「信頼回復と再生のための委員会」
第2回会合 主なやりとり

※末尾に「危機管理」等のやりとりを追加しました

日時  2014年10月31日(金) 9:00~12:20 新館4階研修室にて
出席者 <社外委員>   江川紹子さん、国広正さん、志賀俊之さん、古市憲寿さん
    <社内委員>   飯田真也委員長、西村陽一委員長代理、持田周三、福地献一
    <オブザーバー> 五味祐子さん、後藤尚雄、池内清(以下、敬称略)


【志賀】 <スライド説明>事業会社の再生が、新聞業界の皆さんの役に立つか不安だが、参考になれば。日産は1976年に私が入社してから1999年まで、国内シェアが低下し続けた。バブルが崩壊した後、92年以降99年まで、96年だけ黒字であとは赤字だった。自動車事業だけで2兆円の負債を抱えていた。6兆円くらいの売上ですが、販売金融まで含めれば4兆円くらいの負債があった。構造改革をやったが、後追いだった。銀座の本社ビルを売却し、94年には座間工場を閉鎖した。1999年3月にルノーとアライアンスを締結し、カルロス・ゴーンがやってきた。私は90年に課長になったが、課長時代からずっと給料が下がり続け、2000年、10年ぶりに給料が上がった。ゴーンは99年4月から、日本国中、世界中、全ての拠点を回った。回るだけじゃなくてインタビューをした。私は最初に「志賀さん、あなたの会社に対する貢献は? What is your contribution?」と最初に聞かれた。次に、「日産を再建するのにどうしたらいいのか」と問われ、「年功序列を破壊してください」と言った。翌年私は、常務に抜擢された。そこで完全に年功序列じゃなくなった。ゴーンは、おそらく1000人近くにインタビューした。7月7日に初めて、CEOとして従業員に話をした。そのとき、スライドで分析を示した。不振の要因は①利益追求の不徹底、②顧客指向の不足、③機能横断・部門横断の不足、④危機意識欠如、⑤全社共通の長期ビジョン欠如だと、5つにまとめた。一方でいいところも指摘し、「回復のOpportunities」も5つ挙げた。このときにCFTを作ると発表した。「日産の問題を解決する答えは日産の中にある」として、機能横断型のチーム=CFTを9つ作った。43,4歳の人をリーダーにした。CFTは2カ月かかって提案を作って、社長に直接上げた。それをやるかやらないかはゴーンが決めた。①多数の人が協力、②トップダウンとボトムアップ方式、③聖域なし強制なしタブーなしだった。②は、ボトムアップで議論を積み上げるが、社長がトップダウンで決めるという意味だ。数百の提案が上がってきたが、実行可能なモノを集めて1999年10月18日、日産リバイバルプラン(NRP)として発表した。「NRPの策定はすべてのタスクの5%に過ぎない。あとの95%はやり遂げること」で、大切なのは問題を発見してから実質的に解決されるまでの速さ、ということを確認した。当時、日産本社近くの居酒屋やタバコ部屋で、社員は会社の悪口を言っていた。従業員が日ごろ抱えている問題意識を、一つのプランにしていった。日産は工場が一つ余っていることは全員が知っていた。でも閉められなかった。分かっていることが経営で意思決定できなかった。99年と01年の、日産社員の意識変化を見ると、「トップの意思決定が早い」「会社の経営方針が明確」という項目が上がった。「日産が好きだ」も伸びた。愛社精神のある従業員が多い。タバコ部屋での悪口が建設的な提案に繋がっていく、みんなやる気が出ていくと良い。従業員12万人に、ゴーン以下たった33名が入っただけなのに、会社は大きく変わった。何が変わったか、合宿して確認した。そのポイントを2005年、日産WAYとして明文化した。①多様性を重んじる(ダイバーシティ、クロスファンクション)、②常に高い目標に挑戦する(チャレンジ)、③結果を出すことに全力を注ぐ(コミットメント)の3点だ。日産が復活できたのは、従業員一人一人が日産を再生させようと意欲があったためだ。「すべては一人ひとりの意欲から始まる The power comes from inside.」は、今でもよく使っている。今でこそダイバーシティといっているが、当時日産は役員全員が日本人で、男性で、有名大学を出身した人が似たようなスピードで出世した、完全なモノカルチャーだった。そこにわずかながらフランス人が入ってきたために、多様性、日産の常識が世間の常識でないことに目覚めた。「すべてを曖昧にせず、わかりやすく共有化」「自ら達成責任を負い、自らのポテンシャルを十分に発揮していますか?」「自分自身を含め、人のやる気を引き出していますか?」「結果を出すことに全力を注いでいますか?」といった日産WAYを印刷したカードは全社員が持ち歩いている。日産WAY教育は、新人、新任課長、新任部長に対して行っている。再生した結果を、コーポレートのカルチャーにしていく。変わっていったときに、昔の朝日に戻したくない、戻しちゃダメだと。行動規範だけじゃなくて、ビヘイビア、バリューもしっかりと作っていくのが良い。2008年9月15日にリーマンショックが起こり、わずか1週間後、9月23日に臨時役員会議を開いて対策メニューを作った。そのメニューを全社員に配った。ここまで悪くなったらこうする、と決めた。次はこれをやる、とメニューを出して、覚悟してもらった。後追いにならないようにした。毎月、社内イントラにリカバリーの進捗レポートを掲載した。①危機を分析、②対策メニューの作成、③社内コミュニケーション、④状況に応じた対策実行、⑤危機後の戦略、がポイントだ。残業カット、出張カットなどはやったが、商品開発への投資や新興国への進出については減らさなかった。モノカルチャーで官僚的だった日産が、柔らかな会社に変わった一つの原因はダイバーシティだ。合わせて、V-upも行った。これはまさにタバコ部屋の議論だ。誰もが認識しているが誰も解決しない共通の問題は放って置かれがち。これを、クロスファンクションで解決する取り組みで、6Σに似ている。課題を明確にし、皆でディスカッションして、解決策を考える。壁にポストイットを貼ったりしている。再生された新しい企業カルチャーを持続される、昔に戻らないことが大事で、難しい。相当な批判を受け、相当な痛みを持って改革しても、喉元過ぎれば熱さを忘れるものだ。企業は、形状記憶合金のようなものだ。マネジメントツールを社内に完全に浸透させて、戻らないようにするのが大事だ。

