「信頼回復と再生のための委員会」
第7回会合 主なやりとり

日時  2014年12月29日(月) 15:00~18:00
出席者 <社外委員>   江川紹子さん、国広正さん、志賀俊之さん、古市憲寿さん
    <社内委員>   飯田真也委員長、西村陽一委員長代理、藤井龍也、高田覚
    <オブザーバー> 渡辺雅隆、後藤尚雄、長典俊、池内清(以下、敬称略)


【司会】 第7回委員会を開催します。本日は行動計画の原案を中心に議論します。事前にお配りした資料をはじめに会社側から説明し、その後委員の皆様からご意見をいただきます。

【江川】 本題に入る前に、池上さんコラムの掲載見合わせについて事実関係を確認したい。私たちが杉浦さんから話を聞いたところでは、木村前社長から感想というか、意向を聞かされたのは8月28日とのことだった。第三者委員会報告書では、27日に渡辺前GEが部下に指示、と書いてある。今までの説明と事実関係が違うので、経営と編集の分離について議論するうえでも、事実関係を明確にしておきたい。渡辺前GEに前社長の意向を伝えたのは、杉浦さんか、別の人か。あるいは木村さん自身が渡辺前GEに言ったのか。杉浦さんは社員集会でも読者との車座集会でも、池上さんコラムの打ち切りは考えていなかった、と繰り返し話した。12月26日の会見の最後に、高田さんが説明の訂正をしたが、全く考えていなかったという杉浦さんの話は、事実に反するように思える。

【高田】 実質的に木村前社長の判断だったと第三者委員会が認定し、朝日新聞社も木村もそれを受け入れました。12月22日の段階で報告書を受け取り、認定されたことを朝日新聞社として重く受けとめ、木村はすでに社を去っていないわけですけれども、杉浦前編集担当と危機管理担当2名が不十分な説明と不適切な対応で朝日新聞社の信頼を大きく傷つけたということを理由に追加処分しました。
 江川さんがおっしゃる、うそをついていたのかということですけれども、これについては、第三者委員会の報告書もそういう認定はされておらず、木村杉浦がグルになって何か口裏を合わせたとか、そういうことではありません。終わるとしたらこういう終わらせ方しかない、ということで相談してはいましたが、杉浦自身、最後まで何らかの形で掲載の可能性を探るつもりだったということです。オピニオン編集部は池上さんに終わらせ方の打診をしていたが、杉浦本人としては何とか、これは甘いかもしれないけれども、池上さんに対して言葉を尽くせば、ある程度修正していただき、継続できると最後まで考えていたということで、社員集会でもそのように説明していました。木村が感想を言ったことが、実質的には不掲載の指示だったと、第三者委員会から認定がされたということです。
 もう一つは12月22日の説明を26日に訂正したのは、22日の説明では、危機管理担当が終わらせ方の検討をしていたことを何も知らなかったととられかねない説明でしたが、実際には危機管理担当も終わらせ方を検討していました。ただし、それを池上さんに打診していたことは知らなかったということでしたので、それを丁寧に説明する意味で、事実関係の修正を行いました。

【江川】 杉浦さん以外に、渡辺前GEに社長の意向を伝えた人はいなかったのか。編集の現場と社長をつないだのは、杉浦さんだった、という理解でいいのか。

【高田】 細かい事実関係について、私は全部承知しているわけではありません。今後、これは社内で大きな教訓になるので、歴史としてきちんと位置づけなきゃいけないと思っておりますけれども、今回は、基本的に木村杉浦間のやりとりだったと聞いています。

【国広】 木村社長(当時)の実質的な意思で池上コラムを載せないことにするという間違った判断がなされたという事実認定は第三者委員会報告書でも明記されている。私や江川さんが問題にしているのは、その判断のプロセスで木村社長の渡辺GE(当時)に対する直接介入がなかったかどうかということだ。
この点について、第三者委員会報告書47ページは「渡辺は、27日の夕方になって、木村が掲載に難色を示しており、このままでは掲載できないということになった、・・・といった趣旨のことを担当者に述べた」という記載になっており、「木村氏の難色」が、①杉浦編集担当取締役を通じて渡辺GEに伝わったのか、②杉浦氏を飛ばして直接渡辺GEに伝えられたのか、曖昧なままである。
 経営陣でもあるけれども編集担当でもある杉浦さんは、経営陣に対する盾となって経営陣とやりとりしなきゃいけない。①のように、経営の意思が全て杉浦さんのみを通じて渡辺さんに伝えられたのであれば、判断の重大な間違いはあったとしても、ルートとしては問題ない。しかし、②のように、杉浦さんを飛ばして経営の意思が直接渡辺さんや編集部に伝えられていたという事実があるならば、「経営の編集に対する本来のルートを無視した直接介入」だということで、「判断の間違い」とは別の問題があったことになるし、杉浦さんが木村社長をかばっていることにもなりかねない。この点についての事実関係はどうだったのか。

【渡辺】 確かに27日の夕方のところは、渡辺前GEと木村前社長が直接やりとりしているみたいに見えるんですけど、それについて会見の前に、これはどういうことなんだろうという話をしました。そのとき、「いや、そうではなくて、杉浦を通して話はしています」ということでしたので、そのように私たちは理解しています。

【江川】 杉浦さんは自分が判断した根拠として、前社長に会う前に、自分が既に1回指示を出したと言っていた。自分は既に27日に指示を出して、28日になって社長の話を聞いたと。だから社長の判断ではなくて自分の判断だと言っていた。27日にも杉浦さんと前社長の接触があって、仮に前社長の話が指示という形で伝わったとすると、対外的な説明は事実と違う説明、つまり社長をかばい、自分の判断だと言うために、最初は社長に会わずに自分が指示をしたと説明をしたことになる。今やるかどうかは別にして、第三者委員会ではなくて、朝日新聞社として調査をして、事実を最終的に確定させないとダメだと思う。再生計画では、調査報道を充実させると言っている。隠された事実を掘り起こすと言っているのに、自分たちの事実は曖昧にしているのでは批判の種になりかねない。自分たちの手できちっと事実を掘り起こして確認し、何らかの形でオープンにすることは考えてほしい。

