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30by30とは?「自然と共生する世界」に向けての必要な取り組み

30by30とは?「自然と共生する世界」に向けての必要な取り組み
30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは(デザイン:吉田咲雪)
JINENN代表取締役社長/宮本育昌

地球の自然は劣化の一途をたどっています。それを食い止め、自然をより豊かにしていくためには、何をすれば良いのでしょうか? その有力な取り組みとして期待されているのが「30by30」です。この記事では、30by30の意味や経緯、期待される効果などについてご紹介します。

著者_宮本育昌さん
宮本育昌(みやもと・やすあき)
JINENN代表取締役社長。メーカー本社サステナビリティ部門での十数年の経験と、30年以上の生物多様性関連NGOでの活動経験を生かし、2021年3月に独立。2023年1月に株式会社JINENNを設立し、代表取締役社長に就任。生物多様性保全・気候危機対策などの環境課題や関連する社会課題についての国際動向調査およびその対策に関するアドバイザリーを提供している。

1.30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは

30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは、2030年までに地球の陸・海それぞれの30%の面積を保全する、という目標のことです。これは、効果的に自然の劣化を防ぐには、まずは自然が適切に保全されている場所を一定面積以上、維持することが必要だという考え方に基づいています。

30by30は、科学的データに基づき国際的な議論がなされたあと、イギリス・コーンウォールで2021年6月に開催されたG7サミットで合意された「G7・2030年自然協約」、そしてカナダ・モントリオールで2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明―モントリオール生物多様性世界枠組み」の目標3に記載されました。

また、2023年3月に閣議決定された新しい生物多様性国家戦略(生物多様性国家戦略 2023-2030)にも、30by30が達成すべき目標の一つとして盛り込まれています。

2.30by30が実現されると何が変わる?

30by30が実現されると、自然の良い状態が確保され、そのめぐみを得て人々が豊かに生きていけるようになることにつながります。

自然は、人の食べ物となる動植物を育み、人が生きていくために不可欠であるきれいな空気やきれいな水などを供給し、空気や水の循環に関与して気象を調整し、さらには美しい景観や芸術の元となるなどの文化的な価値も含め、さまざまなめぐみを提供しています。30by30は、その「自然のめぐみ」を維持するために必要な目標なのです。

3.30by30にまつわるこれまでの議論

「自然のめぐみ」を得るために、どの程度の面積を保全したらいいのか、という議論はこれまでも世界で多くなされてきました。主なものを時系列順にご紹介します。

(1)2010年:生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)

生物多様性条約締約国会議(COP)とは、国際条約を結んだ国が集まり、生物多様性に関する話し合いをおこなう会議です。

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は、2010年10月に名古屋で開催されました。そこで採択された愛知目標の目標11が「自然のめぐみ」を得るための保全面積に関して決めたものです。具体的には、2020年までに「少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%」の保全の達成を目指すことが定められました(参照:愛知目標〈20の個別目標〉丨環境省)。

(2)2015年:SDGs(持続可能な開発目標)

SDGs(持続可能な開発目標)とは、国連によって2015年に採択された、持続可能な世界のために、2030年に達成しなければならない17の目標と169のターゲットをまとめたものです。

SDGsの生物多様性に関するターゲット群は、愛知目標と整合する形で設定されました。目標14「海の豊かさを守ろう」のなかにあるターゲット14.5には「少なくとも沿岸域及び海域の10%を保全」、目標15「陸の豊かさも守ろう」のなかにあるターゲット15.1には「陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保」と記載されています。

SDGs目標14、15アイコン

(3)2021年1月:自然と人々のための高い野心連合

2021年1月のOne Planet Summitにおいて、コスタリカ・フランスが共同議長を務める「自然と人々のための高い野心連合」が設立され、日本も参加しました。その主張「少なくとも陸と海の30%を保護する」は「30x30」とも記載され、これが30by30という表記の原型となりました。なお、当初約50カ国で設立されましたが、現在は共同議長にイギリスを加え、100カ国以上が参加しています。

(4)2021年6月:G7サミット

G7サミットとは、日本やアメリカを含む七つの先進国の首脳と、EU(欧州連合)の理事会議長などが集まる国際会議です。2021年6月に開催されたG7サミットで合意されたG7・2030年自然協約には「2030年までに世界の陸地の少なくとも30%及び世界の海洋の少なくとも30%を保全、または保護するための新たな世界目標を支持」と記載されています(参照:G7・2030年自然協約 p.4丨外務省)。

(5)2022年12月:生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)

カナダ・モントリオールで2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、愛知目標の次の目標として、昆明―モントリオール生物多様性世界枠組みが採択されました。目標3には2030年までに「陸域、陸水域並びに沿岸域及び海域の少なくとも30%」の保全の達成、すなわち30by30を目指すことが定められています(参照:Convention on Biological Diversity p.9丨CBD Secretariat)。

4.30by30に対する日本の現状

日本では、愛知目標の最終年である2020年までに、「陸域及び内水域の20.5%」「沿岸域及び海域の13.3%」が保護地域に指定され、愛知目標で掲げられていた目標11「少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%」が達成されています(参照:30by30目標が目指すもの丨環境省)。

保護地域としては、陸域及び内陸水域については自然保護地域、自然環境保全地域、鳥獣保護区、生息地等保護区、保護林、緑の回廊が、海洋保護区としては、自然公園、自然環境保全地域、沖合海底自然環境保全地域、鳥獣保護区、保護水面、共同漁業権区域、指定海域、沿岸水産資源開発区域などが含まれています。

このなかには法律で定められた「保護区」だけでなく、民間の自主的取り組みにより自然が保全されている場所も含まれています。後者は生物多様性条約などにおいて「OECM(Other Effective Conservation Measure:その他の効果的な保全手段)」と呼ばれています。

ただ、上記の数字を見てわかるとおり、日本は愛知目標の目標11を達成してはいるものの、30by30を達成するにはまだ努力が必要な状況です。そこで、次に紹介するように、日本では「30by30ロードマップ」という30by30を達成するための道筋を策定しています。

5.日本は達成のために30by30ロードマップを策定 その内容は?