【西村】 私たちに共通している点が多いと思います。縦割りの文化とか、問題点を指摘はするが解決しないとか、コミットメント意識が低いとか…。私たちが直面している最大の問題の一つは、社員全員のコミットメント意識です。どのくらいの時間をかけた場合にCFTは機能するのでしょうか。

【志賀】 トップマネジメントの能力、リーダーシップの強さによる。メニューはすぐに作れる。クイックサクセスが重要。倒産寸前まで追い込まれ、外国人がやってきて、日産文化が破壊される…。そこにリバイバルプランが発表され、クイックサクセスがあって、何かが実際に良くなっていく。一番私が感じたのは、赤字体質からの脱却だった。サプライヤーは疲弊していたが、このままでは共倒れになるということで20%原価低減した。その後、恩返しをしていくということで。2年後、収益を見ると、原価低減しながら収益が上がった。赤字だったモノが黒字化していく。変わった、という感じがした。メニューの中で最も効果があって、最も早く効くものをやる。日産リバイバルプラン通りやれば、本当に復活するぞという期待値だ。メニューを作った後、難しくて、結果が出るのに時間がかかるものは後回し。若返りも衝撃的だ。私は46歳で常務になったが、5歳飛んだ。目に見えて、会社を変えようとしているぞ、と映った。変革をするとき、年功序列でそろそろ役員という人は守旧派に回る。目に見える変革が実行されているなというのに、従業員が共感できる。成果は、イントラで把握できる。99年に6千数百億円の赤字だったのが、00年には千数百億円の黒字になり、社員がノリ出した。90年代の人たちも決して遊んでいたわけじゃない。バラバラの方向だったのが一つの方向を向いた。そこがポイントだ。

【飯田】 CFTメンバーの選び方は?

【志賀】 40代前半で「あいつはうるせえな」って人、「建設的にうるさい」人間に任せた。その人がチームメンバーを選んだ。7月7日くらいから、夏休みを潰して。

【古市】 いくつのアイデアが出たのでしょうか? どれくらい実現したのでしょうか?

【志賀】 すごい数出ました。数百です。日産リバイバルプランで発表したのは100にいっていないと思いますが。

【古市】 ボトムアップというと一見いいように聞こえますが、現場は、物事を限定的にしか見られない。1/3くらいは使えたのですか?

【志賀】 だいたいこうすればいい、というのは見えていた。当時は系列破壊をやった。原価低減するために。同じ部品を4つのサプライヤーから買っていたのを、それを2社からにして、1社あたりの量を増やして原価を下げた。そうすればよいと分かっていたけど、誰もできなかった。切った2社をどうするのかと。答えは分かっているが、そこまでやれるのか、実行できるのかどうかだけだ。工場が余っている、人が余っている、儲かっていないビジネスを抱え込んでいるのは分かっていた。例えば携帯電話事業。赤字ビジネスから撤退して、コアに集中した。経営の教科書に書いている通りのことをやった。後追いをしていたのです。トヨタがやるから日産も、と。朝日新聞も、読売がやるからウチも、というのがあるかと思う。

【持田】 CFTでも、プランを立てる人は少数ですが、実行するのは多数です。実行段階で各部門の反発を買うことはなかったのですか。

【志賀】 1999年3月27日にルノーとアライアンスを締結した。それまで自動車業界の雄だと思っていたのに、突然フランスの会社の子会社になった。そのショックからスタートした。今までやってきたことがおかしかったよね、という否定から始まった。CFTは、順風満帆だとうまくいかないことが多い。危機まで行っているので効果が出る。業績がいいと過去否定はできない。パナソニックの中村社長が「破壊と創造」と称して大胆な改革をしたが、業績がいいときにやるのはすごいことだ。

【福地】 先々にこうするというプランを示して、従業員のモチベーションが落ちることはなかったのですか。

【志賀】 当時、キャッシュフローが止まった。従業員全員が不安になった。雇い止めだといって、新聞社に叩かれた。でも、日産は契約期間の途中では切っていない。どこまでやるか、従業員は分かっていた。良くなったら戻ってきてもらいますと先を見せた。長期的な投資は継続します、だから我慢してください、と。正直言っていつ回復するとは見えなかった。リーマン後、半年して第2弾のリカバリープランを打ち出した。それまでは出血止めだった。その後はリカバリーに切り替えるわけです。出血を止めるのとリカバリーは異なる。危機対応組織・会議体を設定し、2009年の半ばから業績が回復した。そういうのが見えてくるのがモチベーションに繋がる。

【江川】 現場レベルの話し合いは朝日でもできると思うが、「上」の人たちが問題では。朝日では社長自身がドンドン出血をさせている。ゴーンさんは受け入れざるを得ないとして、役員が若返った際、役員になれなかった人たちの不満はどうやって克服したのか?

【志賀】 結果を出していったら、文句を言っていた人たちが何も言えなくなった。ゴーンはルノーから派遣された。ルノーが34%出資したとき、2兆円の借金があった。ジャンク債扱いで、もう社債を発行できない状態だった。出資がなかったら、3月時点でアウトだった。6000億円入れた。リカバリーしないともたない。クイックサクセスで利益を生んだ。不満はあっただろうが、成功していく中で徐々に応援団に回った。

【江川】 役員は何人替わったのですか?

