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ブルーカーボンとは? 温暖化対策になる仕組みや現状、事例を紹介

ブルーカーボンとは? 温暖化対策になる仕組みや現状、事例を紹介
ブルーカーボンとは? 注目されているのはなぜ?(デザイン:増渕舞)
千葉みらい電力代表社員/森田一成

ブルーカーボンは、地球温暖化問題の解決に寄与するとして注目されている言葉です。ただ、ブルーカーボンを吸収・貯留するブルーカーボン生態系は、いま深刻な課題を抱えています。この記事では、ブルーカーボンそのものについて解説し、現状や課題解決のために行われている取り組み事例を紹介します。

著者_森田一成さん
森田一成(もりた・かずなり)
千葉みらい電力合同会社 代表社員。特定非営利活動法人自然エネルギー千葉の会 代表理事。フリーエディター、フリーライター。再生可能エネルギーのポテンシャルに着目し、市民の目線から再エネの普及を目指して活動中。有志の市民が出資して運営する「市民太陽光発電所」を3基手がけている。

1.ブルーカーボンとは?

ブルーカーボン(Blue Carbon)とは、海洋生物の働きによって海洋環境に吸収・貯留されている炭素のことです。2009年、国連環境計画(UNEP)の報告書「BLUE CARBON」によって定義されました。ブルーカーボンを吸収・貯留する海洋の生態系は、「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。

植物が光合成によって、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収することはよく知られています。森林や陸上の植物によって貯留される炭素をグリーンカーボン(Green Carbon)と呼びます。陸上の植物と同じように、海草や海藻などの海洋生物は成長する際にCO2を吸収します。こうした海洋生物によって貯留されるブルーカーボンが、近年CO2吸収源として注目されています。

2015年に合意されたパリ協定では、21世紀の後半までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)を実現することが目指されていますが、その目標達成のためには大気中のCO2を吸収・貯留する「ネガティブエミッション」が欠かせません。ブルーカーボンの活用は、ネガティブエミッションの有力な手法のひとつと見込まれています。

(1)ブルーカーボンが地球温暖化対策になるメカニズム

これまでの自然生態系によるCO2吸収の研究は、陸上の森林が吸収・貯留する炭素、つまりグリーンカーボンによるものばかりでした。ところが近年の研究で、海洋生態系のCO2吸収が大きいことがわかってきました。

人間活動によるCO2の排出量は炭素換算にして年間約94億tにのぼりますが、陸上の森林などの植物は約19億t吸収し、海洋全体で約25億t、そのうちブルーカーボン生態系によるCO2吸収が約11億tであることがわかってきています(参照:海の森 ブルーカーボン CO2の新たな吸収源 p.2、3丨国土交通省)。

海面では、大気との間でCO2を含む気体が吸収・放出され、海に溶け込んだCO2は海洋植物の光合成によって吸収されます。それらの死骸が海底に沈殿することで、炭素が固定化されます。また、炭素は、海洋内の食物連鎖によって魚などに捕食され、それらの死骸が海底に沈むことでも同じく固定化されます。

陸上の植物によって固定化された炭素は、数十年単位で微生物によって再び分解されてCO2として大気中に放出されます。一方、海底に蓄積された炭素は、無酸素状態のため微生物による分解が抑制されることで、その分解が数千年単位と非常にゆっくりとしたものとなります。

このような特徴から、ブルーカーボンは、地球温暖化の原因とされるCO2の新たな吸収源として注目されているのです。

(2)ブルーカーボン生態系の種類

ブルーカーボン生態系は、四つに分類することができます。

①海草藻場

海草(うみくさ)とは、海中で繁殖する海産種子植物のことです。代表的なものはアマモで、主に温帯から熱帯の静穏な砂浜や、干潟の沖合に分布します。

陸上の生物は海から陸に進出した生物の子孫ですが、一部は海洋に戻っています。クジラが代表的ですが、植物では海草がそれに該当します。

海草は成長の過程で光合成を行ってCO2を吸収し、炭素を固定化していきます。海草藻場の海底には枯れた海草などの有機物が堆積(たいせき)し、ブルーカーボンの巨大な集積所になっています。

大船渡市のアマモ場
東日本大震災の津波で大きな被害を受けたものの、その後回復した岩手県大船渡市の越喜来(おきらい)湾・浪板海岸のアマモ場=2020年10月(撮影・朝日新聞)

②海藻藻場

海藻(うみも)とは、海で生育する藻類を指します。海草と違って、胞子によって繁殖します。海藻の根は栄養吸収のためにあるわけではなく、岩に固着するためのものです。

海草と海藻の群落を藻場と呼びますが、光合成を活発に行い、CO2から有機物を生産する沿岸の一次生産者の有力な担い手となります。藻場は微小動物から大型魚類まで多くの生物を育んでおり、生物多様性を担保する貴重なエリアとなっています。

海藻は強い潮によって根がちぎれると、海面を漂流する流れ藻になります。流れ藻になっても成長を続ける海藻は、海流に乗って海上を移動します。ホンダワラなどは遠く沖合まで漂流し、寿命を終えると深い海に沈みます。

