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EdTech(エドテック)とは?意味や具体例、注目される理由を紹介

EdTech(エドテック)とは?意味や具体例、注目される理由を紹介
EdTech(エドテック)の意味と注目の理由(デザイン:吉田咲雪)
atama+ EdTech研究所上席研究員/森本典生

EdTechは「科学技術(Technology)を活用した教育(Education)」のことです。科学技術の発展により、学び方は変化し始めています。この記事では、EdTechの基本的な内容、指導事例、データからわかることを整理し、指導者・学習者が意識したいことをご紹介します。

著者_森本典生さん
森本典生(もりもと・のりお)
atama+ EdTech研究所上席研究員。2009年東北大学経済学部経営学科卒業後、株式会社ベネッセコーポレーションに入社。学校・大学向け事業のエリアマネージャーなどを歴任。教師、講師、生徒、保護者への研修や講演は延べ2000回以上。青山学院大学・情報システムアーキテクト育成プログラム修了。2020年4月にatama plus株式会社へ入社し、atama+ EdTech研究所の企画全般、研修や講演を担当している。

1.EdTech(エドテック)とは

EdTechとは、教育を表す「Education」と、科学技術を表す「Technology」を合わせた造語です。「科学技術(AI〈人工知能〉やビッグデータなど)を使った教育」という意味で、「科学技術を教える教育」という意味ではありません。

EdTechには、いわゆる教材から学習プラットフォームや学習管理ツールまで幅広い種類があります。学習者、指導者の両方にメリットがあることから、学習塾、学校、通信教育などのさまざまな教育現場において、EdTechの活用が増えています。

EdTechの提供はインターネットを通じておこなわれますので、グローバル展開も従来に比べてしやすいことも特徴です。グローバル化が進む現代において、語学や科学などの学習ニーズは高まる一方です。EdTech市場はサービスの分野が幅広いことから、従来の教育事業に比べて経済的規模が大きいことも注目されている理由の一つです。

2.EdTechが注目されている理由

EdTechが教育業界内で注目されている最大の理由は「学習者にメリットがあるから」です。以下で詳しくご説明します。

(1)学習者一人ひとり、習得するまで学習できる

学習者一人ひとりが、ある単元を理解できるまでの時間は異なります。筆者が所属するatama+ EdTech研究所で習得までにかかる時間を調査した結果では、習得が速い生徒とゆっくりな生徒で習得にかかる時間には約5倍の開きがあることがわかっています(参照:習得にかかる時間には5倍の開き! “習得時間のばらつき” 英語編丨atama+ EdTech研究所)。

しかし、日本のほとんどの教育機関では授業カリキュラムが決まっていますので、それに基づいて指導すると、どうしても時間が余ってしまう生徒も、最後まで理解できない生徒も発生してしまいます。また、理解できなかったときも「授業内容の宿題」や「授業内容の復習」だけでは不十分です。

人が何かを習得する際、必ずその学習をするために必要になる土台知識があります。例えば、小学6年生で「おうぎ形の面積」を学習します。ここを学習するためには「円の面積」「小数の掛け算・割り算」を理解していなければいけません。

しかし、atama+ EdTech研究所で中学生のつまずきについて調査した結果、中学生の78%が前学年以前のどこかの単元につまずきを抱えていることがわかっています。そして、そのつまずきは一人ひとり異なるのです(参照:学習データで探る生徒の実態「中学生が抱える “つまずき” 数学編丨atama+ EdTech研究所)。

このように、一人ひとりが学習すべき内容が異なるなか、EdTechを使うと個別最適化された学習がリコメンドされます。自分のつまずきはなかなか自分では発見できませんし、把握できても適切な難易度の教材を選択することは容易ではありません。EdTechはつまずきの発見とその後の学習内容のリコメンドの両方をおこなうことができるので、一人ひとりが完璧に習得するまで学習できます。これが一つ目の理由です。

