パナソニックの未活用特許 アジアのSDGs達成に一役

「スマート・ソーラー・ホームシステム」の購入を決め、カメラに向かってほほえむミャンマーの村人たち(ソル・イグナイト社提供)
朝日新聞アジア代表/都留悦史!!!!

ミャンマーの最大都市ヤンゴンから北へ車で約2時間。さらに木造ボートに乗り換えて川を上り1時間かけて行き着いた非電化地帯の村々で、国外から太陽光発電パネルと蓄電池を持ち込んで各世帯に明かりをともす事業が進んでいる。手がけるのは、シンガポールを拠点にする「ソル・イグナイト(SI)」。2018年に立ち上がったばかりのベンチャー企業だ。

アジア最後のフロンティアとも呼ばれるミャンマーの電化率は約5割にとどまる。SI社はそこにソーシャル事業としての可能性を見いだした。同社が各世帯向けに販売する「スマート・ソーラー・ホームシステム」と呼ばれる発電装置を使えば、1回のフル充電で部屋の明かりやテレビの視聴、携帯電話の充電などに使える電気を確保できるという。

太陽光発電のおかげで部屋に明かりがともり、子どもたちは夜でも気軽に勉強ができるようになった(SI社提供)

装置の価格は500米ドル。24カ月の分割払いができ、3400人を超える村人たちが電気のある暮らしを手にした。フェイス・チュー最高経営責任者(CEO)は「来年末までに8000台の設置を目指している。村人たちの未来を照らしたい」と話す。

太陽光発電で村人たちの暮らしをさらに豊かなものにしようと、SI社は将来的にさまざまな家電製品や井戸水をくみ上げるための電動ポンプ、電動バイクなどの販売も視野に入れる。もっとも、こうした用途へと電力の使い道を広げていくためには発電装置の能力向上が課題になる。そのカギを握っているのが、同社が保有する急速充電技術「スーパーキャパシタ」に関する特許だ。数年以内の実用化に向けて、大学との共同研究を進めている。

実はこの特許、もともとはパナソニックのものだった。シンガポールを拠点に知財の流動化を支援している「ピース・フューチャー(PF)」が主催するイベント「IPハッチ」を通じて、19年にSI社に譲渡された。PF社は、これまでにパナソニックやノキア、リコーなど大手企業から複数の未活用特許を預かって公表してきた。IPハッチでは、それらの特許を活用すべくアジアの起業家たちが提案を競うオープンイノベーション型のコンテストが開催され、優秀者に特許が譲渡される。提供する側の企業担当者も選考委員に加わるのが特徴だ。

19年5月に香港で開かれたIPハッチで未活用特許を活用した事業プランを説明する起業家(PF社提供)

パナソニックから選考委員として参加したイノベーション知的財産センター活用戦略部の男性社員は、「ミャンマーという我々の手が届きにくい国で、社会課題を技術で解決したいというビジョンがはっきりしていた」とSI社に譲渡を決めた理由を語る。SI社のチュー氏は、「自社で一から開発するのは大変だが、有望な知財を獲得できたことで事業の可能性が広がり、投資家からの資金調達や支援も得やすくなる」と、大手企業が保有する未活用の特許が持つ可能性に期待する。

特許を譲渡する見返りとして、パナソニックとPF社はSI社の株式を合わせて6%分受け取った。ソーシャル事業が軌道にのれば持ち株の価値が上がり、それを売却すれば利益が得られる。また、未活用特許の流動化を進めることで、特許を維持するために毎年特許庁に納付する特許料などのコスト削減にもつながる。PF社のジェーソン・ロー社長はパナソニックとSI社の事例をひとつのモデルケースととらえ、「世界で眠っている知財を活用して、アジアの社会問題解決のためのSDGs活動につなげたい」と企業に協力を呼びかけている。

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