【志賀】 代表取締役は1人除いて全員、若い人に替わった。原さんが取締役を四十数人から減らし、顧問も全部なくした。原さんも1年だけで、会長にならずに辞めた。けじめを付けた。潔かったと思う。

【飯田】 村山工場閉鎖については。

【志賀】 閉鎖の話は、それまでもあった。リストラにはリストラ資金がいる。倒産していないのに、解雇はできない。あれだけの工場を閉鎖するとなると、相当なリストラ資金が必要だ。90年代の日産はキャッシュがなかったので、リストラをやりたくてもやれなかった。上手にリストラするところは、資産売却してリストラ資金を用意する。そして大胆なリストラを行ってリカバリーに入る。後追いだと、資産を売っても日常の運転資金に消えてしまう。

【国広】 日産は財務的な利益で再生を示せる。朝日新聞の危機的状況は、社会的信頼が失われているところにある。数値化が非常に難しい。日産のリバイバルプランをどう適用すれば良いのか。

【志賀】 是非参考にしてもらいたいのは、社風を変えていくこと。いただいた資料を見ると、朝日社員には相当不満が溜まっている。トップに対する批判、会社批判、他部門批判…。日常的に部門横断で仕事できるといい。編集と営業が人事ローテーションで動いているとか、役員が機動的に代わるとか。継続的、持続的に、社風が変わっても元に戻らないような仕組みを作る。

【西川】 理念をどう共通認識にしていくのか…。日産ではどのように醸成させたのか、集約したのか、教えていただきたい。現実的な問題と理念の関係は?

【志賀】 それは難しい。我々も悩んだ。日産の存在意義や、どういうブランドにしたい、お客様の期待は何なのか…という点については明確な答を出せていない。今日産が苦労しているのも、ブランドを作るところで、思ったほどの成果を出せていないからだ。お客様からの期待をしっかりと受け止めて、喜んででいただける商品をだして、ブランド力を上げることについては、それほど自信がない。5つの強み(回復のOpportunities)、5つの弱み(不振の要因)で触れたが、日産にも悪い部分ばかりではなく、良い部分、強い部分があり、そっちの部分に存在意義がある。朝日新聞らしい部分を軸に再生ビジョンを作るのがよいのではないか。悪いところばかり指摘されても頑張ろうという気にならない。日産では、経理・財務・広報・商品企画には外国人がバンバン入ってきて、ジャパニーズワールドが崩されたが、生産部門と開発部門には手を付けなかった。会社としての競争力の源泉は温存し、伸ばす。弱かったところのシステムを変えていった。朝日の強み、胸を張っているところを軸に、悪かったところを変えていくべきでは。

【西村】 社員集会などでも綱領を読み直す、問い直す、作り直すなどの意見がありました。朝日新聞がどこを目指すのかというものもありました。これを論点の1つめに据えようと思います。理念、存在意義の問題です。社員全員が自分のこととして意識できるよう、どのようなプロセスを経ていくかを中心にすることを考えています。2つめが、編集権の独立、経営と編集の関係について。3つめが、危機管理体制について。商品、新聞をどのような形で、どういう目線、どういう意識で作るかは次回討議します。

【桧山】 審議事項は ①理念と存在意義、②経営陣の構成の多様化と編集権の独立、③読者の視点での危機管理の3つです。朝日新聞綱領(1952年制定)を再確認します。記者だけでなく他部門も共有されているか、新たにボトムアップで作るのかなどです。短期的には「あなたにとって朝日新聞で働くことの原点は何ですか?」「朝日新聞の強み(差別化要素、存在価値)は?」と問いかけ、長期的には、綱領をはじめ、既存の理念体系を見直し、ブランドイメージのための議論を深めようと思います。

【西川】 綱領は、全社員に向けて作られましたが、編集向きの内容です。なかなかいいことが書いてありますが、時代に合っているかどうか。方向性は年内に出したいので、意見集約は年内に行います。時間をかけて理念を議論し、固めていきます。そこにイメージ戦略を絡めていきます。

【国広】 存在意義は根本の根本だ。しかし、具体的なモノにどう落としていくかが問題だ。日産の「カード」のようにするのか。理念の一番深い部分の話と、結局どうなるのという話を、茫漠とせず、きゅっとまとめるのが必要ではないか。結局我々がどうしていくのかの見える化、最終成果物のコンパクト化が必要なのでは。たくさんの意見が、何百と出てきたが、その分類やプラン策定をCFTに任せるのか。具体的な進め方などのイメージはないのか。

【西村】 社員からの意見、販売店から、販売店経由で読者から、社員集会・・・をまとめた段階です。今後再生チームが分類、整理、再構成します。読者目線に立った新聞づくり、訂正報道の抜本的な見直し、読者を巻き込んだ新聞づくりについては、議論が始まっています。集まった意見は、実行過程で生かしていきます。

【西川】 すでに盛り込んでいる提案もあります。具体的提案を、役立つように各局におろして、まずは読んでもらう予定です。ただ下ろすだけでなく、現場とコミュニケーションしながら修正し、理解も深めてもらって進めていきます。

【江川】 年末までの期間で、このチームだけで、全ての案について検討するのは難しい。再生プランの中に、チームを作って今まで以上に意見を集めて検討したりブラッシュアップしたりする、と盛り込むべきではないか。短期的なこととして「原点は何ですか」と問いかけるとあるが、初心に返ろうということか? それも大事だが、今の時代、これからにおいて、朝日新聞があること、朝日新聞にいること、そこで仕事をすることの意義や意味にもっていかないと。目に見えて変わっていくことが大事という話を志賀さんから伺ったが、「信頼」はなかなか数値化できない。今の段階で朝日新聞が、社会にどの程度評価されているのか世論調査のようなことをしておいて、1年に1回、新聞週間でも9.11でも構わないので、少しずつ信頼が回復していると確認できれば励みになるのでは。

【石田】 信頼度とか正確性とかを、毎月モニタリングしています。年に1回全国的調査をしています。信頼度はどん底に落ちています。今のところ社員には公表していません。9月末、10月アタマの調査では、朝日新聞だけどん底に落ちています。そこから1カ月経って、速報値で見てみると、朝日新聞を止めようという人はちょっと収まってきています。

【江川】 なぜ社員に開示しない?

【石田】 時系列で見ないと意味がないからです。もうすぐ出せます。

【飯田】 定点的にやっている。集計中です。先ほど言ったのは速報値です。

【国広】 是非見せていただきたい。サンプリングは? 対象は購読者だけ?

