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いま注目したいインパクト投資とは ポストSDGs ビジネスのカタチ【2】

いま注目したいインパクト投資とは ポストSDGs ビジネスのカタチ【2】
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三菱総合研究所主席研究員/中川浩一

SDGsと自社の事業をどう結びつけ、将来のビジネスの姿を描いていくべきか――。現場で悩みを抱えるビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。この連載では、三菱総合研究所主席研究員の中川浩一さんが、事業開発のヒントとなるような国際情勢やSDGsに関連するビジネスの最先端を紹介・解説していきます。

中川浩一さん
中川浩一(なかがわ・こういち)
1969年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外務省入省。対パレスチナ日本政府代表事務所を経て2001~2008年、天皇陛下や首相の通訳を務める。在米国日本大使館、在エジプト日本大使館勤務、地球規模課題分野別交渉官などを経て2020年7月退職。2020年8月より現職。著書に「総理通訳の外国語勉強法」。

「インパクト投資」や「インパクト評価」「インパクト指標」といった言葉をご存じでしょうか。日本ではまだ、あまりなじみのない用語かもしれませんが、ESGと並び、このところサステイナビリティー経営に欠かせない要素としてグローバルで注目されている概念です。この分野を専門とする山添真喜子主任研究員、杉下寛樹主任研究員と一緒に、ひも解いていきましょう。

ESG投資との違い

中川 今回はSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関連から民間投資、特に「インパクト投資」について取り上げたいと思います。インパクト投資とは何でしょうか。

山添 「インパクト投資」とは、従来の投資で求められる「財務的リターン」と、社会課題解決を通じた環境、社会への「ポジティブなインパクト」の「両方」を求める投資のことです。

杉下さん、山添さん、中川さん
杉下寛樹主任研究員(左)と山添真喜子主任研究員(中央)。右は中川浩一主席研究員

中川 「ESG投資」とはどう違うのでしょう。

山添 「ESG投資」は、環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)の観点から、長期的なリスクの削減と企業価値の最大化を目指す投資です。2006年に責任投資原則(PRI : Principles for Responsible Investment)が発足して以降、急速に普及・拡大してきました。

ただ、ESG投資だけでは具体的な社会課題の解決に貢献しにくい面があります。そこで、特定の社会課題解決を明確に位置づけ、そこへの貢献(インパクト)度合いを評価して可視化するインパクト投資が2007年、ロックフェラー財団の主導により開催した国際会議で提唱されました。

インパクト投資では、具体的な環境・社会課題の解決に主体的に取り組む企業に投資し、そのインパクトを計測・可視化(評価)して継続的な改善を促すことで、最大化を目指します。

投資家とのギャップを埋める手段に

中川 なぜ、今、この「インパクト投資」が重要なのでしょうか。

杉下 サステイナビリティーに関して投資家が期待する情報と企業からの開示情報のあいだに、まだギャップがあることが背景の一つです。

サステイナビリティーを重視する投資家は、長期的な環境変化のなかで企業が事業ポートフォリオやビジネスモデルを変え、社会に良い影響を与えることを期待しており、それを示す情報を求めます。

一方、多くの企業がこれまで開示してきた取り組みや指標設定は、短期的な環境負荷の低減や、リスク・コンプライアンスに関する内容にとどまっており、社会的な指標と企業価値向上との関連がわかりにくいのが実情です。

もっと「具体的に何を目指し、そのためにどう行動していくか」を明確に示していく必要があります。このようなギャップを解決する手段の一つが、インパクト指標です。

インパクト指標とは、事業や活動の結果として生じた社会的・環境的な変化や効果を定量的・定性的に表した指標で、投資家に限らず従業員、顧客、地域社会などのステークホルダーが、企業のサステイナビリティーへの取り組みを理解する橋渡しにもなると期待されています。

インパクト投資のイメージ
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中川 具体的にはどのようなものでしょう。

山添 例えば、インパクト投資をおこなう投資家のネットワークであるGIINが開発したインパクト投資用の指標カタログ「IRIS+」や、国連開発計画(UNDP)による「SDGs Impact」などがあります。経団連が2022年6月に発表した報告書でも、84 個の指標例を整理しています。

中川 インパクト投資は、どれぐらいの規模に成長しているのでしょう。

杉下 世界の投資残高は2019年時点で7150億ドル。欧米が主な市場となっています。投資先は非上場企業・私募が中心で、銀行以外の主体による融資(プライベート・デット)が21%、未公開会社への投資(プライベート・エクイティー)が17%と、全体の約4割を占めます。ただ、近年は上場企業への投融資も増加傾向にあり、その割合は上場株式(19%)、公募債(17%)となっています。

また、投資残高の54%は運用会社が保有しており、多くの投資家は運用会社経由でインパクト投資をおこなっています。インパクトを重視する傾向の強い年金や保険加入者、個人投資家からの要請が、運用会社による投資拡大の原動力になっています。

