SDGs ACTION!

生理の貧困とは?本来の意味や問題点を、対策事例とともに専門家が解説

生理の貧困とは?本来の意味や問題点を、対策事例とともに専門家が解説
生理の貧困(Period Poverty)とは(デザイン:吉田咲雪)
ジョコネ。代表取締役/北奈央子

日本では新型コロナウイルスの感染拡大により顕在化した「生理の貧困」ですが、世界ではそれ以前から注目されていました。貧困と聞くと経済的な面のみを捉えがちですが、それだけではなく人としての尊厳や人権に大きく関わる問題です。一緒に理解していきましょう。

著者_北奈央子さん
北奈央子(きた・なおこ)
グローバル医療機器メーカーにて10年以上マーケティングのキャリアを積み、自身の経験から女性のヘルスリテラシーをライフワークに研究、活動を展開。NPO法人女性医療ネットワーク理事、聖路加国際大学大学院にて女性のヘルスリテラシーの研究中。著書:『女性がイキイキと働き続けるためのヘルスリテラシー』(セルバ出版)。早稲田大学理工学部卒業・修了。

1.生理の貧困とは

生理の貧困とは、アメリカ医学女性協会によれば、「生理のための衛生用品や教育、衛生施設、そして廃棄方法に対して十分にアクセスできない状態のこと」です(参照:Period Poverty|アメリカ医学女性協会)。

日本では新型コロナウイルスの感染拡大により顕在化しましたが、海外では2017年、国際NGOプラン・インターナショナルがイギリスでおこなった調査をきっかけに「生理の貧困(Period Poverty)」という言葉が広く知られるようになりました。

(1)世界中で起きている生理の貧困

世界銀行によれば、新型コロナウイルスの感染拡大の前の時点で、すでに世界中で5億人もの女性が生理の貧困に陥っているとされています(参照:Menstrual Hygiene Management Enables Women and Girls to Reach Their Full Potential|The World Bank)。

開発途上国では生理用品が入手できないだけでなく、衛生的なトイレや入浴施設が少なく衛生的な水も不足しているため、身体を清潔に保つことや生理用品の適切な廃棄が難しくなっています。

そしてそれらによって外出自体ができないといったことが起こっているのです。

しかし、生理の貧困は開発途上国だけの問題ではありません。2017年のイギリスの調査によると、14〜21歳の女性のうち、回答者の10%が生理用品を買えなかった経験があり、14%が「生理が始まったときに何が起きたのかわからなかった」と答えています。また、48%が「生理を恥ずかしいと感じている」と答えており、この割合は年齢が低くなるほど高くなっていました。さらに、生理について教師などと抵抗なく話せるのは5人に1人しかいませんでした(参照:Break the barriers: Girls’ experiences of mensturation in the UK p.11|プラン・インターナショナル)。

では日本はどうでしょうか。プラン・インターナショナルが2021年、15~24歳の女性2000人を対象におこなった調査によると、35.9%が生理用品の購入や入手をためらったり、購入できなかったりした経験があると答えています(参照:日本のユース女性の生理をめぐる意識調査結果 p.12|プラン・インターナショナル)。

生理用品の購入や入手をためらう背景には経済的な状況もありますが、それだけではありません。例えばシングルファーザーの家庭では生理のことを父親に言えないかもしれませんし、親と良好な関係ではない子どもは生理自体を親に伝えられず、ひとりで悩んでいる可能性もあります。

また、10人に3人の女性が生理で学校や職場を休んだ、早退したことがあると回答しており、女性の機会損失につながっていることは明らかだといえるでしょう。

(2)特に若者で大きな経済的負担になっている生理用品

前述のプラン・インターナショナルの調査によれば、日本で生理用品を自分で購入しているユース女性は39.6%でした。

自分で支出しているもの
出典:日本のユース女性の生理をめぐる意識調査結果 p.8|プラン・インターナショナル

生理にかける1カ月あたりの費用で多かったのは301~500円が17.5%、501~700円が16.4%。この二つの回答を選んだ女性の53%は学生でしたが、うち34.5%は月収1万円未満であると答えています。

ひと月にかける生理用品購入金額
出典:日本のユース女性の生理をめぐる意識調査結果 p.11|プラン・インターナショナル

この調査には生理痛や低用量ピルの価格は含まれていないため、実際にはもっと負担している女性もいると予想されます。

生理はほとんどすべての女性が経験するものですが、収入の高低にかかわらず生理用品の価格は一律です。健康で衛生的に生きるために必要な生理用品が大きな負担となっているのです。