【石田】 読者と、世の中全般です。

【国広】 従来から?

【石田】 今回からです。

【国広】 質問項目も見たい。

【志賀】 新聞社の信頼度を評価する第三者機関は? 自動車業界では、JDパワーという第三者機関が調査している。品質、信頼などがランク付けされる。

【飯田】 ビデオリサーチのJ-READというデータがある。

【石田】 全国個人が対象です。

【持田】 お金を払った各社が共有している。各社、都合の良いところだけ切り取っている。

【志賀】 公表は?

【持田】 新聞社、各社が行っています。

【飯田】 クライアントが広告を出すときに利用しています。

【国広】 自分たちがちゃんと再生できているのかどうか、重要な指標になる。リアルタイムとまでは言わないが、社員一人一人が再生を実感するあるいは遅れているところが見える、バロメーターという位置づけになるとよい。

【持田】 今度ご説明して、どういうやり方がいいかご意見を承りたい。

【古市】 理念とか存在意義とかを社内で議論するのは大事だと思うが、「自分探し」みたいになっている。これはこれで大事なことだとは思うが、他にやるべきことがある気がする。信頼が落ちていることのデータを共有するなど。社員が話し合っても、なかなか全社員が「自分事」とは思えない。やばいデータがあるんだったら、それを早め早めに共有した方が良い。長期的に、半年から1年かけてブランドなり社旗なりの議論を深めるというのは、長期的すぎると思う。僕のイメージでは今年中に報告書を出して、一通りの総括をして、来年から新しい朝日で行きますという感じだった。半年から1年かけてダラダラ、ブランドイメージとかを色々考え直していたら、すっかり再生したと思っていたんだけど、まだやっていたのか、と思われないか。短期的にできないことがたくさんあることは分かるが、ダラダラ変わっていくというイメージだけは見せない方が良い。

【飯田】 古市さんの年代のスピード感は?

【古市】 来年頭ぐらいで全部一通り変わったとなれば良い。日本は、年明けたら「みそぎ」で、一旦ナシにするという感じだ。朝日新聞もダラダラお詫びしている、ダラダラ変わろうとしている、ダラダラやっているなぁという印象を持たれてしまうのがよくないと思う。

【江川】 日本は1月と、3月から4月にかけて、が区切りになる。ロゴを替えるとか紙面を変えるとか、デザインなど時間がかかることは4月1日を目標に、など、メリハリを付けるとダラダラ感がなくなる。

【西村】 社外向けは3か月くらいかかる。準備している。CMも自粛中。社員たちのコミットメント意識、プロセスが重要だというのが、チームの考えです。綱領を自分の言葉で説明したり、議論したりというのは、9月10月あるいは10月11月だけではできるものではない。

【石田】 「CIを1月1日からスタートさせたら、旧体制がやった」と見られます、と指摘されました。マークを変える、は社員が変えたいと思わないとだめです。プロセスを踏むことが必要。

【古市】 日産では、いかに社員のコミットメント意識を高めたかというところで、分かりやすいことを初めにやったと聞きました。朝日新聞に置き換えると何なのでしょう? 人事でしょうか、ロゴなのか、14版を無くすことなのか。何をすれば全社員が変わったと思えるのか。

【飯田】 社長が年内に代わってどういう経営陣になるか…。トップの交代は決まっています。12月5日に臨時株主総会を開きます。内容については今後議論します。

【古市】 トップが交代するのは既定。さすがに、ずっと居座るとは誰も思っていないので、トップ交代に加えて、他にも何か必要だと思います。

【江川】 辞めることの効果は、もうない。9月11日に辞めます、いついつ辞めます、なら大きかったと思うが、もう、変わったとは思えない。あとは、次になるヒトが、今までの朝日だったらあり得なかった人事、順送り人事ではないことを印象づけるようなことか。その場合は定款を変えるなどが必要になってくるのでは。

【持田】 取締役になるには新聞事業経験者でなければ、とある。外部資本に支配されないよう歯止めを設けた。社外取締役を迎えることに反対する人間はいないと思います。今の時期、人材を外部に求めようとしてもなかなか難しい。できる範囲で、なるべく変わった感を出せないか、考えています。定款の問題も簡単ではありません。

【江川】 新聞事業未経験者は何割以内とか、考え方はいろいろある。今のように、内部から、を前提とした定款は違うのではないか。

【西川】 事務局としては、世代間・職場間・部門間の亀裂、溝を修復する方法として、「理念」を使っていきたい。今年12月ではあまりにも早すぎます。来年にかけてやっていきたいと思っています。プロセスが一番重要だと思います。こちらは基礎体力を付けるようなものです。両方必要なのでしょうが、ショック療法は新体制で考えてもらいたいと思っています。

【江川】 タバコ部屋じゃないが、いろんな人が集まることによって、自分たちと違う考えのヒトが同じ会社で働いていることを理解できるといい。編集の中でもベテランと若手で全然違う。若い人たちは、新聞業界に明日はあるのか、自分たちがどうなるのかを不安に思っている。中堅・ベテランは、社員である前にジャーナリストみたいなところがある。営業は営業で違うマインドを持っている。日ごろ、あまり接触することがないのではないか。一つの理念を作る、あるいはいろんな提案を検討するチームを、部署横断的チームを作ることで、自分たちと違う人たちがいて一つの組織ができていることを実感できたらよい。

【国広】 今プロセスを経ようとしているのだろうが、今の社員集会は、「はけ口」になっている。お互い作り上げていく横断組織、にもっていかないといけない。その動きを広げていくことが大事。

