「信頼回復と再生のための委員会」
第1回会合 主なやりとり

日時  2014年10月18日(土) 9:00~12:20
出席者 <社外委員>   江川紹子さん、国広正さん、志賀俊之さん、古市憲寿さん
    <社内委員>   飯田真也(委員長)、西村陽一(委員長代理)、持田周三、福地献一
    <オブザーバー> 五味祐子さん(国広委員の補佐)、後藤尚雄(以下、敬称略)


【西川】 本日はご多忙のところ、お集まりいただきましてありがとうございます。進行役を務めます信頼回復再生チームのマネジャー西川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【飯田】 おはようございます。朝日新聞を取り巻く極めて厳しい状況にもかかわらず、当委員会のご就任、快諾いただきました社外委員の皆様に心から御礼を申し上げます。
 8月の慰安婦問題の特集で謝罪なく記事を取り消して以来、池上彰さんのコラム一時掲載見合わせ、福島第1原発事故にかかわる吉田調書報道の取り消し、あってはならない事態が続きました。深くおわびを申し上げます。
 信頼される新聞を目指して、今、朝日新聞が何をしなければならないか、私たちは真摯に考え、行動しなければなりません。当委員会はそのための再生プランを年内をめどにつくります。
 審議に当たってご参考にしていただけるよう、読者へのアンケートや対話集会、広く一般の皆様からのご意見募集を実施しております。社内、とりわけ若手社員からも多くの提言を募っておるところです。社外委員の皆様におかれましては、専門的な知見から、厳しいご意見、ご提言を承りますようお願い申し上げます。

【西川】  社外委員の皆様から、就任に当たってのお考えなどを含めたご挨拶をちょうだいしたいと思います。

【江川】 ついこの間、地下鉄の築地市場駅で、知っている朝日の人から、「今回はどうもありがとうございます」とお礼を言われました。続いて「頑張って、がんがん言ってやってください」と言われました。啞然としてしまったんです。自分以外の誰かの問題と社員が思っているうちはダメじゃないかなと。
 朝日が批判を浴びている背景には、根深い問題があると思っています。それをきちっと整理をするというのはとても大事。朝日が信頼あるメディアとして再生するということがやはり日本のジャーナリズムにとっても大事なことだと思います。他社の中にも、朝日に再生してほしいと期待をしている人たちがいます。必要と言われているうちに何とかしなきゃいけない。そのお手伝いができればと思っています。

【国広】 事前準備などで、社員集会に出席したり、社内の皆さんと議論をさせていただいています。強い危機意識を持っていることは実感しますが、議論が内側を向いていると感じます。読者の信頼を取り戻すというが、固定的な読者だけ相手にしている印象を受けます。それでよいのでしょうか。朝日に批判的な人に対しても、ある種の信頼を取り戻さなければならないのではないか。立場の違いはあれ、正々堂々とした論争が行われるというのは健全な民主主義社会の前提条件だと思います。その一方のリベラルの機軸になるべき朝日が、政府に規制されたわけでもなく、ファクトというものを軽視するあまりに自分でこけている。
 体質的な問題、自分たちの信念に引きずられた事実の軽視、ファクトと主張がごっちゃになっているところにも問題があるのではと思います。誰を向いて再生するのか。固定的な読者に限定されない多様なステークホルダー、日本の社会全体、あるいは反対意見の人に対しても一目置かれるような新聞に戻るという、このような視点が必要ではないかなと思います。