【司会】 再生計画の原案を社長の渡辺から。

【渡辺】 現時点の行動計画案について、ご説明致します。第三者委員会の報告書を受け取ってから、最終的なとりまとめの作業に着手し、よりよい内容にするために、今後も検討を続けます。本日も編集の現場である、部長会メンバーと話し合いました。
 経営に関わる判断ミスがないようにしていくにはどうするか、まず私たちがルールを作っていきます。一連の問題の際はルールを無視した部分もありますので、ルールをしっかりと守るよう、もう一度見直してやっていきます。いろいろなルールを見直しますが、国広さん、第三者委員会から問われている問題が起きた真因の追求も必要です。経営の問題に留まらず、まさに記者一人ひとりに関わる問題です。自分たちの問題として受け止めない限り、どんな再生計画を作っても同じことだからです。
 理念として掲げたのは次の通りです。事実に公正に向き合うこと、多様な言論を尊重すること、社会的課題の解決を探ること。これはいわゆる批判するだけのメディアから、社会的課題の解決を読者とともに一緒に考えていくメディアに進化することであるという意味です。
 「事実に公正に向き合う」ために、どういう具体策を考えているかということですが、1つはパブリックエディター制度。当社はお客様オフィスというところでお客様からの声、朝日新聞の報道に触れた方からの声を受けています。これはデータベース化して編集の現場にも渡しますし、週1回まとめた形で全社員にも(イントラネット上で)示しています。紙面モニター制度もあります。モニターの方に、紙面の記事についていろいろご指摘をいただいた上で、これをまとめて編集の現場に回す作業もしています。
 広告局員はクライアントから、広告についてだけでなく、編集紙面についてのご意見もいただくことがあるわけですけれども、そういう声をうまく編集の場に持ってくるルートがありませんでした。販売所ASAには、従業員の方が集金に伺ったり、営業に伺ったりしたときに読者の方からいろんな声をお聞きするわけですけれども、その声を集約して商品作りの場に持っていくというルートも正式にはございませんでした。
 そういうもろもろの外からの声を一元的に集め、それをもとに編集の現場、商品作りの現場に対して、社外の要望を総合的にまとめて、こうあるべしということを言っていく機能が必要なのではないか、というのがパブリックエディターです。朝日新聞があることを報道したときに、例えばネット上で「これ、おかしいよね」みたいな形で拡散されることもありますから、そういう情報もキャッチして、それを編集の現場に戻していく作業も含まれます。
 いずれにしても、外の声をできるだけ早くキャッチして、それを編集の現場と共有して、必要に基づいて調査し、もし問題があるようならば、それを是正させるという権能を持った機関としてのパブリックエディターというものを考えております。
 日常的な作業、毎日の作業になりますので、本社のしかるべき立場の人間も入れるということは最低限必要ですけれども、それだけでは第三者の目ということにはなりません。メディアや新聞、報道を分かっていらっしゃる方とか、そうではなくても、いろいろな立場で客観的なバランスのとれたご意見をうかがえる方に複数入ってもらい、社内の人間と一緒に「パブリックエディター機能」を持っていきたいと思っています。
 社外の方だけに「毎日来て、これやってください」と言うのは難しいので、週1回来てもらうとか、詳細設計はまだこれからです。日々起きていることも含めてご報告をさせていただきながら議論する場を作り、それをもう一度、編集の現場、商品作りの現場に戻していく、そういうイメージです。
 2つ目の、多様な意見を載せるフォーラム面の新設というのは、まさに朝日新聞に対する異論、反論だけではなくて、読者の皆様の多様な意見を掲載していくということです。フォーラム、つまり言論の広場の機能を持たせた新しい面を作りたいと思っています。
 現在あるオピニオン面や声欄のページは、まさにそういう機能を持ったページですけど、オピニオン面は、若干重たいテーマで識者がかちっと組み合っているイメージがどうしてもあるものですから、もう少し社会的な問題というか、暮らしに密着する中で起きてきている問題の、議論の広場みたいなものでもいいのかなと思っています。例えば、電車の中のベビーカーをめぐるような議論ですとか、選挙のときに棄権するということはどういう意味なのかですとか、ネットの中では割と盛り上がっているけれども、新聞はどこも採り上げていないこともあります。そういうところに広げることもありかな、と思っています。
 朝日新聞が発信した記事に対する「ちょっとおかしいのでは」というご意見もここで採り上げますし、街の中で起きているさまざまな議論も採り上げて、異論・耕論・反論・討論みたいな、そんなイメージで考えています。
 それから、訂正記事を集めるコーナーの新設では、すでにできることから訂正報道のあり方を抜本的に見直す作業を進めています。訂正記事が少し不親切というか、今まで分かりにくかった面もあり、どうして間違えたのかという理由も含めて書くようになってきました。ちゃんとおわびするという文言が入ってくるようになりました。
 それはそれで1つの変化ですけれども、訂正記事は掲載した紙面に載せる…つまり、社会面で訂正があると社会面に載せる、経済面で訂正があると経済面に載せるというのを1つのルールにしてきました。訂正記事というのは小さいものですから、訂正していても訂正していることが分からないというご指摘もあったと思います。経済面は経済に関心のある方が読んでいらっしゃるから、経済面で間違ったら経済面に訂正を載せるというのは、ある種理屈に合っているということです。けれども、どれだけ多くの方がちゃんと気付くかということでいえば、やっぱりまとまって載っているというのが1つの要素でもあると思いますので、訂正記事を1カ所に集めることを今考えています。
 朝日新聞は東京、大阪、西部、名古屋という本社単位で、別々の紙面作りをしていて、同じ記事でも別の見出しがついていたりするものですから、見出しで間違ったりすると、全ての地域に共通する訂正記事が載せにくいという事情があります。しかも地域ごとに毎日3つ版を出していて、夕刊も2つの版があり、掲載している記事が違ったりします。なので、どの版に載っているかと訂正記事はリンクさせないと都合が悪いところもあり、それらをリンクさせる形でうまく1カ所にまとめるにはどういうやり方があるのか、検討してもらっています。
 調査報道をさまざまな形で充実させていくという点について。権力を監視して社会の課題、問題点を浮き彫りにしていく、埋もれている事実を掘り起こす、私たちが書かなければ表には出なかったものとしてしっかり書いていく……それらは調査報道の大きな役割ではあるわけですけれども、加えて、例えば最先端の情報技術を駆使して、データジャーナリズムの手法とか、既にいろんな団体がデジタル時代に対応した新しい調査研究をしていますし、問題解決に取り組んでいるような社会のグループ、若手のグループもいますので、そういうところとタイアップして社会的な課題の解決方法を一緒に探っていくというようなところに朝日新聞の調査報道が関わっていければ、それはまた新しい調査報道のあり方として皆さんに納得していただけるものができていくのではないか、と考えています。伝統的な調査報道に加えて、新しい形の調査報道も少し入れていきたいということです。
 車座集会は、既に数回、各地で開催してきましたが、これを経営陣・社員を含めて、いろんなところに出かけていって継続的に実施します。「朝日新聞に対してご意見をください」と言っているだけでは、皆さんから「何でそんなことしなきゃいけないの?」となると思います。例えば弊社には、報道ステーションに出ている恵村論説委員や、いまの日本経済の状況についてある程度しゃべれる経済の編集委員とか、選挙を取材している編集委員もおりますので、そういう人たちがまず話して、時事ニュースに親しんでいただく場面を作った上で、集まっていただいている皆さんと交流して、新聞社への注文とか最近の紙面へのご意見をいただく……そのような場を作っていきたいと思っています。ニュースに対する感覚みたいなものをもっともっといろんな人に知っていただきたいという思いがありますし、朝日新聞が紙面でやろうとしていることは、直接触れ合う場でもやる、ということも必要だと思っています。
 経営にも社外の意見を反映することについて。編集の独立を尊重して、記事内容や論説に経営陣が関与することには慎重であるべきだということは、この間の記者会見の場で申し上げましたし、それをたがえるつもりは全くありません。ただ社の経営に重大な影響を及ぼすようなケースでは、経営陣が関与しなければならないことも出てくると思います。今回問題となったのは、取締役会ではなく懇談会みたいな場所で意見を出し、あとはやってくださいねと言いつつも、一方で危機管理だと言って池上さんコラム問題で関与する…。正規のルールの外側で判断が行われているようなことがある。これはやはり問題なので、取締役会を開いて議事録を残して、関与するなら関与する理由について、議事録を残す形で意見を言った上でやることにします。それが大前提ですけれども、そのとき経営陣が関与すること自体について、よそからはどういうふうに見えますか?という点について、社外の方のご意見を伺います。一瞬立ち止まって考えるための時間をもらうという意味合いです。
 具体的に仕組みを考えていくと難しいです。新聞ですから、今日の明日みたいなことがないわけではないので、そういうときにどうするんだという問題があります。原則は、関与するならば取締役会が判断するというのが大原則ですが、そこに社外の目を入れるシステムを、どういう形で構築できるか考えたいと思っています。
 それから、改革推進への研修や指標の策定。改革をしていく以上、定期的にモニタリングすることは志賀さんからもご意見をいただきましたし、一体どこまで信頼が回復できているのかもなかなか分からないわけですから、やっていかなければいけない。
 意識改革は、すごく時間のかかる、しかもある種地味な作業です。これは研修をやるとか、お客様の声を直接聞くというのが一番いいと思いますが、その仕組みは、ASAのお店に行くという方法もありますし、お客様オフィスみたいなところで一定期間、きちっとご意見をお聞きするというやり方もありましょうし、もっと言うと、人事を流動化させることによって、報道の人間も営業の現場に出ていくことによって、そういう意識が芽生えていくということもあるかと思います。いずれにしても組み合わせてやっていくしかないので、ここは少し時間のかかる作業ですが、組み立てていきたいなと思っております。
 国広さんをはじめ社外委員の皆さんからご指摘のあった原因分析と決意についてもしっかり盛り込みました。問題の経緯と検討過程は、ASAの方からも指摘されましたが、僕らは3つの委員会が活動していることは分かっているわけですが、この行動計画を初めて見る方や多くの読者の皆さんには、きちっと説明しないと分かりません。
 計画を発表する紙面には「ともに考え、ともにつくるメディアへ」というメッセージとともに、改革の理念をしっかりと提示し、私からの決意・メッセージを簡潔に載せたいと思っています。第三者委員会の報告・提言やそれに対する本社の見解では、詳細な長文の記事を掲載しましたが、「過剰感がある」「日々のニュースを(載せる紙面を)圧迫するな」というご指摘もいただいたこともあり、できる限り分かりやすく、簡潔にお示ししたいと思います。

【高田】 本日も編集部門の部長会で議論していましたし、この委員会での議論も踏まえて最終的に計画を完成させます。1月5日午後3時に発表することをめざし、読者の皆さんにどう伝えるのか、しっかり考えて出したいと思います。

【江川】 まず、訂正については、非常によい取り組みだと思っている。一点だけ、今でも朝日新聞デジタルでは訂正を検索できるが、1年分だけだ。新聞の記事をそのままコピペして張り付けている人もいて、それはずっと残る。だから、訂正に関してはできるだけ長い時間検索可能にする方がネット時代に対応した訂正の仕組みといえると思う。
 この前、毎日新聞が裁判で負けた訴訟があった。匿名で、ある行政書士が弁護士法違反で逮捕されるとの前うち記事を書いていた。確かに大阪弁護士会がこの人を同法違反で告発していたのは事実だが、逮捕されたのは別の人で人違いだった。その行政書士は、その後も逮捕されていない。この記事は匿名で、職業は書いてあるが、年齢は書いていない、でもいくつか検索ワードで検索したら本人が特定できるということで、新聞社側が裁判で負けた。ネットと紙面というのは、最も保守的な裁判所でさえ結構リンクさせて考えているご時世だから、訂正を長期間検索可能にする取り組みすることは今の時代に叶うと思うので提案する。
 経営に第三者の声を聞くと言う事で、それは今回の会合で志賀さんのお話がすごく有益だったということもあって、よその人のお話も聞きたいということだと思う。それはそれでよいが、経営と編集の分離ということに関して意見を求めるといっても、今日判断しなければいけないことがあったりするとき、例えば志賀さんのように忙しい人に「今から来てください」と言うわけにはいかないだろう。時間に余裕があるときに意見を聞くのは構わないが、明日の紙面のための判断は、経営陣が責任もって判断して、後から検証ができるように記録を残すのがよい。編集の独立を侵すようなことがなかったか判断するのは、私はパブリックエディター(PE)の仕事だと思う。つまり、新聞紙面が公正で正しい報道になっているのかをチェックするのがPEだ。PEは訂正があるときや必要があるときに意見を言うだけじゃなくて、必要に応じて経営陣に対して説明を求めることも含めて、紙面の公正性と独立性を保っていく役割を果たしていくのがよいと思う。
 やっぱり経営と編集の分離のところは非常に重要で、第三者委員会の指摘もあったし、朝日新聞の今後のイメージ向上のためにも池上さんに戻ってきてもらうのは大事だと思う。この部分を池上さんは重視されていると思う。ここにPEの目が入ると言うことは、信頼を回復する大きなポイントになると思って、提案する。

【国広】 「PEを置くこと」と「経営に社外の意見を反映すること」との関係をどう位置づけるのかが、いまひとつ見えにくい。「経営にも社外の意見を反映」という場合、社外取締役なのか紙面審議委員会なのかはともかくとして、編集にも入り込まなければいけない危機管理のとき、本当に、社外の人間が緊急対応できるのか。それはPEにやってもらう問題という位置づけもあり得るのか、ないのか。経営そのものに社外の目を入れるのは(社外取締役など)何の問題もない。しかし、危機管理対応で経営と編集がクロスする部分についてはどうするのか、整理が必要になってくると思う。
 PEについて言うと、渡辺社長の説明では社外と社内のチームというか合議体的なものだとの考えのようだ。PEになる社外の人は名誉職ではなく、実質的に機能してもらわなければならない。私が強く感じるのは、朝日新聞は外部の人材・見識を使うのがヘタだということだ。この再生委員会でも「社外委員のご高説を承る」みたいな感じで、意見はよく聞いてくれるんだけど「使い倒す」という意識がない。外部委員を「神棚に飾っておく」というのは本当に外部委員を尊重していることにはならない。「使い倒す」くらいの意識でやってもらわないと、外部委員としてのやりがいはない。
だから、外部PEについても、ご高説を承るのではなく、週に1回とはいわず日常的にディスカッションをする。もちろんちゃんと報酬も払って。
企業で社外取締役を置く置かないの議論が行われるが、社外取締役を置きさえすればよいという議論は間違っている。社外取締役を「どう有効活用するか」がポイントで、飾りじゃダメだ。社外取締役にどれだけの情報を日常的に注入して、適切な意思決定に社外の意見を取り入れるのか。月1回の取締役会だけに来てご高説を承るのじゃダメだ。
だから外部PEについてもそういう形にしてほしい。「遠慮せずに、しっかり俺たちを監視しろ!」ぐらいのつもりで日々コミュニケーションをする。一方的にお伺いするとか、ご意見拝聴ということではなくて、ディスカッションを繰り返す。
 朝日新聞は、社外とのディスカッションが苦手みたいだ。ボールを投げると、「はい、分かりました」みたいな感じでね。そうじゃなくて、やっぱりラリーが成立するというか……これは社外の経営の監視機関もそうだし、外部PEについてもそうなんだけれども、そこを強く意識してほしい。