【西村】 広げていく、プロセスを大事にするという考え方をもとに。

【江川】 言いっ放しで、責任もって実行する意識がないヒトがいる。他責じゃなくて、自分は、あなたは何をやりたいのか、が大事。

【西川】 続いて、議題の二つ目。「経営陣の構成を多様化し、編集権の独立を明確にする」に移ります。

【チーム員】 今回の三つの事象は、過去の記事の不祥事と決定的に異なる点があります。それは経営の関与を含んでいる点です。慰安婦問題は経営が特集の実施そのものに関わっており、池上コラム問題は、判断に直接影響したかどうかはともかくとして、社長が感想を述べた、つまりゲラを見ていたことが明らかになっています。当チームには、そこに不信感を持つ意見が多く寄せられています。そこで三つの提案を行います。一つ目は、「経営陣の構成の多様化」です。われわれは常々「外の意見に耳を傾けよう」「異論に対して謙虚になろう」と言っています。しかし、議論の中に異論がなければ、その意味は薄れてしまいます。現在の取締役の構成は、全12人中8人が編集部門出身です。そのため、編集出身の取締役の割合を減らすとともに、社長ポストを含めて、社外から取締役を招聘することを検討してはいかがか、という提案です。合わせて「編集権の独立」を明確化します。これが対策の二つ目です。これまで本社は、紙面作りにおいて、外部からの圧力や介入を排してきました。そしてその文化を伝統的に大切にしてきました。これまではあうんの呼吸でそれを守ってきたのですが、社外から取締役を迎えるにあたって、それを明確化します。基本的な考え方は次のような内容です。「究極的には社長を代表者とする取締役会に帰属する編集権の行使を編集担当に委ね、編集権の独立を確実なものとする。ただし、記事の内容が経営危機につながる恐れがある場合には、経営が編集に関与し、企業総体として対応する。その場合も、危機管理チームを通じて関与することとし、属人的、非公式なチャンネルで影響力を行使することを排除する」しかし、一連の問題において、編集の中でも十分に議論を尽くしたのか、十分に異論に耳を傾けたのか、という強い批判があります。そこで対策の三つ目。編集局におけるコンプライアンス体制とガバナンスを強化し、独善に陥ることを防ぎます。事実に謙虚な姿勢で、報道の自由の背景には国民の知る権利に奉仕する責務があることをしっかりと把握する。その態勢を整えます。この点は次回委員会で議論する予定です。

【江川】 その「コンプライアンスとガバナンス」を日本語で言うと、どのような説明になるか。

【チーム員】 前者は、しっかりとルールを守る意識。後者は、意思決定の公正さを保つということです。

【江川】 そのような表現にした方がよいと思う。コンプライアンスの訳語は「法令順守」。法律さえ守っていればいい、ということになりがちだ。今は社内で危機感を共有できていると思うが、将来、共有していない人たちにとっては、言葉だけのものになってしまいかねない。今後もきちんと対応できる表現にすべきだと思う。

【国広】 私も「コンプライアンス、ガバナンス」の表現には違和感がある。独立する編集権があるからこそ求められるのは、記者の倫理やプロ意識という内心的なもの。それが最も大切。そして、それを補完するものとしてチェック体制を敷く、ということだと思う。

【西村】 戦後における編集権の独立の歴史を読み直しました。編集権は法的に定義された概念ではなく、意識の問題です。意識の問題である以上、それを支える倫理、責任感、義務はどうあるべきか。それを今回、われわれ自身が改めて明文化するべきだ、との問題意識を持っています。

【江川】 社員集会などで社員の声を聞いていると、特に池上コラム問題において、編集権の独立が侵されたと考えている人が多いと感じる。しかし今回の問題は、あらゆる方向から弾が飛んでくる状態にうまく対応できなかった、というものではないか。編集権の独立を明文化するのは、今回の問題を受けたものではなく、取締役を社外から招くことが理由だ、ということを社員、特に編集局の人に周知する必要があると思う。

【西村】 編集権の独立は記者倫理などが絡む、言論として根本の問題。そして、経営の多様化に進めるならば、なおさらこれが必要、ということだと思います。

【持田】 これまで本社において編集権の独立が実際に議論されたのは、大株主と経営陣が対立したとき、テレビ朝日の株式をマードックが取得しようとしたとき、そしてほとんど起きていませんが、広告主からの介入があったときにどうするか、です。そういった大きな流れからの編集権の独立と、今回のことはうまく整理して議論した方がよいと思います。

【江川】 取締役になるときに研修はあるのか。例えば、集金に同行して、顧客一人ひとりの声を聞く、などを含めて。

【飯田】 そういったものはありません。取締役になったときには「べからず集」などの研修はありますが、自部門は別として、基本的には他部門のことを学ぶ研修は特にありません。

【江川】 志賀さん、取締役ってそういうものなのですか。

【志賀】 事業会社と新聞社の違いがあるが、事業会社の場合は、株主、お客様、従業員などのステークホルダーの方々に対して取締役としての義務を果たすという役割。一般に取締役になるような人の通常の常識の範囲でやれるもので、特別な研修はない。「べからず集」のようなものは、われわれもやっている。新聞社は難しいと思う。事業会社だと、経営の思いと現場の思いはだいたい同じ方向を向いている。多少売れない商品でも、お客様が喜ぶ、こんな商品を作りたい、ということも含めて。それに対して新聞社の場合は、編集権が独立している。

【西村】 編集権の独立の場面は三つあります。支配的株主からの介入、経営が恣意的に「あれを書け」「これを書け」と言う介入、広告スポンサーによる編集への介入です。一つ目は朝日新聞社の場合、すでに解消しています。二つ目はさきほどのように法的権利でも何でもなく、常に鍛えられていかなくてはならない問題。三つ目は朝日新聞社の伝統で、自身が編集局長のときも一切介入はありませんでした。

【志賀】 朝日新聞だけではなく、ジャーナリズムとしてもそうあるべきなのか。

【西村】 いろんなジャーナリズムがあっていいと思います。トップが全ての論調の方向を決めるという新聞社も実際にあります。私たちと全く違います。どちらが正解というものではないと思います。私自身がどう思うかは別にして。

【持田】 多少自虐的になりますが、新聞社の経営は、戦後の高度成長期から2000年くらいまで「横並びの判断」でした。印刷工場をどこに作るか、夕刊をどこで発行するか、カラーページを何ページとするか、同業他社の状況を見ながら判断する、というものが中心でした。編集出身者が別の部門の担当になることもありますが、役員は勉強しながら、局長の意見を聞いて、判断したり調整したり、ということでやってこられました。そういう意味では、志賀さんの会社の方々の様な経営感覚を持ってやってきたか、というと、そうではないと思います。

