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SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」とは?取り組みや私たちにできること

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」とは?取り組みや私たちにできること
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」とは(デザイン:吉田咲雪)
マイズソリューションズ代表取締役/舛田陽介

SDGs15「陸の豊かさも守ろう」とは、海洋を除く自然環境に関する多くの問題(陸域生態系の破壊や森林伐採の進行など)を背景に掲げられた目標です。この記事では、課題解決の重要性や、世界や日本が目標達成のために実施していること、私たち一人一人ができることについて解説します。

著者_舛田陽介さん
舛田陽介(ますだ・ようすけ)
環境コンサルタント。元シンクタンク研究員。環境政策に関する研究で博士号を取得したのち、環境省や自治体の環境政策関連調査に従事。独立後、民間企業の環境や生物多様性に関する取り組みの支援も実施。専門は生物多様性。

1.SDGs目標15「陸の豊かさを守ろう」とは

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」とは、現在急激に劣化が進んでいる陸域生態系と内陸淡水生態系の保全・再生、ならびに持続可能な利用を推進するための目標です。

この目標には、持続可能な林業経営の推進、植林、砂漠化対策、絶滅危惧種の保護、適切な遺伝資源の利用、密猟の撲滅、外来種対策など、さまざまな個別目標(ターゲット)がひもづいており、海洋を除く自然環境に関する多くの問題を包含する内容となっています。

SDGs目標15アイコン

(1)目標15「陸の豊かさを守ろう」の内容

目標15は、以下の12個のターゲット(個別目標)から成り立っています。15.1から15.9までの九つが具体的な課題の達成状況に関する目標で、15.aから15.cまでの三つが実現のための方法に関する目標です。

目標15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
15.1 2020年までに、国際協定の下での義務に則って、森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する。
15.2 2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。
15.3 2030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力する。
15.4 2030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う。
15.5 自然生息地の劣化を抑制し、生物多様性の損失を阻止し、2020年までに絶滅危惧種を保護し、また絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる。
15.6 国際合意に基づき、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を推進するとともに、遺伝資源への適切なアクセスを推進する。
15.7 保護の対象となっている動植物種の密猟及び違法取引を撲滅するための緊急対策を講じるとともに、違法な野生生物製品の需要と供給の両面に対処する。
15.8 2020年までに、外来種の侵入を防止するとともに、これらの種による陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入し、さらに優先種の駆除または根絶を行う。
15.9 2020年までに、生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む。
15.a 生物多様性と生態系の保全と持続的な利用のために、あらゆる資金源からの資金の動員及び大幅な増額を行う。
15.b 保全や再植林を含む持続可能な森林経営を推進するため、あらゆるレベルのあらゆる供給源から、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブ付与のための相当量の資源を動員する。
15.c 持続的な生計機会を追求するために地域コミュニティの能力向上を図る等、保護種の密猟及び違法な取引に対処するための努力に対する世界的な支援を強化する。

引用:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ p.24-25|外務省

(2)目標15が掲げられた理由

私たちの生活は、生態系がもたらす恵みのうえに成り立っています。

例えば、森林は木材や紙の原料などの資源を提供し、二酸化炭素を吸収・貯蓄し、雨水を浸透させることで地下水を涵養(かんよう)し、洪水を緩和します。また、ミツバチなどの虫たちは、花粉媒介を通じて農産物の生産に大きく貢献しています。その他、水や大気の浄化、ミクロ気候の緩和(ヒートアイランド現象の緩和)、観光資源や教育資源の提供など、さまざまな恩恵を私たちは享受しています。

生態系がもたらす恵みは「生態系サービス」と呼ばれ、経済の基盤にもなっています。世界経済フォーラムの報告書では、世界のGDPの半分以上にあたる年間44兆ドルもの経済活動が生態系サービスに依存しているとされています(参照:Nature Risk Rising p.8|WEF)。

目標15が掲げられたのは、こうした恩恵を与える生態系が、今急激に失われてしまうようなさまざまな問題が起きているからです。以下、国連食糧農業機関(FAO)の調査結果「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の報告書などをもとにその例を列記します。

①陸域生態系の破壊

現在、陸域生態系の約75%にも及ぶ領域が、人の手によって著しく改変された状態にあります。特に1970年以降の農地の拡大による改変の影響が大きく、陸地の3分の1以上が作物栽培または畜産のために利用されており、これらの土地のほとんどは天然の森林や湿地帯、草地を開発・転換したものです。こうした土地利用の変化は生物の生息地を喪失させ、多くの場合、元々の生態系が持っていた水や大気の浄化作用や防災機能を著しく劣化させます。