【渡辺】 ご指摘をいただいた通り、PEと経営のところは、よく考えたい。PEには、社外の方に来ていただくつもりですが、実質的に機能する形にして、神棚に上げるつもりはありませんし、積極的にどんどん入っていただく方がプラスになると思っています。一方で経営が編集に関与する、つまり経営に重大な影響を及ぼす恐れがあって関与しなきゃいけない場面は、今回たまたま二つ続いてしかも二度とも失敗しましたが、通常はありません。
 今回起きてしまいましたが、事前に原稿を経営に見せることは通常はあり得ないことです。そうだとすると、常設の機関として、そういう機能は持たなければいけないという提言を受けているのですが、本当にPEにお願いすることもあり得るかも知れません。
 あともう一つ。経営のアドバイスをいただく、いわゆる経営顧問の方もすでにお願いしています。そういう経営顧問のアドバイザーグループみたいな方たちがいらっしゃるのであれば、最終的な経営判断をするのは取締役会ですが、日常的にやりとりする中で、「どう見えますか?」という話をできたらいいと思っています。制度設計はこれからなので、あまりガチガチにしないで考えたいと思っています。

【国広】 私もそう思う。編集に経営が関与するのは、極めて例外的な場合で、このような例外状況のためだけに1つの組織を新たに作るというのは現実的でないと思う。第三者委員会の提言を「危機管理ではちゃんと外の目を入れなさいよ」ということだと解釈すれば、それは外部PEでもいいかもしれないし、あるいは、社外監査役あるいは社外取締役でもよいのかもしれない。あるいは経営のアドバイザリーに、いざというときには意見も聞くとか。

【江川】 実際はそうだが、これだけ失敗をして、やりますよと言って出すので、それなりに意味があると思ってもらえるものを出さないといけない。今回の問題は、編集の独立を侵されたというイメージだ。外の人たちはそう思っている。編集の独立を守る立場の人が加わるのがよいわけで、常日頃経営の人と一緒にいる人ではなく、常日頃からPEとして編集の問題に関与していて、現場をよく知っている人が、圧力を受けたかどうか判断する仕組みにしておいた方が信頼回復という意味ではふさわしいと思う。わざわざ作る必要がないなら、PEがふさわしいと思うので検討していただきたいと思う。

【渡辺】 それについてはご意見を伺いましたので、機能としてそういうものを持つことは社会に約束しなければいけないと思うので、設計についてはもう少し検討を重ねさせてもらいたい。

【藤井】 意見をよろしいですか。この間の案件では経営が編集に関与したという問題がありました。その経験から考えると、ある記事についてPEに一度判断をしてもらったが、その記事の対象が想定していないような方向に進んでいくことも考えられます。もし、PEが経営と編集の関係のアドバイザーの役割も担うと、一度判断を下した当事者であるPEは客観的な判断ができなくなってしまう恐れがあります。その辺りは設計の時によく考えたいと思います。

【江川】 それは事前の判断に外の人を入れようとするからそうなるので、PEはあくまでも「後から」だ。ちゃんと記録をとっておいて、例えば池上さんコラム一時不掲載のとき、「社長がああ言ったけど、我々は出さなきゃおかしいと思ったのに…。そういう圧力があったんだ」という現場の話を後から聞いて、それじゃあ調べよう、という形で調べていく。

【国広】 今回は2つの問題があると思う。池上コラム問題は、経営が編集に間違った関与をした。原発吉田調書問題は、独立した編集が突っ走っちゃったという問題。PEはどういう流れででてきたかというと、原発吉田調書問題の流れからだ。要するに、編集は独立しているけど、その中できちんと自分でも牽制が働くようにしなければいけないという流れの機能がPEだ。ではそうではなくて、超例外的に経営が編集に関与するときのものは、PEではないという形もあるかもしれない。例えば社外監査役なり社外取締役が関与するという建て付けにすれば、一応常設という形にはなる。

【高田】 先ほど渡辺社長が申した通り、そこは考えどころだと思っています。すでに社外監査役の方からも、権限などについて慎重に考えた方がよいというご意見をいただいています。役割や置き方については十分検討したいと思います。

【江川】 実際問題として事前に意見を聞くのは無理だと思う。だから、やっぱり事前よりも事後チェックというものに重きを置いて、それに対応して、透明性を持ってやるということで、私は十分説得力を持たせられると思っている。

【西村】 デジタルと訂正についてですが、訂正と記事が一体となっている中で、有料会員向け、学校・法人向けのサービスとか、データベースの有料サービスなど全てを一律に、検索期間を例えば5年に拡大するというのは難しいのですが、打開策はあります。訂正記事をまとめれば訂正ページや訂正記事一覧への入り口を作ることは可能です。これはニューヨーク・タイムズなど課金システムをとっている有料サイトでも実施しています。そういう形で、フッターに導入口を設けてCorrectionページやCorrection & clarification ページに誘導すれば、そこに訂正一覧が出るという形です。ただ期間はバラバラです。直近1週間もあれば数カ月もあるようです。

【国広】 当初の「原因分析」の文案は、経過説明がほとんどである上に、他人事みたいな受け身の文案だったので、「全くだめだ」と指摘した。現時点の文案は原因論と経緯を分けて記載しており、「真因」についても、自分の言葉で「原因分析と決意」というところで語られている。私としては、「原因分析と決意」の部分は、微細な調整はあるにしても、これを維持し、後退させないようにしてほしいと感じている。
 基本的に、目指す改革の理念には賛成だし、具体策については、PE導入については先ほど話した通り。一つ確認したいのは、訂正するかしないかを最終的に決めるのはどちらか。

【西村】 編集です。ただし編集とPEの意見が食い違った場合は、その意見を紙面上で公開します。

【国広】 いいと思う。次に訂正コーナー。間違えた理由についても詳しく述べるという点も、その通り実行されれば、とてもよい。ところで、理念を実現するための具体策の部分について。クロスファンクショナルチーム(CFT)とか人事の流動化とか、志賀さんからいろいろ提起されたものがあったが、それらはそのまま書かれていないけれど、実行しないのではなく、当然実行するがそれは実行方法の問題なのであえて紙面には書いていないだけだと受け止めているが、この理解でよいか。

