鉄の生産を「高炉」から「電炉」へ

撮影・朝日教之
東京製鉄/西本利一社長

地球温暖化につながる二酸化炭素(CO₂)を国内で最も排出している産業は鉄鋼業だ。この業界が変わらなければ、菅義偉首相が打ち出した「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロ」も進まない。難題を抱える業界で、電炉メーカーの東京製鉄は果敢にCO₂排出削減を打ち出す。西本利一社長にその道筋を聞いた。(聞き手・大海英史)

撮影・朝日教之

温室効果ガスであるCO₂の国内での排出は、年間約12億tのうち最も多い約35%を産業部門が占めています。その産業部門の排出の約40%と最も多いのが鉄鋼業です。国内全体の約14%にあたる年間約1.6億tにもなります。国内のCO₂排出量を減らすには鉄鋼業が排出を減らさなければなりません。

東京製鉄は2017年に「Tokyo Steel EcoVision 2050」をつくりました。そのなかで、鉄鋼の製造段階におけるCO₂排出量を30年に40%減、50年に80%減(いずれも13年度比)とする目標を打ち出しました。

太陽光や風力を工場の電力に

私たち電炉メーカーは、ビルなどで使われた後に不要になった鉄スクラップを電気炉で溶解し、新しい鉄鋼をつくります。多くの電力を使うため、CO₂排出を抑えるには省エネルギーの取り組みと再生可能エネルギーの拡大が重要になります。

そこで、主力の田原工場(愛知県)では工場内の遊休地で発電事業者が太陽光発電と風力発電をしているほか、新たに製品倉庫棟の屋根に太陽光パネルを設置します。来年3月には稼働し、昼間の水処理や空調、照明といった保安電力の大部分をまかなうことになります。こうした取り組みはほかの工場でも進めていきます。

一方で、鉄をつくる電気炉そのものに使う電力は大量かつ安定性が必要ですので、太陽光や風力などの再生エネに切り替えるのは今後の課題です。ただ、米国では電炉メーカーのコマーシャル・メタルズが23年にも電気炉などに使う主要電源を再生エネでまかなう計画を出しました。私たちも将来に向けて再生エネの拡大策を考えたいと思います。

愛知県にある田原工場(東京製鉄提供)

それだけではありません。私たちには国内の鉄鋼生産に占める電炉の割合を高める目標があります。今の日本の鉄鋼生産は高炉が4分の3を占め、電炉は4分の1に過ぎません。

しかし、鉄鉱石を原料とする高炉は石炭からつくられるコークスを還元剤(酸素の除去剤)や熱源として使うため、どうしても大量のCO₂を排出します。鉄鋼業のCO₂排出量のうち9割以上が高炉メーカーからなのです。

鉄鋼の生産量1tあたりのCO₂排出量で比べると、電炉メーカーの製造時の排出量は高炉メーカーの約4分の1で済みます。鉄鋼生産を高炉から電炉に切り替えていけば、鉄鋼業のCO₂排出量が減り、国内全体の排出量削減に貢献できるのです。

鉄スクラップから資源循環型社会を

日本のように成熟した経済・社会では、すでに多くの鉄資源が都市にあり、廃材となった時には再び資源として活用できます。いわゆる「都市鉱山」です。電炉への切り替えは廃材となった多くの鉄を再資源化し、再生利用するという循環型社会にもつながります。

田原工場の電気炉(東京製鉄提供)

ビルの建築廃材などから多く出る鉄スクラップは市中では年間約3000万tあり、このうち約2000万tを電炉の原料として使っています。残りの1000万t近くが海外に輸出されるなどしており、もっと国内で循環させることができるのです。

世界では、米国はすでに鉄鋼生産のうち電炉が約7割を占めています。EU(欧州連合)も約4割です。日本でも高炉から電炉への転換を加速しなければなりません。

独立独歩の「アウトサイダー」

東京製鉄は1934年に設立され、国内トップの電炉メーカーになりました。創業者の池谷太郎、後を継いだ池谷正成は鉄鋼を安く提供することで社会に貢献しようと考えました。新日鉄(現・日本製鉄)のような巨大な高炉メーカーが中心の鉄鋼市場のなかで、電炉では難しいとされた高度な鉄鋼製品の生産に挑戦してきました。

69年にはビル建築の鉄骨などに使われるH形鋼の生産に乗り出し、80年代後半には高炉メーカーと激しい価格競争を演じました。高炉中心の鉄鋼業界では「アウトサイダー」として独立独歩の道を進み、業界団体の日本鉄鋼連盟からもずいぶん前に脱退しました。

今ではH形鋼で国内トップのシェアを持ち、自動車用の熱延鋼板など高度な鉄鋼製品の生産に挑戦し続けています。このDNAが、業界の横並びではなく、独自のCO₂排出削減目標を打ち出す背景にあります。

CO₂排出削減と電炉シェア向上のイメージ(東京製鉄の環境報告書2019から)

約10年前、年頭あいさつを考えていた時のことです。CO₂排出削減、低炭素社会がクローズアップされ、私たちが貢献できるのではないかと気づきました。16年には、東大総長を務められた小宮山宏先生らの著書「新ビジョン2050 地球温暖化、少子高齢化は克服できる」で高炉から電炉への転換が低炭素化につながると示されたことで気づきが確信になり、17年の「Tokyo Steel EcoVision 2050」策定へとつながります。

昨年、国際NGOの「CDP」(本部・ロンドン)が世界の主な企業のCO₂排出削減の取り組みや情報開示を評価するプロジェクトで、8段階のうち最高の「A」に認定されました。国内鉄鋼メーカーでは初めてです。

菅首相は今年10月の所信表明演説で、日本の温室効果ガス排出を50年までに実質ゼロにすることを打ち出しました。銀行や投資家は石炭火力発電への投融資をやめつつあり、高炉のCO₂排出にも厳しい目が注がれるでしょう。高炉から電炉への構造転換は避けられない流れです。私たちも今は50年に80%削減という目標ですが、来年度にはさらに踏み込んだ目標をたてたい、そう考えています。

撮影・朝日教之
東京製鉄
1934年に設立。年間の生産量は約250万tで、国内最大手の電炉メーカー。主に建築資材で使うH形鋼は国内トップの3割近いシェアを持つ。すべて国内生産で、田原工場、岡山工場、九州工場、宇都宮工場の4拠点がある。2020年3月期の売上高は1799億円。従業員数は989人(20年3月末)。本社は東京都千代田区。
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