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COP15の成果と、参加した大学生の声 ビジネスパーソンのためのSDGs講座【21】

COP15の成果と、参加した大学生の声 ビジネスパーソンのためのSDGs講座【21】
横田アソシエイツ代表取締役/横田浩一

著者_横田浩一さん
横田浩一(よこた・こういち)
慶応義塾大大学院特任教授。一般社団法人アンカー代表理事。企業のブランディング、マーケティング、SDGsなどのコンサルタントを務め、地方創生や高校のSDGs教育にも携わる。岩手県釜石市地方創生アドバイザー、セブン銀行SDGsアドバイザー。共著に「SDGsの本質」「ソーシャルインパクト」など多数。

2022年12月に開かれたCOP15により、2030年までに陸や海の30%以上を保全する「30by30」や企業・金融の生物多様性の取り組みの開示が方向付けられた。今後企業における自然資本への取り組みが進むことが予想される。今回ユースとして参加した大学生に若者目線での感想を聞いた。

COP15とは

2022年12月、国連生物多様性条約(CBD、注1)第15回締約国会議(COP15)がカナダ・モントリオールで開かれ、2030年までのグローバル目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組み(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework)が決議された。これにより政府、自治体はもちろん、企業の自然資本や生物多様性保全のための取り組みが進むことが期待される。

(注1)国連生物多様性条約(CBD):1992年にブラジルで開かれた国連環境開発会議で採択された環境条約。同年採択の気候変動枠組み条約と合わせて「双子の条約」と呼ばれる。生物多様性の保全、生物多様性の持続的な利用、遺伝資源が生みだした利益を公平に配分することを目的に掲げる。締約国は196カ国・地域。米国は批准していない。

2010年に名古屋で開催されたCOP10で採択された愛知目標は、2011~2020年までの目標として定められ、化学肥料の使用減、外来種の抑制など20の目標からなる。しかし、この目標はいずれも達成できておらず、生物多様性損失への対応はまったなしだ。

本来2020年に中国・昆明で開かれ次の10年の目標を決めるはずであった会議は、コロナ禍の影響で2年遅れ、モントリオールでの開催になった。結果として4年間議論することになった今回の枠組みは、少なくとも2030年までに生物多様性の損失を逆転させて回復させるというネイチャー・ポジティブの考えが取り入れられた。

各国が新たな枠組みを踏まえた国家戦略を2年後に開催されるCOP16までに策定し、4年後のCOP17までに実施状況を報告する。

情報開示が企業の課題に

新しい枠組みの特徴の一つは、企業や金融に対し、生物多様性についての取り組みや環境負荷の情報開示を求めていることだ。各国政府は2030年までに情報開示を推進するような施策を実施する。義務や罰則はないが、資本市場の要請や規制により実質的な強制力が働くだろう。

ESG投資の開示基準をつくる国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、気候変動の次の重要なテーマとして生物多様性、人的資本、人権を挙げた。COP15にあわせてこれを発表したことは、生物多様性が重要だというメッセージだろう。

また生物多様性など自然資本に関する開示枠組みであるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース、注2)もこの流れを後押しする。この枠組みはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様、東京証券取引所プライム市場の上場企業に義務化される可能性もある。

(注2)TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース。金融機関や企業に対し、自然資本および生物多様性の観点からの事業機会とリスクの情報開示を求める、国際的なイニシアチブ。2021年に発足。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の生物多様性版。

自然資本とは、生物多様性や陸・海の自然は経済活動の基礎でありこのような天然資源のことを指す。長年、これは無償と見なされてきたが、もはや地球が再生できないほどのスピードで自然が消化されている。企業の自然資本や生物多様性に対する取り組みおよびその情報開示に対する資本市場の要請が一層進むことが予想される。

昆明・モントリオール生物多様性枠組みの構造
昆明・モントリオール生物多様性枠組みの構造(環境省資料より筆者作成)

「30by30」とOECM

また、ターゲット3に「30by30」と呼ばれる数値目標が盛り込まれた。陸および海域のうち少なくとも30%以上、特に生物多様性と生態系サービスの提供に重要な地域が、効果的かつ公平に管理されて、生態学的につながりのある保護エリアのシステムや地域においての保全、そしてより広く景観に統合されることを目標とする。

日本においては国立公園などとして陸の20.5%、海域の13.3%を保護している。残りの目標を達成するために重要なのはOECMだ。

OECMとは、Other Effective area-based Conservation Measures(その他の効果的な地域をベースとする手段)の頭文字。これは2010年、名古屋でのCOP10において提案された。自然保護地域ではないが、自然に対して人間が営みながらも効果的な森林や生物多様性の保全がおこなわれている場だ。

たとえば日本においては里山のイメージだ。民間が持つ山林の間に集落があり共生している。また、鎮守の森や企業緑地、大学演習林なども代表例として挙げられる。そのような場所において「保全されているという結果」を持つところがOECMの対象となる。