2.生理の貧困の起こる原因・背景

どうして生理の貧困が起こるのかを考えてみましょう。そこには大きく分けて三つの考え方や事情があります。

(1)生理が恥ずかしいもの、隠すものだという固定観念

日本では生理用品の購入時にレジで不透明な袋に入れられることが多くあります。一見当たり前と感じますが、なぜ隠すのでしょうか。それは社会の風潮として生理を「恥ずかしい」「隠すべき」ものだと捉えられているからです。

この考え方は海外でも見受けられており、イギリスでは上でも触れた通り、14歳から21歳の女性1000人のうち48%が生理を恥ずかしいものだと感じていると回答しています。

アメリカでも同様に恥ずかしいと感じている女性は、13歳から17歳のうち33%います。また、18歳から70歳に調査したところ、オープンに話せると回答をしたのは41%で、話しづらい話題とされる「セックス」「政治」よりも低い割合でした(参照:It's Time to Talk! Menstrual Health & Hygiene in the U.S. Executive Summary|プラン・インターナショナル)。

恥ずかしい、隠すべきものだと感じているということはつまり、生理について話す機会が少なく、正しい知識を十分得られていない可能性があるということです。日本国内の10代の女性を対象とした日本財団の調査によれば、生理について学ぶのは「母親から」が71.6%と多く、次いで「学校や課外活動で」が53.8%という結果があり、家庭が担う部分が大きいのが現状です(参照:18歳意識「第44回調査女性の生理」要約版 p.13|日本財団)。

では現在もっとも学ぶ機会の多い「家庭」ではどのような教え方をしているのでしょうか?

もし母親も生理は恥ずかしい、隠すべきものだという風潮のなかで育ったと仮定すると、生理用品の使い方のみで、生理について前向きに教えていない可能性があります。すると、子どもが正しい知識を得る機会がないため、「生理は隠すべきものだ」と捉えてしまうという負の連鎖が引きおこされます。それによって生理のことを周囲に相談できなくなり、何か困っていても我慢するのみで生理への適切な対処が分からず、生理の貧困を招いていると考えられます。

(2)センシティブで相談しづらい内容であること

生理は恥ずかしいものだという認識は慣習的なものとはいえ、性や身体に関わるセンシティブな内容です。特にシングルファーザーの家庭では、「生理に関して父親と話したことがある」と答えた女性は2割程度にとどまっていることからも、異性の親には相談しにくい話題であることがわかります(参照:株式会社エムティーアイ「父と娘の生理に関する意識調査」|PR TIMES)。

生理の経験を持つ大人の女性が側にいない家庭では、保護者側も何を教えていいかわからないといった状況に陥ります。また、女性の保護者がいたとしても相談できる関係ではない場合やネグレクト、仕事などで保護者が家におらず十分に話せない場合、子ども側も相談を持ちかけることができずにいると考えられます。

(3)新型コロナウイルスの感染拡大による格差の拡大

日本で生理の貧困に注目が集まったきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大による収入格差の拡大でした。特に女性従業員の比率が高い小売業や飲食業、旅行業において失業や大幅な収入減が起き、多くの女性たちが追い込まれました。

また、感染拡大防止のための休校措置や育児施設の閉鎖によって子どもの在宅時間が増加し、親(特に女性)の負担が増え、仕事をセーブしたり休んだりする人も増えました(参照:シリーズ日本経済を考える108 コロナショックと教育・経済格差についての考察 p.75|財務総合政策研究所)。

さらに、シングルマザーを対象とした2020年の調査では、正規雇用者の33.3%、非正規雇用者の52.4%は収入が減少したと回答しており、支払いが困難だったものに「就労に必要な衛生用品」も挙げられています(参照:「新型コロナウイルス 深刻化する母子世帯のくらし~1800人の実態調査・速報~」 p.9、p.19|認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ&シングルマザー調査プロジェクト)。

収入が下がれば、おのずと生理用品にかけられるお金も減ります。このように生理用品を十分に購入できない女性は日本国内でも増えているのです。

3.生理の貧困が注目されている理由

生理の貧困はSDGsのなかでもさまざまなゴールと関係しています。その言葉のとおり目標1「貧困をなくそう」だけでなく、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標3「すべての人に健康と福祉を」、そして目標6「安全な水とトイレを世界中に」にも関わってくる問題であり、今注目を集めています。その理由をみてみましょう。