②森林伐採の進行

世界の森林面積は2010年から2020年にかけて年間平均470万haのペースで減少しており、現在の森林面積は産業革命以前と比べて約68%まで減少しています。こうした森林伐採は特に熱帯地域で多く、1980年から2000年までの間に1億haの熱帯林が消失しました。森林伐採は生物多様性の絶滅や防災・地下水涵養機能の低下など多様な悪影響をもたらします。例えば現在のペースでアマゾンの開発が進むと、地域の気候パターンが変化し、干ばつが多発し、多額の農業被害を生じさせると考えられています。

森林伐採
Getty Images

③砂漠化の進行

国連によると、現在年間1200万haのペースで砂漠化が進んでおり、今後10年で5000万人の人が砂漠化によって移住を余儀なくされるとされています(参照:Every Year, 12 Million Hectares of Productive Land Lost, Secretary-General Tells Desertification Forum, Calls for Scaled-up Restoration Efforts, Smart PoliciesDesertification and its effectsUnited Nations)。砂漠化の原因には気候変動による乾燥のほか、森林伐採による土壌の流出、過放牧による植生の減退、不適切な灌漑(かんがい)などが挙げられます。

④生物の大量絶滅

現代は第六の大量絶滅期と呼ばれており、実に約25%、100万種に絶滅の危険性があるといわれています。さらに、種の絶滅の速度は過去1000万年の平均の数十倍から数百倍といわれており、この傾向は加速しています。生物の多様性は生態系を機能させるうえで極めて重要な要素であり、生物多様性が失われることで自然からの恵みも失われます。

こうした現状は、私たちの社会・経済の基盤を自らの手で毀損(きそん)させている、といえます。私たちが今後豊かな社会を構築・維持していくためには、その基盤となる自然生態系という資産をこれ以上毀損しないよう、保全・再生していくことが不可欠であり、そのために掲げられたのが目標15なのです。

2.目標15に対する世界・日本の取り組み

目標15の達成、すなわち自然生態系の保全のために、世界および日本ではさまざまなことが行われています。ここでは代表的・特徴的な取り組みをいくつかピックアップして紹介します。

(1)世界の取り組み

①ポスト2020生物多様性枠組みの策定

カナダのモントリオールで、2022年12月に開催される国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)の最終会合では、生物多様性保全に関する2030年までの世界の目標を定めた「ポスト2020生物多様性枠組み」が採択される予定です。

この目標に関する議論はすでに始まっており、陸域や海域の30%を保護区にすること(30by30)や、企業のサプライチェーン上の影響の半減、外来種の管理・根絶、生物多様性保全のための資金動員の推進など、21個の個別目標が議論されています。

また、2030年までの大目標として、現在下降トレンドにある自然の状態を回復傾向に乗せるという「ネイチャーポジティブ」を達成させることが示されており、世界全体の目指す方向性の指針となることが期待されています。

COP10の閉幕の様子
2010年に名古屋市で開かれたCOP10の閉幕の様子。「ポスト2020生物多様性枠組み」は、COP10で採択された「愛知目標」の後継と位置づけられる(撮影・朝日新聞)

②SEEA EA

現在の自然生態系の減少傾向を転換させるためには、自然の持つ価値への認識を根本的に見直す必要があります。その一環で行われているのが、国連環境・経済統合勘定(SEEA)の一つ「生態系勘定(SEEA EA)」です。

この取り組みでは、各国の「資産」として生態系がどの程度存在しているか、また、その資産から生み出される恩恵「生態系サービス」の価値はどの程度か、ということを金銭価値として計算する方法論を提供し、GDPなどの経済指標とひもづけ可能にすることで、自然の価値を踏まえた政策・事業判断ができる素地を提供しています。

③企業事例:ネスレ

こうした世界の潮流を受けて、企業も生態系保全への取り組みを強化しています。

例えば、大手食品メーカーのネスレは、2025年までにサプライチェーン上の森林伐採をゼロにすることを目標とし、NPOと連携した現地調査や衛星モニタリングによる伐採の監視を行っています。さらに、2030年までに2億本の植樹を計画しており、森林破壊ゼロの先を行く「フォレスト・ポジティブ」を将来的なビジョンとして掲げています(参照:Towards a forest positive future p.46|Nestle)。

