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韓国に滞在中の日本国際交流センター・シニアフェロー(朝日新聞前主筆)の若宮啓文さんのコラムです

(4) テレビ出演、韓国語で「靖国」語る

2013年5月1日

 朝日新聞のソウル支局は、光化門交差点に面した東亜日報のビルにある。だから、支局を訪ねるたびに顔見知りの記者と顔を合わせることが多いのだが、このごろビルの雰囲気がちょっと違う。エレベーターで芸能人やおしゃれなアナウンサー嬢とよく乗り合わせるのだ。1階にはガラス張りのスタジオもある。東亜日報が出資したケーブルテレビ「チャンネルA」がこのビルに入っているのだ。

 激しい参入争いの末、東亜日報と朝鮮日報、中央日報の3大紙、そして他の2社がそれぞれケーブルテレビ局を創ったのは2年前のこと。視聴率では地上波の大手テレビに到底及ばないものの、チャンネルAはニュース番組を主体に特色を出している。

 3月に私がソウルに赴いて間もないころ、この局の友人から「いつか必ず出演してください」と頼まれていた。「言葉が上手になったらね」と気軽に答えていた私だが、先週、その友人から電話があった。「急な話ですが、明日の朝、報道番組に出てほしいんです」

 聞けば、テーマは靖国神社の参拝問題だというではないか。麻生太郎副総理のほか、国会議員が大挙して靖国に参拝したのはつい最近のこと。韓国ではそれを厳しく報じており、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は抗議のため、予定された訪日をとりやめてしまった。そんなタイミングでのことである。

 いやはや、頭を抱えてしまった。日本で政府を批判するのならいざ知らず、韓国で日本の批判はやりにくい。しかも、私の韓国語はまだテレビ出演の域ではない。「下手な言葉で、そんな微妙なテーマを扱えとは、酷だなあ」と渋ったのだが、相手は「難しいのは承知の上ですが、朝日新聞で長くこうした問題を論じてきた若宮さんに是非とも話を聞きたい。一方的な話ではなく、韓国にも注文をつけてほしいのです」と、殺し文句が続く。とうとう逃げられず、男は度胸とばかり応じることにした。

 こうして4月27日の朝、「ニュース現場」という番組に出演し、キャスターとの掛け合いで15分ほど靖国を語ってきた。そこで意識したのは「A級戦犯を合祀する戦争美化の神社」という韓国でのイメージだけでは靖国神社を理解できない、ということ。私はあえてこう切り出した。

 「私は靖国神社のあり方や首相の参拝を批判してきましたが、国のために命を捧げた多くの戦没者の霊がそこに祀られているのは事実であり、彼らが『靖国で会おう』と言い残して死んで行ったのも事実。遺族はもちろんのこと、日本人の多くはそれを大事に思うのです。私だって靖国神社に行けば、頭を下げて彼らのために祈ります」

 司会のキャスターは、かつて他のテレビ局で東京特派員をしたことがあり、アシスタントの女性アナともども質問はポイントをついていた。天皇陛下はなぜ参拝をやめたのか、A級戦犯はなぜ分祀できないのか、村山談話を見直すような安倍晋三首相の発言に日本国内の反応はどうか。日本は右傾化していると思うがどうか・・といった具合である。

ナショナリズムの悪循環こそ問題

 私は、日本の右傾化というより、東アジアで互いに刺激し合うナショナリズムの悪循環が問題なのだと指摘。最後に「ここまで発展した韓国には、もう少し心を広くもってもらいたい」と注文して番組は終わった。冷や汗ものではあったが、私を引っ張り出した友人は「ねらいが当たりました」と喜んでくれた。

 日々通っている韓国語の授業では、人前での意見発表の練習をよくさせられる。それが役立ったのは間違いなく、先生には感謝するしかないが、もし次の機会があったなら、もっと明るい話題で出たいものだ。

 わかみや・よしぶみ 1948年生まれ。朝日新聞論説主幹、主筆を務め、2013年1月に退社。3月からソウルの西江大学で韓国語を学ぶ。韓国・東西大学碩座教授、ソウル大客員研究員。著書に「和解とナショナリズム」「闘う社説」など。