【西村】 その通りです。

【志賀】 切り口を変えて話したい。できあがったもの全体は、割と、すっと頭に入ったのだが、10月以来私が話してきたことがどう反映されているか。私なりに検証してみたので。
 一番最初、第1回目に私が強調したのは「朝日の存在意義」という部分だった。朝日ブランド、朝日新聞がどうするかということだが、目指す改革の理念が「事実に公正に向き合う新聞」だと。ブランド的に言うと、「朝日新聞は事実に公正に向き合う新聞です」「朝日新聞は多様な言論を尊重します」「朝日新聞は社会的課題の解決を探ります」。これが他社と差別化された、要するに朝日新聞としての主張だということであれば、非常によい。朝日新聞が最も公正で、かつ、いろんな言論が多様に出ていて、かつ世間が割と見過ごしている問題をしっかりと掘り起こしてくれるという、そういう信頼ある新聞社であるということだ。これを風化させないで、ぜひ何らかの形で、ポスターを作るなり何でもいいが、よくよくリマインドを継続的にやってほしいと思う。
 次に言ったのは、「縦の風通し、横の連携」。縦の風通し、横の連携の意味は、役員の大部屋を作るとか社長とのコミュニケーションを増やすとかいろいろある。これは実行段階での話なので、枝葉末節過ぎて幹がないじゃないかと言ったのは我々なので、やっていただけると期待している。地方を回ったとき、縦の風通しの悪さ、経営陣と記者の方々、あるいは地方と本社との風通しの悪さというのをつくづく感じたので、ぜひ何らかの実行策を入れてほしい。
 それから、3つ目は「他責」にするなということ。これは今回いろんなところに言葉として入っている。例えば、「原因分析と決意」の中に「一連の問題の『真因』を十分認識して克服し、社員の抜本的な意識改革につなげます」と書かれている。これは社員だけではなく、役員も含めて「一人ひとりの意識改革につなげる」というような表現の方が、「抜本的な」と言うよりもいいのかなという感じがした。首を引っ込めて、この嵐を見ている人は依然としているので、一人ひとりの問題だと受け止めるという部分では、今後、社長の社内でのコミュニケーションが非常に大事になる。
 4つ目が、「プランが5%、実行が95%」。これは何回も申し上げた。そのためにしっかりと、信頼と回復を数値で測定するということもお願いした。「改革推進へ研修や指標の設定」ということで、「成果や進み具合の指標を設け、定期的にモニタリングします」と書かれているので、やってもらえればいいかなと。
 それから途中で心配になって、根本的な改革、朝日が変わったと言えることをもっとやったほうがいいぞと盛んに言った。そういう意味では、クイックサクセスという、我々がよく使う、改革したときに「変わったな」という第一印象が重要だ。そういう意味では、江川さんの先ほどのご意見に大賛成で、例えば池上彰さんのコラムがもう一回戻ってくるとか。「新聞ななめ読み」で、池上さんが朝日は変わったのかを紙面のコラムでボンボン書いてくれると。「何も変わんねえじゃねえか」という辛口コメントも書いてもらう。池上さんが引き受けてくれるかどうかは分かりませんが、池上さんのコラムが載ること自体が、朝日が変わったということのものすごく分かりやすい印になる。池上さんは非常に良識のある方だから、アホなことは書かないので、言いたいことを全部書いてくれと言っても全然問題ないと思う。
 それから、世の中の嵐が過ぎるのを待っている部分。「NISSAN WAY」の説明をしたが、ぜひ、5つの心構え、5つの行動みたいな、「ASAHI WAY」というようなものを、実行段階で作ればいいと思う。朝日としての綱領はしっかりあるわけだが、それをもうちょっとかみ砕いて、記者たちが分かりやすく感じるものを考えればいいなと。
 そして、ぜひ従業員サーベイをやってほしいとも言った。トップへの信頼、会社法人への信頼、あるいは従業員満足度みたいなことを調べて、と。これは実行段階の、社内での話なので社長論文に書く必要はない。でも、ぜひ実行をお願いしたい。
 それから、危機感の継続。正直言って、もう既に何となく、一山ずつ乗り越えられている中で、徐々に危機感が減ってきているのでは?という心配をしている。ちょっと過激なことを申し上げると、次に同じような問題が起こったら、ほんとにえらいことになる。廃刊を覚悟せざるを得ないくらい。会社は残るだろうから、名前を変えた新聞を作るようなことに多分なるんだろうと思う。そこまで追い込まれるんだという危機感が必要。今回のことと同じことを繰り返したらそうなるんだぞという、社内的な危機感の醸成というのを継続的にやってもらいたい。日本の優良企業といわれる会社、トヨタさんだとかキヤノンさんだとか、ああいう会社は、常に危機感を社内に浸透させている。危機感を社内で持っていると、世間に対して謙虚になってくる。
 次は、世間とのずれ。これは相当な世間とのずれだなと思ったのが、木村前社長の退任と、飯田会長・渡辺社長の社長職の任命に関する挨拶状。木村前社長の文は変だ。普通は、一般の企業であれば、臨時株主総会で退任するということは不祥事によって退任したということだから、まずは一言おわびがあってしかるべきだ。日産自動車には、多分広告主として届いたんだろうと思うけれども、広告主に出す文書じゃない。どう考えたって。飯田さんと渡辺さんのところはさほど悪くない。飯田会長は「皆様のご期待に応えるべく、弊社が再生の道を歩むことを誓います」と誓っているし、渡辺社長は「皆様から信頼していただけるよう全力を尽くす所存です」と希望を書いている。なぜおわびが一言入らないのか。ここが正直言ってずれだろうと。私、不祥事を起こしたいろんな会社の社長さんから交代挨拶をもらうけど、おわびがないのは珍しい。こういうところは本当に、非常に神経を使った方がいいと思う。
 あと形骸化、風化の話をした。気になっているのはPEのところ。従来から、「現在、社外の意見を取り入れる仕組みとして、電話やメールでいただく『お客様オフィス』や広報室、日々の紙面チェックをお願いしています『紙面モニター』、有識者による年数回の『紙面審議会』」がある。この中で、形骸化していたり、もう価値を失っているものについては、置き換えていくべきだろう。紙面審議会なんかは相当、経済界の偉い方が出られているので、簡単にやめますとも言えない事情もあるのかもしれないが、いずれにしても、置き換えていかないと数ばっかり増える。形骸化するものを始めるということが経営に対する不信感を招くので、必要のないものについてはやめればよいと思う。
 総論で、どうしても1カ所だけ文章で気になったのは、「調査報道をさまざまな形で充実」というところ。冒頭の「権力を監視」だが、権力を監視することがメディアとしての重要な役割だというのは常識として知っている。わざわざ「権力を監視」という単語を入れる必要があるのかなと。これは「昔の朝日からやっぱり変わっていねえよな」と感じさせてしまうんじゃないのかなと。言いたいことはすごくよく分かるが、わざわざ「権力を監視」というふうに……。また今回の問題については行き過ぎた正義感とか行き過ぎた使命感がこういう記事を作らせてしまったということを言っているので、気持ちは分かるし、朝日新聞は権力を監視しなきゃいけないという重要性も私は理解しているが、わざわざ言わなくてもいいような気がする。

【古市】 総論に関して、特に異論があるわけではないけれども、この委員会で話し合われてきた、論点の案で出てきた話から幾つか抜け落ちている点とか後退している点があったのが残念だ。
 例えば、論点案にあった社員の意識、会社の体質という項目がほとんどすっぽり抜けているように思った。つまり、社外に関しては、まずパブリックエディターを入れるであるとか外部からの取締役であるとか、いろんな方策が述べられているけれど、社内の体質をどう変えるのか、社内の意見をどう取り入れるかということがすっぽり抜け落ちているように思った。
 実際、この委員会の中では、若手なり現場と経営層との意見の交流会を盛り込むだとか、現場からちゃんと意見を取り入れるということが何度か話し合われてきて、それもやっていくということだったが、これは単純に、ここに書くまでもなく当たり前に、もう既に始めているから書かないということなのか? それとも…。抜け落ちてしまっているのは残念だと思った。
 一番大きいところは、PEの仕組みがどうしても分からない。つまり、志賀さんが形骸化してしまうんじゃないかとおっしゃっていましたけれども、やっぱりこのままでは紙面オンブズパーソンと同じように形骸化してしまう恐れがすごく高いと思う。もちろん、紙面オンブズパーソンという読者寄りの仕組みと、パブリックエディターという有識者寄りの仕組みは多分違うものだとは思うけど、文字にするとすごく似ている。朝日新聞のホームページに紙面オンブズパーソンの説明が書いてある。読んでみると、「紙面モニターの結果や広報に寄せられた声、社外の有識者による紙面審議会の意見を集約し、紙面作りの現場に責任を持って伝える役割を担う『紙面オンブズパーソン』のポストを新設しました」とある。これって今回のPEと、文字にするとほぼ同じだと思う。だから今回の仕組み、新しくここで宣言するものが、その既存の仕組みとどう違うかがあんまりよく分からないなと思った。
 それは、例えば訂正記事のコーナーで書いてある輪読も同じ。輪読というのは朝日新聞のよき慣習だったという話がここの会議でも出ていたけれど、じゃあ輪読はなぜなくなってしまったのか。今回の宣言で輪読会を実施する、複眼的なチェックをすると書いてあるけれども、これは義務として、そういうことを仕組みとしてやっていくのか、それともやりましょうという呼びかけで終わるものなのか。そうだとするならば、逆に何で今までの輪読という文化が廃れてしまったのかという検証も必要だと思う。
 今回の行動計画で書いてある1個1個のことはすごくもっともらしくて、いいことが書いてはあるけど、でも、実際にそれをしようというときに、結局形骸化してしまうんじゃないかなという懸念が、やっぱり僕は拭えない。例えばPEにしても、論点案として話し合われた段階では、紙面オンブズパーソンは事後的なものであったからPEを招きましょうという書き方だったけれど、実際、事前にそういうことを検証するのは難しいとしても、じゃあ事後的にするんだとしたならば、逆にこれまでの仕組みとどう違うのかということをちゃんと詰めないと、結局外側から見ると同じじゃないかと思われてしまう。
 あと、この行動計画を本当に律儀に守ろうと思ったら、幾つか本当に朝日新聞の体質を変えなくてはいけない点があると思う。例えば、この会議でも何回か出てきた特ダネ主義、速報主義の弊害。ここでは全く書かれていませんけれども、そういう特ダネ主義とか速報主義というものを見直すような気概というか覚悟が本当にあるのか。それとも、やっぱりそういう特ダネ主義、速報主義というものは維持したまま、結局、新しい仕組みだけを導入しようとして事をおさめようとしているのかがあまりよく分からなかった。
 あと、1点だけどうでもいいことを言うと、調査報道の欄の「最先端の情報技術も駆使して」の「最先端」という言葉はちょっとダサいので、やめたほうがいいと思った。

【渡辺】 まず、志賀さんのご指摘にあった挨拶状の件は、本当に恥ずかしく、申し訳ございません。そういうことがないように気をつけます。
 その後の古市さんからご指摘があった社員の意識とか、それから社員との交流の場みたいなところの話については、これはお客様というか社会に対してお約束することなので、社内でこうやっていきますというところは今回少し端折りました。やるかどうかということで言えば、志賀さんからご意見をいただきましたし、実際に皆さんにいろいろなところへ行っていただいて、社内の風通しの問題も含めて「会社にはちゃんと声を聞いてもらっていない」という意識があちこちにあるということでしたので、これはしっかりと受けとめようと思っています。
 一刻も早く始めたいという思いがありますが、再生プランを仕上げて…仕上げてというのは当然ですけどスタートラインで、ここから始まるものですが…とりあえずはプラン作成を終えないことにはなかなか動きがとれないところがあります。ただしこれを終えたら新しく、それこそクロスファンクションの再生チーム+αで、再生プランをしっかりと進めていくチームを作って、そこでいろいろモニタリングも含めてやっていってもらいます。そういう中では、現場に私たちが行って次々と話をします。これはまさに意識改革をしていく過程です。経営側も意識改革をしなければいけないし、現場も意識改革をしなきゃいけないことがいっぱいあります。
 今日も編集部門に行って、部長たちと話をしてきました。話をしていく中で、やはりまだ少しこれから考えていかなきゃいけないことがあるという感じを受けました。第三者委員会報告書をどう受けとめるのかを巡って未明まで長い議論をしたこともあります。私たちが本当に気を引き締め、かなりの決意を持って臨まないとできない部分もあると思っています。
 それと紙面オンブズパーソンとパブリックエディターは、外から見たら一緒ではないかという点について。紙面オンブズパーソンが機能しなかったというか、うまく機能しなかったというのは、やっぱり指摘するだけだからと考えています。指摘して、あとはご自由にご判断くださいというスタンスでやってきました。それはある種、編集の自己改革を期待して、編集に対してそういうことを、ボールを投げかければ彼らはちゃんと動くと期待してやってきたわけです。今回の一連の問題を踏まえて、そこは外の声??お客様の声、社会の声、それから他メディアからの指摘も含めて、何かあったときにはきっちり直接働きかける権能を持った組織でないとうまくいかないということで、そういう機能として設計したいと思っています。