【志賀】 私ども日産自動車は15年前にまさに危急存亡の危機に面しました。1999年、ルノーと提携してカルロス・ゴーンが来て、日産リバイバルプランを発表し、V字回復を果たしました。その間、多くの方に応援をいただきました。私どものような事業会社の例がどこまで参考になるかわかりませんが、その時の経験が生かせるのならと思い、委員を引き受けました。日産は変革の過程で、マネジメント、組織、意思決定プロセス、人事制度、さらに企業風土・文化、それから、個人個人の価値意識まで変わりました。というか、変えてしまった。今でこそ物語のように語っていますが、その最中は生半可なものではありません。中途半端な気持ちでは企業というのは変革できないと思いました。
 ただ、その変革は外部の人間がするものではありません。まさに変革の鍵は社内にあるというように考えています。当時、カルロス・ゴーンは「日産再生の答えは日産の中にある」と繰り返していました。ただ、リバイバルプランの中身というのは、こうすれば会社は立ち直れるという社内からの意見でした。
  あの時、村山工場閉鎖という大きな決断がありましたが、当時、日産の国内の年間生産能力200万台以上のうち、約3割が過剰能力で、固定費として大きくのしかかっていました。工場閉鎖という判断は、旧経営陣はできず、カルロス・ゴーンがやりました。たぶん答えはある。その答えを本当に実行するのか、そこが大きなポイントです。
 変革のアイデアを実行するか否かは本当に朝日新聞自身が決めることで、それは生半可な気持ちではなく実行して成果を上げていただきたい。社外委員は、アイデアを出したり、背中を押したりすることはできますが、実行するか否かは朝日新聞社自身しか決められないということを、ぜひ最初から覚悟していただきたいと思っております。今、朝日が置かれている状況は危急存亡の危機という意識が全社で共有できているかというのがスタートポイントと思います。
 経営が悪い、編集部門が悪い、と責任を他人に押しつける「他責」の気持ちでは問題は解決しません。日産も90年代、まさに他責の文化と我々自身が言っておりました。営業は「商品が悪い」と開発を非難し、開発は営業を責めた。自分たちは一生懸命やっているんだけれども、誰かが悪いと。それでは問題解決にならない。成績不振や不祥事が起こるのは組織のタテの風通しや、横の連携がギクシャクしている時に起こると思っています。
 カルロス・ゴーンは日産に来るや否や、現場を回って声を吸い上げ、風通しをよくし、部門横断のクロスファンクショナルチームを設けて横の連携を強化しました。
 もう一点、信頼の回復、再生とありますが、朝日新聞が期待されている信頼というのはどういうことなのか、問われているのは朝日新聞の存在意義だと思います。
 新聞社は全国紙が5社あります。ひとつくらいなくなっても大きく変わらないともいえます。日産が経営危機に陥った時も、乗用車メーカーは8社あった。別に日産がなくても、困るのは販売会社、取引先、従業員だけなのだとしたら、たとえ財務的に再生しても真の再生とはいえないと考えました。社会に必要とされるには、独自の価値がなければなりません。そういう軸足がなければ再生しても意味がない。
 どういう会社に再生したいのか、まずその辺はお聞きしたいと考えている。

【古市】 委員に就任してから、友人やメディア関係の人から、「朝日新聞の委員になったんだね」と言われて、その注目度の高さを感じています。
 他社の人も他人事とは思っていない。自分の所属している会社も含めて、メディア業界全体に対する失望、不信感が特に若い世代には広がっているなと感じました。江川さんもおっしゃっていましたが、朝日新聞関係の人がいろいろ朝日新聞に対する不満を言ってくるんですね。ただ、それはどこでも起こることなのかなと。古い会社、業界に所属している人には幾つか共通点がある。現状に不満があって、でも原因は自分ではなく、上司や部下にあると思っている。自分では動き出したくない。この委員会はそういう人にとって、ガス抜きになりやすいと思いますが、当事者意識、自分たちでこの会社や業界を変えていくんだというマインドを持つことが大切だと思います。
 朝日新聞は、特に歴史問題に関して、「加害者意識」という言葉を使いますが、同じように、今回の件について、読者に対する加害者意識、関係各社に対する加害者意識みたいなものを、どれだけ自分の問題として持ち得るのかということが大事になってくるんじゃないかなと思っています。これから、できるだけ若手社員の方と会って、意見をどんどんこの委員会で共有していきたいと思っています。