(2)先に進める人はどんどん先に進める

一方、理解が早い学習者もいます。atama+ EdTech研究所で先取りについて調査した結果、AIを用いた学習システム「atama+」を使って学習している小学生のうち5人に1人が、上の学年の内容を理解していることがわかっています(参照:学習データで探る生徒の実態 ”もっと先に、もっと深く進むことができる” 中学生 数学編 ❘ atama+ EdTech研究所)。

学習が早い場合、悩むことはないと思われがちですが、そんなことはありません。すぐにわかってしまうことで周りとの違いを感じたり、別の内容を学習したいのにその内容を質問すると場の空気に合わないと悩んだりしています。せっかく高い理解力を持っているのに「勉強は面白くない」となってしまうのです。

文部科学省もこの問題を解決すべく、2023年度予算案で、特異な才能のある子どもの支援に向け8000万円を計上しました。その背景となる審議は、「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 審議のまとめ」に掲載されています。

本来、学習には学年による境界はありませんので、EdTechを使えばどんどん進むことができます。図形・仮定法・植物・天体・プログラミング・プレゼンテーションなど、学習者が学びたい分野を自由に選択できます。学びたい内容を学ぶことができること、これが二つ目の理由です。

(3)思考力や主体性を養う学びを実現できる

現代は、「生きる力」として知識を獲得することだけではなく、思考力や主体性なども大切だと言われています(参考:育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び丨文部科学省)。

これらを養うためにもEdTechが活躍しています。EdTechを使うと教室内にいるすべての学習者の意見を簡単に一覧化したり、自分の考えを瞬時に全体に共有したりできます。従来の学習では実現できなかったような授業をEdTechが可能にしました。これが三つ目の理由です。

(4)時間や場所の制約がなくなる

これまでの授業は、教える側と学習者が同じ空間に、同じタイミングでいることが必要でしたが、EdTechを活用することで遠くにいる先生や仲間と一緒に学ぶことができるようになりました。コロナ禍を契機にオンライン授業やオンラインでのグループ学習など、新しい学習スタイルが広がりを見せています。

一人で学習する方法も大きく変わりました。机に向かって教科書や参考書を用いて学習するのではなく、スマートフォンやタブレットがあれば、好きな場所ですきま時間を使って効率的に学べるようになりました。

このように、学習者が時間や場所の制約を受けることなく、それぞれのスタイルや状況に合わせた学びができることが四つ目の理由です。

3.EdTechで教育はどうなる?代表的な三つの変化例

このように学習者にとってのメリットがあるEdTechですが、各教育機関において具体的にどのような変化をもたらしているのでしょうか。学校、大学・社会人教育、塾に分けてご紹介します。

(1)学校(日本の小中高)の変化

日本の小学校・中学校・高校においては、学習指導要領で定められた学習内容を進級・卒業までに終える必要があり、各学年や各学期におけるカリキュラム、授業内容が決められているケースがほとんどです。また、教科ごとに評定をつけたり、生徒が学習する範囲を統一したりする必要もあります。

そのため、個別最適化学習が学校の授業内で展開されるには、まだハードルがあると言えるでしょう。

一方、決められた学習内容をどのように生徒にわかりやすく教えるか、思考力や主体性を身につけるためにはどうしたらよいか、という視点で、EdTechを活用している事例が増えています。

例えばロイロノートというサービスでは、生徒がデバイス上で思考を整理したものを全員に開示したり、生徒が特定のグループ内で回答を共有して教え合えたりできます(参照:ロイロノート スクール)。

(2)大学・社会人教育の変化

大学や社会人の学びも変化しています。例えばJMOOCというサービスでは、入試倍率の高い人気大学や有名企業が質の高いオンライン講座を無料で提供しています(参照:JMOOC)。

このように近年のEdTechの発展によって、学ぶ意欲さえあれば、時間や場所を学ぶことができる環境が飛躍的に拡大しています。社会人のリスキリングへの機運の高まりもあり、ますます活発になることが見込まれる分野です。