社会との関連性が弱い日本の情報開示

中川 日本の現状はどうでしょう。

山添 国内の推進組織GSGによる2021年度調査によると、日本のインパクト投資残高は、2020年の3287億円から2021年には1兆3204億円と1年で約4倍に達しました。ただ、グローバル全体でみるとその規模はまだ大きいとは言えません。インパクト投資に関連した国際的な取り組みに参画する日本の金融機関も少ないのが現状です。

企業側のインパクト投資に関する情報開示も十分ではないため、投資先の発掘や成長資金の供給に結びついていません。

日本には社会課題解決志向の機関投資家が少ないため、このような状況に陥っているとも言われています。ESG投資からさらに一歩踏み込み、インパクトを重視する投資家がまだ少ないのです。

中川 SDGsへの取り組みは進んでいるようにも思いますが。

山添 確かに日本企業のSDGsへの認識、取り組みはこの数年で大きく変わりました。SDGsの重要性はもはや、どの企業も認識していると言っていいでしょう。ただ、現在は、自社の取り組みがSDGsの目標の何番に紐(ひも)づいているかという「ラベル付け」を情報発信している段階です。それだけですと、どれだけ社会に良い影響(インパクト)を与えているのかはなかなか伝わりません。

杉下 その点、海外の企業、例えばユニリーバは「2025年までにアイスクリーム1食あたりの砂糖使用量やカロリーをこれぐらい減らして、人々の健康に貢献する」など、具体的に何をするのか、という点に焦点を当て始めています。

話し合う3人
インパクト投資について話し合う3人

中川 ポストSDGsを視野に入れると、日本企業のサステイナビリティー経営の課題は何だと思いますか。

杉下 日本企業は、もともと社会的な視点を持っており、長期的な経営の指針となる企業理念やビジョンを掲げている企業も少なくありません。ただ、その企業理念・ビジョンを、社会との関係性を含め中期的な時間軸で具体的に落とし込めている企業は多くないと感じます。

足元の3年ではなく、より長期の視点で、かつ自社だけでなく社会がどうあるべきなのか、その構想と足元の戦略をうまくつなぐことが必要です。その意味でも、2030年やそれ以降を見据えて、社会的なインパクトの観点から指標を設定し、自社の計画に具体的に取り込んでいくと、そのつながりが見えてくると思います。

山添 これまではSDGs達成に向けた事業の結果をアピールするだけで、SDGsへの長期的なコミットメントのための改善プロセスや軌道修正プロセスが見えなかったことが問題でした。今後は、どういうプロセスを経てインパクトを生み出したのか、またどう改善すればより多くのインパクトを生み出せるのかという、継続的な「インパクト測定・マネジメント(IMM)」の実施が重要だと思います。

自分たちだけでやろうとしない

山添 また、NGOとの連携はSDGsの推進に不可欠です。NGOとの信頼関係構築が成されている企業は、国際的な評価も高まります。ですが、日本企業はNGOとのやりとりが概して苦手です。企業は利益をベースに価値観で話をする。一方のNGOは、社会課題解決のためのコミットメントと結果を重視します。だから、両者の話がかみ合わないことが多かった。

企業がインパクト測定・マネジメントを実施していることがNGOに伝われば、両者の連携もスムーズにいくのではと期待しています。日本のSDGsへの取り組みに対する評価を高めるためにも、日本企業には「インパクト測定・マネジメント(Impact Measurement and Management: IMM)」の手法をもっと採り入れてほしいと思います。

杉下 SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」についても、日本企業の場合、これまでは自社目線が強かったと思います。しかし、インパクトを語るときには、自社だけでは解決できないものが当然出てきます。飢餓人口を何千万人減らします、何千万人の健康を改善しますという大きな目標を掲げる際には、必然的にパートナーシップが不可欠になります。

むしろ大きなインパクト指標を掲げることで、いろいろなパートナーから声がかかるかもしれません。自社の理念・ビジョンを起点にしつつ、社会はこうあるべきだという大局的な視点を入れていくことが重要ではないでしょうか。

中川 企業が具体的に行動するためのアドバイスをお願いします。

山添 自社の生み出すインパクトを可視化するだけではなく、IMMを通じたインパクトの最大化を目指さなければなりません。

まず、社会的事業を計画(デザイン)する際にロジックモデル(論理的な構造)を作成し、KPI(目標を達成するための具体的な行動指標)を設定します。そのうえで事業を実施し、データを収集します。それを分析し、より大きなインパクトを生み出すために必要な事業の改善ポイントについて整理・報告し、プログラムデザインに反映する。こうしたPDCA(Plan→ Do→ Check→ Act)を回していくことが大切です。

自分たちだけでやろうとせず、外部から専門家を招いてともにIMMを実施し、ノウハウを得ながら社内でIMM人材を育成していきましょう。社会課題を解決する事業を、企業単独で実施するのは困難です。現場の実情をよく理解しているNGO・NPOとうまく協働することが成功の鍵です。

インパクトを創造するためのコミットメントやインパクトの可視化は、NGO・NPOとのコミュニケーションも円滑にします。さらに大きなインパクトを生み出すため、継続して事業を改善していけば、さまざまなステークホルダーとの信頼関係構築につながるはずです。

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