SDGs ACTION!

生産者と消費者、地方と都市、顔の見える関係で支え合う

撮影・朝日教之
未来を変えた小さな成功体験を生かせ
ポケットマルシェ 代表取締役CEO 高橋博之

3月25日に東京都知事が会見して外出自粛を要請したら買いだめが加速して、東京のスーパーの棚から食べ物が消えましたよね。ちょっとした既視感がありました。「ああ、9年前と同じだな」って。東日本大震災の直後もそうだった。

巨大な中央集権型システムは、想定外のことがあると機能不全になってしまいます。生産者と消費者の距離も離れる一方。だから、個々の生産者と消費者が直接つながり、顔の見える関係になれる自律分散型の物流を築こう。それが震災後に立ち上げた食べ物つきの情報誌「食べる通信」となり、いまの「ポケットマルシェ(ポケマル)」を貫いている考え方です。

出品される野菜や魚の説明文に「(飲食店や学校、イベントに出荷できなくなり)行き場をなくし、困っています」といった言葉がチラホラ入り始めたのが3月初め。3日には「#新型コロナで困っています」というタグをつくり、6日には「フードレスキュー特集」を公開して、困窮する生産者の支援に乗り出しました。

すると今度は生産者側から「自宅にこもってる消費者だって大変だろう」と声があがったので、「#新型コロナを吹き飛ばせ」のタグもつけられるようにしました。みそづくりキットとか、親子で楽しめたり日々の料理を楽にしたり 、工夫をした商品が並ぶようになって。逆にトマト農家に「これを使って」と何十枚ものマスクを送るお客さんもいましたよ。困った生産者と困った消費者がつながり、支え合う。直接つながる関係を大事にしてきたことが、いざというときにきちんと機能しました。

「#新型コロナで困っています」のタグつきで、行き場を失った食べ物が続々と出品された(ポケットマルシェ提供)
震災とコロナは地続き

三重県南伊勢町の漁師、橋本純さんは、それまで漁協を通じて飲食店や旅館に卸していた養殖マダイの出荷が止まってしまいました。養殖の魚は、育ち過ぎると売り物にならないんですよ。人に食べてもらうために育てた魚を無駄にしたくないと、ポケマルで「コロナゼロ」にかけて5670匹を売り出したところ、なんと約2カ月後の6月19日に完売してしまいました。

日本の漁業衰退の一因は、食卓の魚食文化が衰退したことにあって、今はせいぜい切り身を焼くか煮るぐらいじゃないですか。でも今回は、少なくとも5670匹のマダイがそれぞれの家庭でさばかれた計算になる。それだけの人たちが生産者の思いを感じ、時間をかけて料理して残さず食べた。すごいことですよね。

2011年に震災があって、あれだけの犠牲と被害が出て、これを教訓に社会は大きく変わると期待した。「文明の転換」とまで言う有識者もいた。でも、いまどうか。正直、徒労感がないわけじゃない。

ただ、震災のときの当事者は東北の太平洋沿岸部の人たちだけで、共感してくれた人は大勢いたけれど、被災地以外では立ち止まることを経済社会が許してくれなかった。今回は全人類が当事者で、世界中で2カ月以上動きが止まりました。人間、立ち止まると大事なことに気づくもんです。4月は、自死する人の数が2割減ったそうです。会社や学校に行かないから煩わしい人間関係を避けられた面もあるでしょうし、やっぱり身近に「死」が存在すると、かえって生きることの大切さや生きたいという気持ちが見えてくるんじゃないかな。

自然災害はその時代の社会の弱点を突いてきます。東日本大震災のときは地方社会の過疎・高齢化という課題が浮き彫りになりました。今回やられたのは超過密社会であり、東京の一極集中。これってコインの裏表でしょ。そういう点でも、震災とコロナは地続きだと思うんですよ。

撮影・朝日教之
食べ物を大事に扱う契機に

人間中心主義って非人間的だと僕は思っていて、人間以外の生物や自然の中で生きるという多様性の尊重、脱人間中心主義へと進むことが、結果的にとても人間的な社会につながるんじゃないかな。

コロナをきっかけにポケマルを利用した人たちの話を聞くと「食事を残せなくなった」って言うんですよ。いつスーパーに行っても食料品があると安心して適当に買い、冷蔵庫の中に入れているうちに忘れて腐らせてしまったりする。でも生産者たちの育てる手間や思いを知ったうえで購入し手元に届いた野菜や魚は、おのずと大事に使うようになる、と。

IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の報告書によれば、世界の食料システムに関連した温室効果ガスの排出量は、人為的な理由による排出量の21~37%にもなるし、そのうち8~10%は食品ロスや廃棄の分だっていうじゃないですか。日本だけで年間650万tある食料廃棄の半分は家庭からだから、生産者と消費者の結びつきが強まることで「無駄なく使い、残さず食べる」ようになれば、地球の持続可能性にも大きく貢献できるようになると思う。

問われているのは、コロナ禍の経験をどう次に生かすのか。今度こそ、です。いま自分たちの行動を変容させれば、未来の地球環境を変えられる。実際、やったんですよ、今回。このままだと医療崩壊が起きる。あるいは、気づかないうちに自分が誰かにウイルスを運んでしまうかもしれない。だから、愛する人のため、高齢者や体の弱い人のため、見知らぬ誰かのために、みんな飲み食いしたり遊びに出かけたりすることを我慢した。そうして2週間後の未来を変えた。いったん感染数を抑えることができたじゃないですか。小さな成功体験だけど、基本は同じでしょ。やろうと思えばできますよ。

(聞き手・高橋万見子)

株式会社ポケットマルシェ

農家や漁師など第1次産業に従事する生産者と消費者とをアプリ上でつなぎ、直接やりとりしながら旬の食べ物を購入できるプラットフォームを運営。高橋博之氏は岩手県出身。震災被災地で壊滅的な打撃を受けた1次産業を情報産業として再興し、地方と都市部を結び直すため2013年、食べ物の作り手を特集した情報誌と彼らが収穫した食べ物をセットで定期的に届ける「東北食べる通信」を創刊。共感を呼んで全国各地に「食べる通信」が展開されている。これらの知見を生かして15年に設立。今年5月に「食べる通信」の事業も継承して事業を一本化した。ポケマルには全国3200人以上の農家・漁師が登録し、野菜や穀類、果物、肉、魚など常時7000品を超える食べ物が出品されている。

https://poke-m.com/
ポケットマルシェ提供
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