朝日新聞社 どくしょ応援団朝日新聞社 どくしょ応援団
朝日新聞社: カジュアル読書~10代から20代向けの本や、著者によるイベントを紹介します。
作家LIVE エンタメ for around20 キャンパス発 気になる新刊 ブックマーク

 

バックナンバーはこちら
エンタメ for around 20

 

社会問題えぐるラノベの力 前島賢

冲方丁著 『テスタメントシュピーゲル2』(角川スニーカー文庫・上886円、下907円))

冲方丁著 『テスタメントシュピーゲル2』
(角川スニーカー文庫・
上886円、下907円)

 SF、時代小説と、様々なジャンルを横断し、脚本家としても活躍する冲方丁(うぶかたとう)。そんな彼が「最後のライトノベル」と語る「シュピーゲル」シリーズの新作が5年ぶりに刊行された。本作の特徴のひとつは『オイレンシュピーゲル』(角川スニーカー文庫・全4巻596~700円)と『スプライトシュピーゲル』(富士見ファンタジア文庫・全4巻605~821円)というシリーズが同時展開され、ひとつの事件を2冊で描くという試み。今回、第2巻が刊行された『テスタメントシュピーゲル』は両作が合流した完結編にあたる。

 舞台はテロリズムの脅威にさらされた近未来のオーストリア。戦闘用義肢を身に付け対テロ作戦に従事するヒロインたち――特甲(トッコー)児童の活躍を描く。巨大な兵器で武装した少女というビジュアル自体はありふれたものだが、本作が独自なのは、そこに「少子高齢化による福祉予算と労働力不足の解消のため、未成年者に労働の権利が認められた」「一部の障害児は医療と義肢の代償に子供兵として動員されることとなった」という理由づけを行った点。

 メカ美少女というお約束の存在を、崩壊した社会制度の犠牲者と設定することにより現代を描く梃子(てこ)にしたところが本書のすごみだ。彼女たちが直面するテロのなかには、スーダンのダルフール紛争など、現実の事件をもとにしたものもある。泥沼の世界情勢のなかで抗(あらが)う少女たちとそれを支える大人たち、総勢50人以上の登場人物が織り成す高密度の現代SFだ。

 近年、相次ぎ文学賞受賞者が輩出したことでライトノベルは広くその存在を知られるようになったが、その中身についてはしばしば触れられずに終わりがちだ。たとえば09年に冲方の『天地明察』(角川文庫・上下各596円)が大ヒットした際も「ライトノベルからの越境作家」と語られはしても、高齢化社会や民族紛争など現代的なテーマを扱う本作が言及されることはあまりなく残念だった。ライトノベルは一般文芸や既存ジャンルのためのファーム(2軍)ではない。本作のように、ライトノベルだからこそ描ける物語というものが確かにある。それを読み逃してしまうのは惜しいと思う。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


朝日新聞 インフォメーション 通常版 ベルマーク版