              〈休憩〉

【西村】 3問題の経緯を説明

【国広】 そもそも朝日新聞は何のために存在するのか。会社の使命(ミッション)は何なのかという議論をやらなければならない。その軸がないから、いろいろな問題が発生している。先ほど志賀さんが話した、我々の自動車会社は何のために存在しているのかというのと同じ、朝日新聞社の存在意義、ミッションを、まさに現場からトップまで、徹底的に議論をすることが必要なのかなと思いました。そうしなければ、羅針盤が定まらないまま個別論議、モグラ叩きになってしまうのではないか。
 事前の準備会合で、朝日新聞の行動規範、綱領を見ましたが、とても古くさいし、今には合っていないと思う。見直しということも含めて、残すべき点は残し、変えるべき点は変えるということも必要ではないのかなと。

【志賀】 今の西村さんがおっしゃられた編集と経営の問題、あるいは、縦割り、経営に対してものが言えない雰囲気など、業績不振になる企業がみんな直面する問題です。直面というか噴出するんですね。ただ、もう一歩手前があるんだろうな、という気がします。例えば、経営者の方々に、いわゆる経営上の収益力であったり、持続的な経営をしていく上での不安があるのだろうなと。今回の問題で社員からリークが起きたとおっしゃっていましたが、現場に不満があるのだろう。経営不振とは何が起こっているのか。経営者は足元の収益に追いかけ回されている。ただ、現場や、開発をしている人たちはもっと中長期的にいい車をつくりたい。目線が5年先、10年先の日産車はこうありたいと、そういうギャップの中で、やりたいことがやれないと不満と出てくる。
 お話を聞いていた中で、経営者の中に経営に対する焦り、持続的な安定した経営をやっていく上での焦りの部分がなかったのか。経営方針と現場とのずれがなかったのか。ちょっとそこら辺はもう少しお伺いしてみたいと思いました。
 日産の例を申しますと、1999年にカルロス・ゴーンが来て、日産リバイバルプラン、そしてクロスファンクショナルチームをつくりました。そのプランの「いの一番」がブランドアイデンティティーというチームだったんです。
 私はそこに所属していて、真剣に、リストラをして何とか会社を生き残らせようとしていると同時に、どんな会社になるのかということを議論しました。
 経営者の方々が中長期的な経営の安定性を考えてのイメージ、それは社内的にどういう形で共有されたかわからないですが、志高く入ってこられた記者との間にズレがなかったのか。
 そういうところにズレが出ると、往々にして社内情報流出や漏えいが起きる。社内の風通しが悪いので、外の媒体を使って経営者に物申すということが起こる。

【持田】 十分お答えになるかどうかわかりませんが、一般論で言いますと、新聞業界は長期低落傾向にあります。コストダウンをしながら凌いでいるというのがこの10年ぐらいの状況です。その中で朝日はデジタルに取り組んできました。ただ、デジタルではまだ紙の減収を補うだけの収益を上げるというところには至っていません。
 新しい収益源、持続的成長をしていく分野を育てなければいけないという問題意識を持っておりました。現経営陣は今年1月、構造改革を進めると宣言して、グランドデザインをつくって、まさにこれから実行しようとした。その中でこういうことが起きました。
 進めるにあたって、現場とのズレがなかったのか。私は経営陣なので、勝手に論評するわけにはいきません。ただ、朝日新聞でコストダウンを迫られる状況がはっきりしてきたのがリーマン・ショックの時です。広告収入が非常に落ち、その後も低落傾向は続いていますから、人員減、経費カットが常態化しています。
 例えば、ある総局は、昔は記者16、7人いたが、今は10人ぐらいになっている。これまで長年続けてきた仕事の仕方で続けようとすると、人数が足りないというような不満があったことは事実です。経営側や幹部も理解はしていて、これまでは、速さを競う競争、少しでも速く情報をとってくれば、それが特ダネだという時代から、朝日新聞ならではの報道、朝日新聞が発掘して初めて世に出た、そういうものに軸足を動かしていかなければならないということを進めていたわけです。その先陣を切っていた調査報道、特別報道部で今回こういうことが起きたのが痛恨事であります。
 先ほど、国広さんがおっしゃったわかりやすい羅針盤が必要というお話。私も久しぶりに綱領を読みまして、何と古めかしく、普通の読者の人には説明できないと思いました。ただ、これを変えるには相当議論をしないといけません。美しい文章だけならすぐ書けると思いますが、モチベーションを共有できないと、身になるようなものはつくれないのかなと思っております。

