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SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」とは?取り組み事例も紹介

SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」とは?取り組み事例も紹介
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」とは(デザイン:吉田咲雪)
フリーライター/小林なつめ

SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」は、世界中の人の健康と幸福を実現するための目標です。この記事では、目標3が掲げられた理由や、世界と日本の取り組み事例を紹介。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう今だからこそ、「私たちにできることは何か」考えてみてはいかがでしょうか。

著者_小林なつめさん
小林なつめ(こばやし・なつめ)
大学卒業後、司書として複数の図書館に10年間勤務。Uターン移住を機に都内の図書館を退職し、フリーライターとして活動を始める。SDGsをはじめ、さまざまなテーマを取り上げており、ジェンダーや女性のキャリアに関するコラムも多数執筆している。

1.SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」とは

SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」とは、地球上のすべての人が心身ともに健康で、社会的にも満たされた、幸福な生活を送るための目標です。誰もが平等に、保健医療や公衆衛生のサポートを受けられる社会の実現を目指しています。

SDGs目標3アイコン

(1)目標3「すべての人に健康と福祉を」の内容

SDGsの目標には、それぞれ達成目標と実現方法を示したターゲットが設定されています。目標3は、1~9の達成目標とa~dの実現方法、計13のターゲットからなります。ここではターゲットについて、外務省の資料から引用して紹介します。

目標3.あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
3.1 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する。
3.2 すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、2030年までに、新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。
3.3 2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。
3.4 2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する。
3.5 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。
3.6 2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。
3.7 2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が利用できるようにする。
3.8 すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。
3.9 2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。
3.a すべての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する。
3.b 主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特にすべての人々への医薬品のアクセス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである。
3.c 開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。
3.d すべての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。

引用:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ p.16-17|外務省

(2)目標3が掲げられた理由

目標3はなぜ掲げられたのでしょうか。ターゲットを読んで真っ先に思い浮かぶのは、医療や衛生状況の問題から、健康や命を脅かされている人々の存在です。

一方で目標3の内容は、日本に住む私たちにも、無関係ではありません。その視点も含めて、目標3が掲げられた理由を考えてみましょう。

①子どもの死亡率が高い国や地域がある

WHO(世界保健機関)の報告によると、2020年には5歳未満の子どもが、推定500万人亡くなっています。このうちの80%以上が、サハラ以南のアフリカと南アジアの国の子どもたち。死因としては肺炎や下痢、けがなど、現代医療で救えるものがたくさんあります(参照:Child mortality (under 5 years)|World Health Organization (WHO))。

②予防・治療のできる感染症に苦しむ人たちがいる

「三大感染症」と呼ばれるエイズと結核、マラリアは、予防と治療ができる病気です。そのため日本のような先進国では、今ではあまり深刻視されていません。一方で世界ではこれらの感染症により、いまだに年間250万人以上が亡くなっています(参照:Research funding after COVID-19|Nature Microbiology)。

また新型コロナウイルスの流行は、日本の医療現場にも大きな影響を及ぼしています。病床と医療従事者の不足による事実上の医療崩壊は、医療へのアクセスを困難にしました。

③世界中の人が非感染症疾患(NCDs)で亡くなっている

NCDsとは、感染症以外のすべての疾患の総称です。具体的にはがんや糖尿病、循環器や呼吸器疾患などで、食生活や運動習慣、喫煙などが原因となります。

NCDsは世界の死因の74%を占め、そのうちの77%が低中所得国における死亡者です(参照:Noncommunicable diseases|World Health Organization (WHO))。

しかし先進国である日本でも、2020年時点で死因の82%がNCDsだと分かっています(参照:NONCOMMUNICABLE DISEASES p.96|World Health Organization (WHO))。

また日本では、若年層(15~34歳)の死因トップが自殺です。これはG7(主要7カ国)の中で日本だけに見られる特徴であり、国際的に見ても深刻な問題です(参照:人口動態統計年俸 第8表 死因順位〈第5位まで〉別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率〈人口10万対〉・構成割合丨厚生労働省)。

2.目標3に対する世界・日本の取り組み事例

目標3の実現を目指して、世界ではさまざまな取り組みが進められています。

(1)世界の取り組み事例

ここでは海外における三つの事例を紹介します。

①ビル&メリンダ・ゲイツ財団(アメリカ)

