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M字カーブとは?概要やグラフからは見えない現状、必要な対策を解説

M字カーブとは?概要やグラフからは見えない現状、必要な対策を解説
M字カーブの概要と読み解くときのポイント(デザイン:吉田咲雪)
ダイバーシティー&インクルージョンコンサルタント/大西ゆかり

M字カーブとは、女性の年齢別に見る労働力人口の割合をグラフで示した場合、アルファベットの「M」に似た曲線を描くことからついた言葉です。この記事では、女性活躍・ダイバーシティーの専門家が、M字カーブの概要や企業が取り組むべき施策、成功事例などをわかりやすく解説します。

著者_大西ゆかりさん
大西ゆかり(おおにし・ゆかり)
大企業からスタートアップまでさまざまな組織と職種、役職を経験。2018年に独立。女性活躍・ダイバーシティー&インクルージョンコンサルティングをメインとした事業を展開。自身の子宮内膜症闘病経験と経営コンサルティングのコラボが強み。従業員と経営陣に寄り添った他にはないコンサルティング。

1.M字カーブとは?

M字カーブとは、日本女性の生産年齢人口に対する労働力人口の割合を示す「労働率」を、5歳ごとの年齢階級別でグラフにした場合、アルファベットの「M」に近い曲線になることからついた言葉です。

このM字カーブを見ることで、一般的な女性がその年齢のときにどんなライフ(結婚や出産など)を選択して、どのような働き方を選択しているのかがよくわかります。

女性の年齢階級別労働力率の推移
出典:男女共同参画白書 令和元年版 I-2-3図 女性の年齢階級別労働力率の推移丨内閣府 男女共同参画局

現代女性は、以前と比べて大学に進学する割合が高くなっています。22歳で卒業し、そこから社会人として働きます。そして30歳から35歳ぐらいに「結婚や妊娠・出産」について具体的に考え行動する人が増えてきます。妊娠して出産するときは、女性は仕事から一度離れます。この年齢のときにM字のくぼみとなります。

30代後半から育休を経て仕事復帰をする女性が多くいるので、この全体をグラフにしたときにM字に見えるというわけです。

2.M字カーブの現状と企業の課題

女性の労働率が低く、「M」の形が顕著だった日本ですが、近年ではそれが徐々に改善されつつあります。男女共同参画白書の「女性の年齢階級別労働力率の推移」を見てわかるように、1978年や1998年のグラフにあったM字特有の大きなくぼみが、2018年のグラフではなくなってきています。

M字カーブ改善の要因としてあげられるのは、日本の政府が実施した「男女雇用機会均等法」や「子ども・子育て関連3法」「女性活躍推進法」などの施策です。

ただ、女性を取り巻くすべての労働環境が解決したわけでもありません。

例えば、世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が2022年7月に発表した「ジェンダー・ギャップ指数2022」でも、日本の総合スコアは0.650(0が完全不平等、1が完全平等)で146カ国中116位であり、経済面だけに絞ると146カ国中121位とさらに低い順位であることが明らかにされています(参照:「共同参画」2022年8月号 世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表丨内閣府 男女共同参画局)。

筆者の周りでも、女性の労働環境について課題を抱える企業は多く見られます。

「子育てと仕事の両立をしたかったが職場がきちんと対応してくれなかった」

「育休明けの復帰の際に部署異動を言われた」

「遠まわしに退職を勧めるようなことを言われた」

など、理不尽な対応を受け、ライフ・ワーク・バランスが保てていない女性は少なくありません。働きたいのに働けず、退職を余儀なくされた女性もいます。

M字カーブそのものは解消に向かっているにもかかわらず、なぜそのような状況になっているのでしょうか。主な理由として、次の三つがあると筆者は考えています。

(1)働き盛りの女性を雇うメリットに気づいていない

男性と同様、女性にも働き盛りがあり、女性の30代はまさに働き盛り世代です。自社で働き盛りの女性が活躍できる環境を整備し、実際にその女性を雇うことは企業の発展につながります。高学歴で経験豊富、また業務に必要な能力のレベルが高い人が多いからです。企業のイメージアップにつながりやすいのも、理由としてあげられます。

①高学歴・経験豊富な人が多い

日本には、高学歴な女性が比較的多くいます。また、30代女性は結婚や出産など、今後の人生にかかわるような貴重な経験を多くしています。

企業は面接の質問内容を工夫して、本人の学歴や経歴、そして結婚や出産などで得た「人生経験」を聞いてみてください。ここまで高学歴であったり貴重な経験をしていたりするのか、と驚くはずです。

こうした高学歴な人や経験豊富な人は業務をきちんとこなしてくれることが期待できるため、女性を積極的に採用すると企業の発展につながる可能性があります。

②業務に必要な能力のレベルが高い人も多い

ある業務をこなすためには、そのための能力を身につける必要があります。働き盛りの女性は、その能力をただ持っているだけではなく、レベルが高いことも企業の発展につながる理由のひとつです。