【飯田】 私は営業部門の出身なのですが、先ほど編集とビジネス管理部門との乖離というお話がありました。新聞業界全体で、一般紙の朝刊数が4,000万部を割りました。毎年、50万~100万部ぐらい、日刊紙全体では減っています。全国紙に限らず、地方紙も入れると新聞社は約100社あるのですが、業界全体では競争よりも協調、これを重視しています。部数が全紙で減るので、業界全体では輪転機が余る。古い輪転機の寿命が来たら、余裕のある新聞社に印刷委託する。新聞配送も自前にこだわらず共同輸送というようになっている。あとは販売店。これも共同配達が進行中です。したがって、販売部門のほうはかなり危機意識が強い。それに比べて、編集の皆さんの危機意識がないというのが一番のズレだと思います。

【江川】 社員集会を聞いていて、やっぱり編集の人は集金に行ったらいいんじゃないかと思いました。
 質問です。日頃、編集がビジネスの人たちの現場を理解するために、どういうことをやっていらっしゃるのか。
 それから、デジタルの話です。吉田調書は紙面だけじゃなく、デジタルでもかなり展開をしましたが、新聞の方は記者3人しか知らなかったと。全部は見てないという話でしたけども、デジタルのほうはどうだったのか。中身のチェックをどういうふうにしたのかということを教えてください。
 そして、朝日新聞はデジタルと紙で、情報の質に差をつけているのか。朝日は、デジタルと紙面の棲み分けをどうしているのか。それから、記者がふだん記事を書くに当たってのハンドブックがあれば、見せていただきたい。
 最後に意見です。綱領は作り直した方がいいと思う。委員会がやるのは、綱領はこうあるべきというのではなく、社員が下から意見を出しあって作っていくべきだ、という方向性を示すことではないでしょうか。綱領をつくっていく過程で、社員一人ひとりがこういう新聞社を作っていきたいかを考えたり話し合ったりしていくのが大事ではないか。

【西村】 デジタル本部とデジタル営業センターは、広告、販売、編集、技術、企画開発、プロモーションなど、社内のありとあらゆる部門、ビジネスと編集が集まっているセクションです。そういう、他部門と一緒に仕事をするようなセクションが他にあるかというと、例えば総局の中には、販売店と総局長、あるいはデスクが話し合いながら、連載企画のイベントなどをやるところもあります。今回の問題で、部長とか局長とか、局長補佐の皆さんが地元の販売店を回り始めたところです。
 紙とデジタルの棲み分けについては、吉田調書では、紙とデジタルでは全く違う表現をするというのが基本コンセプトでした。紙では、お手元にあるような報道をした。デジタル上では、1冊の本を読むように、CGとか、音声とか写真などを使いながら、1冊の本をめくって読むような形にした。
 朝日では、紙に載せられないものをデジタルに載せるとか、そういうコンセプトではやっていません。紙とは全く違う、デジタルならではのコンテンツ、表現をやるというのが朝日新聞デジタルの基本方針です。
 ハンドブックについては、後で事務局のほうから資料を提出させます。綱領については、さっき持田が言ったように、記者や社員も入社以降、多分見ないと思うんです。この綱領についてどう考えるかということは、朝日新聞の存在意義を考えることと表裏一体なので、そういう作業はやりたいと思います。

【江川】 デジタルの方向性はわかりました。デジタル部門のファクトチェックというのはどうやっているんでしょうか。

【西村】 吉田調書の事実報道については、記者2人、デスクがやっていて、デジタル部門では、そこで出てきた膨大な文書をどのように表現をするかというチームですね。ファクトチェックは出稿者たちがやっていた。

【江川】 ファクトチェックに関しては、とにかく編集部門に任せていると。

【西村】  そういうことになります。(注;デジタル表現と文書との整合性のチェックはしていました)

