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エンタメ for around 20

 

奇想を現実として描く筆力 前島賢

石川博品著『明日の狩りの詞の』(星海社・1458円)

石川博品著『明日の狩りの詞の』
(星海社・1458円)

 旧ソ連風連邦国家の学園で中央官僚の子息が遊牧民族のお姫様と出会う社会主義的異文化交流ラブコメ『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』(ファミ通文庫・670円)でデビューした石川博品(ひろし)は、豊かな発想力でいつも読み手を驚かせてくれる作家だ。

 たとえばアラビアンナイトを思わせる王宮の奥にさぶらう女御(にょうご)・更衣たちが、皇帝の寵愛(ちょうあい)をかけた野球リーグを戦うハーレム内女子野球小説『後宮楽園球場』(集英社スーパーダッシュ文庫・691円)。あるいは谷崎潤一郎の『細雪』と岡本綺堂『半七捕物帳』にオマージュを捧げた女子校剃毛(ていもう)小説『四人制姉妹百合物帳』(星海社文庫・907円)などなど。

 『明日(あした)の狩りの詞(ことば)の』はそんな著者の新作である。

 宇宙人がうっかり落とした隕石(いんせき)により、宇宙生物の住処(すみか)になってしまった東京。その周辺に暮らす住人は、奇妙な外来動物を狩って生活の足しにしていた。高校生ハンターのリョートもそのひとり。教室での日々になじめず、外の世界で狩りに生きることを願う少年は、隣に引っ越してきた宇宙人の「通過儀礼」を手伝い、大物狩り(ビッグゲーム)に挑むことになる。宇宙人に加え、女子高生の相棒にしゃべるロボット犬、猫耳美少女アンドロイドまで連れて、緑にのまれた廃都・東京へと赴く姿は現代版「モンスターハンター」といったところ。

 けれど本書の真価は、見事に獲物を撃ち抜いた達成感に留(とど)まらず、その後を克明に描くところにある。さっきまで確かに生きていた命を奪ってしまった罪悪感。獲物の皮を?ぎ、血を抜き、内臓を取り出し……と生き物を肉に変えていく過程。もちろん捕った命は自分で頂くのだ。マリネにロースト、燻製(くんせい)。空飛ぶイルカやミミズみたいな豚と、ヘンな獲物ばかりなのに、読んでる側の腹が減るほど美味(うま)そうなのがすごい。

 あふれる奇想を、豊富な文献の裏付けと精緻(せいち)な描写で確かな現実として描き出す筆致はこの著者ならでは。是非、本書をキッカケに、この個性派作家に触れてほしい。

 巨大な獲物と命を取りあい、その肉を食う。もっとも根源的な生の喜びを体感できる、青春狩猟小説である。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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