ウェルビーイング導入、ビジネスに効果 博報堂系2社が報告書発表

ウェルビーイングを積極的に導入することが、企業の事業成長につながる――。そんな報告書を、博報堂DYホールディングス傘下のHakuhodo DY MatrixとSIGNINGが発表した。SDGsの目標3にも直結するテーマとして位置づけられるウェルビーイングに関して企業の取り組みが広がりつつあるが、「成果につながるのか」との疑問の声もある。報告書は企業経営者や担当者への調査をもとに、ウェルビーイングの考え方をマーケティングに生かし、顧客や社会の幸せを考えて商品やサービスの提供方法を改革することの重要性を訴えている。(編集部・竹山栄太郎)
「マーケティング活用」で担当者の満足度向上
両社は2022年1月、全国の10~100歳1万890人を対象に調査した「ザ・ウェルビーイングレポートVol.1」を発表。独自に開発した49項目の指標を通じて「日本的なウェルビーイング」の姿を探ったところ、年代や生活環境によってウェルビーイングの姿が多様であることが示された。
今回の報告書は第2弾の「Vol.2」にあたり、テーマは「ウェルビーイングは、ビジネスを成長させるのか?」。経営者317人とマーケティングや企画・商品開発などの担当者200人を対象に調査し、ウェルビーイング導入の効果やメリットなどを尋ねた。Vol.1に続いてウェルビーイング研究者の宮田裕章・慶応義塾大学教授の監修を受けた。
まず、ウェルビーイングの認知度は経営者の5割近く、マーケティング担当者の約4割に達し、SDGsの認知度(約9割)には及ばないものの、一定程度、浸透してきていることが示された。ただ、ウェルビーイング認知者の7割近くが実際のビジネスには導入できていないことも明らかになった。その理由としては、「直接的な利益に結びつかない」「効果をイメージできない」など「ウェルビーイングで本当に成果が出るのかわからない」という声が多く、現状は多くのビジネスパーソンが「様子見」していることが示唆されている。

一方、ウェルビーイングの考え方をビジネスに導入していると答えた人に対してその内容を聞くと、「働く環境の整備」「健康リスク対策」などの人材マネジメントへの活用と、「商品・サービス開発」「広告・販促活動」などのマーケティングへの活用の2パターンがみられた。担当者の満足度を調べると、人材マネジメントに活用している担当者の満足度は「導入なし」と比べて横ばいだったのに対し、マーケティングに活用している担当者では目立って高く、ウェルビーイングの積極的な導入が、分野によっては従業員の満足度にもつながる可能性が示された。

「ウェルビーイング・バリューチェーン」の重要性指摘
さらに、マーケティングに活用しているという経営者・担当者に導入したメリットを聞くと、人材マネジメントにしか活用していない人たちと比べて「新しいアイデアが出やすくなる」「新しい商品・サービスの開発につながる」「会社のブランドイメージ向上につながる」などの答えが多かった。また、社内のムードがよくなるといった声も聞かれたという。
報告書はこれらの結果をもとに、ウェルビーイングをマーケティングに活用することで社内外へ好影響を広げる「ウェルビーイング・バリューチェーン」を提唱している。

報告書の最後では、企業がウェルビーイング・バリューチェーンを実現する道筋として、顧客の多様な幸福観を知ることを提案している。そのための指標として、「仕事」「お金」「人間関係」など七つの「幸福要素」と、「安定」「上昇」「笑」など七つの「幸福価値観」を掛け合わせた49の項目からなる「ウェルビーイング・マトリクス」を紹介。「仕事で地位・名声を手に入れている」「人付き合いが楽しい」といった項目ごとに、影響度を測ることで、顧客が重視する幸せの中身を理解できるとした。
報告書は、「顧客の多様な幸せを知り、『どうすればこの人たちを幸せにできるだろうか?』と常に問い続けること」が重要だと結論づけている。

監修者の宮田教授は、報告書の中で「ウェルビーイングを軸にすることによって、成長と貢献が両立する可能性も見えてくる。今までやってきた取り組みを、多様なウェルビーイングの視点から再解釈、再定義することが、企業が前に進む大きなきっかけになる」と指摘し、企業がウェルビーイングの考え方を積極的に導入することを勧めている。

朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、2022年11月から副編集長。
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