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ファッションのサステナビリティは測れる? 村上芽の「SDGsで使えるデータ」【3】

ファッションのサステナビリティは測れる? 村上芽の「SDGsで使えるデータ」【3】
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日本総合研究所シニアスペシャリスト/村上芽

著者_村上芽さん
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。
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わかりやすい環境省のサイト

環境省に「サステナブルファッション」というサイトがあります。ファッション産業の特徴をはじめ、ファッションが環境に対しどのような負荷をかけているか、サステナビリティへの取り組み事例などが豊富なイラストやグラフとともにわかりやすく紹介されており、リポートやプレゼン資料を作成するための基本的な情報が網羅されています。

例えば、服を1着作るのにどれくらいの水を使うか。原材料の調達から紡績・染色・裁断・縫製・輸送の各段階を経ると、約2300ℓにもなると記されています。綿花を育てたり布を洗ったりする際に多量の水が必要なため、お風呂11杯分もの量になるのです。ここから、例えば「水を節約して作れる服」を考える、といった発想が可能になります。

ただし、この数字には私たちが服を着た後、洗濯する際の水の量は入っていませんので、服をライフサイクルでみると水量はさらに多くなります。洗濯の容易さをアピールしたい場合には、別の数字を用意する必要があります。

綿花畑
ウズベキスタン・タシケント郊外の綿花畑=2001年7月3日(撮影・朝日新聞)

着られなくなった服を私たちがどのように手放しているか、という統計もあります。内訳を見ると、68%がごみとして捨てられており、古着として誰かが着る前提で流通していくのは14%にすぎず、資源として回収される服も18%しかありません。ここからは、服を服として再利用できるように、仕組みをどう改善するかというアイデアへと思考を広げていくことができるでしょう。

サステナブルな衣服とは

このようなサイトができた背景には、ファッションのサプライチェーン全体を通じたサステナビリティに対する注目が高まったことがあります。

ファッション産業の社会的責任というと、1997年のインドネシアやベトナムのスポーツシューズ工場での児童労働や、2012年のバングラデシュでの縫製工場の大規模な火災など、サプライチェーンの上流に対する関心、特に製造段階における労働面の環境について注目される機会がもっぱらでした。

その重要性が小さくなったわけではありませんが、SDGsへの関心の高まりとともに、ファッションによる環境面(資源やCO2排出)での負荷を意識する顧客や投資家の関心が増してきています。衣服を使った後、つまりサプライチェーンの下流も考慮に入れて大量生産・大量消費・大量廃棄を助長しないようなビジネスへと変えていくことが、よりクールであると捉えられるようになりました。

では、一つひとつの衣服を取り上げたとき、何をもって“サステナブル”と言うのでしょう。

決め手となる世界共通の指標というものはまだ存在しません。というのは、衣服のサステナビリティを考える際には、

1)製造・流通段階

2)着る段階(購入する、着る、洗う、管理する)

3)着られなくなったあとの処分段階

の少なくとも3段階があります。それぞれに環境的な側面と社会的な側面があることから、一つの指標に集約するのが非常に難しいのです。

衣類の工場
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企業やNGOらでつくる世界的な業界団体SAC(Sustainable Apparel Coalition)は、ファッションの各サプライチェーンから生じる環境負荷や社会負荷を標準化して測定するツール「Higg Index」を運営していますが、それも、素材・製品ライフサイクル版と、工場版、ブランド・小売り版にわかれています。

すべてを満たすのは難しい

仮に“すべて”を満たす服を想像してみましょう。環境負荷の小さい素材を用い、製造や流通段階での労働環境や物流に伴って発生する負荷にも配慮し、着る人が洗う際には水や洗剤を多用せずともよく、何シーズンも着ることができるデザインで、最終的にはリサイクルの循環にも乗せやすい――究極のサステナブルファッションということになるでしょう。

ですが、そんな衣服は、相当な値段になってしまいます。着替えたり着飾ったりする楽しみを味わいやすい手ごろな価格の衣料品、といったプラスの側面をあきらめるべきでしょうか。それも是とは言えないという直感が働きます。

すべてを満たせないないなら、どうするか。ファッション関連企業のサステナビリティに関する取り組みを個別にみていくと、1)~3)のどこかの段階に着目し、自分たちの事業の特徴や強みと連動しやすい部分で個性を出しているようです。

例えば、ファストファッション企業では、手ごろな価格で販売しつつ、不要になった服などを店頭で回収することでリサイクルやリユースを進め、買い替えの心理的ハードルを下げようとしています。

逆に、少量・高級路線の企業では、購入時の値段は高くとも、長年着続けやすくなるような品質やサービスの充実を訴求しています。どちらも間違ってはいませんし、努力もしている。ただ、着るという行為に関わる環境負荷や経済格差を考えるなら、どちらか一方の方法ではカバーしきれないのが現状です。

百貨店バーゲン
夏物バーゲンで混雑する百貨店の衣料品売り場(撮影・朝日新聞)

どこで改革するかを見極める

CO2排出量や水の消費量に限定すれば、環境省から委託を受けて日本総合研究所が「令和2年度ファッションと環境に関する調査業務『ファッションと環境』調査結果」という、まとまった報告書を作成しています。冒頭に記したサイト「サステナブルファッション」で使われているさまざまな数字も、この報告書からとられているものが少なくありません。

ただ、何の数字を見ているのかはよく注意する必要があります。

例えば、衣服のライフサイクルにおいてどの段階のCO2排出量が多いか。「国内に供給されている衣類のライフサイクルCO2排出量」でみるのか、「国内のファッション産業において排出されるCO2排出量」でみるのかによって、段階別のシェアが大きく異なっているのです。前者では原材料調達段階が46.8%に上りますが、後者では24.1%となるのがその一例です。

数字が異なるのは、ファッション産業の多くがグローバルな生産体制を築いているためです。ほとんどが海外で生産してから完成品を輸入しているため、CO2排出量の合計値も、前者は9523万t-CO2となりますが、後者は970万t-CO2と極端に少なくなります。現状を前提とすれば、国内よりも海外での原材料調達や染色工程でCO2削減に注力したほうが、地球全体で見た絶対量の削減効果は大きいといえるでしょう。

国内に供給されている衣類のライフサイクルCO2排出量(単位:千t-CO2)

国内供給衣類CO2排出量

国内のファッション産業において排出されるCO2排出量(単位:千t-CO2)

国内衣類産業CO2排出量
日本総研資料をもとに編集部作成

このような情報を手掛かりに、ファッションのサステナビリティに関する現状を把握し、自分たちの強みを伸ばしつつ全体として水の使用量やCO2排出量の負荷の低減がはかれる取り組みが増えていくことを期待したいです。

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