【飯田】 記者の販売との交流についてです。入社して、1週間くらいは本社で一緒に研修しますが、その後、編集とビジネス系と分かれます。編集の新入社員の場合は、販売店研修は1泊2日です。他紙を見ると、かなり販売に力を入れている中日新聞は記者も1カ月ぐらい販売店研修をやる。まず、徹底的に読者の声を聞かせるというのが中日さんの考えのようです。読売はどうなっているか。うちより多いと思いますけれども、どの程度かはわかりません。
 高校野球などで、総局と販売店と一緒に仕事をするのですが、主に販売局の担当者が会うのは総局長だとか次長クラスです。若い人同士の交流というのがあまりない。10年目の販売担当者になると、総局などに記者として行くことがある。逆に、編集からも10年ぐらいすると販売局に来ます。だから局間交流というのは前よりは活発にやっています。

【西川】 綱領についてですが、社員手帳にあります。それから、今お手元にあるのが「事件報道の手引」です。特に人権問題を中心に、匿名、仮名の問題など、過去の事例も入れております。

【後藤】 この委員会の唯一、最大のミッションは、朝日新聞というメディアは「何のために存在するのか」「何のために存在しうるのか」を、私たち自身の手で問い直すことだ、と申し上げてきました。プライベートカンパニーであり、株式を公開しているわけでもない朝日新聞社が、パブリックカンパニーとしての存在意義を得るため「理念」を再確認する作業でもあるのでしょう。それを受ける形で、国広委員からは「何のために存在するのか」「会社の使命は」という言葉をいただき、志賀委員からも期せずして「朝日新聞の存在意義は何なのか、社員が突き詰める」「企業理念ありき」という発言がありました。江川委員からは、「朝日新聞綱領」をつくり直したら、というご意見をいただきました。
 戦前の朝日新聞は、軍縮の論陣を張ってきましたが、翼賛体制と戦時下の言論統制のもと、戦争協力に踏み込んでいきます。その深刻な反省から、敗戦の年、1945年の秋に、「国民と共に立たん」との宣言を1面に掲げ、「常に国民とともに立ち、その声を声とする」「あくまで国民の機関たる」と誓っています。それらを踏まえ、サンフランシスコ平和条約が発効し、日本が独立を回復した1952年に「朝日新聞綱領」を制定しました。前の2項目は、戦後民主主義をつくっていく、世界平和に貢献するという、やや高揚した時代精神を映しているようです。後段のうち第3項目では「真実を公正敏速に報道し、評論は進歩的精神を持してその中正を期す」として、いわばジャーナリズムの精神を、4項目は「常に寛容の心を忘れず、品位と責任を重んじ、清新にして重厚の風をたっとぶ」として、これはリベラルの神髄を、それぞれうたっているのかなと、私は個人的には思っています。
 企業理念を、綱領を問い直す、アイデンティティーをあらためて確立すべきですが、変えるべきものは変えるが、守るべきものは守らなければならない、という立場でやっていくべきだと思います。とくに第3項目を踏まえていれば、今回の問題は起こり得なかったのではないのでしょうか。

【国広】 私は40年近く朝日新聞をとっています。たぶん惰性で。必ず読むのは「ののちゃん」だけです。結論先にありき、情緒的という印象がある。社論に沿ったキャンペーンというのを一切してはいかんというわけではないが、世論を強引に引っ張ろうとするようなキャンペーンは、読者にファクトを基に考えさせるのではなく、情緒的な見出しと繰り返しによって引っ張っていく。言葉を選ばずに言えば、世論操作とでも言えるように感じます。しかし、意図が丸見えなので、実際には違う考えの人に対する説得力に欠ける。同じ考えの人たちの相互自己満足。以前私は、朝日の論調は嫌いではなかったんですけれども、気持ちが離れていきました。