【国広】 今の志賀さん・古市さんと、渡辺さんのやりとりを聞いていて思った。私の専門であるコンプライアンスという面から懸念がある。
 不祥事や事件が起こると、「こういう新しい体制を作ります」「より厳しいルールを作ります」といったように新しいルールや新しい制度がどんどん積み重なっていくことがある。そうすると、コンプライアンスを「やる側」がどんどんルールを積み上げ、上から文書をおろす。現場から見ると、いっぱいルールが下りてきて、ひいひい言っている。改革に向かってやる気を起こすどころか、経営層や管理部門のアリバイ的な過剰対応で現場が疲弊する一方になる。こうなってしまうのが、不祥事を起こした場合の、改革の失敗例。
 そうだとすると、朝日新聞では、新しいルールを1つ作るなら、1個ルールを廃止してください。つまり、人間1人でやれることには限りがあって、社員から社長まで1日24時間しかないわけなので、できることを着実にやることが大事。そのためには、「管理する側」の発想でルールを積み上げるのではなくて、無駄なルール、過剰なルールを廃止して、ルールを入れ替えるという発想がいると思う。
 そうすると今、「社外の意見をいろいろ聞く」というのも、あちこちの社外の人たちの顔を立てているイメージがどうしてもある。朝日新聞としてはこれまでに関わっている外の人を外すのも難しく、また気を使っちゃう。でも、やっぱりその辺から変えていく必要がある。
 また、一人ひとりの社員に対しても「これをやめて、これをやるんだ」と伝える。そうしないとメッセージ性が薄れると思う。なので、「やめるものも明確にする」ということが、何か新しいことを本気でやるためには― アリバイ的に何かを積み上げるのではなくて ―必要になるだろう。だから、「やめるもの」が特ダネ主義になるのか速報主義になるのか、あるいは既存の制度になるのかは、皆さんが考えることだが、ぜひ、「何かをやるなら、何かやめる」というメッセージを明確に出すことが大事だと思う。
 例えばPEについても、「これまでのオンブズパーソンとはここが違って、こうやるんだ」と明確に示すべきだ。ご高説を賜る偉い人というよりは、むしろ「ここまで踏み込んでほしくないのに、踏み込まれてしまう」ぐらいの積極性がある人を選ばないといけない。立派で権威があって重々しいけれどもアポイントをとるだけで3日かかるなんて人じゃ困る。電話一本ですぐ来てくれるようなことが、僕は必要だと思う。
 それから、やっぱり自己総括をして、いまだに根強く残る「克服すべき体質」と「対決する」ことが、必要だと思う。なぜならば、いつも志賀さんがおっしゃっている「首をすくめて嵐の過ぎ去るのを待つ人」がたくさんいる。例えば、原因分析のところに書かれている「事実に対する謙虚さを失い」「過剰な使命感」「公正さや正確さを軽視していました」というところは、まさにそれが真因だと私たちも思うし、渡辺社長もそういう認識で書いているのだろうが、いまだに「自分達は間違えていない」と思っている連中がうじゃうじゃいる。なので、やっぱり、彼らとどう戦っていくのかということなしに、本当の再生はできないと私は思う。
 その意味で、渡辺社長が先頭に立ってここに書いてあることを発信し続け、それに対する異論、反論も受け止めて、徹底的に議論をしていく。やっぱりそういう戦いというか、そのプロセスというものがこれから必要になると思う。八方丸くおさまる改革なんてのはないわけで、やっぱり戦わないといけない。そのためには、真因なり原因を深く経営陣の皆さんが自覚をして、そして、その真因を認めようとしない人がたくさんいるという現実の中で、「丸くおさめない」こと。これがとても大事だ。

【江川】 何点かある。まず志賀さんが言われたことの1つで、調査報道のところ。私も、実を言うとこの冒頭は気になった。一番最初の案のときにこれはなくて、調査報道についての定義が「独自取材により隠された事実を発掘する調査報道」だった。私はそれがとても気になったので、修正案として「埋もれている事実を掘り起こし、見過ごされている問題に光を当てる」というような表現を提案して、それを入れていただいたのはすごくよかったなと思ったら、今度はこれが入ってきた。
 どうしてもこれを入れたいのかと思って、私はそのときには文句は言わなかったけれど、私もすごく気になっている。「権力を監視し」だけじゃなくて、その一文全体が気になっている。つまり、「権力を監視し」云々かんぬんというのがジャーナリズムの大きな役割です…ああ、そうでございますかと。読者に対して、我々の役割はこういうものですと言って、ああ、そうですかって、そういう紙面じゃないだろう。これは、朝日新聞がこう変わっていきますという紙面だ。これは社員の人たちが一人ひとりの胸に刻んでいけばいいことで、外に向かって宣言するような話じゃないと思う。ほかの項目は全部こうしていきますとなっているのに、何でこれだけこういう押しつけがましいのが出てくるのか。これはやっぱりわざわざ書くまでもなく、社員の研修などでやっていけばいいことではないか。
 研修といえば、先ほど志賀さんが危機感の継続とおっしゃったけれども、「過去の失敗に学ぶ研修を充実させます」というのを入れてみるのはどうかと提案する。というのは、過去の失敗をいろいろ検証した緑の本があったが、あれが全然生かされていない。事務局の人がどこからか発掘してきて、こんな大事な資料があったと。今回の失敗も含め、過去の失敗に学ぶという研修をちゃんとやっていきますよ、ということは大事だ。
 それから、志賀さんも古市さんもご発言をされたコミュニケーションの問題。社内の風通しをよくし、コミュニケーションを改善するという項目を1つ立てたほうがいいんじゃないかと思う。これは社外に向けているわけじゃないと言うけど、ただ、今回の問題の総括として、反省事項として、やはり社内の意思疎通が十分できていなかったということも指摘されているので、それに対応するべく、社内の風通しをよくするため積極的に取り組んでいきますということは、きちっと外に向かっても宣言する必要があるんじゃないか。
 その1つとして、役員、経営陣の良好な意思疎通、それから意思決定の透明化などなどを図る上でも、役員室の個室をなくして大部屋化しますというのを、私はやはり入れたほうがいいと思う。それは1つのシンボルでもある。社内で意思疎通をきちっと図っていくということの1つの象徴として、そういうことをやっていくということ。そして、その経営陣が社内の状況を直接把握するとともに、社内の縦のコミュニケーションを図るために、役員と社員の座談会のようなものを定期的に行うとか、あるいは横のコミュニケーションをきちっとやるために編集とビジネス部門の共同研修をやるとか、あるいは部門や部署の枠を超えた勉強会、議論の場を設けるとか。そういうようなことを項目としてきちっと立てた方がいいんじゃないか。
 それからもう一つ、先ほど意識改革について志賀さんが、社員だけじゃなくて経営陣もとおっしゃっていた。今回の記者会見の直前に、再生プランを小出しにしようみたいな案が15階からいつの間にか下りてきたという話を聞いて、やっぱり15階がもたらす危機がこれからも起きるんじゃないかと、私は危惧している。だから15階の役員たちも今回のことを忘れないで、しばしば語り合っていくというような、役員の人たちの意識改革の象徴にもこの大部屋化というのはなると思う。だから、ぜひプランの中に入れてほしいと私は思う。ほかの社外委員の方のご意見も伺ってみたい。

【司会】 前回、大部屋化は評判が悪かったが。

【国広】 違う、違う。本質的な問題を明確に打ち出さないまま、いきなり大部屋化が出てくるから、それを再生策のトップに据えるのはちょっと違うので、幹がなくてそれは枝ではないかと言った。大部屋化自体がダメだとは言っていない。大部屋化はもちろん大変結構だしやるべきだ。でも、それをイの一番の木の太い幹として出すというのは、それはバランスが変だという意味なので、誤解しないでもらいたい。

【志賀】 日産の例で申し上げると、例えば中期計画であったり、金融危機後の日産リカバリープランであったり、対外的に発表する資料と社内的に発表する資料というのは実はワンセットになっている。従業員には、社内向け資料パッケージが渡されるが、その中では対外的なものが明らかにされている。だから今回の件も、「社内の風通しをよくしコミュニケーションを改善」という江川さんの案は、私はいいなと思うので、全体のバランスの中で入れられるならば入れたらいいと思う。具体的に何しますとか、さっきの大部屋の話とかCFTの話とか、こういうことをやっていきますみたいなやつは、同じパッケージの中で社内に対して同時に説明する。
 前回も言ったが、1月5日に対外発表するのであれば、例えば日産なら、午後に対外発表するのであれば午前中に社内に発表して、そこは社員向けメッセージも対外的なものも入っている状態にしておいて、そして午後に社外にも発表する。社員の人たちは社内向けのメッセージを聞いた上で社外を聞いているという状態になって、社内ではこういうことをやるんだというのが分かったうえで外に向かってのメッセージを聞く。
 非常に気になった表現があって、さっきも申し上げましたが、社員の抜本的な意識改革をしますと。社員にしてみれば、「おい、改革するのは経営陣の方だろう」と思っちゃう。私が他責になっていると言ったときに、ある集会での反響の中に、自分なりにどう考えても自分に責任がない、自分に責任があると思えないと言う人もいた。したがって、外向けのメッセージをどう解釈をして自分のやるべきことにつなげるかという解説が事前にいるんだろうなと思う。できる限り、社内向け社外向けがパッケージ化されることが最低限必要という気がする。

【古市】 役員室の大部屋化に関しては、僕はどちらでもいいと思う。ただ、しかるべきチームが多分いたるところに取材に行って発表してきた案だと思うので、もしも大部屋化をしないのであれば、少なくともこの場でなぜしないかという理由だけは説明していただきたい。今、議事録を読み返しているが、ちょうどそのときほかに提案されていた社員によるASA研修の強化であるとか、ほかの提案に関しては盛り込まれている。大部屋化をもし盛り込まないのであれば、その理由、デメリットみたいなことを説明してほしい。

