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〈選択のとき 09総選挙〉争点を歩く:3 医療 産科医不足、広がる疲弊

2009年8月25日

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 命の砦(とりで)に疲弊が広がる。

 府北部の公立病院。産科の男性医師はこの日も、急な出産や緊急外来に備えて病院内で一夜を過ごした。当直回数は月10回前後。当直後もそのまま昼間の診療や手術を受け持ち、連続36時間の勤務はざらだという。

 「子どもの誕生に立ち会える魅力はあるが、体力的にはきつい」

 同病院の産科医は男性も含め常勤3人、非常勤1人。約10人の助産師とともに、月約40〜50件のお産を受け入れる。人繰りがつかなければ3、4日連続で病院に泊まり込むことも。それでも「うちは助産師さんが多いから、まだいいほうだと思う」と語る。

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 産科医をめぐる状況はどこも厳しい。

 公立南丹病院(南丹市)では、今月から常勤医が1人減って2人になった。かつて月40回程度あった出産数を30回まで減らし、府立医大から当直医の派遣を受けているが、それでも当直回数は40代の医師で月10〜12回、60代の医師で月5回に達する。「体力的にはもう限界」(西田勇人事務局長)という。

 亀岡、南丹、京丹波の3市町による南丹医療圏で、お産を受け入れるのは同病院を含め2カ所。小児科を併設し、未熟児や逆子出産などに対応できるのは同病院だけだ。母子を守る「地域の砦」だが、西田事務局長は「来春までに常勤医1人が確保できなければ、出産の受け入れをさらに減らすことも考える」と話す。

 医師不足の原因にまず挙げられるのは、04年から義務づけられた臨床研修制度だ。学生が自由に研修先の病院を選べるため、「かつては医学生が大学で博士号を取得後に郡部の病院へ派遣されたが、最近は専門医の認定をめざそうと、経験を多く積める都市部の病院を選ぶ人が増えている」(ベテラン産科医)という。

 産科をめざす医師が減った原因としては「訴訟リスク」を指摘する声もある。

 死産や障害がある子どもが生まれた場合、最近は医者を訴える父母らが急増。04年に福島県で帝王切開の手術中に妊婦が死亡したケースでは、執刀医が業務上過失致死などの疑いで逮捕された。08年9月に執刀医の無罪が確定したものの、学生がリスクの高い産科や外科を避ける傾向がより強まったという。

 出産や手術時に胎児や患者が死亡した際、医師に過失がなくても補償金を出す「無過失補償制度」の拡充も検討されているが、結論は出ていない。

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 民主党は総選挙のマニフェストで、無過失補償制度を「全分野に広げ、公的制度にする」と掲げたほか、医師不足解消のため「医師養成数を1.5倍にする」とした。自民党も「今後も医療確保のため、医師数を増やす」などとし、ほかの各党も医師数の増加や診療報酬の増額をうたう。

 だが、医師は簡単に増やせるものではない。

 京都第一赤十字病院(東山区)の山田俊夫・産婦人科部長は「大学側の受け入れ態勢を拡充するのも大変だ。医学生を増やしたとしても、一人前の医師になるのは8年以上かかる」と語る。

 年間800件の出産を受け入れる同病院は、府がつくった周産期医療情報システムの基幹病院だ。システムは、府内で妊婦や新生児の緊急搬送が必要になった際、インターネット上に登録された各病院の空き病床数や対応できる症例などを調べ、搬送先を決めることができる。

 産科医不足を病院間の連携で補う仕組みだが、システムの画面上には、受け入れ不可を示す「×」印が並ぶ。山田さんは言う。

 「この状況は容易に打開できるものじゃない」

(松谷慶子)

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