【西村】 国論を二分するような問題について、社説、社論を展開するのは、新聞社としては当たり前のことです。問題は、キャンペーン型報道の際に、朝日の論調に反対する論者の指摘や意見、それに反する事実や「不都合な真実」を紙面で取り上げる度量の深さや紙面の奥行きや幅を犠牲にしてはいないか、という問題意識があります。
 見出しの情緒性は、日々点検をしなくてはいけません。編集センターがつけるのですが、書き方だけではなくて、見出しも含めて情緒に流されていないかという点検を、今、編集局、編成局の社員は一生懸命やっているところです。それは、彼らにそういう問題意識があるからです。不都合なファクトを捨てていないか、自分たちを批判する人たちの意見を取り入れ、紹介しているか、今回のことが起きて以降、実践するようにしています。

【国広】 西村さんがおっしゃるような方向性を目指していることは理解しますが、実際には「閉ざされたサークル」の中でビラを出し合って満足しているという印象です。そのサークルの人たちでさえ、離れていくし、残った人たちはそのまま高齢化していく。

【江川】 キャンペーン報道について。昨日、日本報道検証機構、いろいろな新聞に誤報がないか検証している社団法人があるんですが、そこの方に聞いたところ、朝日新聞の記事は検証が非常にやりにくいというんです。1つの記事で、事実と評価が混然一体としている。コラムではなく、ニュースがそうなっていると。
 その方が例に挙げたのが、イスラム国に対するアメリカの空爆についての記事。アメリカが国連に宛てた文書で、集団的自衛権を行使ということを、鍵括弧の中で朝日新聞は報道した。文書そのものには集団的自衛権という言葉はなくて、単に自衛権としか書いてないと。ただ、これを解釈すれば個別的自衛権というのは有り得ないだろうから、集団的自衛権であるという、その解釈なんだと。だけどそれは解釈であってファクトではないはずなのに。そうして、事実の中に解釈を紛れ込ませる報道が朝日は実に多いと。
 キャンペーンをやるのはいいけれど、事実と、それに対する評価や解釈をどうやって峻別していくのかということを考えていかなければいけない。

【西村】 キャンペーンをやるときの過剰な問題意識が、開かれた紙面という基本的なスタンスを阻害しているのではないかというのは、おっしゃるとおりです。後段の点については、キャンペーンの影響例なのか、別の要因があるのか、後で確認します。 (注:記事のこの部分は記者の解釈ではなく国連関係者に対する直接取材に基づいて書かれています。ただ、記事作成にあたっては、大使声明とそれを踏まえた国連関係者の説明部分の切り分けについて明確にすべきでした)

【国広】 朝日ってずるい、というイメージを持たれている。訂正の時も、いろいろな煙幕を張っているかのように見える。そういうプロのジャーナリストとしての倫理的なところが揺らいでいると外から見られているところが、深刻な問題ではないのかと感じます。

              〈休憩〉

【古市】 思ったことを3点ほど。朝日を批判するメディアを過剰に意識してしまったということですが、文春なのか、新潮なのかわからないですけれども、新聞も雑誌もおそらく2、30年後には消えていく。小さくなっていくメディアだと思うので、その中での小競り合いみたいなものに、ある種の滑稽さみたいなものを感じました。
 吉田調書に関して、取材した特別報道部が社内で少人数の秘密主義になっていたということですが、他にも、なかなか口を出せない、というような部やチームがあるのかということをお聞きしたい。この秘密主義というのは、使命感だけだったのか、それとも違う理由があったのかも聞いてみたいです。権限を現場のチームに移譲するということは良いことですが、それは情報の共有が前提だと思うんですね。情報を共有しないで権限を現場に移譲すると、暴走やトラブルが起こるということは推察できることです。そのような認識があったかどうかということもお聞きしたい。
 もう一点はデジタルの話です。先ほどからお話を聞いていると、朝日新聞という会社は言論の力をすごく信頼している会社なんだなぁと思いました。もちろん、新聞社である以上、言葉の力は信頼すべきであるとは思うんですけれども、新聞というメディア、紙の新聞というものを考えてみたときに、必ずしも情報とか言論の力で日本中の何百万人、何千万人が読むようになったメディアではない。販売店を含めた宅配制度などを含めたビジネスモデルが成功したからだと思うんです。
 デジタルを考えたとき、いかに正確な情報を伝えるかというだけではたぶん勝負できなくて、宅配制度に匹敵するような何か新しいビジネスモデルを考えないと成功はあり得ないと思うんです。その点に関して、透けて見えるのは、言葉の力、区分でいうと、経営ではなくて記者、報道の地位が高い会社なのかなということを思いました。

