開催日 10月13日(月・祝) 開催場所 朝日新聞東京本社 参加者 読者モニター経験者6人の方々 杉浦信之・取締役(前編集担当) 長典俊・ゼネラルエディター |
朝日新聞の記事についてご意見をいただく「読者モニター」を務めた方々にお集まりいただき、朝日新聞へのご意見やご提言をお願いしました。
まず、前編集担当の杉浦が慰安婦報道、池上彰氏連載の掲載見合わせ、吉田調書報道という一連の問題の経緯をご説明するとともに、謝罪をしました。続いて、紙面作りの責任者である長典俊・ゼネラルエディターが、一連の問題の後に朝日新聞が紙面でどのような取り組みをしているかについてご説明しました。
これを踏まえて、関東在住の読者モニター経験者の6人のみなさまに、いくつかのテーマについてお話をうかがいました。主なご発言は次の通りです。
【千葉県の80代男性】 朝日新聞を購読することは、朝日新聞が好きだからということに尽きる。今回の場合は、朝日新聞の姿勢が、今まで持っていた朝日新聞のイメージと違うと感じた。「信頼回復と再生のための委員会」がすべきことは、朝日新聞らしさを取り戻すことだと思う。私は、朝日新聞らしさというのは、とんがって、あらゆることについて姿勢をはっきりと出す。そこが好きだったんだが、今回のことで、先が少し鈍くなっちゃうということをちょっと心配している。今、一番問題なのは、止まってしまっているということだ。何か早く動かして、やっぱり朝日新聞らしくなったなと早く思いたい。
【神奈川県の50代女性】 紙面でおわびばかりしているような新聞を読んで、自分は一体、朝日新聞、新聞に何を求めているんだ、何のために読んでいるんだろうとすごく考えた。事実というものは、多分、どこにもないと思う。事実に誰かの言葉が介在してしまうと、それは一つではなくなる。ただ、なるべく客観的に書く一方で、それをどう解釈したかという主張は、「こういう立場から見ています」ということをはっきりさせてほしい。
その反面、朝日新聞の主張とは違う主張をなるべくたくさん載せてほしい。だから、池上さんのコラムが載らなかったというのは、許せないと思ったし、姑息だった。
日々伝える毎日の記事はデジタルに譲って、紙面では、もっと分析とか、比較検討とか、考える材料をなるべく多く提供してくれるような記事を望む。考える部分をサポートしてくれるような情報を流してほしい。朝日新聞には、体制を客観的に批判する社風があった。権力監視をもうちょっと頑張ってほしい。
【神奈川県の60代男性】 吉田調書についての記事を読むと、調書の読み方が、ある文言だけ取り出して、全体的に見ていなかったような感じがある。公共インフラに従事する者には、強い使命感と責任感がある。だから、5月20日付のあの記事を見たときに、「うそつけ、こんなことがあるわけないじゃないか」と感じた。福島第一原発で働いている現場の東電の社員と協力会社員は、大体、地元出身者だ。自分が逃げたら、自分のふるさとが壊滅する。そんなこと、絶対あり得ないと思った。世の中の実態との整合性に欠落があったのではないか。言い方は悪いが、「常識がない」と感じた。
【東京都の20代女性】 朝日新聞で働いている人たちは、自分たちが朝日新聞で働いているという意識がすごく薄いと感じた。例えば今回の問題で、偉い方たちが謝罪をしていることに対して、若い記者たちがツイッターで自分たちの会社を批判していた。上と下というか、社内の統一感が全然とれていない。上の人たちが謝るだけではなくて、下の人たちも一緒に信頼を回復していくために同じような気持ちでなければ解決につながらない。朝日新聞ってこういう会社だったんだとすごくがっかりした。
慰安婦報道についても、1982年の記事についてはその当時の人たちが悪いという姿勢を感じる。そうではなくて、朝日新聞全ての責任だから、自分たちの責任として受け継いでいかなければならないのではないか。
私はすごく新聞が好きで、隅から隅まで見ているが、新聞の強みである信頼性は薄れていると感じている。信頼回復に向けて、私も一読者として、一緒に紙面づくりに携われたらいいなと感じている。