海藻は沿岸部で繁茂し、藻場を形成しますが、一部は深海の海底にまで移動し、そこに海藻由来のブルーカーボンが蓄積・貯留されるのです。

③湿地・干潟

大きな河川が流れ込む閉鎖的な内湾域などに形成され、潮の満ち引きを繰り返す塩性湿地・干潟では、ヨシなどの塩生植物が生い茂り光合成によってCO2を吸収します。

湿地・干潟は河川から窒素・リンなどの栄養塩類が流れ込むうえ、日光や酸素もたっぷりとあるので、栄養豊かな動植物の生息地となります。そこは、食物連鎖でつながる多様な生態系です。生物たちの遺骸は海底に沈み、ブルーカーボンとして炭素を貯留します。

④マングローブ林

マングローブは、熱帯や亜熱帯の入り江・河口付近など、真水と海水が混じりあう汽水域の湿地・干潟に生育する樹木の総称です。

マングローブ林もまた、海草藻場・海藻藻場と同じように豊かな生態系を形成しており、人間にとっては森林資源とともに漁業資源を安定的に供給する貴重なエリアとなっています。

マングローブは常緑の森林のため、大気中に生い茂った葉から光合成を通してCO2を吸収し、根・幹に炭素を固定化します。陸上の森林と違うところは、根が海底の泥の中に張っているので、枯れた後も微生物によって分解されにくいということがあります。

陸上で枯れた樹木は、バクテリアの分解によって再びCO2が生成され、大気中に放出されますが、マングローブ林は枯れた根・枝が海底に沈むことで、数千年単位で炭素が貯留されることになります。

なお、マングローブ林には温室効果ガスの吸収機能という地球温暖化「緩和」の効果とともに、海水面の上昇にともなう高潮被害への防波堤という地球温暖化「適応」の効果も持ち合わせています。

マングローブ林
沖縄・西表島のマングローブ林=2021年5月(撮影・朝日新聞)

2.ブルーカーボン生態系の現状

これまで見てきたように、ブルーカーボン生態系は、陸上の森林に引けを取らないCO2吸収機能があり、生物多様性を守る豊かな生態系です。しかし、陸上の熱帯雨林以上のスピードで減少していることが大きな課題として浮かび上がっています。

UNEPの報告書「BLUE CARBON」によれば、ブルーカーボン生態系の消失率は熱帯雨林の4倍以上に達すると試算されており、年間で平均して2~7%もの割合で減少を続けているとのことです(参照:Blue carbon: the role of healthy oceans in binding carbon丨UNEP)。

とくに東南アジアでのマングローブ林の減少が著しく、エビ養殖場の開発、製炭材のためのマングローブの伐採、農業用地への転換などが原因とされています。

日本も例外ではありません。四方を海に囲まれた日本は海岸線の長さが3万5307kmにも及び、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林のブルーカーボン生態系が豊富にある国です(参照:海岸のすがた丨国土交通省)。

明治・大正時代には、2110.62km2の湿地も存在していました。ただ、1999年段階で、その61.1%に当たる1289.62km2(琵琶湖の約2倍の広さ)が消失しています(参照:日本全国の湿地面積変化の調査結果丨国土地理院)。

カーボンニュートラルという大目標に向けて、ブルーカーボンを活用するためには、こうしたブルーカーボン生態系の重要性に着目し、保全・回復する取り組みを行わなければなりません。

それは同時に、昨今注目を集めているSDGs(持続可能な開発目標)達成にもつながるものです。例えば目標13の「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動によって発生するさまざまな環境問題を背景に掲げられた目標ですが、これらの問題の要因のひとつには温室効果ガスが考えられるため、解決にはカーボンニュートラルの考え方が重要となります。

また、目標14の「海の豊かさを守ろう」は、海や海洋資源を持続可能なものにするために設定された目標です。カーボンニュートラルのためにブルーカーボン生態系へのダメージを軽減することは、同時に海の豊かさを取り戻す取り組みになるのです。

SDGs目標13、14アイコン

3.ブルーカーボンに関して国が行っていること

日本政府は2050年カーボンニュートラルの実現という大目標に向けて、さまざまな取り組みを行っていますが、ブルーカーボンに関する取り組みも強化しています。

(1)ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度(Jブルークレジット)の試行

カーボン・オフセットとは、CO2などの温室効果ガスの排出を他の場所での削減・吸収活動で「埋め合わせる」という考え方ですが、そのクレジットを通して藻場の保全活動などを支援する新たな資金メカニズムの構築する試みを開始しています。

ブルーカーボン活用のために2020年に発足した「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」が中心となり、ブルーカーボンを定量化して取引可能なクレジットにしたものがJブルークレジットです。

2021年度には、横浜港、神戸港、徳山下松港、北九州港でNPOなどが藻場・干潟の保全活動により創出したCO2吸収量について、第三者委員会による審査・検証を経て、企業との間でクレジット取引を行うこととなりました(北九州港は発行のみ)。

