ソーシャルビジネスとは?特徴や注目の理由、事例、取り組み方を紹介

ソーシャルビジネスとは、ビジネスの手法で社会的なミッションを果たすことを目的とした事業です。社会性と経済性の両方のインパクトを与えるソーシャルビジネスは、なぜ必要とされるのか。ソーシャルビジネスの特徴を踏まえながら理由を解き明かし、そのうえで取り組むときのポイントをご紹介します。

1981年長野県生まれ。東京大学大学院「人間の安全保障」修了。アジア女性社会起業家ネットワーク代表理事/株式会社re:terra代表取締役。修士取得後に経営コンサルタントとして従事し、2011年独立。自身も社会的企業を立ち上げているほか、国内外での社会的事業開発にかかわり、複数の非営利組織の理事や社会起業の取締役なども務める。2022年4月、長野県立大学大学院ソーシャル・イノベーション研究科講師に着任。社会的事業の実務家・支援者・研究者。
目次
1.ソーシャルビジネスとは
ソーシャルビジネスとは、ビジネスの手法を通じて社会的なミッションを果たそうとする事業です。社会的インパクトを生み出すことを目的としながら、事業収益をあげることにより経済的な持続性も担保しているのが特徴です。
例えば、「せっけんを売る」という事業をしているとします。もし利益を追求したいのであれば、わかりやすく「販売価格を上げて」「原価を下げて」「大量生産する」という戦略をとることになるでしょう。
一方で、ソーシャルビジネスの場合、「せっけんを売る」となったときに、利益ではないほかの目的が重視され、それを果たすための具体的な戦略をとることになります。
もし貧困層の公衆衛生上の問題を解決することが目的であれば、「貧困層が手に入れやすい価格で」「公衆衛生の重要性を理解できるような啓発をしながら販売をする」となるでしょう。
あるいは、せっけんの材料に地域の遊休資源を活用し、地域の雇用を生み出すことが目的であり、その遊休資源を地域の現金獲得の手段とする場合には、「地域資源を活用できるのに必要な原価を支払える価格設定をして」「地域の雇用を増やすために地域で生産できる体制をつくり」「遊休資源が持続的に活用できるように生産量を調整する」といった戦略になるかもしれません。
「ソーシャルビジネス」の父とも呼ばれるグラミン銀行創設者のムハマド・ユヌス博士は、ソーシャルビジネスの原則として、「事業の目的が、利益の最大化ではなく、貧困削減やひとつ以上の人々や社会にとって脅威となる課題を乗り越えるためであること」ということを最初にあげています。それに続く原則として、「財務・経済的な持続性」「環境への配慮」「従業員の働く環境」などがあげられており、この点からもソーシャルビジネスにとって重要なのは事業目的であることがわかります。
(1)ソーシャルビジネスとほかの活動との違い
前述の通り、ソーシャルビジネスの領域は幅広く、統一された定義が存在しないことから、ほかの活動との違いがわかりにくかったり、そもそも理解されにくかったりする概念です。またソーシャルビジネスの担い手である法人形態も、下図のとおり株式会社・合同会社・一般社団法人・非営利法人などさまざまで、事業者が事業目的にあわせて選んでいるのが実情と言えます。

他方、日本国内だけでなく、海外を見ても、こうした法人形態にとらわれずに自身の目指す社会的ミッションを達成するために、株式会社と非営利法人の両方の法人を持つなどして、既存の制度のなかで事業性と社会性を両立していく組織も多く見られます(こうした営利・非営利両方の法人形態を持つ事業者を、ハイブリッドモデルと呼ぶ場合もあります)。
アメリカやイギリスなどでは、既存の法的枠組みではソーシャルビジネスを経営しにくい、あるいはソーシャルビジネスであるのか外部から判断しにくいという観点から、新たな法人形態や認証制度も生み出されています(例:イギリスのCommunity Interest Company〈CIC〉制度、アメリカのB Corp認証)。
また、韓国やベトナムなどには株式会社や非営利法人とは異なる「社会的企業」認証制度が存在しており、営利型の法人に比べて優遇を受けられるようになっています。こうした法的枠組みについて日本政府も検討を重ねており、2022年6月に発表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においても、新たな法人形態や既存の法人形態の改革について触れられています。
(2)ソーシャルビジネスが必要とされる理由
ソーシャルビジネスのために新たな制度が導入されている事例を見ておわかりになるように、いま多くの国がソーシャルビジネス普及のために力を入れています。
これほど注目されているのは、グローバル化が進み、貧困や環境汚染など国際社会が抱えるさまざまな課題が明るみに出るなかで、政府や国際機関だけでなく、民間企業も課題解決のための重要なプレーヤーであるという考えが広がってきたからです。つまり、一般的なビジネスと「ソーシャルビジネス」の垣根が低くなっており、多くの民間企業が社会的な価値創造を意識しなくては生き残れなくなっているとも言えます。
ソーシャルビジネスのコンセプトが誕生したのは、1980年代と言われています。
この頃、ソーシャルビジネスの父とも言われるユヌス博士が、貧困という課題に立ち向かう手法としてマイクロファイナンスという仕組みを考案し、バングラデシュでグラミン銀行を立ち上げました。時同じくして、イギリスでも、小さな政府に対して市民がより社会的な役割を担うという、ソーシャルビジネスのコンセプトが生まれる動きがありました。
その後、1990〜2000年代にはソーシャルビジネスを支援する財団や組織も多く立ち上がり、前述のソーシャルビジネスを認証するような仕組みや法人形態が作られていきます。
こうしたなかで、政府機関だけでなく民間企業も貧困課題を始めとした社会課題に取り組むべきであるという論調や、ビジネスの手法を通じた貧困への取り組みは社会的意義に加えて経済的なメリットもあるのだという流れが出てきました。1999年には、当時国連事務総長だったコフィ・アナン氏が、企業にグローバルな課題解決を求め、行動を促すイニシアティブとして「グローバル・コンパクト」の立ち上げを提唱します。