【埼玉県の60代男性】 朝日新聞が自分に一番合っていると思っていただけに、今回の一連の問題には本当に衝撃を受けた。信じていたものが何でこんなことになったのかと。慰安婦報道に関しては、吉田清治氏の証言について疑問が生じた段階で、なぜ深く分析しなかったのか。
吉田調書の報道は、記事だけではなくてデジタルで読んだ。よくこれだけのものをスクープしたものだと、ほんとにびっくりした。それだけに、また、これが取り消しになるというのは、一体どういうことなのか。
それに続いて、池上彰さんのコラムの掲載見合わせは本当に残念な問題だった。幹部と第一線の記者たちとの意識にも隔たりがあったようだが、何でそういうものが生じているのか。いい新聞をつくろうと思うのなら、上下関係なく、社内で自由に討議して紙面を形成してほしい。
今、私たちの意見を聞いていただいているが、それがどれだけ届くのか、本当に生かされていくのかどうか。もっと読者のほうに向いた紙面を目指してほしい。編集局のデスクでも、現場の記者でもいいから、読者の意見を頭の片隅にでも入れておいて、現場に出て取材することが必要だ。
【茨城県の30代女性】 ここしばらく、特に朝日新聞は変わってきたなと思っていた。例えば「女子組」とか、土日の「be」、アンドロイドアプリやデジタル版など、すごく多様化していた。ところが、一連の問題で「やっぱり朝日新聞は」となったのがすごく寂しい。
慰安婦報道では、何回も転換期があったのに、それを見過ごしてきたのが一番の問題点だと思っている。インターネットとかで調べたことなので、本当のことかどうかわからないが、1989年の時点で済州島の地元の記者が、でたらめだと発言している。国内でももちろん指摘があった。それなのに、なぜここまでという思いがある。池上さんのコラムも含めて、判断ミスがすごく多かった。
また、日々、新聞記事を読んでいて、慰安婦とか吉田調書の問題以外でも、結論ありきの記事が多いと感じる。
【茨城県の30代女性】 朝日新聞社の社長会見の中で、すごく気になったのは、「記事を取り消します」という表現。一度出てしまったものは取り消せない。記録にも残っているし、記憶にも残ってしまう。取り消しということには、いろんな思いを含んだ言葉だとは思うが、読み手としてはすごく軽く感じてしまう。
【埼玉県の60代男性】 記事取り消しに至る過程がわからない。慰安婦の問題にしても、それから吉田調書の問題にしても、最終的に取り消しするまでの社内的な討論はどういうものだったのだろうか。読者からしたら、図書館にある縮刷版とかにはそのまま記述された状態で出てくる。しかし、その記事が取り消されたことは縮刷版ではわからない。
【神奈川県の50代女性】 取り消しというのはどういうことなのか。なかったこと、書かなかったことにするという意味なのか。
【千葉県の80代男性】 取り消しをめぐっても、朝日新聞と読者の乖離がある。取り消すことはすごく重い。ただ、読者にしたら、重いか軽いかは関係ない。取り消したままになっていると、あれでなしにしちゃうのかとなってしまう。記事を取り消したら、できるだけ早くフォローをやってほしい。
【埼玉県の60代男性】 吉田調書に関して言うと、原子力問題について、朝日新聞として責任を果たさなきゃいけない、という感覚がなかっただろうか。しかし、違う立場にある方たちからの意見を聴取していたら、表現の仕方や記事の見出しも、「命令違反」ではなく、もっと真実に近いものになったのではないかと思う。
【東京都の20代女性】 謝罪会見がどうだったかということよりも、ふだんの朝日新聞の体質を変えなければ、一連の問題のことは解決しないのではないか。
