信頼回復と再生のための委員会 第4回会合

慰安婦報道など一連の問題を受けて立ち上げた朝日新聞社の「信頼回復と再生のための委員会」は、実効性のある再生プランを打ち出すために社内外の委員による話し合いを続けています。課題のひとつは、「社会常識とズレている」と批判される当社の体質、社員の意識の改革です。一連の問題を機に購読をやめたお客さまを社員が訪ねたり、読者と身近に接している販売所と記者との交流を進めたりするところから、「お客さま視点」での新聞づくりを模索しています。


厳しい言葉、自分の目と耳で
社員、購読やめた方々のお宅を訪問


信頼回復・再生チーム員の
(左)島田耕作(右)石川拓磨

 「信頼回復と再生のための委員会」が初会合を開いた翌日の10月19日、私(46)は東京都町田市の住宅街を回り、一連の問題で朝日新聞の購読をやめた方々のご自宅を訪ねました。ご意見を直接うかがおうと思ったからです。

 「非常に厳しいご意見をお持ちのお宅です」。朝日新聞販売所「ASA玉川学園」の上石(あげいし)芳久店長(54)は、私と、ともに委員会の事務局で仕事をしているブランド推進本部の石川拓磨(36)に告げました。一戸建ての住宅のインターホンを押しましたが、2人とも少し臆していたのが率直な気持ちです。

 玄関先まで出てきた高齢の男性が、こちらのあいさつを遮りました。「朝日が好きで家でも会社でも取っていたが、頭にきて両方ともやめた」

 「フラットにやらないとダメだ」「特定秘密保護法のときから都合のいい意見ばかり載せていると思っていた」。男性の言葉にどんどん熱がこもります。

 私は日ごろ、西部本社の報道センターで、取材・出稿に携わっています。「公正な報道を心がけてきたつもりですが」と説明しようとしたのですが、うまく言葉が出てきません。それでも20分ほどやりとりして、男性から「きちんとすればまた購読を考えるから頑張れ」と言っていただきました。男性に委員会の初会合の記事が載った朝刊を手渡し、「お願いします。見守ってください」と頭を下げるのが精いっぱいでした。

 別の男性には「昔は立派な記者がいたのに、質が下がった」と指摘されました。悔しい気持ちはあります。しかし、委員会の初会合で社外委員の方々から出た「読者の信頼を裏切ったことをどれだけ自分の問題にできているのか」「責任を他人に押しつける『他責』では解決できない」との意見を思い出し、自分自身の問題として受け止めようと考えました。

 2時間ほどで回れたのは14軒。外に出て話していただけたのは数軒でした。そこでうかがった厳しい言葉の数々。それでも、どこかに朝日新聞への期待も感じたように思いました。

 そう感想を漏らすと、石川は言いました。「お話しできなかった方々のご意見はもっと厳しいかもしれない。それを忘れてはいけないと思います」。そんな方々の心にも届く新聞をつくるにはどうしたらいいのか。ずっと考えています。
(信頼回復・再生チーム 島田耕作)



地方総局も再生の取り組み 津で販売所長と座談会



ASAの所長2人(奥)と意見交換する津総局員

 再生への取り組みは地方総局でも始まっています。三重県の津総局の記者5人は、読者の方々に紙面を届けている津市内の朝日新聞販売所(ASA)の所長2人と座談会を開きました。できるだけ読み手の側に立って紙面を作ることが狙いで、約1時間半にわたって話し合いました。

 座談会を呼びかけたのは、2011年に入社した津総局記者と名古屋本社販売部員の同期入社の2人でした。日々、お客さまと接しているASAの所長2人は、一連の問題を受けて朝日新聞がどのように見られているのか、自らが聞いた生の声を紹介しました。