【飯田】 1992年までは、コストが上がると値上げして読者のみなさんにご負担いただく、という経営でした。また月末までにASAから新聞代の入金がある、という、資金フロー上も恵まれています。

【志賀】 編集権が独立しているということは、新聞社の経営者は新聞の中身はノータッチで、コストカットなどそれ以外の経営課題に対応している、ということか。

【西村】 ある種の緊張関係は必要ですが、完全に断絶していることは適切ではありません。紙面の内容によって、販売や広告などに大きな影響を与える事態が起きうるときに、それらの部門が全く知らないということは企業としてありえません。従軍慰安婦の特集がまさにそれでした。そもそも会社がつぶれたら、編集権の独立などと言えません。

【古市】 編集権の独立が大事だということはわかりました。一方で「経営陣の構成を多様化し」ということが前提のようになっていますが、そもそもなぜそれが必要か、という議論があまりなされていないように思います。経営陣の構成が多様化すると、何がどう変わるのでしょうか。

【チーム員】 多くの社員からわれわれのチームに「取締役が編集部門に偏っている構成を何とかしてほしい」「社外から取締役を招聘してほしい」などの声が上がっています。「今回の問題において、しっかりした議論がなされなかったのではないか。忖度やあうんの呼吸ではなくて、きちんと議論をして、適切な結論を導くべきだった」「業界として将来の不安が大きい中で、新聞だけしか知らない人に経営を任せておいてよいのか」などという考えが背景にありました。

【持田】 編集部門出身の役員は、記者時代に批判・論評してきた。そのためどうしても高みから物を言う感じになってしまいかねません。「読者の目線に立った議論ができるのか」という指摘が一つです。今回、編集でも経営でもいろんな議論をしましたが、「編集出身の役員が多いと、それが同質な議論になってしまったのではないか」という指摘。さらに、「新聞記者をずっとやってきた人に新しいビジネスを行う資質があるのか」という指摘。それらから外部招聘の意見が出てきていると思います。

【古市】 「社内出身者に足りない専門的資質」とは何か、を整理しないと、単なるメシア願望になってしまいます。

【飯田】 世間とのズレをどう取り入れるか、ということだと思います。これまでは「編集出身役員が多すぎる」というのはビジネス系からだけの声でしたが、今回は編集からも出ている。風通し、世間とのズレ、業界全体としての経営的な閉塞感あたりが背景にあると思います。社員が「今のままではだめですよ」と思っているのではないかと思います。

【江川】 新聞とは何か、という概念が変わってきているんだと思います。幕の内弁当のように、いろんなものがあって、それがバランスよく盛り付けられているものが買ってもらえる時代から、単品買いの時代になった。そういう時代における情報発信そのものが体感できていない新聞社の人と外の人とが一緒になって、新しい情報発信源としての新聞社を作っていく、ということが大事だと思います。「多様な人材を」という声は、いろんな観点から言ってきていると思います。

【後藤】 監査役はすでに社外出身者がいます。現在は3人。弁護士、国際経営学者、テレビ朝日役員です。取締役会では、われわれが気付かないような意見を言ってくれています。

【古市】 取締役会の中にいるみなさんは、取締役にも社外の方を入れた方が「変わるのではないか」と思いますか。

【飯田】 社外監査役の方のご意見はとても参考になっています。われわれとは発想が違います。新聞社出身者は考えが内向きになりがち。この会社は、今のままではとても変わらないな、と思います。個人的には社外取締役は必要ではないか、と思っています。

【志賀】 事業会社だと取締役会において意思決定に軸があります。それに対して是だから「これをやろう」となる。日産で言えば、「営業利益」と「グローバルなマーケットシェア」です。新聞社ではそれが売上なのか部数なのか朝日新聞社らしさなのか、何なのか。経営としては目先の利益を追わなくていいし、資産も安定している、とのことですし。何をもって意思決定をなさっているのですか。

【福地】 新聞社でも最終的には損益です。もちろん朝日として必要だから、として行っているビジネスもたくさんありますが。

【志賀】 日産は2000年まで、社長だけが全社のことを考えていて、それ以下の役員は各部門を担当する部門代表でした。それを全員が全体最適、全社最適を考えるように変えました。取締役が、社内がどうとか、社外の人が必要かどうか、などは、われわれはあまり気にしていません。取締役会のメンバーは、部門最適ではなく、常に全社最適の視点で判断することの方が重要だと思います。

【西村】 私がデジタル担当だったとき、2020年の朝日新聞社のデジタルビジネス戦略はどうあるべきか、を徹底的に議論しました。そこにはデジタル担当役員だけではなく、メディアラボ、販売、広告担当役員も入りました。そういう議論もやり始めてはいます。ただ、部門代表の体制が溶解してきたか、というと、まだそうではありません。

【国広】 経営陣の多様化はなぜ必要なのか。今回の三つの件があったから、というのは多少強引な理論がいる。むしろ編集が独立しすぎていて暴走、という切り取り方もできるのではないか。今回の件は、論理必然として経営陣の多様化に結びつくものではあない。何のためなのか、位置付けを明確にした方がよいのでは。

【西村】 慰安婦検証のとき、謝罪するかどうか、もう少し深い説明はできなかったのか、わかりやすい表現だったのか、一回限りで終わって世間に通用するのかどうか、その後の対策はどうだったのかなどを考えると、ボードの中でもう少し多様な目があれば、今回の様なことにならなかった可能性が極めて高いという反省の議論があります。また2020年の東京オリンピックのとき、そしてその後の日本のメディア状況はどうなのか、ということを構造改革論議の中でやってきました。そのことを考えると、新聞記者あがりだけで、このメディアの激変状況をハンドリングできるのか、という議論も以前からありました。その二つの議論が合流していますので、文章化するときには整理しないといけないと思っています。