【神奈川県の60代男性】 違和感のある社長会見だった。会見で社長が東京電力の方々に言及したが、「東電の社員が」と言った記憶がある。「東電の社員の皆さん」とは言わなかった。あれはないだろうと思う。攻めには強いけど、守りが弱い。危機管理がなっていない、吉田調書の話は、冤罪事件の構図と全く同じだと思った。証拠には白もあれば、白っぽいものもあるし、黒もあれば、黒っぽいものもある。それは総合的に評価するわけだが、多分、そこで評価を間違えた。現場の記者の方というのは、警察の捜査員のような立場で、デスクなり編集センターは、検察官の立場。そして、編集幹部が裁判官の立場だと思う。ところが、現場の捜査員が思ったことが全部通ってしまった。普通の裁判だったら、被告の弁護士がいて反論する。編集部門の中に反論をするような人たちがいなければならない。
新聞社に抗議したことがあるが、窓口で受け付けてもらえなかった。今後は、より一層、抗議に耳を傾けてほしい。
紙面は限りがあるが、事実には多様な側面があることを自覚する必要がある。また、「人に寄り添う」紙面作りを目指すと言うことだが、ものを見るときに、一人称で見ていないだろうか。二人称、三人称の視点が欠けている。ある意味、記者は安全な場にしかいない。寄り添っているようなことを言いながら、二人称、三人称の視点もない。二人称、三人称の視点をぜひ持ってほしい。
制度的な提案を三つしたい。 一つは、人事考課の項目を見直してほしい。それから記者教育については、取材を受ける立場を経験するような制度を導入してほしい。それと、ガバナンスと記者個人の自由の問題だが、普通の企業とは違って、個々の記者には、ある程度自由な活動が必要だ。ただ、会社全体のガバナンスというか、グリップが効いていないと感じる。非常に優秀だと言われている記者が勝手なことをやったりしているのではないか。記者の個性、自由、いろんな取材力、能力を伸ばすのは必要だが、組織としてのコントロールは必要だ。
【神奈川県の50代女性】 参加を打診してきた朝日新聞の担当者が「逆風が吹いている」という趣旨のことを言った。自分は悪くないのに、みんながいじめているみたいな感じに聞こえた。この程度の意識なのかと受け取った。
あとは、記事をつくる過程で、全然違う分野の人間が読んでチェックすべきだ。専門的な記事を、全然知識のない人にも読めるのかをチェックするような仕組みが必要だ。
それと、最近は購読料が自動引き落としになって、販売店の方と読者と直接接する機会が減ったと思う。
【千葉県の80代男性】 メディアというツールを持っているのだから、間違えたいきさつを詳細に述べられる。それが最も大事な謝り方だ。
【茨城県の30代女性】 新聞に取り消しのような記事が掲載された後、モニターからその記事に対する内容の意見が相当あったはずだが、そこが明確にされなかった。
【埼玉県の60代男性】 モニターとして出した意見が、どの程度、反映されているのかはよくわからない。どういうふうに生かされているのかを知りたい。こういう意見があるということを知らしめるような方法を真剣に検討してほしい。
【東京都の20代女性】 朝日新聞は、女性登用問題を結構報道しているので評価していた。読者の意見を反映するということだが、どのように読者の意見を反映しようとしているのかよくわからない。例えば、読者の意見におもねったような記事を書くことで意見を反映するのは違うと思う。記者と私たち読者の立場は違う。記者としてしか書けないような記事を私たちは期待している。今後、私たちがちゃんと信じられる記事を届けてほしい。
【神奈川県の60代男性】 読者モニターに対して、何を期待するかをいま一度クリアにしてほしい。
【東京都の20代女性】 朝日新聞の痛いところを突いたようなモニター意見を送ると採用されないように感じる。
【埼玉県の60代男性】 記事の表現について「お客様オフィス」に問い合わせたが、「担当者がいないのでわからない」ということで終わった。記事の中で、言葉の言い回しや気になる表現でずれていると感じるときがある。
【千葉県の80代男性】 モニターの意見に対して、返事はなくてもいいから、担当の部署や記者に送ることを制度化してほしい。
【神奈川県の50代女性】 一言でも、一文でもいいから、担当記者の方から返事があると嬉しい。