 ASA津販売の(あら)猛所長(41)は、一連の問題で購読を中止された方々を訪問すると「信用がなくなった」「だまされた」「二度と朝日はとらない」などのお叱りの言葉を受けたそうです。ASA津駅西の山口祐司所長(49)は、販売所が独自に発行するミニコミ紙を使った信頼回復への努力や、スタッフがおわびに回っていることを説明しました。

 記者たちは「みなさんが一軒一軒訪問されることで守られていると実感した」「身が引き締まる思い」などと話しました。

 所長2人が総局に対して求めたのは、地域面での地元情報の発信の強化です。同時に、紙面で間違えたらすぐ謝罪する姿勢の重要性も強調しました。地域密着型の紙面を充実させるため、総局とASAの協力を進めることも課題です。所長は「積極的に情報を提供したい」と話しました。



訂正、丁寧に説明します


 社外からの意見や批判に謙虚に耳を傾け、誤りは誤りとして認める。一連の問題から学んだ大きな教訓です。

 正確で公正な記事をお届けすることは最も大切なことです。社内外からの指摘を受け止めて速やかに調査して判断していく仕組みについて検討を進めているところです。

 一方で、「新聞は間違えてはいけない」という思いにとらわれて誤りを認めることにちゅうちょはなかったのか、間違えた場合にみなさんに丁寧に説明してきたのか。私たちは自問自答と議論を繰り返しながら、訂正報道のあり方を読者の立場にたって変えるところから始めることにしました。

 「訂正します」。これが今の紙面に掲載される訂正記事の表現です。しかし、読者の方々からは「間違えようと思って書くわけではないと思うが、気持ちが伝わってこない」との声が寄せられています。記者たちからも、誤りがわかった場合はできるだけ早く丁寧におわびすべきだ、という意見が強くあります。

 このため、使い続けてきた訂正表現を再考するところから始めたいと思います。誤りは速やかにお知らせして「訂正しておわびします」と表現したうえで、必要に応じて間違えた理由や補足の情報についても説明することを検討しています。

 さらに誤りの内容がより重大な場合は、見出しをつけて丁寧にお伝えしたいと考えています。

 信頼していただくための歩みを積み重ねていきたいと思います。
(ゼネラルエディター・長典俊)




当社の体質・社員の意識、どう変えるべきか議論

読者のみなさまとの交流、増やします



江川紹子委員

 「信頼回復と再生のための委員会」の第4回会合が11月30日、東京都内で開かれ、信頼を取り戻すために当社の体質や社員の意識をどのように変えていくべきかが話し合われました。

 委員会では、朝日新聞が信頼を失った一連の問題の背景を当社として自己分析した結果、「多様な意見や見方を受け入れる姿勢が決定的に足りなかった」とする反省を示しました。社外からのさまざまなご指摘に謙虚に耳を傾けることができず、「独善的」「傲慢(ごうまん)」とのご批判を受ける原因になっています。それが読者のみなさまとの目線や、社会常識とのズレを生んでいるとの認識です。          


国広正委員

 当社の現状を改善していくためには、広報体制を強化して社外からの指摘を敏感に受け止めることや、記者一人ひとりが読者との交流機会を増やしていくなどの取り組みを具体化していくことが必要だと考えます。また、記者が販売や広告などのビジネス部門を経験したり、逆にビジネス部門の社員が記者職についたりして部門間の交流を深め、社内の風通しを良くしていくことを試みようとしています。

 こうした意識改革を含め、編集部門や会社そのもののあり方を変えていく再生プランを出した後、それを誠実に実行する体制も課題です。過ちを再び繰り返すことがないよう、社外の方も入れて点検する仕組みについても提案しました。          


志賀俊之委員

 当社が示した改革案について、社外委員の方々からは、「朝日新聞が本当に変わろうとしているのかが伝わってこない」と厳しいご指摘がありました。

 ジャーナリストの江川紹子委員は「個別には良い提案もあると思う。人事交流をやります、外からも人を入れますという話だが、結局、外から入ってきた人は『朝日化』していく」と疑問を呈し、「外からの人材を本当に活用することを考えないといけない」と話しました。