それには普段の生活が関係しています。

例えば、育児中の女性は、子育てや家事、仕事など複数のことを毎日こなしています。どれも効率良く進めていかないといけないことばかりですので、育児経験をしている女性は、それぞれを限られた時間の中でどうこなしていけば良いのかを計画的に考え、体現できるまでが早い傾向があります。

また、小さな命を育てている人は、相手にどう教えていけば伝わりやすいのか、成長につながっていくのかも経験しています。これらは新人研修やマネジメントなどに通ずるところがあり、実際に育児経験のある女性に人材育成を任せたことで良い効果が出た、というケースは少なくありません。

それ以外に、家計を管理していて数字(やりくり)にも強い女性が、財務で貢献しているのもよく見られる事例です。

ちなみに世界では、女性役員の比率が高い企業のほうが、ROE(自己資本利益率)、ROS(売上高利益率)、ROIC(投下資本利益率)などの経営指標がよい傾向にあります。

③企業のイメージアップにつながる

例えば、企業内で取り組まれている女性活躍やダイバーシティーを積極的に発信することで、顧客に対して好印象を与えられます。その結果、販売している商品やサービスを購入したいと思う顧客が増え、売り上げが向上します。

また、女性従業員が働きやすいように労働環境を整備して運用することは、求職者にも良い印象をもたらし、結果として応募数が増えて採用率がアップします。そして女性が働きやすい環境は男性も働きやすい環境であるため、優秀な人材が集まりやすくなります。

このように、働き盛りの女性を雇うことは、いま説明した理由から企業の発展につながります。

ただ、多くの日本企業は、「30代の女性は子育てなどの関係で戦力になりにくい」と考えていて、その重要性に気づいていません。むしろ、彼女たちのことを考えて制度を整えるのが面倒だ、と感じている企業もあります。そのため、労働環境に悩む女性が多くの企業にいるのです。

(2)労働環境や職場の雰囲気が醸成されていない

働く女性を支援する制度として産休・育休・生理休暇などがありますが、前述したように多くの日本企業が女性の生き方(ライフ・ワーク・バランス)を支援する労働環境を整備していないので、そもそも取得しづらいのが現状です。

環境が整備されている企業でも、職場内での理解が進んでいないために休みづらい、時短勤務しづらいなどの雰囲気があり、それと闘っている女性は多くいます。

(3)女性特有のからだのトラブルに対応できていない

女性は、毎月の生理から妊娠、出産、子育て、更年期など、各年代で事情は変わるものの、何らかの事情と両立しながら仕事をしています。生理中でも何食わぬ表情で仕事をしていますが、出血・下腹部痛・腰痛・頭痛・吐き気・冷えなどが一気に襲っています。女性は、丸一カ月、元気で働くことが実は不可能な生き物です。

ただ、現状、それについてきちんと対応できている企業ばかりではありません。

男性が生理や生理諸症状がどんなものなのかを知らないこともそうですが、女性によって症状に個人差があることも大きな要因です。筆者も、女性の同僚や上司に理解してもらえなかった、というトラブルに出くわしたことがあります。

こうしたトラブルに企業がうまく対処できていないことも、休暇の取得しづらさに拍車をかけているといえるでしょう。実際、生理休暇取得率は0.9%となっており(参照:「令和2年度雇用均等基本調査」結果を公表します p.26丨厚生労働省)、生理諸症状がひどい女性にとってはとても過酷な労働環境といっても過言ではありません。

筆者自身、生理の諸症状がひどく、生理の2日目は毎月のように会社を休んでいましたが、生理について理解していない企業が多く、「生理痛なので休みます」と女性特有のからだの症状を伝えづらい日本企業の雰囲気に「腹痛で休みます」と言わざるを得なかったこともあり、これは女性あるあるでもあります。

3.女性活躍社会の実現に向けて取り組むべき企業の三つの対策

いま見てきたように、M字カーブそのものは改善されているように見えるものの、女性が思ったような働き方ができていない現状があります。

ただ、日本では少子高齢化が進み、労働人口が減少して、人材不足が深刻化するといわれています。そのなかで、企業が存続・成長するには、女性が男性と同じように活躍できる環境を実現する必要があるでしょう。

では、女性が活躍できる社会の実現に向けて、企業ではどんな対策をしていけばいいのでしょうか。

(1)働き方の選択肢の拡充

朝から晩まで働くことが、場合によってできなくなるのも女性の特徴でもあります。

まずは休暇制度が当たり前に取得できる環境整備、そして時短勤務、リモートワーク、フレックスなどの選択ができるようにしておくことです。これはダイバーシティーにも応用できますので対策することをおすすめします。