マイクロソフト創業者のビル・ゲイツとその元妻のメリンダによる、世界最大の慈善基金財団。財団創設のきっかけは「貧しい国の子どもたちの命を救いたい」という思いでした。

ゲイツ財団では創設時から「乳幼児死亡数0」を目指しており、ユニセフ(国連児童基金)やWHOと協働。感染症対策や治療薬の開発により、多くの子どもたちを救っています。

(参考:Gates Discovery Center

②アストラゼネカ(イギリス)

アストラゼネカは、イギリスに本社を置く製薬会社です。社を挙げてサステイナビリティーに積極的に取り組んでおり、その一つに「ヤングヘルスプログラム」があります。

このプログラムはNCDsの予防を目指すもので、子どもたちにNCDsのリスクや対策について教え、成人後の健康な生活をサポートします。

現在ではユニセフなどのパートナーと連携を取りながら、世界の30を超える国と地域で活動を進めています。

(参考:ヤングヘルスプログラム|アストラゼネカ

③ヘリウム・ヘルス社(ナイジェリア)

近年、最新テクノロジーで医療や福祉の課題を解決する「メドテック」や「ヘルステック」の分野が注目を集めています。医療へのアクセスが困難なアフリカでは、この分野が目覚ましい進歩を遂げており、ヘリウム・ヘルス社もその一つです。

同社はEMR(電子カルテ)のスタートアップ企業。医師の診察から処方箋(せん)の交付、医療費の請求という、一連の診療サービスを、プラットフォーム上で提供しています。

新型コロナウイルスの流行初期、2020年2月にはオンライン診療システムを導入。同年5月には1000万ドルの資金調達をかなえ、今後はケニアやルワンダ、ウガンダといった地域に事業を拡大する見込みです。

(参考:Helium Health: EMR, Practice Management|Medical Billing, & RCM

(2)日本の取り組み事例

次に日本における取り組み事例を三つ紹介します。

①ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、通称UHCは「すべての人が適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を指します。

日本では1961年に全国民が加入する公的医療保険が確立。1973年の「一県一医大構想」により医師が増え、医療へのアクセス環境が改善されました(参照:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)|厚生労働省)。

この時代背景が、質の高い保険制度と医療サービスにつながり、日本の「UHCサービスカバレッジインデックス」は2019年時点で世界16位と、高水準を保っています(参照:UHC Service Coverage Index (SDG 3.8.1)|World Health Organization (WHO))。

②ガーナ栄養改善プロジェクト

「ガーナ栄養改善プロジェクト」は、味の素がガーナ大学とアメリカのNPOであるINF(Nevin Scrimshaw International Nutrition Foundation)と共同で立ち上げた、ガーナ政府公認のプロジェクトです。現在は公益財団法人味の素ファンデーションに移管されています。

ガーナでは、「koko」と呼ばれるコーンがゆが離乳食の定番です。しかし「koko」には子どもが必要とする栄養素が十分には含まれていません。

そこでプロジェクトでは、不足している栄養素を補うサプリメント「KOKO Plus」を開発、製品化しました。2023年度にガーナ国内の子ども20万人に普及させることをめざしています。

(参考:KOKO Plus丨味の素ファンデーション

③おかやまケンコー大作戦

おかやまケンコー大作戦は、2019年度から3年間にわたって岡山市で実施された、国内最大規模の企業連携型ソーシャルインパクトボンド(SIB)事業です。

SIBは官民連携の手法の一つ。行政サービスを民間企業などに委託し、民間の投資家から募った資金を元に事業を行います。

おかやまケンコー大作戦では、地元企業23社を中心にコンソーシアム(共同事業体)を形成。岡山市民の健康改善と健康寿命延伸を目指し、NCDs予防を目指す取り組みを行いました。

(参考:続!おかやまケンコー大作戦

3.目標3達成のために私たちにできること

ここまで紹介してきたように、目標3の達成を目指して、世界や日本ではさまざまな取り組みが行われています。それでは次に、私たち一人一人にできることを考えてみましょう。

個人の力は小さくても、社会に生きるみんなで力を合わせれば、大きなうねりにつながるかもしれません。

(1)自分自身の健康を守る

目標3を達成するために最も大切なのは、自分自身の健康を守ることです。風邪などの小さな病気でも予防をすれば、かかるリスクを下げられます。

日本は高齢化が進んでおり、介護や医療にかかる社会保障費が増え続けています。また医療設備や機器、人的資源にも限りがあります。健康でいることは自分のためだけでなく、社会全体のためになるのです。