単に保護区を拡大するだけでは、30by30は達成不可能だ。人間活動や土地開発が厳格に制限される保護地域を広げることについては反発が予想される。OECMの認定には、保全と様々な土地利用との両立を図るという意味がある。環境省は、企業が管理する土地のうち、生物多様性の保全に貢献している森林などを認定する方針だ。今後、日本においてどのようにOECMを認定し、広げていくかが課題となる。

OECMの概念図
OECMの概念図(環境省資料を参考に筆者作成)

「政府と企業の対話が必要」

この会議には世界中から多くの若者が参加していた。グローバル・ユース・バイオダイバーシティ・ネットワークという団体に登録している若者だけでもかなり多く、各国の代表団との同行者を加えると多くのユースが参加した。日本のユースとして参加した吉川愛梨沙さん(生物多様性わかものネットワーク副代表、東京農工大学農学部地域生態システム学科2年)に、若者視点でどう感じたかについて聞いた。

「ケニアで開かれたプレ会議にも参加してきましたが、今回の合意は期待をもって良いと思います。いままで4年もかけてこの目標について議論してきました。最終的には野心的な目標ができたと感じています。ビジネス、金融の話やDSI(注3)も盛り込まれましたし、30by30もキャッチーで良いと思います。

この枠組みができたことの効果は大きく、特に国家戦略、地域戦略の指標ができたのが大きい。ただし、これを実現できるか、あるいは努力できるかは、企業など多くのアクターを巻き込んでいけるかにかかっています。

そのためには政府と企業などの対話と理解促進が必要だと考えています。今回のCOPは前回に比べてビジネスセクターの人の参加が多いと言われていますし、実際多くの方が参加していました。その人たちに期待したい」

(注3)DSI:デジタル化された遺伝情報。COP15 においてこれを使って得た利益を公平に配分する国際的な仕組みを作ることも合意した。生物の遺伝資源そのものではなく、解析したゲノム情報をデジタル化したものを指す。

吉川愛梨沙さん
COP15にユースとして参加した吉川愛梨沙さん(本人撮影)

また、何が印象に残ったかについては、こう語ってくれた。

「先住民の人権および文化保護と生物多様性の議論がおこなわれていました。彼ら彼女らは保護地域の中で生活しています。保護地域については生活を保障したうえでの保全になる。ボリビア、ナミビア、ブラジル、アルゼンチン、コンゴ共和国などの国が積極的に発言していたのが印象的でした。

先住民・地域コミュニティ(IPLC、注4)は多くのターゲットの議論の中で触れられていてホットイシューでした。また、サイドブースでは、データ提供のサービスに関する展示が目立ちました。気候変動に比べて、生物多様性はCO2(二酸化炭素)排出量のような明快な基準がない。どのようなデータで目標の達成度を測っていくのかについて関係者の興味が大きかったように感じました。

サイドイベントは、各国が危機を訴えたり、イケアがサステナビリティに関する事業について伝えたりするなど、良い展示やイベントが多かったのですが、日本関連についてはあまり上手ではなかったことが残念でした」

(注4)先住民・地域コミュニティー(IPLC): Indigenous Peoples and Local Communitiesの略。先住民はある土地に長い間住み着いている人間の集団。最近ではその自己認識も含む。地域コミュニティーはもう少し広くとらえて、ある地域に住んでいる集団のこと。30by30の地域指定において自然保全、天然資源の活用などとどのように共生していくかなどが課題。

「世界の人々の努力、活動のはげみに」

「最終日は4年間の努力をたたえあって終わり、感動的なムードでした。本当にこの世界目標が実施される世の中であってほしいと心の底から思います。日本では生物多様性が気候変動ほど注目されていないなかで、世界には自然保護や生物多様性に熱心に取り組む人たちがいました。自分の活動の今後のはげみになります。

グローバル・ユース・バイオダイバーシティ・ネットワークでは、各会議に入っているメンバーからどこの国の代表がこのような素晴らしいことを言ったとか、ネガティブな発言があったということをすべて共有しています。彼らの感じたことや発言をこれからに生かすべきだし、生かされる構図にしていきたい」

会議に参加したユース
会議に参加したユース(吉川愛梨沙さん提供)

今回のCOP15において高い目標は作ることができたが、実際にそれをどう実行するかが課題だ。気候変動におけるCO2排出量のようなわかりやすい指標がないなど、課題は多い。しかし日本国内においても政府、自治体はもちろん、企業や若者など多くのアクターの理解促進と積極的な行動に期待したい。

会議最終日、合意に喜ぶ議長やCBD事務局メンバー
会議最終日、合意に喜ぶ議長やCBD事務局メンバー(吉川愛梨沙さん撮影)
アントニオ・グテーレス国連事務総長による会見
アントニオ・グテーレス国連事務総長による会見(吉川愛梨沙さん撮影)
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