SDGs ACTION!

ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?企業経営に生かすヒント

ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?企業経営に生かすヒント
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは(デザイン:増渕舞)
Wholeness Lab代表/青木志保子

事業活動において、いまやカーボンニュートラルをはじめ、サステイナビリティーは必須要件となっています。ライフサイクルアセスメント(LCA)は、「この事業はサステイナブルです」といえる一つの羅針盤になるものです。この記事では、LCAの概要から企業経営に生かすポイントまで解説します。

著者_青木志保子さん
Wholeness Lab代表/青木志保子
専門は環境学。環境負荷の定量化(LCA)と次世代のライフスタイルを創造するWholeness Lab代表。企業やNPOに対しサステイナビリティー事業創造のアドバイスや講演を複数実施。東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学修士課程修了(環境学修士)。現在、同大学博士後期課程在籍。その他、国際大学GLOCOM主任研究員など。

1.ライフサイクルアセスメントとは

ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment〈LCA〉)とは、「製品やサービスを、原材料採取から調達・製品製造・輸送・使用・廃棄とリサイクルに至るまでのすべての工程を範囲として、環境負荷の観点から定量的に評価する手法」のことです。その取り組みの例えとして、よく「ゆりかごから墓場まで」とも言われます。

例えば、「電気自動車は100%サステイナブルです」と言い切れるのでしょうか?

確かに走行時には電気を利用して走っているので‘その場では’二酸化炭素を出しませんが、電気をどこからか調達してくる必要があります。その電気が火力発電所で作られたものであればそこで二酸化炭素が発生しています。また、電気自動車を作るときには多くの鉱物資源を必要とします。それを採掘し精錬する際にもエネルギーを使用し、二酸化炭素を排出しています。結果的に、電気自動車とガソリン車の環境負荷の差があまりなくなってしまうこともあります(参照:クルマのライフサイクルCO2〈つくる〜つかう〉丨日本自動車工業会)。

このように、使用時といった目の前だけでなくライフサイクル全体で評価をしないと、提供している製品やサービスが「真に環境負荷が低いのかどうか」は判断ができません。そこで、LCAを用いて定量的に評価し、判断することが求められるのです。

LCAの起源は、米国コカ・コーラ社が、1969年にリターナブル瓶とペットボトルの環境負荷の度合いを比較した事例だと言われています(参照:稲葉敦編著『改訂版 演習で学ぶLCA-ライフサイクル思考から、LCAの実務まで-』シーエーティ 2018,p20)。その少し前に、レイチェル・カーソンが1962年に『沈黙の春』を出版し「公害問題」が世界的に認知されるようになりました。その後、地球の危機を描いた『成長の限界』が1972年に発表され「よりグローバルな問題」に注目が置かれ始めました。

LCAはこの頃に誕生しているツールであり、「この地球に負荷をかけずに経済活動をおこなうには、どうしたらよいのか」という問いとともにあるのです。なお、2006年には二つの国際標準基準ISO14040およびISO14044が定められ、グローバルスタンダードが確立しています。

(1)ライフサイクルアセスメントが重要な理由

誕生から50年以上たった今日、LCAはあらためて注目されています。その理由には、次の三つがあるでしょう。

1. 環境問題解決において、「政府主導」だけでなく「企業による実践」が重要になってきていること(参照:日本LCA学会講演会「削減貢献量に関する講演会」丨J-STAGE)。

2. 企業による実践においては「何をもってサステイナブルといえるのか」という問いに答えられるエビデンス(定量化指標)が必要になってきていること。

3. そのエビデンスを用いて「エコリーフ」「カーボンフットプリント」など見える化とPRをおこなう攻めの事業展開や、欧州を中心に展開されてきているサプライチェーンマネジメントの「Scope3対応」「LCA規制対応」といった守りの事業展開をおこなう必要が出てきていること。

SDGsでは目標12「つくる責任、つかう責任」と特に関係があります。ターゲット12.4では「2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物資やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する」(引用:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ p.22丨外務省)と記載されています。

SDGs目標12のアイコン

2.ライフサイクルアセスメントの活用事例

では、具体的に企業はどのように取り組んでいるのでしょうか。ここでは三つの事例をご紹介します。

(1)テトラパック「プラスチックストローと紙ストロー、どちらがいいのか?」

カーボンニュートラルだけでなく海洋プラスチック汚染の問題もあり、使い捨てプラスチックストローの見直しが社会的に強く求められています。カフェやコンビニエンスストアで紙ストローを使用したことのある読者も多いでしょう。

では果たして「プラスチックストローよりも紙ストローの方がサステイナブル」なのでしょうか。この問いに答えるべく大手食品容器包装メーカーのテトラパックでは、2019年に自主的にLCAの調査を行い、その結果を「LCA of plastic & paper straws for portion-sized carton packages」という資料で公開しています。

結果は、「気候変動」や「非再生可能資源」に関しては紙ストローのほうが影響度が小さいものの、「酸性化」「富栄養化」「光化学的オゾン生成」「水不足」に関しては紙ストローのほうが影響度が大きい、という内容でした(下記グラフ参照)。