世界的目標であるネイチャーポジティブに沿った目標を掲げる企業は、今後増えてくると考えられます。

(2)日本の取り組み

①OECM

OECM(Other Effective area-based Conservation Measures)とは、法律で定められた保護区などの公的な保護区外で、かつ継続的な保全活動などにより適切に生態系の保全が行われている地域を、自発的な準保護区のようなかたちで設定して保護区ネットワークに加えていく取り組みです。

環境省の主導するOECMの取り組みは、「ポスト2020年生物多様性枠組み」において議論されている個別目標の一つである30by30(サーティバイサーティ、陸域・海域の30%を保護区にすること)を達成するための手段です。目標達成を目指すアライアンス(生物多様性のための30by30アライアンス)にはトヨタ自動車や三菱商事、イオン、キリンホールディングス、積水ハウス、鹿島など、2022年8月時点で256の企業・団体などが加盟しています。これらの企業は自社で所有する森林などをOECMとして認定・管理するなど、30by30の達成に貢献しています。

②企業事例:サントリーホールディングス

サントリーホールディングスは、全国21カ所の水源涵養エリアに「サントリー天然水の森」を設定し、合計1万2000haの森林を保全しています。この森林では、水源涵養の機能維持のほか、生物多様性の保全、洪水・土砂災害の防止機能維持、二酸化炭素吸収、自然との触れ合いの場の提供を意識した管理が行われており、OECMとしての認定についても議論が進められています(参照:「天然水の森」《水源涵養/生物多様性の保全》|サントリー)。

3.目標15達成のために私たちにできること

私たちの生活は、知らないところで世界の環境問題に密接に関わっています。

特に、日本は食料や木材、金属資源に至るまで、あらゆるものを輸入に頼っています。これはすなわち、私たちの日常生活がはるか遠くの国々で生じる影響のうえに成り立っているのと同じです。また、私たちの日々の行動をより生態系に配慮したものに変化させることで、世界の自然環境破壊を軽減できることを意味します。

以下、いくつかすぐにできることを紹介します。

(1)生態系に配慮された商品(認証付き商品など)の購入

現在、生態系に配慮した商品に付与されるさまざまな認証制度が存在しており、そうした認証を得た商品を購入することで、生態系保全に貢献することができます。

例えば、紙や木材であればFSC認証を取得したものを、パームオイルを使った商品についてはRSPO認証を得たものを、野菜や果物などであれば有機JASマークのあるものを購入することが生態系の保全につながります。

これは個人だけでなく企業でも同様であり、調達先を、信頼度の高い認証を得た商品を扱う事業者に変えることで、サプライチェーン上の環境負荷の軽減につながり、NGOなどからの批判を受けるリスクの低減にもつながります。

(2)食事の見直し(減肉)

陸上の生態系への影響で最も大きいものの一つが、食料生産です。特に、牛や豚などの肉は飼育段階で飼料として与える穀物の栽培なども含め、広大な土地と水を必要とします。実際、地球上の陸地の30%が家畜の飼育のために占有されています(参照:LIVESTOCK'S LONG SHADOW p.xxiii|FAO)。

それに比べ、大豆などの植物性の食べ物は、必要となる土地や水がはるかに少なくて済みます。そのため、日々の食事で消費する肉の量を減らし、野菜や大豆などの植物ベースの食事を増やせば、生態系への影響を大きく削減することができます。

(3)庭・ベランダでの植栽

都市部・郊外エリアでは、庭の木や花壇の花が地域の生態系を支える重要な役割を担っています。積水ハウスが実施した「5本の樹」プロジェクトでは、戸建て住宅に地域生態系に配慮した5本の樹を植えるだけで、地域の生物多様性に大きく貢献することが明らかになりました(参照:「5本の樹」計画による生物多様性保全の実効性評価の取り組みで「第30回地球環境大賞」を受賞|積水ハウス)。身の回りの生活空間のなかで、可能な範囲で自然生態系を作ってみましょう。

(4)寄付・ボランティア

現在、数多くのNPOや市民団体が地域の自然環境を守るための活動を行っています。こうした団体の活動によって身近な自然は保全されていますが、ほとんどが人手不足、資金不足です。こうした団体への支援も、自然生態系の保全・再生に貢献することにつながります。

4.自然との関わりを知り、一歩を踏み出す

自然環境保全は、その課題の大きさから身近な問題として認識しにくいかもしれません。しかし、生態系は社会・経済全体を支える基盤であり、関係のない人は誰一人として存在しません。

将来世代まで豊かな自然資産を残すために、まずは自分の生活や仕事を通じて、どのように自然生態系に支えられ、またどのように自然生態系に影響を与えているかを認識し、できることから取り組んでいくことが重要です。

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