コロナ禍ではマスク、手洗い、消毒といった感染対策が定着しました。新型コロナウイルスに限らず、感染症がはやっているときやせきが出るときには、感染対策をしましょう。予防接種は、感染症を拡大させないためのストッパーになります。

健康寿命を縮める非感染症疾患(NCDs)にも注意が必要です。日々の食生活や運動習慣を見直し、リスクを下げましょう。

筆者自身、ライターとして自宅で仕事をしており、日中はあまり体を動かさない日もあります。そこで、業務に余裕のある日には、昼食前に30分ウォーキングをしています。さらに食事管理アプリに食べたものを記録して、食べ過ぎないように気を付けています。

企業であれば「健康経営」について考えてみるといいかもしれません。健康経営とは、経営的な視点から、「投資」として従業員の健康管理を行う取り組みです。

経済産業省では2016年度から「健康経営優良法人認定制度」を設けています。健康経営に取り組む企業を可視化し、社会的な評価を受けやすくなります(参照:健康経営|経済産業省)。

環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を考慮した、「ESG投資」への影響も期待できるのではないでしょうか。

(2)交通事故を起こさない

目標3のターゲット3.6では、交通事故に関して「2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」ことが挙げられています。日ごろから車やバイク、自転車に乗る人は、交通ルール(道路交通法)を守り、事故を起こさない努力をしましょう。

警察庁が公開している資料「令和3年における交通事故の発生状況等について」によると、交通死亡事故の原因の多くが、前方不注意や安全不確認といった「安全運転義務違反」です。

ぼーっと考え事をしながらする漫然運転や、カーナビやスマホ、風景に気を取られる脇見運転には、特に気を付けましょう。

筆者も普段から車の運転をしますが、車で外出するときは、普段より時間に余裕を持って行動するようにしています。

「待ち合わせや予約の時間に間に合わない……」と焦ると、誤操作をしたり、スピードを出し過ぎたりしかねないからです。交通事故を起こさないためには、心の余裕が必要だと考えています。

社用車を使っている企業の場合、交通事故は未然に防ぎたいですよね。ドライブレコーダーの搭載や、緊急ブレーキや速度制御などの機能がついた安全運転サポート車の導入は、交通事故を抑制します。検討してみてはいかがでしょうか。

(3)寄付や募金をする

寄付や募金に、大変そうなイメージを持っていませんか? 最近ではカジュアルに寄付や募金ができるシステムが増えてきています。

例えば最近注目されている寄付の一つに「#deleteC大作戦」があります。

これはSNSでの投稿や拡散が、がん治療研究の寄付になる活動。賛同企業や団体の商品名から、Cancer(がん)の頭文字である「C」という文字を消して写真や動画に撮り、ハッシュタグとともに投稿すると、1投稿につき100円が寄付されます。

他にも岡山大学の学生食堂などでは、TFT(TABLE FOR TWO)企画を実施。TFT対象メニューを食べると、料金のうち20円が開発途上国の子どもたちの給食代として、寄付される仕組みです。

また日本リユースシステムの「古着deワクチン」という取り組みでは、いらなくなった衣類を回収袋に詰めて送るだけで、1箱につき5人分のポリオワクチンが寄付できます。

企業であれば、社内に呼びかけて大勢でこれらの活動に参加することもできます。さらには目標3に関する活動をしているNPOなどの団体に寄付したり、ベンチャー企業に投資したりするなど、さまざまな支援方法が考えられます。

4.自分の健康を守ることから始めよう

目標3「すべての人に健康と福祉を」が目指しているのは、「すべての人々の健康と幸せ」です。でも自分一人の力で、世界の見知らぬ誰かの健康や幸せを実現するのは簡単なことではありません。そこでまずは、自分の健康を守ることから始めましょう。

あなたは心身ともに健康で、幸せな日々を送れていますか? もしそうでなければ日々の食事や生活習慣を振り返り、どうすれば改善できるのかを考えましょう。自分の健康を守り、幸せな日々を過ごすことは、世界の人々の健康と福祉を実現する第一歩です。

「自分は心身ともに健康で幸せだ」と思えたなら、世界で苦しむ人々に、寄付や募金など、自分にできることをやってみると良いでしょう。もし「目標3の達成のために何かしたい!」と思ったら、この記事を参考にしてみてくださいね。

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