目標1、3、5、6アイコン

(1)女性や社会の損失につながっているから

生理の貧困は、生理用品が買えないことだけを意味しているわけではありません。十分な生理用品がないため外出を控えたり重要な試験などを休んだりといった、女性の社会進出に対する機会損失も意味しているのです。これは精神的な健康状態にも影響しており、生理用品の購入や入手に苦労したことがある女性は、そうではない女性と比較して、プライベートの予定だけでなく家事や育児に介護、学業、仕事などに影響が出ており、精神的な健康状態も悪い傾向にあることが報告されています(参照:「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」結果概要|厚生労働省)。

それだけでなく、生理の貧困による女性のパフォーマンス低下は、社会経済的にも大きな影響をもたらしています。2013年に日本国内でおこなわれた調査によると、生理の症状によって国内で年間6828億円もの社会経済的な負担が起きていると試算されました。このうち4911億円(71.9%)は生理の症状による仕事のパフォーマンス低下を原因とする労働損失です(参照:Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study. J Med Econ. 2013 Nov;16(11):1255-66.|Tanaka E, Momoeda M, Osuga Y, Rossi B, Nomoto K, Hayakawa M, Kokubo K, Wang EC.)。

生理の症状による社会経済的負担
出典:Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study. J Med Econ. 2013 Nov;16(11):1255-66.|Tanaka E, Momoeda M, Osuga Y, Rossi B, Nomoto K, Hayakawa M, Kokubo K, Wang EC.のデータをもとに筆者作成

SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」には、「5-5 政治や経済や社会のなかで、何かを決めるときに、女性も男性と同じように参加したり、リーダーになったりできるようにする」という項目があります(ターゲットの和訳は日本ユニセフ協会「SDGs CLUB」参照。以下も同様)。この達成のためには、社会全体が生理について理解を深め、女性の機会損失を減らそうと意識することが大切です。

(2)あらゆる社会問題に直結していることがわかったから

新型コロナウイルスの感染拡大により、失業などによる経済格差、ステイホームのストレスなどによる家庭内暴力など、社会のさまざまな問題が明るみに出ました。生理用品を十分に買えないことは、外出控えや不衛生な生理用品の長時間使用、トイレットペーパーなどを生理用品の代わりに使う事態などにつながっています。また、失業や育児のために収入や外出の機会が減った女性は家庭内での立場が弱くなる傾向にあります。自由に使えるお金や時間がなければ生理用品は買えません。そしてその女性に娘がいた場合には同じことがおきてしまうでしょう。

これらはSDGsの目標1「貧困をなくそう」のなかの「1-3 それぞれの国で、人びとの生活を守るためのきちんとした仕組みづくりや対策をおこない、2030年までに、貧しい人や特に弱い立場にいる人たちが十分に守られるようにする」に該当すると考えられます。

(3)衛生的な生活は人の権利だから

生理は身体的に女性として生まれたほとんどすべての人が経験します。言葉のとおりまさに「生理現象」である生理に対して正しい知識や認識、物資がなく、衛生的に対処できないことは、人の尊厳や権利に関わってくるのではないでしょうか。

厚生労働省の調査では生理用品の購入や入手に苦労した際の対処方法として、生理用品の交換頻度を減らしたり、トイレットペーパーなどで代用したりといったことが挙げられており、それによってかぶれやかゆみを感じている女性は7割もいました(参照:「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」結果概要|厚生労働省)。また、開発途上国では植物で代用して感染症になることもあります。

SDGs目標3の「すべての人に健康と福祉を」にも、「3-7 2030年までに、すべての人が、性や子どもを産むことに関して、保健サービスや教育を受け、情報を得られるようにする。国はこれらを国の計画のなかに入れてすすめる」「3-8 すべての人が、お金の心配をすることなく基礎的な保健サービスを受け、値段が安く、かつ質の高い薬を手に入れ、予防接種を受けられるようにする(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)」というターゲットがあります。生理は基礎的な保健サービスとして対処すべき内容であるといえるでしょう。

4.生理の貧困に対する国ごとの取り組み

生理の貧困が話題になり、各国でさまざまな調査がおこなわれました。その結果、世界で多くの取り組みが始まってきています。その一部をご紹介します。

(1)海外の国々の取り組み

イギリスでは、2020年から公立の学校で生理用品の無料配布が開始され、2021年からは生理用品の付加価値税が撤廃されました。基本的な食料品や新聞、子ども用の衣料品など、非課税対象のリストに生理用品が追加されたのです。