【国広】(配布資料) 企業の危機管理(クライシスマネジメント)は二つに分類される、①企業や社員に外部から危害が及ぶ場合の危機管理。地震台風等の自然災害、暴力や信用名誉毀損など攻撃を受けたときと、②は社員の不正やリコール隠しなど企業内部の不祥事に対応する危機管理。対応の基本方針は①は原則当方に非はない、外部からの危機を回避し被害を最小化することが主題で基本的に受動的対応になる。②は自分たちが世の中の信用を失う事への危機、失った信用をどう回復するのかが主題。内にある問題点を自らの手で克服する事、そのプロセスを見せる事で信頼を取り戻すこと、それには能動的に進めなければいけない。慰安婦報道は②の危機管理が求められるはずだが、訂正する8月5日迄は①の危機管理発想で記事を掲載した。②の危機管理にスイッチしている事を認識せずに、進めたため謝罪がないなどの非難につながった。慰安婦問題自体が存在しているかどうかと、誤報を認めた事で発生すると想定される危機にどう対応するかの問題は別問題なのに、明確に整理されないまま記事を確定させて進めてしまった。この点が未整理のままで、池上コラム問題が発生した。これも①の視点の危機管理対応だったので記載内容の変更を求めるミスになった。ではどうすべきだったか? 事案の重大性、ミスの重大性、長い会い間怠っていたことでの批判が想定されること、これを考えれば朝日新聞の存続につながる危機だと想像できた。一方、記事の訂正に伴い発生する危機的状況に対する危機管理対応を準備する時間的余裕はあった。②の視点の危機管理が必要だと共有して自己検証、克服するために深く検討のためのヘッド・クォーター(HQ)の設置が必要だった。これは編集に偏らない構成で朝日新聞の内部論理に拘束されない独立した見解を表明できる人物を加える、場合によっては危機管理専門家も加えるべきだった。HQが基本スタンスと作業を明確に定めた上で、広報対応を定めて事前に危機管理を実行してXデーにのぞむべきだった。これがあれば池上さんの問題はなくなっていたと思う。

【チーム員】 国広委員の教科書がもっと早くあればと改めて感じました。社員集会でもありましたが、読者の視点での危機管理が行えませんでした。朝日新聞批判への過度な警戒が強すぎて読者の存在を忘れた対応が、今回の事態を悪化させた原因でした。通常朝日新聞では広報担当役員・GM補佐・顧問弁護士の三者で記事の問題に対応します。今回のように編集部門での枠を変えた瞬間に指揮系統を失って、迷走したと考えています。もう少し外部の目を入れた全社的な危機管理チームをあらかじめ決めておいて直ちに招集した上で対策しておく、先取り対応しておくべきだったというのが一つの提案です。吉田調書ではいろんな指摘を共有する仕組みがなく、リスクになる情報を共有しておくことできませんでした。リスク情報を一元集約化する仕組みの整備づくりをして迅速に対応する――。お客様からの情報をお客様オフィス、他メディアからの情報を広報部、外部からの指摘法務部など、様々な情報が分散して受け皿がある――。これを一元化する、さらには読者にむけてフィードバックしていくハブ的役割をしていかなければなりません。これが二つ目の提案です。また視点が違いますが、常識で考えられない情報漏洩があり、全ての情報がもれてしまうため、情報が漏れる事を前提にして、必要な情報共有もできませんでした。危機管理の不全に陥っていました。情報管理の徹底をしていかなければいけません。社内の風通しを良くして外に漏らさなくてよいよう、内部通報制度を使いやすくする、聞き役を設けるなどが必要です。以上が我々からの提案です。

【志賀】 クライシスマネジメントのチーム作るのは大切。たとえば日産なら電気自動車でバッテリーが火を噴いたら大変、その対応策で広報チームを中心にあらゆる事故への対応、クロスファンクショナルチームなのも大事だがある種プロフェッショナルが対応する事も大事。余談で恐縮だが他社のリコールで200万台にもなった話がある。なぜか。車のイグニッションキーにそのほかのキーをつけることで重くなり、キーが回ってしまいエンジンを止めてしまうからだ。それは自分たちのミスではないと、でも他の車に比べるとキーが回りやすかった。直したら結果を認めることになるため直さなかった。これが大きなリコールになった。こういう世界中のリコールがなぜ起こったかを勉強している。別企業のブレーキの問題の時もお客さんがフロアマット何枚も引いた事でブレーキ踏む事が出来なかったことが大問題につながった。このときにトヨタはお客様にマットは純正のマット一枚にしてくださいとお願いした、これが結果的にまた引っかかった。他責にするのではなく内部の問題で考える。解決できる事はすぐに解決する。これは非常に勉強になる。

【持田】 朝日新聞の広報の危機管理は今までどうなっていたかというと、新聞記事の訂正をどう扱うかが中心でした。主な仕事は他メディアの問い合わせにどう対応するか、でした。顧問弁護士に相談して(裁判になったら)勝てるか勝てないか…。そうやってきたのでなるべく簡潔に、揚げ足を取られないようにという文化でやっていました。これが読者に対してどういう風に説明できるのかという観点が二の次になります。記者会見は行わない文化、全て紙でのやりとり…。言質取られないようにと、非常に無機質な対応になります。もし慰安婦報道も最初から記者会見することが前提だったら、もっと様々な対応が用意されていた気がします。自分たちがメディアだから広報は自分たちもプロのような意識あった、それが間違いにつながったのです。

【国広】 危機管理はいやなこと、だからこそ立ち向かう能動的にアピール。自分たちから再生に動いていく。説明、自己検証していく。記者会見しない説明しない事で、蛸壺の中で閉じこもって自分たちが書きたい事だけを書いていると思われてかえって火に油を注ぐ事になる。

【江川】 今回学ぶべきは危機対応と編集の分離。今はインターネットで四方八方から弾が飛んでくる。かつてとは違う。これをさばくのを、編集の方々で対応することは違う。危機対応の対応チームがやる必要があるのではないか。東電のように連日記者会見やれば良かったのではないか。質問がつきるまでやる。その場でこたえられないことは明日答えます。朝日新聞は完成されたモノを出さなければ意識がある。危機対応の広報が連日やればよかったと思う。今回のような時だけでなく常時編集と広報の分離をしていた方が良いと思う。それがないと編集が良いと言っているからと言って大概手的に攻撃的な姿勢に出て訴訟起こすとか起きてしまう。広報と編集の一体化になっている。某社では広報が編集を厳しく取り調べる怖い存在であると。広報が外とのつながりを大事にして対峙することも必要。

