サラヤ社長、「気候非常事態」を呼びかける理由

撮影・滝沢美穂子
サラヤ/更家悠介社長

ヤシノミ洗剤やアルコール消毒剤などの日用品・衛生用品メーカー、サラヤの更家悠介社長が発起人代表となり、11月18日に「気候非常事態ネットワーク」(CEN)が設立された。自治体や企業、NPOなどに参加を呼びかけ、地球温暖化対策を加速するよう訴える。なぜ、いま「気候非常事態」なのか。更家社長に聞いた。(聞き手 編集部・大海英史)

撮影・滝沢美穂子

スイスの環境保全団体が2017年から、世界中の海洋プラスチック汚染の実態を調査するため、全長35mほどの船で航海をしています。「レース・フォー・ウォーター・オデッセイ」プロジェクトです。

私が理事長を務めるNPO法人「ゼリ・ジャパン」はプロジェクトを支援しています。今年3月、このレース・フォー・ウォーター号が日本の沖永良部島まで来ましたので、日本を回って海洋プラスチック汚染の問題をアピールしようと相談していました。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大して日本の港を回るのは難しくなり、大阪への立ち寄りなどはしましたが、計画は21年に持ち越しました。

風と太陽光と水素で航海するレース・フォー・ウォーター号

この船は太陽光パネルと蓄電池を備えて動力に使っています。また、40㎡の自動制御カイトを空に揚げ、風力で進むのに加えて、海水をくみ上げて水素をつくってため、その水素を使って燃料電池で電気をつくります。風と太陽光と水素という二酸化炭素(CO₂)を排出しない再生可能エネルギーの船なのです。

再生エネは船で世界を回れるくらいまで進んでいる、気候変動の危機を乗り越えるために再生エネの社会ができるじゃないか。そう思いました。

風と太陽光と水素で航海するレース・フォー・ウォーター号(ゼリ・ジャパン提供)

サラヤは19年、使用電力を「50年に再生エネ100%にする」と宣言しています。近年の異常気象を見れば、CO₂排出などによる地球温暖化の危機は深刻になっています。この危機に対して、イノベーション(技術革新)と経済的な取り組み、そして社会全体の取り組みを加速させる、今がそのタイミングだと思います。

9月1日に大阪・中之島に立ち寄ったレース・フォー・ウォーター号(ゼリ・ジャパン提供)
「天の時、地の利、人の和」

トランプ米大統領はCO₂排出削減などの地球温暖化対策を進める国際的な枠組み「パリ協定」から離脱しました。しかし、今年11月の米大統領選により、パリ協定への復帰を表明している民主党のバイデン氏が次期大統領に就任する見込みです。

日本では菅義偉首相が10月に「50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」と打ち出しました。日本も取り組みを加速する環境が整い始めました。

日本の温 暖化問題の第一人者である東京大名誉教授の山本良一先生とは長いつきあいで、ずっと「気候変動の社会的な影響は大きい。なぜ日本はもっと対策を進めないのか」と嘆いておられました。先生に「もう一度、気候変動対策の取り組みをやりましょう」と相談し、各界に呼びかけました。

こうして11月18日、「気候非常事態宣言とカーボンニュートラル社会づくり支援ネットワーク」(気候非常事態ネットワーク=CEN)を設立しました。発起人にはNPO関係者や学者、自治体の首長、企業経営者ら約190人が名を連ね、発起人代表には山本先生と私が就きました。気候変動対策に向けて様々な動きが起き、「天の時、地の利、人の和」が重なったと思っています。

11月18日の気候非常事態ネットワーク設立総会(ゼリ・ジャパン提供)

CENをつくった目的は、まず自治体や企業などに気候変動危機の認識を持ってもらい、自治体には「気候非常事態宣言」を出してほしいということです。次に自分たちがどれだけ温室効果ガスを排出しているかを評価し、排出ゼロを目指すプランをたて、予算づけや市民の参加を進め、実行してほしいのです。

そのために、今後は専門家やNPO、企業、行政、若者らが交流し、議論する活動を進めます。また、CO₂排出削減のための製品やサービスの普及を進め、国内外の先進的な取り組みのデータベースの構築も計画しています。

撮影・滝沢美穂子
英国で相次ぐ「気候非常事態宣言」

気候変動への対策は、理想だけ追いかけていても進みません。企業は「ビジネスチャンス」と捉えるようにならないと、寄ってこないでしょう。CO₂排出ゼロや環境への取り組みが「もうかるぞ」「イノベーションにつながるぞ」と認識してもらわないといけません。

確かに、産業部門では鉄鋼業などのようにCO₂排出を減らすのは容易ではない面もあります。飛行機の燃料をどうするのか、車もすぐに電気自動車に切り替えられるのかといった現実もあります。

しかし、世界はもう動き始めています。山本先生によると、21年11月に国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を開催する英国では、450自治体が気候非常事態宣言をして、160を超える自治体が30年にカーボンニュートラル(CO₂排出の実質ゼロ)を目標にしているそうです。

日本の自治体や企業も今から走り始めないと、10年後に気候変動対策と言っても乗り遅れてしまいます。アジア諸国も日本の企業の動きを参考にするでしょう。エネルギー、家電、自動車などさまざまなサービスや製品で気候変動対応の提案をしていくことが日本の経済にとっても重要なことだと思います。

ヤシノミ洗剤やアルコール消毒剤など、サラヤの主な製品=撮影・滝沢美穂子
サラヤが取り組む「衛生、環境、健康」

私は1982年に大阪青年会議所の活動を通じて、後にゼロ・エミッション(廃棄物等を資源として再利用し最終的な廃棄物をゼロにすること)の提唱者の一人となるグンター・パウリ氏と知り合いました。2001年には、パウリ氏が創設したZERI(ゼロ・エミッション・リサーチ・アンド・イニシアチブ)の日本拠点としてゼリ・ジャパンをつくり、理事長になりました。この活動が温暖化対策や海洋プラスチック問題に取り組む基盤になっています。

そもそもサラヤは1952年、当時の日本の衛生状態を改善するため、薬用石けん液をつくる会社として創業しました。それから植物由来の原料を使ったヤシノミ洗剤やアルコール消毒剤など、衛生や環境に貢献する商品をつくってきました。衛生分野は環境、健康とも直結しており、ビジネスをするうえでも環境を守ることは欠かせません。

これまでにもマレーシア・ボルネオ島での生物多様性保全や自然環境保護活動、アフリカ・ウガンダでの「100万人の手洗いプロジェクト」やアルコール消毒剤の生産など、環境や健康への貢献を目指してきた歴史もあります。こうしたDNAが気候変動に向けた活動にもつながっています。

SDGs(持続可能な開発目標)はこうした衛生や環境、健康に対する考え方を整理し、世界共通の思想としてわかりやすく示したと言えます。現実と理想のバランスをとりながら、SDGsの達成を目指していきたいと考えています。

大阪市東住吉区のサラヤ本社前で=撮影・滝沢美穂子
サラヤ
1952年、更家悠介氏の父、章太氏が創業し、当時の日本の不衛生な環境で赤痢などの感染症が広がるのを防ぐため、殺菌・消毒ができる薬用石けん液を日本で初めて開発、販売した。その後も、植物原料のヤシノミ洗剤、アルコール消毒剤などの日用品、衛生用品を手がけてきた。2019年10月期の売上高(連結)は501億円。従業員数(連結)は2060人(20年10月末)。
気候非常事態ネットワーク(CEN)の問い合わせはゼリ・ジャパンCEN事務局まで。
CENホームページ https://www.zeri.jp/cen/
電話 03-6863-8170
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