(3)塾の変化

塾における指導も変化しています。これまでは指導者が担ってきた授業などの教科指導をEdTechが担うことで、指導者は学習方法の指導やモチベーション維持に注⼒でき、生徒それぞれの特性に合わせた最適な学習が可能になります。EdTechを導入してからこの点に注力して指導をおこなった塾では、2年間で合格実績を大きく伸ばすことができたという事例も出ています(参照:教育最前線 – 国内の塾におけるEdTechの価値事例「練成会グループ 3.14コミュニティ」編丨atama+ EdTech研究所)。

4.EdTech普及のために国がおこなっている取り組み

EdTechに関しては、国も普及のためにさまざまな取り組みをおこなっています。代表的なものを二つご紹介します。

(1)文部科学省:GIGAスクール構想

GIGAスクール構想は、「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人一人に公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる教育」のために1人1台端末と教育ICT環境を実現し、指導方法も転換していこうという取り組みです。2019年度の補正予算から環境整備が開始されました(参照:GIGAスクール構想の実現へ丨文部科学省)。

ただ、2022年4月に文部科学省がおこなった調査によると、1人1台端末の利活用状況は地域や学校によって大きく異なります。これについて文部科学省は、「教育の機会均等の観点からも早急に是正する必要がある」と指摘しています(参照:1人1台端末の利活用促進に向けた取組について(通知)p.1丨文部科学省)。

(2)経済産業省:未来の教室

未来の教室は、経済産業省が文部科学省のGIGAスクール構想を中心に、新しい学習指導要領のもとで、1人1台端末とさまざまなEdTechを活用した新しい学びを実証するため、2018年度からおこなっている事業です。「学びのSTEAM化(注)」「学びの自律化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」の三つを柱に、全国の学校などで多岐にわたる実証実験がおこなわれています(参照:未来の教室ってなに?丨経済産業省)。

(注)STEAMとは、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学・ものづくり)・Art(芸術や文化、生活、経済など)・Mathematics(数学)を組み合わせた言葉です。従来の教科ごとに分けて知識を習得するものではなく、さまざまな分野を横断的に学びながら総合的な知識を習得することを促す概念であり、これからの時代を生き抜くのに必要な知識を身につけられるとして教育現場で注目されています。

5.EdTechの課題

ここまでさまざまなメリットや取り組みを見てきましたが、もちろん課題もあります。

例えば、EdTechを使えば、簡単に学習成果が高くなるというものではなく、学習行動によって結果に差が出てしまいます。実際、学習頻度が低かったり、学習方法が悪かったりすることによって学習成果が限定的になってしまったという結果も出ています。atama+ EdTech研究所で学習姿勢と正解率について調査した結果、学習姿勢が良い生徒ほど正解率が高いこともわかっています(参照:学習姿勢に関する実態 中学&高校生編丨atama+ EdTech研究所)。

ただ、これまでの学習方法ではこういった検証も難しかったのに対し、EdTechではデータによって学習者の行動を分析し、ツールや指導方法を改善していくことが可能です。EdTechのさらなる普及にとっては、EdTechツール自体とそれを使った指導方法の両面を発展させていくことが、必要不可欠と言えるでしょう。

6.未来の学習者のために

「授業についていけずに学習を諦めてしまった」「知りたい内容を学習できずに勉強が嫌いになってしまった」「正しい学習方法を取れずに成績が伸びない」「社会人になってからの学び方がわからない」など、学習者は多種多様な課題を有しています。

EdTechを使っていくことで、一人ひとりにとって最適な学びが提供されていき、多くの学習者にとって成長速度が加速するはずです。

そして、学んだ学習者がどのように成長していくのか、そのデータの蓄積によって、EdTech自体も進化し、より良い学習方法も発見されていくことでしょう。EdTechの広がりは、学習における人類の進化であり、未来の子どもたちに残せる大きな財産になっていくはずです。

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