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下読みに小説への愛にじむ 前島賢

野村美月著『下読み男子と投稿女子~優しい空が見た、内気な海の話。』(ファミ通文庫・659円)

野村美月著
『下読み男子と投稿女子~
優しい空が見た、内気な海の話。』
(ファミ通文庫・659円)

 時雨沢恵一『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。』(電撃文庫・既刊3巻637~659円)をはじめ、ここ数年、伏見つかさや平坂読、林トモアキといった人気作家が、相次いでライトノベル作家を主人公やヒロインに据えた新シリーズを刊行しており、「ラノベ作家ラノベ」が密(ひそ)かな人気ジャンルとなっている。

 野村美月の新作『下読み男子と投稿女子~優しい空が見た、内気な海の話。』もそんなライトノベルについてのライトノベルだ。物語は、ライトノベル新人賞の下読み……予備審査を担当する男子高校生・風谷青のもとに偶然、クラスの女子が書いた投稿作が届くところから始まる。氷の淑女と渾名(あだな)され、ライトノベルになどまるで興味がなさそうな氷ノ宮氷雪の意外な一面を知った彼は、落選続きの彼女から小説指南を求められ、それをきっかけに交流を深めていく。クールな外見とは裏腹に、とんでもなく奥手で内気な氷雪が自身の想(おも)いを小説に込めて伝えようとするなど、実にいじらしい恋愛模様が展開される物語だが、同時に、著者の実際の下読み経験に裏打ちされた「一次選考突破のための創作マニュアル」としても実用的な一冊である。

 野村美月は『人間失格』や『嵐が丘』といった名作文学を下敷きにした学園ミステリー『文学少女』シリーズ(ファミ通文庫・全8巻605~670円)で人気作家となった書き手。そうした作風を基礎づける小説への深い愛情が、名作古典ばかりでなく、作家志望者たちの応募作にも惜しみなく注がれていることが青の描写からは伝わってくる。氷雪の小説は一見、稚拙な表現が多いが、彼はそれをけして否定せず、むしろ長所として伸ばしていこうとするのだ。実は評者もいくつかの新人賞で下読みを担当しているが、青のアドバイスや選評の的確さに自分の未熟さを痛感させられるばかりだった。

 どんな作品であっても面白さを見つけられる……そんな下読み少年の姿勢は、小説を読むことの楽しさ、豊かさを改めて教えてくれる。作家志望者以外の方にも是非、読んでほしい一冊だ。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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