 弁護士の国広正委員は「いいアイデアもあるが根底から変える感じがない。このままでは社員のモチベーションは上がらない。世の中の信頼も回復しない。『根底感』が欠如しているからだ。社外の人物が経営陣の取り組みを監視する場を常設しないと、元に戻ってしまう気がする」と指摘しました。


古市憲寿委員

 日産自動車副会長の志賀俊之委員は、今後の信頼回復のあり方について「改善しているかどうかの指標がないと、自己満足に陥ってしまう。例えば、購読をやめた読者が戻ってきてくれた部数とか、社外の信頼度調査結果のスコアとか、わかりやすい数値目標を考える必要がある」との見方を示しました。

 社会学者の古市憲寿委員は「信頼回復のための具体的なアイデア自体、効果があるのかを検証する必要がある。社内の論理で、これをやったらいいんじゃないかということが羅列されているような気がした。多くの読者や世間は、いつまでも朝日新聞の信頼の回復に関心があるわけではない。外から見た時にどう見えるかという視点が足りない」と述べました。

 次期社長に内定し、オブザーバーとして委員会に参加している当社取締役の渡辺雅隆は「社会との対話が足りないとか、外に開かれた言論ができていないとのご指摘に対し、どのように改めていくかを社内でさらに議論を深めて参ります」と答えました。



ベテランと若手にズレ/東京本社と地方も意識差
社外委員から指摘相次ぐ


 今回の会合では、当社社員と意見交換して社内の現状を分析した社外委員から、提言が相次ぎました。

 強く指摘されたのは、社内にある意識のズレでした。ひとつは、ベテラン層と若手とのズレです。東京と名古屋で計4回の討論会・懇談会に参加した古市委員は、若手記者の間に、速報や特ダネを重視する長年の姿勢への疑問が出ていると分析。「ネット、テレビに多くのチャンネルがある時代に新聞と速報性は相性が悪くなっている。デジタル版でよく読まれるのは特ダネより特集記事だ」と見直しを求めています。

 国広委員は「幹部たちは『自由な社風だ』というが、若手社員は『社内の空気が自由じゃない』という」として、意識差の解消を課題に挙げました。解決策として「ズレを打ち破るのは、発想の多様性。意思決定の権限を持つポストに多様な人を入れることが必要だ」と提案しました。

 江川委員が指摘したのは、地方で働く社員と東京本社との意識差でした。福岡での社員討論会をもとに「人員が減らされ疲弊している地方の実態を、東京の役員が分かっていない」と感じたといいます。討論会では、東京から意見を求められることはあるが、提出した意見がその後どう扱われたかがわからない、との不満も出ました。意識差の解消に向け、次期社長に内定している渡辺は、年明けから全国の職場を役員が回る考えを示しました。

 国広委員はまた、紙面の論調と当社の行動が「言行不一致だ」と指摘しています。「企業不祥事の報道ではトップの責任を厳しく追及し、透明性がないと批判するのに、自身では全く逆の対応をしている」として、こうした企業体質が世の中の信頼を失わせ、社員のやる気を阻害していると批判しました。

 古市委員も「女性の活用を提言している紙面と社内の実態が違う」という社員の声を紹介し、「新聞が社会をリードする立場にあるならば、先進的な制度を取り入れるべきだ」と指摘。女性の経営陣を増やすことや、ネットに対する感覚に優れた若手社員に裁量を与えることが必要だと提案しました。当社はこうした貴重な提言を再生プランに反映してまいります。

     ◇

 「信頼回復と再生のための委員会」の社内委員が交代しました。いずれも取締役を辞任する持田周三福地献一に代わり、当社の新経営陣に内定した藤井龍也高田覚が務めます。


(朝日新聞 2014年12月4日 朝刊21ページ 東京本社)