【国広】 それがある種編集に対するガバナンスになるのでは。

【江川】 読者の視点だけで良いのか、社会の視点が必要。10/24の紙面、脅迫電話をした人が逮捕された記事の件だが、そのとき広報が対応した文で、真相解明を願っていると同時に関係者の方に心痛をおかけしたとあった。普通の人の感覚、これは画期的で今までの朝日にはなかったと思う。外の人がこの事件を見たときにどう思うか、を考えながら対応する広報が必要。

【西村】 日常と有事をどう対応するかですが、今朝日新聞は編集局長二人制でやっています。GM(人事予算)とGE(紙面)を分けている分業体制です。平時はセクハラパワハラを始め紙面以外の対応はGMが対応しています。今回のような有事はわかるが、平時に他紙のように様々に広報が対応した場合、編集が危機管理に対応しなくて良いのかという議論が一つ。危機管理に編集が入るのは当然、ただし編集が全ての責任を負うようになると肝心の編集独自の判断が揺れる恐れがあるので、合理的な判断が出来る組織が必要だというのが、この間経験して杉浦が至った結論です。私としてもすっきりとさせるべく議論を重ねていきたいと思っています。有事については、危機管理チームができたときどうだったのか。池上コラムの時に危機管理規定に準じた形で持田を中心にした体制ができたという二段階で、一段階目は危機管理規定に準じた形ではなかったと思います。そこのところは反省があります。

【江川】 問題は外部からの声、誤報だという指摘を代弁するものが必要。編集がやると編集を守ろうとする。

【西村】 平時でも、新しくできる広報主導あるいは新しくできる危機管理組織で対応するということでしょうか。

【持田】 実態はそのとおりで、形式的には広報が窓口です。マンパワーの問題で実際の回答は編集でやっています。

【江川】 形骸化している事を直さなければいけないのではないか。

【古市】 平時に関して伺いたい。用語規定より質問。「訂正します」と「訂正してお詫びします」の明確な取り決めがあるのか。「お詫び」については、できるだけしたくないという不文律があるのか。

【西村】 次回、「編集」のところでお話しすると思いますが、申し上げたように訂正報道スタイル、外からの講義批判の窓口新しいアイデアを考えていますので、試案として次回出せると思います

【古市】 あと国広さんから慰安婦報道に関して時間的に対応できるとあったが、危機的状況だと認識は社内にあったか?

【西村】 危機としての認識はあった、元々出す動機自体が、広告・販売への影響を含めて考えていましたので。問題は体制でした。

【福地】 慰安婦紙面について申し上げます8月5日までは広報プラス社長室長の私、社長が入ったところで編集担当、GM・GEを含めて紙面を考える機会がありました。慰安婦紙面についての問題が起き、池上問題が起きて危機管理体制を強化するため、持田常務がキャップとなり、今までの3人プラス広告担当、販売担当、経営企画担当、管理担当、外部コンサルの2人が入って記者会見なども行いました。

【国広】 戦力の逐次投入、かつ事後的逐次投入だ。

【福地】 もっと早くやっていれば変わっただろうと思う。

【国広】 燃えるから体制を整える、さらに燃えるからまた整える……全部事前に想定できる。

【西村】 もっと前の段階で対応を取るべきだったというのは、おっしゃる通りです。

【志賀】 この場合こうなる、をつくるのは日産で言えば広報。記者会見の有無を含めて。広報が一番世の中のリアクションを分かっているから。メディアや顧客の分析を含めて。それに対して我々は言う事を聞くしかない。社内的なパワーバランスでトップマネジメントは広報の話をどれだけ聞けるか。広報はアンテナ高く進言できるか、このバランスが大事だ。

【持田】 おっしゃる通りで、外の声を受けて内に言わなきゃいけないのを、社長を背にして外にモノを言ってしまいました。これは失敗でした。

【飯田】 日産では、広報担当は地位が高いのですか?

【志賀】 高いというか、組織的にはCOOにぶら下がっている。トップ直結だ。自分がCOOの時、お詫び会見は一度だけだが…週刊朝日に、日産の顧客情報漏洩を書かれたときに我々から漏れたか分からなかったがすぐにお詫び会見をした。逡巡している間にもっと火を噴くと広報のアドバイスあり会見した。すぐに収まった。

【国広】 広報という言葉だとこちらから発信するイメージだが、意味が違っていて、外とのコミュニケーションということでは発信するためには受信するアンテナも持っていなければいけない。そういう意味では広報・危機管理としなければいけない。

【持田】 経営陣に編集ばかりで良いかという話がありましたが、実は広報が編集出身者ばかりで、編集と一体の判断をしています。ここにビジネス部門をいれていくべきだと感じました。

【江川】 読者は分かってくれる、は違う。今はバラ売りの時代。今は記事を忘れてくれない。5年10年過去を調べられる。過去の事も前後ナシに批判・非難されることに対応しなければいけない。

【チーム員】 今「読者」は購読者より広い意味で書いていますが、良い言葉を探している最中です。購読者で使っていると取られるので言葉探しをしています。

【志賀】 お客様がどう感じるかは、内部でコントロールできない。日産では、リコール決定は経営陣が一切絡んでない。他社さんの事件あったときの教訓で、経営陣が絡まないシステムをつくった。品質部門の部長が100億円・200億円のリコールを、金額に関係なくお客様の安全だけで判断している。その下にテクニカルのメンバーがいて、判断する。エアバッグのリコールが100万分の1で起こるが、これは技術的な判断のみ。経営陣は発表された後で知る。経営陣の顔色を見ないように、知ったときにリコールが遅れないようにという両方の意味だ。経営陣守るため両方の意味がある。

 以上