ソーシャルビジネスの広まりは、ユヌス博士が2006年にノーベル平和賞を受賞した影響も大きいでしょう。
日本でも、2007年に経済産業省の下にソーシャルビジネス研究会が立ち上げられ、調査や議論が始まりました。また、2011年の東日本大震災が、ソーシャルビジネスの議論を加速させ、実際にソーシャルビジネスが増える契機になったとも言えます。
こうした社会的な流れに加え、2015年に国連によって提唱されたSDGs(持続可能な開発目標)の広がりも、ソーシャルビジネスの認知度や、その必要性を高めている大きな要素のひとつです。
SDGsは、前身とされるMDGs(ミレニアム開発目標)と比較すると、主に「途上国だけでなく全世界を対象としていること」「政府、民間企業、非営利組織、市民などすべての人々が課題解決のプレーヤーであること」という2点において異なります。このSDGsの目標達成に貢献するという観点からも、ソーシャルビジネスに注目が集まっているのです。
2.ソーシャルビジネスの事例
では、具体的にどんなソーシャルビジネスがあるのでしょうか。日本と海外に分けて、それぞれご紹介します。
(1)日本のソーシャルビジネス
①親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する|フローレンス
フローレンスは、「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」をミッションとして、病児保育・障害児保育・こども宅食などさまざまな事業を展開している事業型NPOです。
2004年に非営利法人として設立、2012年に認定NPO法人を取得しており、2022年現在700人を超えるスタッフが活躍しています。2021年度のアニュアルレポートによると、収益の合計は38億円にのぼり、このうち事業収益は全体の70%を超えています。
非営利法人として、この規模の収益をあげながら事業を持続させているのに加えて、社会的ミッションに沿って政策提言なども行っているフローレンスは、日本を代表するソーシャルビジネスと言えます。
②最高の教育を世界の果てまで|e-Education
e-Educationは、「最高の教育を世界の果てまで」をミッションとして、バングラデシュを始めとして世界4カ国(2022年現在)で教育格差の課題に取り組んでいる事業型NPOです。
2010年に活動を始め、2014年に非営利法人として法人化し、2021年に認定NPO法人を取得しています。2021年の決算報告によると事業費は1億円を超えており、このうち約30%は事業収益によるものです。
e-Educationは、日本から世界の課題に目を向けて事業を展開しているソーシャルビジネスの代表例のひとつです。
③ライフステージにあわせた女性の雇用創出|ラポールヘア・グループ
筆者が取締役として経営に参画しているラポールヘア・グループは、「世界一、社会に貢献する理美容グループ」を掲げ、2011年の東日本大震災の後に最大被災地のひとつと呼ばれる宮城県石巻市から始まった美容室グループです。
2011年に株式会社として法人登記後、2022年時点で約40店舗の美容室を全国に展開し、ジェンダー格差の大きい日本において、特に女性が継続的に就労できる仕組みを展開しています。株式会社という法人形態であることからもわかる通り、事業を拡大させていくことを意識しているソーシャルビジネスで、社会的投資も受けています。
ソーシャルビジネスは、法人形態によって定義されるものではないことを前述しましたが、ラポールヘア・グループのように株式会社という形態をとっていても、社会的ミッションを持ち、社会性と経済性を両立している事業であればソーシャルビジネスと呼ぶことができます。

(2)海外のソーシャルビジネス
イギリスやアメリカには、ソーシャルビジネスが多くあります。一方で、途上国・新興国と呼ばれるアジア・アフリカ・中南米地域においても、課題に直面する当人たちが立ち上がり、ビジネスを通じて社会変革を生み出しているケースが少なくありません。
①教室から世界を変える|Teach for America
Teach for Americaは、教育困難地域を始めとする学校に、教員免許の有無にかかわらず講師を派遣する教育NPOです。1990年にアメリカで立ち上げられ、2010年には全米学生就職先人気ランキングでGoogleやAppleなどを抑えて1位を獲得しました。
Teach for Amelicaの仕組みは、現在Teach for Allというネットワークを通じて60以上の国に広がっており、組織として発展するだけでなく、世界各地の教育現場にノウハウや知見を提供しています。
②食の生物多様性を守る|Javara Indonesia
2008年にひとりのインドネシア人女性が始めたJavara Indonesiaは、世界を代表するソーシャルビジネスとして知られています。インドネシアにおいて固有の農作物を守り、それに携わる農家の収入向上や生活向上などを目指して、農作物の加工やブランディングを行っています。
世界には、Javara Indonesiaのように、課題に直面する地域に生まれ育ち、外部の力ではなく自分たちの力で仕組みを構築して事業を行うソーシャルビジネスも多く存在しています。こうした草の根からのイノベーションから、学ぶことはたくさんあります。