【渡辺】 1月5日は午前中、社員向けにメッセージを流す場面があるので、そこでコミュニケーション改善の話は少しできると思います。大部屋化は、それぞれの役員が部屋が欲しくて、個室にこもりたくて抵抗しているわけではありません。私自身は、役員が現場へ下りる方向で話をしています。広告、広報、企画事業、財務、デジタル、製作などはすでに現場フロアに下りています。場所が取りきれない役員が15階にいます。管理担当と社長室長は社長と一緒にやる仕事が多いので、15階にいます。大部屋化というのは、少し方向性が違うかなと思っています。
 私自身が社長室長補佐だったとき、その時代は役員の皆さんは扉を閉めっ放しにして、何しているか分からんみたいなところがあって調整が大変だった覚えがあるんですが、今はいる役員は扉を開けっ放しで、誰がいるかも分かる状態です。ですので、ここでいう役員の大部屋化で改善されるコミュニケーション機能の充実みたいなことは、少し違うかなという思いを持っています。ご指摘の趣旨はよく分かりますし、チームの皆さんがもっとちゃんと意思疎通しろ、意思疎通を図れというところはその通りだと思います。でも現実問題として、日常的に僕らはしょっちゅう行き来していますので、今、大部屋にしなければ意思疎通が図れないという状況ではありません。むしろ、僕は現場に役員が出ていってもらいたいと思っています。
 それと、部門を超えたコミュニケーションが必要だと思うんです。縦のコミュニケーションというのは、部門の担当がいて、そこの部門の関わりの中でコミュニケーションをとるわけですけれども、やっぱり横串のコミュニケーションが絶対的に必要です。そこはまさにクロスファンクションということなんでしょうけれども、これからいろんなプロジェクトを進めていく、今回の再生に向けてチェックをしていくとか、別の形でプロジェクトを進めていくとか、そういうときに横串の機能というのをいかに作っていくのかというのは重要なところじゃないかと思っています。
 社長である私はあちこちちゃんと行って話をしようと思っていますけれども、それぞれの各担当役員には自分の部門じゃないところに行ってもらう方針で話をしています。例えば、販売担当には編集に行ってもらう、編集担当は広告に行ってもらうとか。そういう中で、どうもモノトーンというか、単一になりがちな意識を、少しかき回す作業をしたいなと思っております。

【古市】 だったら、どっちでもよいのかなという気もする。大部屋化でも何でもいいけど、今回の再生プランは朝日の言葉で言うと、あまり「エッジが立っていない」気がする。他社が発表を受けて、このプランを報道するときに「PEでお茶を濁された」みたいな感じに思われるのが損だと思う。社内向けも、紙面ではできなくてもウェブで公開するとかできないか。江川さんが出していた社内のコミュニケーションの話も、社外には出さないのであれば、ウェブに載せるとか……。先ほどの説明は、やらないことの説明にはなっていなかった。

【渡辺】 社内向けメッセージに含めるとか。

【古市】 メッセージじゃなくてもいい。例えば、先ほど江川さんがおっしゃったような、社内での集会を開く、社内上層部と現場のコミュニケーションを改善するみたいなことだ。江川さんが出していたプランをもしも行動計画に載せないのであれば、社内に対してどんなことをしていくかということをウェブなり何かで公開することができないのかということが1つ。あと大部屋化はしてもしなくてもいいけれど、先ほどの説明だと、しないメリットの説明にはなっていなかったと思う。

【渡辺】 ウェブ上で社内の動きを示すのは可能だと思います。大部屋化をやりたくなさそうな感じで言っているのは、セキュリティの関係もあり、結構コストがかかることもあります。この大変な状況のなかで、それを積極的にやらなきゃいけないのか、それだけの効果があるのかという思いがあり、あまりやりたくなさそうに聞こえちゃっているのかもしれません。実は、僕はあまりこだわっていなくて、むしろ社長室長補佐のときに、面倒くさいから同じ部屋にしていてくれればいいのにと思っていたぐらいです。宿題にさせていただきたい。

【江川】 大部屋化を、やはり私がやった方がいいと思うのは、1つはシンボルとしてということもあるが、もう一つは、今は危機感があるけれども、次の社長、その次の社長、またその次の社長になっても同じことを繰り返さないようにという意味からだ。「今度やったら廃刊ものですよ」というのは、さっき志賀さんがおっしゃった通りだ。今だって廃刊しろという運動をやっている人たちがいるぐらいだし。やっぱり将来的に、危機感を継続させる策として、今だけではなくて将来にわたる課題として、大部屋化というのは1つのやり方だと思う。
 したがって、おそらく今の状況だったら、差し当たってドアを全部外しますとか、そういうことになるのかもしれない。そういう意味で検討してほしいということはお願いしておく。

【国広】 今日の最終回の再生委員会前に、再生委の結論(成果物)として社外委員に示されたのが、いきなり「1月5日(組みの)の紙面をどう作るか」という形での原稿だった。再生策を示す朝刊紙面の文面をどうするか、という形。それって物事を紙の紙面だけからしか考えていない。どういう紙面を作るか…そこにはもちろん対外的なイメージもあるかもしれないが、社員に対して、経営陣なり再生委員会としてどういうメッセージを出し、どう実行していくのかという意識が薄い。
 示された再生案の文案の特に原因論の部分については、僕が昨日、「経過説明と原因分析が入り乱れている。原因論も薄っぺらで他人事みたいだ」ときつく文句を言い、その後何度かバージョンアップされているけれども、これ、全部「紙面」という形で、その字数の制約のもとで行われている。これは、発想として問題だと思う。
 もちろん紙面は大事だとは思うけど、「自己総括」や「やるべきこと」がまずあって、それを紙面にどう表現するか、そして、これをどう社員に伝えていくのか、というのがなければいけない。紙面をどうするか、というのはその先のことだ。皆さん、新聞記者出身の方がほとんどなので、どうしても「どういう紙面を作るか」という発想から抜けられない。分からんではないんだけれども、多分これは新聞記者特有の「性」というべきものなので、そこは気をつけてもらわないといけない。
 志賀さんが先ほどおっしゃったように、1月5日には、紙面はこうだ、社員向けはこうだと、セットで示されないといけない。紙面作りには皆さん一生懸命になる。その結果、紙面をどうするか、というだけのことになっちゃう。でも一番大事な社員たちに、「今年から我々は変わらなきゃいけない」「かつ、社長をはじめとして古い体質と戦っていくのだ」ということを伝えないといけない。そういうメッセージ性というものが実はとても大事であって、「紙面まずありき」ということで社員に決意が伝わらないことが心配だ。紙面は紙面、しかし本当にやるべきは社内改革だというところを明確にして、1月5日に社員に何を出すのか、ここをぜひ「エッジを立てて」やってほしい。

【渡辺】 社員向けのメッセージは、1月5日に伝えていこうと思っています。中身は大きく3つです。
 ひとつは、間違いなく、この再生プランについてどう考えているのかということ。社員に対して会見の前に1回しっかり言わなきゃいけないので、この部分はちゃんと話します。どうして意識改革をしないといけないのか、というところを少し詳しく言わないとなと思っています。
 もう一つは、今、新聞業界の置かれている状況の中で、構造改革をやっていかなきゃいけないという話。
 3つ目。私たちは次の世代にも、次の時代にもちゃんと立っていられる新聞社として、これからどういうところに力を入れていかなきゃいけないのか、という話をします。これは、新しい事業に対してどう取り組むのかという話にも一部なっていきます。
 今、古市さん、国広さんからご指摘いただいた、要は社内向け、社内に対して、まさに信頼につながるところとか、意識改革につながるところとか、それから、もしかしたら首をすくめている人たちに対して、どういう見方をしてアプローチするのがいいのかというのは、考えているところです。
 信頼回復の問題というのは、「信頼回復が必要だよね」と言うと、「それは経営がやったこと(経営陣の失敗)だろ」という答えが返ってくる。"経営がやったこと"というところに対して、私たちは、当然のことながら重たい責任を持っているわけですし、私自身がそこにも関わっていました。池上さん問題は私自身、「何でこんなことが…」というようなことでありましたけれども、その前のおわびしないというところについては私も関わっているわけです。
 それから、危機管理の問題となっていたはずの吉田調書問題。結果として編集の言い分を鵜呑みにして放置した、しっかりとちゃんと対応しなかったということに関しても、これもまた私たちの責任であろうと思っています。「経営の責任だろう」と言われたときに、「それはそうだけど、おまえらだって責任あるだろう」みたいになったらケンカになっちゃいます。それこそ他責の文化のぶつかり合いみたいになってしまっては困ります。
 今日、1時からの編集との会議の中で私は、「これは私たち経営に責任があることに疑いようのないもので、私たちは何も申し開きしようとは思っていない。今回の一連の問題で、第三者委員会もそうだし、PRCもそうだし、それから信頼回復と再生のための委員会でも同じことが指摘されている。それは朝日新聞の体質だ。それは……」と具体的に話をしました。繰り返し丁寧に話していくことで、ある程度のところは分かっていただけたかな、という感触を持ちました。あらゆる場に出かけていって、とにかく、しつこく、しつこくやることなんだろうなと思っています。

【国広】 しつこくやるしかない。最初が肝心だ。例えば原因分析のところなんかは、多分同意しない人もたくさんいると思うけど、紙面にはこう出ている、というだけでなくて、「こう変えていくんだぞ」という再生のメッセージを出し続けていくのが必要だと思う。渡辺さんをはじめとして幹部がどう社内に心を込めたプレゼンをして人を動かすのか、そこはそれほど皆さんプロフェッショナルじゃない。志賀さんのアドバイスなどを踏まえ、やっていく必要がある。

【古市】 意識改革って、「意識を変えましょう」と言って変えるものじゃないと思う。結果的に、意識は当然変わっていくことが必要だとは思うが、そのためにこんな仕組みを用意しますよ、こういう制度を用意しますよ、ということがセットじゃないと、社員の人も「じゃあ、やろうとか」となかなか思わないし、単純に「上からまた何か同じようなことを言われているだけだ」と思われちゃう危険性もある。
 改革の理念の「事実に公平に向き合います」なんかは、これまでも多くの朝日新聞記者の方が尊重してきたことだと思う。だから、それを改めて言っても本当に必要な意識改革にはならない。じゃあ、そこでどんなふうに会社が変わっていきますよということも、こういう仕組みを入れていきますよということも、もうちょっと盛り込んでほしい。
 この会議でもさんざん出てきた「上へなかなか意見が通らない」とか「社内の風通しが悪い」とか「女性に優しくない」とか「画一的なキャリアパス」とか、多分、経営陣の方もそういう不満は既にご存じだろう。だから、そういう中で、じゃあ、どんなプランをやっていくということを具体的にちゃんと示した方が、社員の方もやろうという気になる。だから、全部を紙面に出す必要はないけれども、具体的に、若手との対話を進めていますみたいな、どんどんそういうことを出してほしいと思う。