プラストロー・紙ストローの影響度の比較グラフ
<span>プラストロー・紙ストローの影響度の比較表</span>
テトラパックが行ったLCAの結果(LCA of plastic & paper straws for portion-sized carton packages丨Tetra Pakをもとに筆者作成)

同社ではこの結果を踏まえ、影響度の大きさから「気候変動」や「(枯渇する)資源の保全」、さらにはLCAでは評価しきれていない「海洋プラスチックの未解決状態」を重要視し、紙ストローを選択する、という事業方針をとっています。また、この結果から、よりよい次世代の紙製ストローが重要だと認識し、その開発の原動力にしています。

ポイントは、選択にはトレードオフの関係があり「紙ストローにすればよい!」とは言い切れないことです。しかし、調査結果をベースに、事業方針の決定や新たな製品開発にLCAを利用しています。

(2)Loop「捨てないで済む、パッケージデザインシステムとは?」

「捨てるという概念を捨てよう」というミッションを掲げリサイクルする事業を現在20カ国以上で展開するテラサイクルが、2019年より容器包装のリユースをベースにした新たな事業として手がけているのがLoopです。食品メーカーや小売店と連携し、循環型ショッピングプラットフォームとして「ごみを出さない新たなショッピング体験」を提供しています。

Loopではメーカーと連携し、リユース・リサイクルが可能な独自のボトル容器を開発しています。そして、その際の基準の一つに、LCAを採用しています。

Loop×大塚製薬の提供する独自の容器
Loop×大塚製薬の提供する独自のガラス製容器(2022年11月現在は販売休止中、大塚製薬提供)

何度も使えるリユース型の容器にするには、使い捨ての容器に比べて製造時においては環境負荷が大きくなりがちです。しかし、デザイン性と耐久性を兼ね備えることで、何度も使えるようにし、トータルとして環境負荷を下げるサービスデザインに設計しています。これらを検証する際にLCAが用いられます。

このように、これまで当たり前になっている「使い捨て文化」を脱却し、時代が求めるサステイナビリティーに適応した新たなサービスを考える際にも、LCAは重要な羅針盤として機能しています。

3.ライフサイクルアセスメントを活用するときのポイント

最後に、LCAを企業経営に生かすポイントを紹介します。

(1)目的(用途)を定める

まずはLCAをおこなう目的を明らかにしましょう。例えば、次のようなものが一般的に考えられます。

● 自社製品の環境負荷を見える化し消費者にPRしたい

● よりサステイナブルな(環境負荷の低い)製品開発を目指し改善点を把握したい

● サプライチェーン全体で脱炭素が求められるなか、環境負荷の観点で競合他社よりアドバンテージをとりたい

● ESG投資が盛り上がるなか、非財務情報として開示していきたい

どれを主たる目的にするかによって対象とするLCAの範囲や項目、予算も変わってきます。まずは「何を目指したいのか?」を明らかにすることが大切になります。

(2)評価すべき影響を検討する

次に目的によって「何を評価するのか」が異なってきます。LCAで評価する項目はカーボンニュートラルで注目されている「気候変動」だけではありません。テトラパックの事例で出てきたように、「酸性化」「富栄養化」「資源消費」などがあります(参照:稲葉敦編著『改訂版 演習で学ぶLCA-ライフサイクル思考から、LCAの実務まで-』シーエーティ 2018,p40)。

例えば、製品のPRであれば、まずは「気候変動」に大きく影響する「温室効果ガス(GHG)」の評価をおこなうのが一般的でしょう。一方、製品開発や調達での改善点を把握するにあたっては、「気候変動」のほか「資源消費」やさらには「土地利用変化」といった評価をおこなう必要があるかもしれません。ESG投資では昨今は欧州を中心に「生物多様性」といった項目も重要視されています。

評価すべき対象は、相手方(消費者、投資家、取引先など)が何の情報を求めているかによっても変わってきます。ついては、ステークホルダーと対話することも重要になってきます。

(3)「環境負荷の見積もり」をイメージして自社活動の棚卸しをする

LCAでキーとなるのが、ライフサイクル全体の活動をプロセスごとに整理し、その活動量を明らかにする「インベントリ分析」といわれる部分です。前述した用途や評価項目によってその粒度が異なってくるため、評価までにかかるコストや時間に影響します。

具体的には、「素材はどこから調達しているのか?」「どこでどのように作られているのか?」「サービスの提供後はどのように利用されているのか?」「廃棄方法はどうなっているのか?」といった点について、まずはおおよそ整理して理解しておくことが重要になります。

イメージとしては「環境負荷バージョンの見積り」です。まずはどんなプロセスがあるのか、項目の整理から始めるのがいいでしょう。

4.LCAはサステイナブル経営の「羅針盤」

「何をもってサステイナブルといえるのか」という問いはこれからますます重要になっていきます。定量化を積極的におこなうことでユーザーやステークホルダーの信頼を得られる一方、根拠のないPRなどはウォッシュ(うわべだけのもの)としてたたかれる可能性もあります。

企業経営において、LCAは「何をすればサステイナブルなのか」という方向を指し示してくれます。サステイナブル経営の「羅針盤」として機能してくれるでしょう。

この記事をシェア
関連記事