日本は、G7・2030年自然協約や、昆明―モントリオール生物多様性世界枠組みのドラフト「ポスト2020年生物多様性枠組み」における30by30の議論を踏まえ、環境省を中心に検討を進め、30by30の国内での達成に向けたロードマップを2022年3月に策定しました。その主要な取り組みをいくつかご紹介します。

(1)OECMの設定・管理

30by30ロードマップでは、30by30目標を主にOECMにより達成を目指すことが記されています。その推進のため、日本におけるOECMを国が「自然共生サイト」として認定する仕組みを設け、2023年には全国100地域以上を先行して認定し、その後さらに拡大していくことが記されています。

2022年度の試行事業では、企業緑地などの数十カ所が「認定相当」に選定されています。自然共生サイトの正式運用は2023年4月からとなる予定です。

(2)「生物多様性のための30by30アライアンス」の発足

30by30ロードマップを実効的に進めていくための有志連合として、ロードマップ発表と同時に「生物多様性のための30by30アライアンス」が発足しました。

発起人は、環境省に加えて、ビジネス団体(日本経済団体連合会、企業と生物多様性イニシアチブなど)、NPO(国際自然保護連合日本委員会、コンサベーション・インターナショナル・ジャパン、世界自然保護基金ジャパンなど)、研究機関(国立環境研究所)など産官民17団体であり、2023年3月15日時点で企業209団体、自治体37団体、NPO等113団体、個人41人、コアメンバー21団体にまで拡大しています。

(3)生物多様性の重要性や保全活動の効果の「見える化」

自然のめぐみを適切に維持・向上するためには、30by30が目標に掲げている面積を達成するだけでなく、保全の質を確保する必要があります。そのため国は、すでに得られている生物多様性情報に加えて、デジタル技術を活用した広域調査を行い、生物多様性の重要性や保全活動の効果を2024年を目途にマップとして「見える化」して提供する予定です。

(4)脱炭素、循環経済、有機農業、都市緑化などの取り組みとの連携

自然を維持・向上していくためには、まず自然の劣化を食い止める必要があります。そのためには、自然と表裏一体である気候変動や、海洋プラスチック汚染などの環境問題に対処する活動との連携が欠かせません。また、自然保全がなされている自然共生サイトだけでなく、里地里山での有機農業をはじめとした人がなりわいを営んできた場所や、都市における緑化などについても考慮する必要があります。

30by30ロードマップにおいては、自然共生サイトの管理者などに対して、これらの適切な連携に向けた情報発信が行われる予定です。

6.30by30達成に向けて求められていること

30by30ロードマップは、あくまでも国が30by30達成に向けて示した道筋です。その達成には、私たちの意識の向上や実際の行動が不可欠です。最後に、それぞれに期待されている役割をご紹介します。

(1)個人に対して期待される役割

30by30ロードマップには「国民は、一人ひとりが持続可能で生物多様性に配慮した生産活動への理解を深め、配慮型消費行動や生物多様性に関連した寄付、地域で行われる各種生態系の質を高める取組への積極的参加等により、30by30目標達成に貢献する」と記載されています。

具体的には、「有機野菜を購入する」「生物多様性に配慮して作られた農作物を購入する」「生物多様性保全に取り組んでいるNPOに寄付する」「里山整備活動に参加する」「地域のゴミ拾いに参加する」「省エネに取り組む」などが挙げられます。

(2)企業に対して期待される役割

企業には、管理地の自然共生サイトへの登録、事業活動における保護地域・OECMの保全への貢献、消費者への環境配慮型消費の啓発が期待されています。

具体的には、「国内からの農産品調達において、有機野菜や生物多様性に配慮された農産品を積極的に選ぶ」「生物多様性に配慮した商品であることを積極的にPRする」などが挙げられます。

また、金融には、サステナブルファイナンスの推進が期待されています。

(3)研究機関などに対して期待される役割

研究者には、主に5(3)でご紹介した「生物多様性の重要性や保全活動の効果の“見える化”」への貢献が期待されています。具体的には、衛星データのAI解析や環境DNAの活用による生物多様性の分布情報をマッピングするなどが挙げられます。

7.「自然と共生する世界」に向けて

昆明―モントリオール生物多様性世界枠組みでは、2050年のビジョンとして、愛知目標を踏襲した形で「自然と共生する世界(Living in Harmony with Nature)」が掲げられています。30by30は、その到達点に向けた重要な一里塚です。

愛知目標にあった20の目標のうち、日本は目標11は達成したものの、多くのものが未達でした。同じ失敗を繰り返さないために、30by30、そしてそれを含めた昆明―モントリオール生物多様性世界枠組みの達成に向けて、あらゆる組織・個人の力を結集して取り組んでいきましょう。

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