手塚治虫文化賞

第12回新生賞

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ピアノをめぐる多彩な物語

島田虎之介さん 『トロイメライ』(青林工芸舎)

©島田虎之介/青林工芸舎

 日本のピアノ調律師、イラン出身の仏壇職人、カメルーンの呪術師の孫、インドネシアの王族。「トロイメライ」は、1台のピアノをめぐる人物群像を多彩なエピソードで紡ぐ。断片がやがて響き合い、大きな物語に結実するさまは圧巻だ。

 「描き始めるのはラストまで考えてから」だという。前2作の「ラスト・ワルツ」「東京命日」も、伝説のオートバイや小津安二郎の命日といったモチーフを、群像劇の中心に置く。アルトマンの映画やボネガットの小説の影響が大きい。

 テーマは特に設定しないのが特徴だ。「歴史に参加するのは圧倒的に普通の人々。僕は、世の中に無数に並行する彼らのエピソードをどう構成するか、を考える」。実話に思える挿話も多いが、「きちんとたたむ大風呂敷」とニコリ。そこに読者は心地よくだまされる。

 デビューは39歳と遅い。映像の専門学校を経てCM制作会社で働いた後、実家のアパート経営を手伝っていたが、不惑を前に「このまま年をとって死ぬのはイヤ」。つげ義春の「海辺の叙景」を読み、マンガの深さに引かれた。

 「せりふが少なくても人物の考えや感情が伝わる」と、視線や立ち位置にこだわる。選考委員会では、陰影濃い画調への評価が高かった。


《しまだ・とらのす》

 61年、東京都生まれ。00年、「エンリケ小林のエルドラド」でデビュー。新作「ダニーボーイ」を「アックス」(青林工芸舎)で連載中。

※受賞者プロフィールは当時のものです。