【渡辺】 古市さんのご指摘の通り、意識改革は本当に大変だと思っております。研修したら意識改革できるって、そんな甘いものでもないということも分かっています。研修は必要ですが、それよりも、例えば訂正記事を集めるコーナーを新設して訂正記事の書き方を変えることが、意識に対する働きかけになると思います。
 それからもう一つ、新しくフォーラム機能を持った紙面を作ります。そこに異論、反論、対論、討論を持っていきます。紙面自体はただの箱にすぎないんですけれども、この箱を作ることによって、記者たちの記事に対する感覚が変わっていくと、僕は思っています。新聞記者はそういうものなんです。ある欄ができると、その欄に対してボールを投げようとしていくので、そうすると意識が変わっていくみたいなところが少なからずあります。なので、異論、反論、討論みたいな仕掛けを施して動き出した途端、記者たちの中には、そういう意識がある程度出てくると思います。
 それがどこまで広げられるか。そういうことに関心が高くてすぐ反応する人と、それから、そういうものに対してはそっぽを向いている人と…。後者は相当いるわけですけれど、そういう人たちにどう働きかけていくのかは、まだ宿題が残っていると思いますが、具体的な訂正記事の書き方、訂正欄の新設、それから討論機能を持った紙面を作るとか、そういうところでカバーできるところはあります。
 お客様の声を実際に聞くことも大事です。大したことではないですけれども、今回400人ぐらいの人がお客様オフィスで繰り返し声を聞きました。これはまさに志賀さんの言う、上のところ(上澄み部分)の話なので、この人たちの感覚がどこまで深く下がっていくかという問題はありますが、いろいろやってみたいと思います。
 もう一つは人事。基本的に一定期間やってみて、今回指摘されているようなことを理解できない者は、記者として置いておくのはよくないと私は思います。こんな原則みたいなことさえ理解できないとすれば、この人たちを取材先に出すことは極めて不安です。所属長なり部長なりに、それぞれ個々がどういうマインドを持って、どういう仕事をしているのかをしっかり見てもらわなければいけません。そこのところは、例えば編集でいえば、西村編担を中心にしっかりコントロールしてもらいたいと思っています。

【志賀】 前回、取材される側というか、書かれる側の話をした。ある東電の役員と話しをする機会があった。それと、霞が関のある官庁の局長クラスの方と会う機会があったので、「志賀さんは再生委員をやっているけど、朝日は変わらないよ」と言い張る。何でかというと、「今までいろいろ正確に報道してもらおうと思って説明をしたんだけれども、聞いてくれないんだよ、朝日は」と、こういうパースペクティヴになっちゃっている。
 霞が関の局長が具体例を出して言ってくれたのは、「原発の話をすると原発反対だと、CO2の話をするとCO2を減らさなきゃいけない、再生可能エネルギーの話をすると再生可能エネルギーを増やさなきゃいけない、電力料金は上げちゃだめだ」と。この4つを分解して1つの答えを出せるかというと、実は出せない。出せないことにキャンペーンを張られちゃう。
 今、原発がなくなっている状態でいけば、90%が化石燃料で電力を作っているわけで、この現状では来年のCOP21には出ていけないよねという議論をする。局長は一生懸命説明するらしいんですけれども、それでも「反対」となってしまう。
 今後は取材される側の人たちの「異論」「反論」も書くということか? 原発については国民の過半数の方が反対しているわけだから、それに対しては国民も声を出す必要があるけれども、でも、このまま原発が再開しなければ90%以上を化石燃料に頼ってCO2を出し、さらに安全保障の面からいっても海外に依存している…ここまであわせて書いて、朝日は変わったなという。ですから、そういう構成で正しい記事を書くことが大事なのかなという気がします。
 前回もちょこっと言ったけど、今、日本の中で真実じゃないのに真実のようなムードで語られていることが結構ある。思い込みじゃなく、本当に掘り下げた記事が出てきて、「何だ、こういうことなのか」が分かれば、すごく朝日らしくていいなと。
 今回、3つの目指す改革の理念みたいなところが、本当に記事として出てくるということか。「俺が言ったことを書いてくれているぞ、説明してよかったな」と、もう一回来たときに、ちゃんともう一回説明してあげようかという姿勢に変わっていくことが、すごく大事なのかなという気がする。

【渡辺】 今日編集と話をする中で、まさにそういう話をしました。1月5日に会見しますが、僕が「変わります」と100万回言っても、紙面が変わらないと信用してもらえません。朝日が世の中に対して約束することなのだから、紙面が変わることが必要なんです。1月からどんどんそういう話が出てくるというのが一番いい。4月に新しい紙面を作るのを待たずにそういう傾向が出てくるのがいいことなんだと思います。

【西村】 そういう議論を連日やっている最中です。紙面、デジタルを含め、いかにコンテンツを変えていくか、幅の広い器を作るか。朝日の論調には反対、朝日とは立場は違う、でも朝日を読んでいる、そういう人が減ってきたのはなぜなのかと我々はずっと問いかけてきました。後は日々の実践でこれを変えていきます。形状記憶合金にならないように。

【司会】 それではここで一旦休憩。


<休憩>


【司会】 今までの議論で、再生のための行動計画についてのご意見をちょうだいしたということでよろしいでしょうか。今の議論を踏まえて、またこの行動計画を修正させていただきたいと思います。具体的にいくつかご意見をいただいたので、これを現場とも話し、いろいろ手続き的なものもありますので、これが最終的なものにまとまり次第、年明けになろうかと思うが、メールでお送りさせていただきます。
 それでは、最後になりますが、これまでの3か月にわたる審議と、今回ご説明させていただいた再生のための行動計画について、4人の社外委員の方々から所感をいただきます。

【古市】 そもそもこの委員会に関わる前から、疑問に思っていることがあった。朝日新聞には2千人の記者がいるにも関わらず、なぜ池上さんのような人がいないのか。朝日新聞だけではないが、どこのメディアも全部、なんで池上さん頼りなんだろうと。少なくとも朝日新聞に入社できるのは、同世代の中でも優秀な人ばかりだったはずだ。優秀な人ばかりが集まったはずの会社で、なぜ今回のような問題が起こってしまったのか。その原因は個別の報告書が明らかにした通りだとは思うが、一つは組織がどうしても持ってしまう恐ろしさがあると思う。どんなに優秀な人であっても、一つの組織に長くいすぎて、その価値観を疑わなくなってきたときに、僕の言葉で言えば「おじさん」だが、社会とずれた存在になってしまうと思う。
 人は常に新しい価値観に触れていないと、劣化していくのだと思う。もちろんそれは朝日新聞に限ったことではなくて、どんなベンチャースピリッツにあふれた会社であっても、組織というものは絶対に経年劣化を起こしていく。年月がたてば、官僚的な組織にどうしてもなってしまう。今回の一連の問題というのも、朝日新聞の組織自体の経年劣化、人材の経年劣化がもたらした事態の一つだと思う。
 今回は外部委員として、若手中心に社員の方たちに話を聞いてきた。この会議でも何回か話題にあがったように、現場には多くの答えがあるように思った。特ダネ偏重主義というものはもういいじゃないかとか、新聞というのはもはや速報性の時代ではなくて、一つのトピックに関して掘り下げていく時代なんじゃないかとか、女性がもっと働きやすい会社にしていくべきではないかとか。こういう耳を傾けるべきだと思う意見が多くあった。
 そもそも改革プランというものが社内的にもたくさん用意されていると思う。あとはどれを選ぶかだ。何かを終わらせることはすごく難しいと思う。人間関係とか、しがらみとか、政治とか、いろんな凝り固まる様々なものを振りほどくのはとても難しいと思う。ただ一方で、新しいことを始めるというのは、それに比べたらはるかに楽だと思う。
 これから社内からも社外からも恒常的に新しい価値観を取り入れられるような仕組みをどれだけ作っていけるか、そして、不合理なものを終わらせられるかに、朝日新聞の再生と延命がかかっていると思う。
 あと、内輪もめほど組織内部の人の感情は掻き立てるけど、組織外部の人を白けさせるものはないと思う。つまらない内輪もめに見えてしまうようなものは終わりにして、朝日新聞が再生したと外部から見ても言えるようになることを願っている。

【司会】 ありがとうございました。

【志賀】 一番最初の会合のとき、「信頼回復と再生のための委員会」ということで、再生という言葉に個人的にこだわった。全国紙が5つある中で、一つくらいなくなってもいいわけで、再生する以上は、「なくては困る」と言われないと再生する意味がないと申し上げた。事実に公正、多様な言論を尊重する、社会的課題の解決を探る…この3つが朝日新聞のブランドとしてしっかり認知され、それによってお客さんが増えていく状態が作られれば、それが真の再生だろうと思う。
 日産もリバイバルプランで再生という単語を使っているのだが、カルロスゴーンは「リバイバルとターンアラウンドは違うのだ」とよく言う。リバイバルというのは、持続的に、継続的に、体質改善がされた、あるいはステークホルダーが満足する業績を持続的に出せる会社に生まれ変わることを言って、ターンアラウンドというのは一時的に業績が悪化している企業が業績を回復する状態を指す。まさに今回求められているのは、朝日新聞としての持続的な存在意義をもって、それが読者・社会に受け入れられて、それによってよみがえってくるという再生を目指すことだ。
 その中で私が一番大切にしてほしい言葉は、「指摘に謙虚に耳を傾ける」という「謙虚」という言葉。名古屋本社を訪問して、朝日新聞再生のための提案をポストイットに書いてもらったときに、謙虚と正義感のバランスをとって再生を貫徹するというメッセージをくれた記者の方がいた。謙虚と正義感のバランスというのが、ある種、新聞社に求められている重要なキーワードの一つなのかなと思う。
 ただ今回、行き過ぎた正義感、行き過ぎた使命感がゆえに、少し事実に公正な部分から外れた記事が出てしまった。行き過ぎない正義感、使命感は非常に大事なことだと思う。行き過ぎないためには、謙虚に声を聞くというか、そのバランスなのではないかと思う。途中から渡辺社長になって、社長とも個人的に1時間半くらいお話しさせていただいた。渡辺社長が朝日新聞の顔として、渡辺社長に対する信頼が社内からあるいは社外から高まることが朝日新聞の信頼につながるので、積極的なコミュニケーションをしてほしいとお願いした。渡辺社長は謙虚さがあってよろしいので、渡辺社長にお贈りする言葉は「謙虚さ」と「リーダーシップ」。謙虚と強いリーダーシップの両方があることが非常に重要なリーダーシップのテーマだと思う。
 こういう会合は今日で最後だと思っているから申し上げる。事務局の方を含めて、大変遅くまでご苦労されたと思う。真夜中の3時ごろにメールがきたこともあった。私自身が真夜中の3時にメールを返すこともありますが。くれぐれも形状記憶合金にならないように、一年くらいたって「また戻ってるな、朝日」と、ほかの社外委員から言われないように。私は取材される側の立場として、記者室の方々の言動に注意して、素直に耳を傾けてくれているかどうかを注意して、見ていたいと思う。私も外にいて、朝日の再生を心から祈っている。これからがスタートラインだと思うので頑張っていただきたい。

