【4/4は養子の日】養子縁組と里親制度、違いは? 課題は? 日本財団の担当者に聞く

さまざまな事情で生みの親と暮らせない子どもに温かい家庭環境を提供するために、養子縁組や里親といった制度がある。ただ、日本ではまだ十分に利用されていないのが実情だ。4月4日の「養子の日」に合わせ、養子縁組と里親制度の違いや意義、課題を、普及に取り組む日本財団の高橋恵里子・公益事業部長に聞いた。(聞き手 副編集長・竹山栄太郎)
高橋恵里子(たかはし・えりこ)
上智大学卒、ニューヨーク州立大学修士課程修了。1997年から日本財団で海外の障害者支援や国内助成事業に携わり、2013年に日本財団「ハッピーゆりかごプロジェクト」(現:子どもたちに家庭をプロジェクト)を立ち上げる。特別養子縁組や里親制度の推進、子育てに困難を抱える家庭への支援、難病児支援などを担当している。
家庭的な環境を提供するための制度
――養子縁組や里親制度が必要とされる背景を教えてください。
養子縁組や里親制度は、子どもたちに家庭的な環境を提供するための制度です。日本には、虐待や親の病気などさまざまな理由で生みの親と暮らせない子どもが約4万2000人います。そういった子どもが温かい家庭で育てるようにすることは非常に重要です。子どもの権利条約でも、子どもが家庭で育つことを「子どもの権利」として認めていますし、国際的な目標にもなっています。
日本ではそのような子どもの約8割が、児童養護施設や乳児院などの施設で生活しており、あとの約2割が里親家庭やファミリーホームで暮らしています。施設の職員は、もちろん一生懸命に子どもと接しているのですが、やはり子どもにとっては家庭的な環境のほうが望ましいと言われています。
施設では、門限や入浴の時間が決まっているなど自由の少ない生活を送らざるを得ないのに加え、一定期間が経つと職員が交代するため、自分に起きたできごとを覚えていてくれる人がいない、18歳で施設を出た後に頼れる大人がいない、ということがあります。いつも自分を思ってくれる親がいる環境とは、まったく違うのではないでしょうか。
国際的なガイドライン(子どもの代替養育に関するガイドライン)には、まずは生みの親と暮らす努力をし、それが難しければ養子縁組などの「パーマネンシー(恒久的)」な家庭、それでも難しければ里親家庭や施設などの代替的な養育をすべきだと定められています。
――養子縁組と里親制度にはどんな違いがあるのでしょうか。
里親制度は、子どもを一定期間預かって育てる制度です。里親は親権を持たず、子どもとの間に法律的な親子関係はありません。子どもを育てている間、国からは月9万円の手当と生活費の補助があります。一定期間の後、子どもが生みの親の元に帰るケースもあります。
それに対して養子縁組は、法律上の親子関係ができる点で里親とは大きく違います。日本には普通養子縁組と特別養子縁組という制度があります。特別養子縁組は特に保護を必要とする子どものための制度で、基本的に生涯ずっと、法律上の親子関係ができます。普通養子縁組は、再婚や跡取りがいないなどの事情でおこなわれることが多いです。
養子縁組と里親制度、どちらがよいかは子どもによって異なり、児童相談所が、どちらがその子にとってふさわしいかを考えます。

日本の里親委託率は約2割
――日本の現状はいかがですか。
社会的養護を必要とする子どもたちのなかで、里親に預けられる子の割合は少しずつ増えていて、この10年ほどで約1割から約2割に上昇しました(2020年度末で22.8%)。ただ、地域差がすごく大きく、うまくいっている自治体は、行政と児童相談所、民間の養子縁組団体の協力が奏功しています。特別養子縁組も、10年ほど前は年間300件台だったのが、近年は700件前後にまで増えています。ただ、いずれも欧米に比べるとまだまだ少ないのが現状です。
2016年に児童福祉法が改正され、養子縁組や里親といった家庭と同様の養育環境を優先することが原則となりました。これに沿って、厚生労働省も制度普及に力を入れています。

認知度向上が課題、民間の取り組みが重要に
――子どもを受け入れるうえで必要なポイントは何でしょうか。
大事なのは、児童相談所がその子どもの特性をつかみ、里親の技量やどんな子を養育するのに適しているかを見極めて、うまくマッチングすることです。
また、受け入れ後の支援も重要です。成長途中から違う家庭に入ることは、子どもにとっては大きなストレスです。赤ちゃん返りしたり、反抗したりすることもありますし、虐待のトラウマを抱えている子もいるので、自分の子どもを育てた経験があっても「自分の子育てとは全然違った」と言う人がいます。そんなときに必要なのは、常に相談できる場所や、子どもを一時的に預かってくれる仕組みではないでしょうか。
――海外では制度が充実しているのですか。
例えば、里親委託率が70%を超える英国では、民間の機関に手厚い支援をしています。里親になるときに受ける研修が充実し、いつでも相談できる窓口も整っています。また、ソーシャルワーカーの数も多い。それに比べると、日本の児童相談所の職員は本当に多忙だと思います。

――日本での課題は何でしょうか。
制度がまだまだ知られていないことです。日本財団の調査では、養子縁組と里親の区別がついていない人が半数近くいるという結果が出ました。里親は子どもを短期間預かる制度だということ、児童相談所や民間団体のサポートがあること――制度に関して知られていないことは多くあります。
児童虐待のニュースで心を痛めている人は多いと思いますが、虐待を受けて保護された子どもたちにはどこか育つ場が必要で、その点にも目を向けてほしい。里親の期間は、長ければ原則として子どもが18歳になるまでですが、短ければ数日や1~2週間という場合もあります。「自分でも受け入れられるかな」と思ってもらえたらと思います。
うまくいっている自治体の例として、兵庫県明石市では、民間団体が里親候補をリクルートするため、スーパーマーケットにポスターを貼ったり、説明会を開いたりと積極的に活動しています。児童相談所だけの取り組みではなかなか里親は増えませんので、これからは民間の取り組みが重要になってくると思います。
「制度の大切さ知って」
――日本財団の取り組みについても教えてください。
日本財団は「子どもたちに家庭をプロジェクト」と名づけて、周知活動や政策提言、里親を対象とした研修などをおこなっています。
2021年からは「家庭養育推進自治体モデル事業」にも取り組んでいます。これは、自治体で活動する民間団体に財団が助成金を出して、「3歳未満の里親委託率75%以上」という目標の達成を後押しするものです。大分県では、新たに立ち上げた民間団体を財団が支援することで、説明会に参加する里親候補者の人数が大きく伸びました。
――生みの親と暮らせない子どものために、一人ひとりができることはあるでしょうか。
よく聞かれますが、みんなが里親になれるわけでもないので答えに悩むところです。いま、「里親サポーター制度」のようなものがつくれないか、と関係者とは話しています。子どもをずっと預かることは難しいけれど、送り迎えを手伝ったり、遊び相手になったり、子育ての一部を手伝ってあげる。そんな制度ができれば、より多くの人が支援に関われるのではないかと思います。
――改めて読者に伝えたいことを教えてください。
生まれてきた子どもが安心できる場所で、親に抱っこしてもらったり、声をかけてもらったり、どこかに連れて行ってもらったりする経験はとても大事で、後から取り返すことは難しいものです。そのときに不適切な養育環境に置かれたり、虐待を受けたりしていると、大人になっても人間関係や健康状態が難しい状況が続いてしまいます。
そう考えると、子どもが安定した家庭で育つことは、社会にとっても重要です。養子縁組や里親といった制度の大切さを知ってもらえたらありがたいです。


朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、2022年11月から副編集長。
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