
● 総発電量:1兆0008億kWh
2030年度のエネルギーミックスは「野心的な見通し」とされているように、現状からするとかなり高い目標になっています。現時点では化石燃料が電源構成の76.4%を占めており、化石燃料依存はほぼ変わっていない現状がうかがえます。
(4)実現に向けた対策
2050年までのカーボンニュートラル実現、2030年度エネルギーミックスの「野心的な見通し」実現という目標に向けて、国はさまざまな取り組みを行っています。
①地域脱炭素ロードマップ
2030年度と2050年の大目標に向けて、地域から脱炭素の取り組みを広げるために、2021年6月に「地域脱炭素ロードマップ」を策定しました。
ロードマップでは、脱炭素の取り組みを「地域課題を解決し、地方創生に資するもの」と位置づけ、地域の成長戦略ともなる地域脱炭素の行程と具体策を示しています。
とくに、今後の5年間に政策を総動員するとして、以下のことを掲げています。
(a)2030年までに少なくとも脱炭素先行地域を100カ所以上創出
(b)脱炭素の基盤となる重点対策を全国で実施することで、地域の脱炭素モデルを全国に伝搬する「脱炭素ドミノ」を起こし、2050年を待たずに脱炭素達成を目指す
②改正地球温暖化対策推進法
国は、2050年までのカーボンニュートラルの実現を明記する「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」を提出、2021年5月26日に成立しました。
改正地球温暖化対策推進法のポイントは、2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念として法律に位置づけたこと、地方創生につながる再生可能エネルギー導入を促進させること、企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化を推進することなどがあります。
③水素・アンモニア発電の開発
脱炭素の観点から水素エネルギーの利用についてはこれまでも研究・開発がされてきましたが、第6次エネルギー基本計画では「水素・アンモニア発電」がエネルギーミックスの1%を占めるという具体的な数値目標とともに掲げられました。
アンモニアは水素の輸送媒体として活用されることが期待されていましたが、そのまま燃料としても利用できます。燃焼してもCO2を排出しないカーボンフリーの物質なので、アンモニア発電が期待されているのです。
現在では、石炭火力発電に混ぜて燃やし、CO2の排出量を抑える研究が行われています。
3.世界のエネルギーミックスの現状と取り組み

ここまで日本のエネルギーミックスについて見てきましたが、海外においてはどのような取り組みが行われているのか、二つの国を例に挙げて見ていくこととしましょう。
基本的には、どの国においてもエネルギーというのは経済・産業の基礎を形づくるものであり、エネルギーミックスを意識していることは間違いありません。
(1)フランス
原子力を国のエネルギー政策の基本としているフランスは、世界的にも特異な立場をとっている国といえます。2017年のデータですが、電源構成のうち原子力発電は72.6%を占めています。
日本と同じくエネルギー自給率が低いフランスは、オイルショックを機に原子力にかじを切り、世界有数の原子力大国となりました。
2022年に入り、マクロン大統領は最大14基の原子力発電所の新規建設計画を明らかにしました。大統領就任当初は原子力依存度を低減させる方針でしたが、撤回した形です。今後はパリ協定などの脱炭素の取り組みを、原発と再生可能エネルギーの2本立てで行う方針です。
ただし、ヨーロッパ大陸の国は電力網が国境を越えてつながっているため、他国から電気を輸入することも少なくありません。フランスが原子力の電気で完結しているわけでもなく、ドイツやスペインなど再生可能エネルギーが大きな割合を占めている国の電気も使っている、という側面があることは知っておくべきでしょう。
(2)中国
中国は世界最大のCO2排出国です。2017年の電源構成を見ても、石炭火力発電が68.6%を占めるなど途上国型の構成ですが、再生可能エネルギーの導入を急ピッチで進めています。
中国は「カーボンニュートラルを2060年までに実現する」と宣言していますが、習近平国家主席は「風力発電と太陽光発電の総設備容量を、2030年までに12億kW以上にする」とも発言。中国が世界最大の再生可能エネルギー国になることも現実性を帯びてきています。

4.エネルギーミックスの今後の課題
最後に、エネルギーミックスの今後の課題について、考えていきましょう。ここでは端的に3点にまとめていきます。
(1)再生可能エネルギーの大量導入
日本の場合、2020年度において電源構成19.8%の再生可能エネルギーを、2030年度までに36~38%に引き上げることは並大抵のことではありません。再生可能エネルギーの大量導入のためには、まず発電コストのさらなる低減が求められます。経済効率性(Economic Efficiency)の視点です。
さらに、電源立地での地元の合意形成が不可欠となってきました。関西電力が宮城・山形両県にまたがる蔵王連峰で計画していた風力発電事業に対して、蔵王温泉観光協会が反対を決議し、宮城・山形・青森の3県知事が反対もしくは懸念を表明。関西電力は地元の反対を受けて2022年7月、計画の撤回を発表しました。
国も含めて、スムーズな合意形成ができるスキームづくりが必要になってきているのです。
(2)原子力発電所の再稼働
日本が抱えるもう一つの課題が、原子力発電所の再稼働についての国民的合意が必要ということです。2020年度段階で3.9%にまで落ち込んだ原子力発電の割合を、20~22%にまで引き上げるのも困難な作業になります。
2011年の原子力災害の記憶を国民は簡単には忘れません。2011年の経験と反省から生まれた新規制基準にのっとって粛々と検査を行うとともに、広く国民に向けたリスクコミュニケーションが求められるでしょう。
(3)ウクライナ侵攻が与える影響
一方、各国が抱える課題に視点を移すと、ロシアによるウクライナ軍事侵攻がエネルギー問題に与える影響を考えないわけにはいきません。直接的には、原油価格・天然ガス価格の急騰という現象があります。
ロシアへの経済制裁実施によって、ロシア産天然ガスに依存してきたドイツをはじめとするヨーロッパ諸国が、いっせいに他国からの天然ガス調達に動き出しました。このことが価格上昇に拍車をかけています。
他方で、原油価格・天然ガス価格の高騰は、再生可能エネルギー事業への投資を後押しするものという見方も出てきています。化石燃料が相対的に低廉のままでは、再生可能エネルギーへの投資はなかなか進みません。
今回の事態で化石燃料価格が高騰したこと、化石燃料依存がエネルギー安全保障の観点から危険であることを各国政府は学んだといえるのです。
5.エネルギーミックスは「モアベター」の積み重ね
よくエネルギーミックスは「ベストミックス」という別名で呼ばれることがありますが、正確には「ベスト」というものはなく、与えられた条件の中で「モアベター」を選択し続けることでしかありえません。
再生可能エネルギー100%は理想ですが、すぐに実現できるものではなく、そこには必ず時間軸が必要となります。モアベターの積み重ねの先に、2050年のカーボンニュートラルという大目標の達成があるのです。