「信頼回復と再生のための委員会」社外委員4氏の視点

 慰安婦報道、原発事故にかかわる「吉田調書」報道、池上彰氏の連載の掲載見合わせという一連の問題をめぐり、朝日新聞社に厳しい目が向けられています。いま取り組まなければならない課題とその方向性を「信頼回復と再生のための委員会」で考えます。厳しいご意見とご指摘をいただくため、4人の社外委員をお迎えしました。議論のスタートにあたって、社外委員のみなさんのお考えをご紹介します。


「古い」メディアのズレ指摘したい  社会学者・古市憲寿さん

 今年、「だから日本はズレている」という本を出版しました。既得権益の中に安住し、社会からズレてしまった「おじさん」と「若者」の価値観の違いなど、日本社会の様々なズレについて論じた本です。

 しかしズレとは相対的なものです。ある人にとっての「正義」が、別の人にとっての「正義」であるとは限りません。この「正義」と「正義」の戦いは、イデオロギー論争と呼ばれます。今回の朝日新聞を巡る一連の騒動は、明らかに朝日新聞自体が招いた過ちと、イデオロギーの問題が混然一体となったために、大きな騒ぎになりました。

 僕は、「正義」を巡る終わりのない戦いに興味はありません。どうせ委員会がどのような報告書を出しても、文句をつける人はたくさんいるでしょう。

 しかしズレを認識することによって、解決ができる問題も多いと思っています。朝日新聞社内と、読者のズレ。同じ社内でも上層部と若手社員のズレ。これらのズレを少しでも解消することができれば、委員会の名前の通り、朝日新聞の「信頼回復と再生」に近づくのではないかと思っています(それにしても「再生」ということは、朝日新聞は一度「死んだ」という理解でいいのでしょうか)。

 独善的にならないことや、社内の風通しが良いことは、報道機関にとって不可欠な要素です。そこに「保守」や「リベラル」の違いはないはずです。

 年代別のメディア接触時間を見るまでもなく、新聞は中高年のためのメディアです。おそらく、何もしなくても新聞は20年ほどで消滅するか、今とは全く違う媒体になっているでしょう。それは今、朝日新聞たたきに躍起になっている他の紙メディアも同じことです。

 僕は朝日新聞が未来永劫(えいごう)存在して欲しいとは思いませんが、せめて20年は存続してもらわないと困るという立場です。世の中には多様な言論が必要です。さらに、インターネットがこれほど普及したところで、まだまだポスト紙メディアは成長の途上です。

 朝日新聞が社会的な企業だとするならば、考えるべきは自社の保身だけではなく、次世代のメディア、未来の社会に何を残せるかだと思います。朝日新聞のみならず、「古い」メディアの「信頼回復と再生」のために、この委員会をただのガス抜きにしないために、様々なズレを指摘していくつもりです。
(寄稿)
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 ふるいち・のりとし 1985年生まれ。東大大学院博士課程在学。若者の生態を描き出した著書「絶望の国の幸福な若者たち」などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。最新刊は「だから日本はズレている」。

(朝日新聞 2014年10月19日 朝刊11ページ 東京本社)


「信頼回復と再生のための委員会」


 江川紹子さん ジャーナリスト
 えがわ・しょうこ 1958年生まれ。神奈川新聞記者を経てフリー。坂本堤弁護士一家事件を機にオウム真理教問題に取り組む。著書に「勇気ってなんだろう」など。「検察の在り方検討会議」委員を務めた。

 

    国広正さん 弁護士
 くにひろ・ただし 1955年生まれ。企業の危機管理とコーポレートガバナンスが専門。山一証券社内調査委員会委員を務めた。日本弁護士連合会の「第三者委員会ガイドライン」を作成。消費者庁法令顧問も務める。

 

 志賀俊之さん 日産自動車副会長
 しが・としゆき 1953年生まれ。ルノーとの資本提携交渉の実務責任者として尽力。「日産リバイバルプラン」や、その後の中期経営計画の実行責任者として成果をあげた。最高執行責任者(COO)を経て現職。

 

   古市憲寿さん 社会学者
 ふるいち・のりとし 1985年生まれ。東大大学院博士課程在学。若者の生態を描き出した著書「絶望の国の幸福な若者たち」などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。最新刊は「だから日本はズレている」。