【西村】 秘密主義が貫かれているというわけでもないんです。今回のケースは、少人数による秘密保護を徹底するあまり、他の記者たちが、ものが言えなくなったり、情報の共有ができなくなったりしたということもありました。全体で風通しが悪くなっている、物を言っても無駄ではないかというような空気があって、もう少し、みんなでわいわい議論しながら新聞をつくるということが必要ではないかなと思っています。
 デジタルのビジネスモデルの件ですが、朝日の全国的な販売網とデジタル部門との二人三脚でまず有料購読者を増やし、基礎をつくった上で本格的なデジタル戦略に乗り出そうという二段階論を考えています。今はその過渡期です。編集系の地位が高い、発言力があるというのはまさにおっしゃるとおりです。

【持田】 まず補足を。特報部の秘密主義という点、今回、秘密に扱ったことには理由があります。やはり、機密の文書を入手したときの扱いというのは極めて慎重にしなければいけない。取材源を特定される可能性もある。ただ、古市さんがおっしゃったように、最低限の情報の共有はどうしても必要であろう。今回、それができていなかったということになるのかなと思っています。

【古市】 吉田調書報道問題がいかに生まれたかに関しては、PRCで検証されているところだと思うんですが、もっと違うベクトルで、こういう切り取り方だったらもっと世間にインパクトも与えられたし、かつ誤報ではなかった、というような議論がされているならお聞きしたいです。例えば、「東日本壊滅」みたいな言葉を見出しにしたらよかったかもしれないし、幾つか方法はあったと思います。

【西村】 まさに古市さんが言われた「東日本壊滅」でやればよかったじゃないか、という議論はあります。ある若い記者が「どうして『吉田調書入手』ではいけなかったんですか」と聞いてきたこともあった。ただ、編集者からすると、「それでは見出しにならない」となるわけです。おっしゃったように、もともと大混乱の中で何をしたかというのを描き出すのが一番の問題意識だった。

【志賀】 構造改革について、どういう形で事業転換をするのか。今まで持っていた資産を使って次の事業につなげるのか。扱っている製品はいずれ衰退していって、新しいものをつくっていかなければいけない。そういう転換のさなかには、必ず社内からが不祥事やいろいろなものが吹き出してくる。日産は、90年代は1年を除いてずっと赤字で給与が下がっていきました。その中で構造改革がどんどん後追いしていった。従業員はみんな一生懸命やっているんですが、ベクトルが合わなかった。
 日産リバイバルプランが何を変えたかというと、全従業員新しい戦略を理解し、共有し、同じ方向でみんなが動き出した。先ほど、構造改革をするところだったということですが、従業員はこの構造改革にコミットしている意識があったのか、そういう社内の調査がされていたのか。コミットしていない状態で経営側からだけが構造改革を出ると、現場の焦りを招く。
 再生委員会で、最終的に、朝日新聞が21世紀、あるいは22世紀に向かって、将来的なビジョン、経営的な成長戦略を出せるといい。そして、これは従業員一人ひとりのコミットメント(責任を持って関わること)がないとダメだと思います。先ほど古市さんがおっしゃったように、今後の宅配に変わるシステムをどうするんだと、そう成長戦略を出さずに再生プランだけ出しても、共有できないんじゃないのか。

【江川】 吉田調書で、吉田所長は菅元首相に対して悪口を言っていますよね。ところが朝日の記事には見当たらない。政治的な配慮があったのでしょうか。それから、今後の議論について、新聞業界に共通する問題と朝日新聞ならではの問題をできるだけ切り分けて議論して提示したほうがいいと思います。また、訂正に関する基準があるのであれば、示していただきたい。なければ、ルールをつくったほうがいいということを提言したいと思います。