【司会】 ありがとうございました。国広委員 お願いします。

【国広】 所感は別途原稿を書くこととして、今思っていることを…。ギャーギャー文句ばかり言ってすみませんでした。ついつい…首を突っ込むタイプなので、ずいぶんイヤなことも申し上げたと思うが、それはよかれと思ってのことなので、ご容赦ください。
 今日も2回ほど言ったが、「ご高説を承る」のではなくて、それ違うよとか、キャッチボールができる"外の利用"というのをぜひやってほしいと思う。
先ほど休憩時間に渡辺さん、飯田さんとも話したが、記者と営業が、一方が表で、一方が支えと、役割分担をしすぎているところも、大きな真因の一つだったんだろうと。そう飯田さんが言っていた。僕もそうだと思う。  ある意味、従来型の、20世紀までは、正義を振りかざして、経営のことは考えずにやることに一つの歴史的意義というものはあったのかもしれない。でもこれからは、もっと「したたか」にならなければいけない。要するに、お子ちゃまみたいに「俺たちは正義だー」と無邪気に叫んでばかりいては、これからの時代、本当の意味での正義というものの追求はできないと思う。
 ファクトに対する謙虚さという言葉が何度も出てきたが、当然報道というものは、無限にあるファクトの中から主体的に何かを選んで書いていくもので、単なるデータを羅列するものではない。しかし、その主体性には必ず「プロとしての幅」というか、公正さ(フェアであること)という「枠」というものがあるのだろうと思う。この「枠」は報道の自由を束縛するものではなく、自らが報道の自由を守るための「盾」になるものなのだと思う。朝日新聞はこれからいろいろな仕組みや施策を出していくわけだが、本当の改革ができるかどうかは、結局一人ひとりの社員のプロフェッショナル意識にかかっている。「これは誰かに何か言われるから書くのやめておこう」ではなくて、まさに自分自身に問いながらフェアにやっていくことが大事だと思う。キーワードはプロフェッショナリズムではないか。
 自分達が記者だからという理由で、「権力は悪だ」「企業は常に権力だ」と決めつけているのも、実はプロの仕事ではなくて、単なる思考停止のアジテーションに過ぎない場合が多い。現実社会の複雑性、深いところまでの実相を見て、その上でファクトを主体的に選び取っていく報道をしてほしいと思う。
 志賀さんのおっしゃる「形状記憶合金」の朝日新聞を改革していくのは大変だろうと思う。私が椅子から転げ落ちるくらいびっくりしたのは、私が「記事には公正さが大事だ」と言ったことに対して、「公正さの強調は、権力と対峙する記者としての矜持に反する」ということが未だに語られているということだ。渡辺さんをはじめ、皆さんがどう戦っていくのか…。ぜひ頑張っていただきたい。
 朝日新聞という報道機関がしっかりして、一目置かれる存在であることは、朝日新聞の社会的な責任、皆さんの義務ではないかと。日本の民主主義のために、私はそう思う。そういう意味での使命感を持ってぜひ頑張っていただきたい。

【司会】 ありがとうございました。江川委員 お願いします。

【江川】 本当に皆さんお疲れ様でした。作業は残っているのだろうと思うが…。一番最初に私は、今回は自分のことは棚に上げて申し上げます、と言って、実際そのようにした。まさに自分のことを棚に上げた発言も多くて、大変失礼なこともあったかと思うが、お許しいただきたく思う。
 本当にこの失敗を生かしてほしいと思う。心からそう思うし、今いる社員だけではなくて、今後入ってくる方たちにも伝承していく、伝えていくということが大事だと思う。社員の人たちの話を聞いたり、あるいは社外のいろんな人たちの話を聞いて、皆さんにお伝えするということをやったが、その中で、ジャーナリズムにはどういう役割があるんだろうといろいろ考えた。あるいは、そのジャーナリズムのあり方が変化しているということについても、とても考えた。
 ただやっぱり原点は変わらない。一人ひとりが考えるための材料― それは事実だった視点だったり、知識だったり ―そういったものを提供していくという原点を確認しながらやっていくのだろうな、と思った。いくつかパブリックエディターとか、新しいものも入ったが、やっぱり大事なのは、基本を繰り返し確認していくことかな、と思った。
 さきほど志賀さんがおっしゃったが、例えばエネルギーの問題も、いくつもの課題があると。それだけではなくて、現実問題として本当に複雑なことがいっぱいあると思う。こちらを立てればあちらが立たずみたいな。だけれども、そういったものを切り取ってできるだけシンプルにして分かりやすく伝えることが、ずっとジャーナリズムの流行だった。特にテレビがそれを主導したと思う。それで行き着いたのはどこなのかというと、原発問題であれば、原発の事故のことを見るのか、あるいはエネルギー事情全般を見るのか、あるいは気象の変化について見るのかとか…、本当はいくつもの視点からいっぺんに考えないといけない複雑なことを、なるべくシンプルに伝えていこうとするがあまり、みんながその複雑さの上に立ってものを考えられなくなってきているのかな、という感じがする。すごくシンプルで乱暴な物言いが増えている。
 だから、本当の現実はすごく複雑なことと、分かりやすさをどうやってバランスをとっていくのか。先ほど、正義感と謙虚さと言われましたが、両方大事だ。どっちかが走ってしまうとまずい。いろんな課題のバランスの中で社会は、革命は起こせないけれど、いい方向に変化していきたいと思っている、と私は思う。そのための材料提供をやってほしいと思う。書かれた側が納得する、書いた側も納得するという形で。
 例えば、書かれた側の人の中に、自分の話したことの順序がいろいろ入れ替えて、ストーリーが変えられている…これが歴史として残るのは耐えられない、と言っている人たちのことをもう一度思い出してほしい。皆さんが書いたことは歴史として残る。間違ったことを書いたらそれが歴史になってしまう。そういうことを徹底してやっていただきたい。本当に、信頼回復と再生を心からお祈りする。

【司会】 ありがとうございました。今日の審議はこれで終わりとさせていただきます。最後に、飯田委員長から挨拶をさせていただきます。

【飯田】 社外委員の皆様、年末もギリギリまで大変貴重なお時間をいただき本当にありがとうございました。委員長として一言ご挨拶を申し上げます。
 当委員会は、10月に発足し、7回の委員会、十数回の読者の皆様、取引先の皆様との対話集会、二十数回に及ぶ社内集会を開きました。社内外の多くの声をうかがってまいりまして、寄せられた意見、提言は約2000件です。社外委員の皆様は、この委員会の会合のみならず、社員集会や討論集会、あるいは他本社まで行っていただき、生の声を聞いていただきました。そうしたプロセスを経て、専門的な知見から、ご意見・ご提言を承りました。皆様のご尽力に対し、厚く御礼を申し上げます。
 私自身も社内集会はもちろん、読者の皆様との車座集会で、独善的とか、事実に対する謙虚さがないとか、読者との意識のずれという言葉で、直接お叱りの言葉をいただきました。それが今でも残っています。この胸に突き刺さっています。
 一連の問題の真因がどこにあるのか、それを探るにつれて、経営のあり方ですとか、報道のあり方、社員の意識、そういうことに至るまで根底から改革をしないと……もう一度同じことがあれば廃刊という厳しいご指摘を真摯に受け止めて、私どもの信頼回復と再生はなしえなければと、今日も深く思いました。
 本日、委員会の審議を終えて、私どもの再生に向けた行動計画をまとめることになります。社外委員の皆様に重ねて御礼を申し上げますが、私どもは今、再生に向けたスタートラインに立ったにすぎません。どう実行するかが課題であります。全社員、全経営陣がここに示された改革の理念を自分事として深く理解をして、全社一丸となり、改革を推し進めていかなければなりません。私は社長とともに、その先頭に立って改革を推し進める決意でございます。
 どうか、社外委員の皆様、今後もいろいろ厳しいご意見を「ギャーギャー」言っていただいて構いません。ぜひ忌憚のないご意見を今後もいただければ幸いだと思います。甚だ簡単ではございますが、審議を終えるにあたっての挨拶と致します。ありがとうございました。

【司会】 では渡辺社長。

【渡辺】 本当にありがとうございました。私は途中からオブザーバーとして参加させていただきました。参加して本当によかったと思っています。謙虚なだけでなくて、強いリーダーシップが必要ということなので、強いリーダーシップを持ってやっていこうと思っていますが、あんまりやりすぎると…。
 謙虚と正義の話ではありませんが、バランスをとってやっていきたいと思っています。今後のことですが、今日いただいたご意見とご指摘を踏まえて、今日から1月4日までもう一度、ブラッシュアップして最終的な案を固めようと思っています。まさにそこが出発、スタートラインですので、そこからどう変わっていくのかを、まずは紙面でしっかり見せていくことだと思っています。
 次があったら廃刊ですよという言葉は、恐らくそうだろうと思っています。次これを起こしたら朝日新聞はもたない…もたないというのは本当にお客様からそっぽを向かれてとんでもないことになるという危機感を持っています。そのためには社員一同一丸となって、と言いますが、一丸になるのはとんでもなく難しいことだとも強く自覚しています。しかし、それをやらない限り、どっかの誰かが何かをしたとたんにそれが起きるかもしれないということなので、しっかりとやっていきたいと思っています。
 それから、どこまで信頼を回復という道筋を歩めているかということについても、モニタリングしていかないといけないと思っています。この委員会で、本当に忌憚のない厳しいご意見を最初に聞いたときに、耳が痛くなるというか胸が痛くなることもありました。でも、本当によく言っていただいたな、と思っています。この後、紙面的にも、信頼回復の数値的にも、どういう状況になっているのかをご覧いただいて、甚だ勝手なお願いではございますが、引き続きご意見をうかがえればと思っております。今後ともご協力をよろしくお願いいたします。

【司会】 それでは、本日の委員会を終わらせていただきます。ありがとうございました。

 以上