(2)ブルーカーボンの評価手法及び効率的藻場形成・拡大技術の開発

ブルーカーボン生態系がCO2吸収源として評価されていることはたしかですが、積極的に活用するためには、ブルーカーボン生態系が1年間にどのくらいの炭素を貯留しているかを定量的に評価することが必須です。

その点をふまえ、農林水産省は「ブルーカーボンの評価手法及び効率的藻場形成・拡大技術の開発」を2020年度から5年間の委託プロジェクト研究(委託先代表機関は国立研究開発法人水産研究・教育機構)として開始しました。

このプロジェクトでは、海草・海藻類の分布や炭素貯留プロセスの類似性から、日本国内のすべての海草・海藻藻場を21タイプに分類。日本の海域特性に応じた精度の高い算定手法を開発し、藻場によるブルーカーボン貯留量を定量的に評価することを目標としています。

4.ブルーカーボンに関する団体の取り組み事例

最後に、上記のような政府の施策をふまえ、国内で具体的にどのような取り組みが行われているのか、事例を紹介します。

(1)地方公共団体

①横浜市の横浜ブルーカーボン事業

横浜市では、ブルーカーボンに関する具体的な取り組みとして、ブルーカーボンとブルーリソース(海洋資源)独自のカーボン・オフセット制度「横浜ブルーカーボン・オフセット制度」を運用しています。この制度は2014年度に始まり、2021年度にはクレジット創出が255.3t・CO2、クレジット活用が166.9t・CO2となっています。

また、2016年2月からはブルーカーボン・ブルーリソースを活用した温暖化対策や環境活動の推進を目的とした「横浜ブルーカーボン・オフセットマーク」も導入しています(マークの利用は2023年3月末で終了予定、参照:横浜ブルーカーボン丨横浜市)。

②山口県周南市の大島干潟の環境保全

山口県周南市はブルーカーボンの活用の一環として、大島干潟の環境保全活動を推進しています。

大島干潟は、徳山下松港内の浚渫(しゅんせつ)工事で発生した土砂で造成された約29haの人工干潟です。この干潟の造成によって、アマモ場・コアマモ場が新たに形成され、現在までに多様な生態系が構築されてきています。

先述したJブルークレジットも活用しており、認証された発行クレジット量は44.3t・CO2となっています(参照:~大島干潟から、つながる周南市ブルーカーボンプロジェクト in 徳山下松港~丨国土交通省 中国地方整備局)。

(2)それ以外の団体

①ブルーカーボン・ネットワーク

ブルーカーボン・ネットワークは、ブルーカーボンに関心のある人・団体や、全国各地でブルーカーボン活用の取り組みを実践している人々をつなぐプラットフォームです。ブルーカーボン・ネットワークでは、主に以下の事業を推進しています。

・国内外のブルーカーボンや藻場再生の取り組みに関する情報共有および支援

・気候変動・海の生態系などに関する情報共有

・ブルーカーボン・クレジットやブルーファイナンスに関する情報共有

・Webサイトやセミナーなどを通じた情報発信・情報共有・支援の場づくり

・会員および活動に必要な支援金の募集

(引用:ブルーカーボン・ネットワーク丨ブルーカーボン.jp

賛助サポーター会員には、商船三井やニチレイなどの企業のほか、個人が参加しています。

(3)海外の取り組み

ブルーカーボンに対しては海外でも関心が高まっています。そのなかで世界的なPCメーカーである米アップルの事例をご紹介します。アップルは2018年、コロンビア共和国において、環境保護団体コンサベーション・インターナショナルや地方自治体と協力し、面積109km2規模のマングローブ林の保全・回復活動にあたりました。

アップルは2021年、陸上の森林も含めた温室効果ガス削減のための総額2億ドルの基金「Restore Fund」(再生基金)を立ち上げています。Restore Fundは、コンサベーション・インターナショナルと投資銀行ゴールドマン・サックスとの共同プロジェクトです(参照:Appleとパートナー各社、初の試みで2億ドル規模の“Restore Fund” をスタート──気候変動を自然の力で解決するソリューションを加速丨Apple)。

5.ブルーカーボン活用は里海づくりから

海に囲まれた国・日本では、古くから人々の暮らしと海は密接に結びついていました。人手が加わることによって、豊かな生態系が保たれる沿岸海域を「里海」と呼びますが、この里海を守り育むことこそブルーカーボン活用の道であるといえます。

環境省の調査によれば、日本全国で里海づくり活動事例は2018年で291例あります(参照:平成30年度里海づくり活動状況調査の結果について丨環境省)。里海づくりの活動は、身近なブルーカーボン活用の取り組みです。みなさんが住んでいる地域のそばの海でも、里海づくりの活動が行われているかもしれません。

ブルーカーボン活用は、危機的な状況にあるといえる地球温暖化問題・気候変動問題の解決の可能性を感じさせるひとつになっています。あなたも里海づくりの活動から、身近な地球温暖化防止の取り組みを始めてみませんか。

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