また、社員、パート、業務委託などの選択肢もあると大切な従業員にいつまでも働いてもらうことができて、新たに人材を採用しなくても済みます。

(2)社内に専用個別相談窓口や専門部署の設置

厚生労働省では、仕事と家庭を両立するうえで何か悩みが発生したときに相談できる、専門の個別相談窓口の設置が推奨されています(参照:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内丨厚生労働省)。

従業員一人一人の事情を共有(ディスカッション)する面談があると、休暇制度も取得しやすく、許可も与えやすくなります。

従業員本人にとっては、妊活などは計画的にしています。一方、会社側はそのことを把握していないので、「産休と育休を申請したい」との申し出があると、突然の出来事ととらえ、驚きます。普段から双方で共有しておくことは経営面にとっても、本人にとっても利点があります。

ただ、この共有は、プライベートの内容なのでなかなか本人は言いづらいですし、上司も聞きづらいでしょう。

そこで、女性活躍推進室やダイバーシティー推進室などの専門部署の新設をおすすめします。専門部署は、従業員一人一人と各部署との橋渡し役的存在となり、多くのメリットをもたらします。

(3)女性のからだのしくみや事情を知る勉強会の実施

男女で決定的に違うのは「からだのしくみ」です。よって、休暇制度(生理休暇・産休)が必要です。この休暇制度がなぜ必要なのか、しっかり説明できる人は男女共に多くありません。

生理があると体調や精神はどう変化するのか、妊娠したら何がどう不便になるのか、出産直前や直後の変化、小さな命を抱えての仕事の負担など、まずは、無知をなくす取り組みが必要です。身近に働く女性メンバーの事情を知ることで主体性が持てるようになり、組織全体の労働環境の整備につながるでしょう。

4.女性活躍社会の実現に取り組む企業の事例

ここで、女性活躍社会の実現に取り組む企業の事例を紹介します。

(1)専門部署の新設と外部専門家との連携で応募数アップ

ある企業では、女性従業員のライフ・ワーク・バランス実現のために女性活躍推進室を設けました。

こちらの企業は当初、女性活躍を推進したい現場と経営陣との温度差がありました。そこで女性活躍専門家の外部コンサルタントを活用し、経営陣への説得と満場一致に成功。女性活躍推進室の新設と運営の伴走、休暇制度取得率100%の実現、女性活躍で生じる経営課題や問題などを解決しました。

結果として、求人の応募数の増加、離職率低下、売り上げや利益の増加、安定した経営へとつながっていきました。

(2)女性のからだのしくみを知って、組織内のチーム力が向上

ある企業では、「女性のからだのしくみを知る勉強会」を実施し、第一回は生理のことを男性従業員をメインに全従業員で共有しました。「なぜ生理が起きるのか」から、「生理の諸症状」「生理中、女性はどんな不快なことや苦痛なのか」などを知った男性従業員のみなさんからは、

「もっと早く知りたかった」

「こんなに大変なんだと思った」

「これが毎月なのは本当につらい」

「そういえば振り返ると体調悪そうだった部下がいた」

など、初めて知ることばかりだったという人がほとんどでした。

その後、こちらの企業では次のような労働環境整備や組織内でのコミュニケーション対策を始めました。

①「目の前の女性が生理かもしれない」と、心に留めておく意識

②会議の前(15分ぐらい前)ファシリテーターが必ずトイレに行くようにアナウンス

③会議の時間は1時間以内と決めて長引く場合は必ずトイレ休憩を入れる

④商談などで複数人で外出するときも前後に必ずトイレ時間を設ける

⑤女性従業員から要望を聞く

女性従業員からは、

「働きやすくなった」

「女性には生理があることを把握してくれている行動になって安心、うれしい」

との声が上がりました。

結果、こちらの企業は安心して働ける環境が整い、勤続年数維持や採用率アップにも役立っています。

第二回の勉強会は、まずは子育てに対して知ってもらうことから始まり、妊婦疑似体験など男性や未出産の女性におこなってもらいました。オフィス内の動線の見直しにつながり、現在は休暇制度取得率100%を目指して取り組みを進めています。

5.労働環境整備が最も身近な社会貢献

近年、SDGsを掲げて社会貢献をする素晴らしい企業が増えてきました。

ただ、広く社会に目を向けるよりも身近にできる社会貢献があります。それは「自社の従業員の労働環境整備」です。これは、結果的に男性も働きやすくなり、そしてダイバーシティーの実現にもなります。

まずは目の前の女性従業員への貢献が何より急務となっています。日本の深刻な課題です。一緒に働いているメンバーがいつも健やかに伸び伸びと働けるように社内環境を整備していくことは永続的な経営にもつながります。積極的に「自社の従業員の労働環境整備」を経営戦略に取り入れていきましょう。

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