右:Javara Indonesiaの商品素材(Javara提供)
3.ソーシャルビジネスに取り組むときのポイント三つ
これからソーシャルビジネスに取り組むとき、筆者は次の三つが重要だと考えています。
1. 自分を知る、自分を大切にする
2. 冷静な思考と熱い想いを持つ
3. 「私の課題」を「みんなにとっての課題」にする
それぞれ、順番にご説明します。
(1)自分を知る、自分を大切にする
ソーシャルビジネスに取り組むにあたって基礎となるのは、「自分を知る」「自分を大切にする」ことです。
こう言われると、「いやいや社会課題の解決を目的とすると言っていたのに、なぜまず自分なの?」と混乱してしまう人がいるかもしれません。しかし、これは近年社会を変革するのに尽力してきた人たち(チェンジメーカー)にとって、またこうしたチェンジメーカーを支援してきた人にとって重要なテーマとなっています。これはソーシャルビジネスの父と言われるユヌス博士が、ソーシャルビジネスの原則の最後に加えている「Do it with Joy(楽しむこと)」にもつながります。
社会課題の多くは、一筋縄で解決できるものではありません。だからこそ、多くの人々が長い歴史の中で、さまざまな課題解決の方法を考え、取り組んできています。しかし、課題が解決されるには時間がかかり、それが解決しても、ほかに課題が生み出されることもあります。自分は必死に頑張っているのに、一向に課題が解決していかない状況に疲れ、バーンアウトしてしまう起業家たちも少なくありません。
その意味でも、ソーシャルビジネスに取り組むにあたって「なぜ自分はその課題に取り組むのか」「その課題に取り組んでいることを楽しめているか(自分自身のウェルビーイングはどうか)」がとても重要となります。
(2)冷静な思考と熱い想いを持つ
「Cool Head、Warm Heart(冷静な思考と熱い想い)」は、国際機関の最前線で活躍していた筆者の恩師が教えてくれた言葉ですが、これは国際社会の課題に取り組む人にとってだけではなく、社会性と経済性の両立を目指すソーシャルビジネスにかかわる人にとっても、非常に重要な教えであると実感しています。
ソーシャルビジネスに取り組むにあたって、自分自身の中にある熱い想いは非常に重要である一方、やみくもに想いだけで突っ走ると、社会課題の構造を分析し、どのようなアプローチで課題に取り組むべきかを見いだすことが難しくなります。冷静な思考で現実を見つめ、必要な情報収集や分析をしたうえで、どのようなビジネスモデルを構築するか検討することが必要です。
これは、社会性と経済性の両立が求められるソーシャルビジネスが、利益を追求するだけのビジネスを立ち上げるよりも、ハードルが高いからこそ、大切なポイントです。
(3)「私の課題」を「みんなにとっての課題」にする
オバマ元米大統領の選挙活動を支えたとされるマーシャル・ガンツ博士は、人々の心を動かし社会運動を起こしていく手法として「コミュニティ・オーガナイジング」を提唱しています。この根本には、「私の課題をみんなの課題にする」というメッセージがあります。
ソーシャルビジネスを立ち上げるとき、必要なリソース(ヒト・モノ・カネ)を本人が持っているとは限りません。リソースが限られているからこそ、自分の取り組みたい課題が、いかに目の前にいる相手や周囲にいる人々にとっても重要で、なぜ今取り組むべき課題なのかを伝え、説得し、仲間になってもらうことが大切になってきます。
自分には知識も、人脈も、お金もないという理由で諦めるのではなく、まずは自分の想いを相手に伝え、周りにいる人たちと共に課題に取り組み始めることは、ソーシャルビジネスの重要な一歩です。
4.誰もが「社会起業家」になれる
ソーシャルビジネスに取り組むとき、重要なのは「ソーシャルビジネスを起こす」こと以上に、私たちひとりひとりが社会を変革していける意識を持つ=ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会起業家精神)をもつことだと筆者は考えています。
起業家として事業を起こすことだけが、社会変革の方法では必ずしもありません。私たちひとりひとりは、それぞれの方法で社会を変えられる力を持っています。その力をどのように発揮するかは、私たちひとりひとり次第です。言い換えれば、社会を望ましい方向に変革させていくことは、私たちひとりひとりに託されています。
私たちは、SDGsを越えてどんな2030年以降の未来をつくっていけるのか。未来をつくる、社会を変革していくひとつの方法である「ソーシャルビジネス」を理解するきっかけに、この記事がなっていれば幸いです。

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