【西村】 訂正に関するルールは、提出させていただきます。社員たちからも訂正報道の改革案が出ています。社外から指摘があったときに、どのような対応をすべきか、機敏に対応できるか。任天堂の問題では、取材相手が了承したからといって、紙面に出さなかったところが非常に深刻だったと思っております。
 ニューヨーク・タイムズも「Correction」の欄があります。危機管理のあり方や読者の指摘をどのようにフィードバックするかも、ぜひ取り上げたいと思います。

【江川】 誤報を出した記者というのは、マイナス査定されるとか、始末書を提出するとか、どういうペナルティーを受けるのでしょうか。朝日新聞は誤報を出すと、その事実や原因をメーリングリストで流して共有しているという話を聞いたのですが、事実ですか。

【西村】 「今週の訂正」というウイークリーレビューは全編集局が共有しています。また、過去の失敗について、ケーススタディーにしていろんな研修で取り上げています。

【持田】 誤報の中身によります。過去の例でいいますと、処分した例もあります。メモを偽造して紙面化したとか、他紙の記事を盗用したなど。ただ、事実関係の誤りや確認不足などは、訂正やお詫びを出しますが、処分するということはありません。

【国広】 具体的な点として、今の訂正というのは、同じ間違えをしないように社内共有はされているんですけれども、「誤報を書かれた側」の立場をもっと強く出すべきだと思います。たとえば、紙面に訂正欄を設けて、訂正記事の一覧ができるような対応も必要と思います。忘れた頃に、どこかで小さな訂正記事が出るということでは、訂正の実際の意味が乏しい。本質的な問題として、今日の議論で思ったのは、理念、行動規範の問題。志賀さんがおっしゃった、今後の経営をどうするのかまで話し合うのか。この委員会の射程をどうするのかというところも議論する必要があるのではないでしょうか。

【持田】 信頼回復、再生というと、編集紙面のことを中心に考えていたのですが、やはり実行していくには経営の持続的なビジョンをちゃんと持つことも必要ですし、志賀さんがおっしゃったとおり、それを社員が共有できなければいけない。社員、経営陣、両方に向けて、この委員会で方向性みたいなことをもし決められれば非常にありがたいなと聞いていました。

【志賀】 それに関する反響もあると思うんです。本当にこんなことで信頼回復できるのか、という意見も出てくるでしょう。紙面化された後、特にデジタルは反応が早いですから、反響がどうだったのか、次回またご紹介いただけるとありがたいです。

【江川】 議論テーマに「将来への展望」とあるのはどういう意味なのでしょうか。

【西村】 これは、いわゆるデジタルの具体的なマネタイズ戦略とか、そういうものではなくて、朝日新聞が今後メディアとしてどこに向かうのかというイメージで議論していきたい。メディアとしての持続的な成長、あるいは構造改革についても考えたい。

【江川】 紙面とかコンテンツだけの問題じゃなくて、先ほど西村さんがお金のことはとりあえずみたいな感じでしたが、それは新聞社としては足腰の部分ですから。せっかく志賀さんがいらしているので、それも除外しないで、ビジネスとしてどういうふうに成り立っていくのかというのも、考えていかねばならないのかなと思います。

【西村】 信頼回復再生と構造改革戦略がリンクしなきゃいけないというご指摘は、そのとおりだと思います。

【志賀】 もう1点だけ強調しておきたい。事業転換あるいは構造改革をやっている最中に、社内で十分に共有されていない、こんなのおかしいよな、と思っている人たちが少しとんがったこと、勇み足をしたくなるということなんです。つまり記者からすれば、デジタルだなんだって言っているけど、俺たちはスクープとるぞ、みたいなところで不祥事が出ているとすれば、構造改革について、社内で共有しないと繰り返しますよというのがポイントであります。

【江川】 社員集会でも編集新社については反対する声が出ていましたよね。それについては、議論が全然できていないと。

【西村】 一応この問題については半年間凍結をするというのが社員側に伝わっているんですよね?

【福地】 編集新社の設立については組合に提示しました。した時点で止まっていて。しかし今、編集の現場はそれどころではないので、半年延ばしましょうということも社長が組合に表明しています。

【西川】 本日はありがとうございました。