フランスやニュージーランドでも学校で生理用品を無償提供しています。このように公的機関での生理用品の無償提供をおこなう国が増えるなか、スペインでは生理休暇に関する法律が2022年に承認されました。生理休暇は日本では以前より法律で定められているものの、ヨーロッパでは初めてとなるようです(参照:The unsanitary truth about period poverty – and what governments can do|WORLD ECONOMIC FORUM)。

(2)日本の取り組み

厚生労働省は2022年2月に生理の貧困に関する全国調査「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」を実施し、国内の現状をまず把握しました。また、全国の自治体では、関連施設や学校などで生理用品を数量限定で無償配布をしているところが多くみられます。

民間でもすでに生理の貧困のために活動している団体もあります。例えば近年注目なのは、オイテルの事業「OiTr(オイテル)」でしょう。トイレに設置された広告付きディスペンサーが、アプリと連携してナプキンを無償で提供してくれるというサービスで、2022年12月現在、商業施設や学校など全国173カ所に2346台設置されています(参照:OiTr|オイテル株式会社)。

また、沖縄の学生チーム「ladybird(レディーバード)」は生理に関する情報発信や調査、生理用品の無償配布、そして生理の日の制定に向けた働きかけをおこなっています。若い女性たちをはじめ、この問題にいち早く気づいた人々は行動を起こしはじめているのです(参照:生理の貧困クラウドファンディング始動|沖縄キリスト教学院大学)。

5.生理の貧困に対して企業や個人にできること

日本では生理の貧困の対策として、政府や自治体をはじめ、さまざまな機関や団体が取り組みをおこなっていますが、まだ十分とはいえません。例えば、自治体では生理用品の配布をおこなっていますが、都道府県によってかなりばらつきがあります(参照:「生理の貧困」ホームページ|内閣府男女共同参画局)。

生理の貧困を解決するためには、企業や私たち個人の協力が不可欠です。では、具体的に何ができるのでしょうか。一緒に考えてみましょう。

(1)企業にできること

生理の貧困に特化しているわけではありませんが、健康経営の観点から生理や女性の健康に取り組む企業も増えています。例えば男性社員や管理職も巻き込んだ女性の健康に関するセミナーの開催、健康について相談しやすい窓口の設置、そして生理休暇の周知などが挙げられます。

生理休暇の取得は日本では法律で定められていますが、取得率(1年間で生理休暇を請求した女性労働者の割合)は1%未満にとどまっています(参照:「令和2年度雇用均等基本調査」結果を公表します ~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~ p.26|厚生労働省)。そもそも制度を知らない女性が多かったり、知っていてもわざわざ生理だと伝えることにためらいを感じたりといったことが理由のようですが、制度があっても機能していなくては意味がありません。

制度を整えたり知識を提供したりすることはもちろん、相談しやすい風土づくりなどをとおして、今ある制度をきちんと機能させていくことも今後の課題です。

(2)わたしたち個人にできること

まずは生理について正しい知識を持つことが大切です。そして個人で何ができるのかを考え、できる範囲で実行してみましょう。

例えば子どもがいる人なら生理について家庭で会話するのも良いでしょう。特に小さい頃であれば先入観もありません。教える際には科学的な事実を客観的に伝えることが大切で、恥ずかしいとか隠すべきといったフィルターをかけないように注意してください。会話が難しければ、絵本や冊子などを用いるのも良いでしょう。

また、異性の保護者であっても女性と同じように取り組んでください。「異性には話しにくい」というのは、わたしたちがつくり上げた先入観です。もし子どもが大きくなっていてどうしても難しい場合には、祖母や友人女性などに相談するのもひとつの手です。

生理の貧困は、多様性が認められる社会に変化する途上で浮き彫りになった問題です。あらゆる人が人間としての尊厳のある人生や生活が送れるような社会にしていくためには、多様な人がいることをひとりひとりが理解し、小さなことであっても声を上げ、できることをしていくのが大切です。

6.生理の貧困をきっかけに誰もが生きやすい社会へ

生理の貧困という言葉を聞くと、生理用品が買えないという経済的な問題だけだと思う人も多いかもしれませんが、そうではありません。その根底には社会の風潮や格差などあらゆる問題が関連しています。

生理は女性であれば誰もが経験するものであり、衛生的かつ快適に過ごすことは人としての尊厳や権利にもつながる問題です。多様性が認められ始めている今こそ、知識を深めて小さなことでも声を上げるのが大切です。

そうすることで誰もが自分の健康を適切に維持ができ、ウェルネスを求められるような社会を実現できるのではないでしょうか。

この記事をシェア
関連記事