「信頼回復と再生のための委員会」社外委員4氏の視点

 慰安婦報道、原発事故にかかわる「吉田調書」報道、池上彰氏の連載の掲載見合わせという一連の問題をめぐり、朝日新聞社に厳しい目が向けられています。いま取り組まなければならない課題とその方向性を「信頼回復と再生のための委員会」で考えます。厳しいご意見とご指摘をいただくため、4人の社外委員をお迎えしました。議論のスタートにあたって、社外委員のみなさんのお考えをご紹介します。


事実に基づく報道は社会への義務  弁護士・国広正さん

 社外委員就任を機に、今年5月20日付の朝日新聞1面トップの「所長命令に違反 原発撤退」の記事と公開された「吉田調書」の原文を読み比べてみました。そして「これは重症だ」と実感しました。

 記事は「吉田調書」を「つまみ食い」して「命令違反の撤退」があったと強引に結論づけています。その上で「過酷事故のもとでは原子炉を制御する電力会社の社員が現場からいなくなる事態が十分に起こりうる」として「再稼働論議 現実直視を」という主張を展開しています。これは単なる行き過ぎた見出しというレベルを超えています。原発再稼働に反対するための事実のねじ曲げだ、と言われても仕方ない記事です。

 朝日新聞には「事実(ファクト)に対する謙虚さ」が欠けています。自らの主張にこだわるあまり、ファクトに対する詰めが甘いのです。

 これは慰安婦報道にも共通しています。重大な誤報の訂正を長期間怠った結果、日韓関係をこじらせる一方で、慰安婦問題自体が存在しなかったかのような論調を勢いづかせました。この責任は重大です。

 「右にならえ」とばかりに同じ方向に流れる傾向がある日本社会で、リベラルな立場から一つの基軸を打ち出す社会的責任のある報道機関が、権力の規制を受けるまでもなく、自滅・自壊しつつあります。このままでは日本の自由と民主主義に危機的状況を招きかねません。

 「自分たちの主張は正しいのだから事実確認は不十分でもよい」という傲慢(ごうまん)さがあるのではないか。裏付けがなくても「それが事実であるはずだ」と思い込んで報道する「誤った使命感」があるのではないか。ジャーナリストの倫理(プロとしての矜持〈きょうじ〉)とは何か。この委員会では、これらの問題を検証し、議論を深めたいと思います。

 朝日新聞は、報道機関としての責任を果たすため、今の状況を克服し、失った信頼を回復しなければなりません。信頼回復は固定的な読者層だけを対象にする内向きなものであってはなりません。

 朝日新聞は「ファクトに基づくフェアプレー」の言論で保守派と互角に渡り合う力を回復し、民主主義のプロセスの一翼を担うに足る新聞として再生しなければなりません。これは朝日新聞の社会に対する義務なのです。
 (寄稿)
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 くにひろ・ただし 1955年生まれ。企業の危機管理とコーポレートガバナンスが専門。山一証券社内調査委員会委員を務めた。日本弁護士連合会の「第三者委員会ガイドライン」を作成。消費者庁法令顧問も務める。

(朝日新聞 2014年10月19日 朝刊11ページ 東京本社)


「信頼回復と再生のための委員会」


 江川紹子さん ジャーナリスト
 えがわ・しょうこ 1958年生まれ。神奈川新聞記者を経てフリー。坂本堤弁護士一家事件を機にオウム真理教問題に取り組む。著書に「勇気ってなんだろう」など。「検察の在り方検討会議」委員を務めた。

 

    国広正さん 弁護士
 くにひろ・ただし 1955年生まれ。企業の危機管理とコーポレートガバナンスが専門。山一証券社内調査委員会委員を務めた。日本弁護士連合会の「第三者委員会ガイドライン」を作成。消費者庁法令顧問も務める。

 

 志賀俊之さん 日産自動車副会長
 しが・としゆき 1953年生まれ。ルノーとの資本提携交渉の実務責任者として尽力。「日産リバイバルプラン」や、その後の中期経営計画の実行責任者として成果をあげた。最高執行責任者(COO)を経て現職。

 

   古市憲寿さん 社会学者
 ふるいち・のりとし 1985年生まれ。東大大学院博士課程在学。若者の生態を描き出した著書「絶望の国の幸福な若者たち」などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。最新刊は「だから日本はズレている」。