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「BISTRO下水道」で野菜栽培やアユ養殖 先進地・山形県鶴岡市

「BISTRO下水道」で野菜栽培やアユ養殖 先進地・山形県鶴岡市
鶴岡浄化センター内の農業用ハウス。下水汚泥由来のコンポストを使い、夏季はミニトマトを育てている=山形県鶴岡市
編集部

下水処理場から出る汚泥や処理水を「資源」ととらえて食に生かす「BISTRO(ビストロ)下水道」という取り組みがある。農業用ハウスやトウモロコシ畑、アユの養殖池……。山形県鶴岡市の鶴岡浄化センターには、下水処理場のイメージとは異なる光景が広がる。ウクライナ危機で輸入燃料や肥料の価格が高騰するなか、下水道資源を活用し、地域内で循環させる取り組みに注目が集まりそうだ。(編集部・竹山栄太郎)

焼却処分していた「消化ガス」を発電に

鶴岡市は日本海に面し、人口約12万人。コメや「だだちゃ豆」を中心とした農業が盛んで、2014年には日本で初めて「ユネスコ食文化創造都市」に選ばれた。鶴岡浄化センターは市内8カ所の公共下水道処理施設のうち最大で、人口の半分以上をカバーしている。

浄化センターには、住宅などで出た汚水が下水管を通って運ばれてくる。「沈砂(ちんさ)池」でごみや小石を取り除き、汚れを微生物で分解する「反応槽」、汚れのかたまりを沈める「最終沈殿池」などを経由した後、塩素で消毒して川に流す仕組みだ。処理過程で出る下水汚泥や処理水には、植物の栄養となる窒素やリンが豊富に含まれ、センターではこれらを農業などに活用している。

下水道資源循環のイメージ
下水道資源循環のイメージ(鶴岡市提供)

多岐にわたる取り組みの起点の一つが、下水汚泥を発酵する際に出る「消化ガス」を使った発電所だ。消化ガスは、メタンが約60%含まれる可燃性のガス。従来は一部を消化槽の加温に使う以外、焼却処分していた。この活用のために2015年、敷地内に25kWのバイオガスエンジンを12台設置した再生可能エネルギー発電所「鶴岡バイオガスパワー」を設けて発電を始めた。

発電所は水ingエンジニアリング(東京)が運営。市から購入した消化ガスを燃料にして発電する。電気は固定価格買い取り制度(FIT)を使って東北電力に売却し、費用をまかなっている。2021年度は一般家庭470世帯分の消費電力にあたる年間約200万kWhを発電し、約1500tの二酸化炭素(CO2)の削減につながっているという。

鶴岡市にとっては、ガス売却や土地の賃料、焼却コストの削減などで年間2000万円超の収益となる。市下水道課浄化センター主査の松浦正也さんは「貴重な財源であり、施設の維持管理費に充当できるのは大きなメリットだ」と話す。

消化ガスを貯留するタンク
消化ガスを貯留するタンク(中央奥)
鶴岡バイオガスパワーの発電装置
鶴岡バイオガスパワーの発電装置
鶴岡バイオガスパワーの発電装置

農業に生かす取り組み数十年

鶴岡市では、下水道資源を農業に生かす取り組みが25年以上も前からおこなわれていた。1986年、浄化センターの近隣で、下水汚泥をコンポスト化する鶴岡市コンポストセンターが稼働。現在は地元のJA鶴岡が運営している。脱水した汚泥にもみ殻を加え、高温で発酵させた完熟堆肥(たいひ)をつくり、「つるおかコンポスト」として販売。生産量は年間500tを超える。

下水汚泥由来のコンポスト
下水汚泥由来のコンポスト。使い勝手を高めるためにペレット状にした試作品

前述の消化ガス発電の発電時には熱が出る。この熱の一部は消化槽の加温に使われているが、厳冬期でも半分は未活用だった。以前からあった農業との縁を背景に、余剰熱を農業用ハウスの加温に活用し、野菜を育てることにした。

敷地内の農業用ハウスは2017年度に1棟目を建て、2年後に2棟目を増設した。外気が零下でもハウス内は20度まで加温でき、余剰熱の活用で年間2万6000L(A重油換算)の燃料使用を削減している。下水汚泥由来のコンポストを使い、JAの指導を受けながら、地元農家が2~6月はキュウリ、夏はミニトマト、冬は葉物野菜を育成。とれた野菜は市場に出荷するほか、市内の小中学校の給食に提供したこともある。ハウスを加温する必要がない夏場に余剰熱をどう活用するかが、今後の検討課題だという。

農業用ハウス
農業用ハウス

浄化センターでは過去に山形大学との共同研究で、下水処理水を活用した飼料用米栽培の実証実験もおこなった。実験では、下水処理水を流した水田は通常の水田と比べて収量が多く、たんぱく質の含有率が高いとの結果が出たという。

飼料用トウモロコシ
鶴岡浄化センター内で、コンポストを使って栽培される飼料用トウモロコシ

アユ養殖、印象好転めざし一手間

下水道資源の活用で最大の目玉とも言えるのがアユの養殖だ。栄養分が豊富な処理水のなかでは、アユのエサの藻が育ちやすいとみて、2019年度から敷地内の池で実験に乗り出した。処理水には魚の生育を阻む「アンモニア態窒素」が含まれるため、過去3年間は処理水を井戸水で希釈した池のなかでアユを飼育してきた。重金属の含有量など、安全性は基準を満たせたものの、「『下水で育てたアユ』というと、どうしてもマイナスイメージがあった」(松浦さん)。

そこで2022年度は、アユが泳ぐ池の水は地下水のみを使い、別の水槽で処理水を使って育てた藻と人工エサを与える方式に切り替えて、2500匹を育てている。食品として安全性の分析を経て、初の一般販売も予定する。

鶴岡浄化センター内の実験池
鶴岡浄化センター内の実験池。2022年度は地下水を使って2500匹のアユを養殖している
アユに与える藻
アユに与える藻。栄養分が豊富な処理水で育てる
アユの群れ
撮影のために実験池に人工エサをまいてもらうと、水面近くにアユの群れが顔を出した
冷凍された養殖アユの試作品
冷凍された養殖アユの試作品。2022年度は漁協の協力を得て一般販売を予定する

カギは産学官連携、「7者」で共同研究

BISTRO下水道は、2013年に国土交通省と日本下水道協会が主導して始まった。下水道資源を有効利用した食材は、「じゅんかん育ち」のブランド名で市場にも出回る。

鶴岡市は先進地域の一つと位置づけられている。その取り組みの特徴は「産官学連携の共同研究体制がつくれたこと」(松浦さん)だという。

2017年に結んだ「6者協定」には、全体を統括する鶴岡市をはじめ、調査研究をおこなう山形大学、コンポストセンターを運営するJA鶴岡に加え、企業では消化ガス発電を手がける水ingエンジニアリングのほか、日水コン、東北サイエンスの3社が参加した。2022年9月には、養殖の事業化を見据えて山形県漁業協同組合が加わり、「7者協定」になった。

松浦さんは「下水道資源は貴重な宝の山。SDGsにのっとり、地域内での資源循環の仕組みをつくりたい。事業として成り立たせることが今後の課題だ」と話した。

松浦正也さんと板垣誠さん
鶴岡市下水道課の松浦正也さん(左)、浄化センター所長の板垣誠さん
鶴岡浄化センター
鶴岡浄化センター
竹山栄太郎
竹山栄太郎 ( たけやま ・えいたろう )
朝日新聞SDGs ACTION!編集部員。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年から現職。
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