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誠実な姿勢貫かれた続編 前島賢

米澤穂信著『王とサーカス』(東京創元社・1,836円)

米澤穂信著
『王とサーカス』
(東京創元社・1,836円)

 短編集『満願』(新潮社・1728円)が山本周五郎賞を受賞し、三つのミステリーランキングでベストに選出されるなどした米澤穂信。もともとは、後にアニメ化もされた『氷菓』(角川文庫・494円)でライトノベルレーベルからデビューした書き手であり、その名が一躍、推理小説の読者に知られることとなったきっかけには、04年に東京創元社から刊行された『さよなら妖精』(創元推理文庫・802円)の存在がある。91年の地方都市で、遠い異国からきた少女マーヤと出会った高校生たちがユーゴスラヴィア紛争の現実に直面していく青春ミステリーだ。

 それから11年後の今年、同作の登場人物のその後を描く新刊『王とサーカス』が刊行された。舞台は01年、フリーランス記者となった太刀洗万智は、取材に訪れたネパールで、皇太子が自分の父親を含む多数の王族を射殺した「ネパール王族殺害事件」に居合わせ、ひとつの死の謎に関わることになる。

 何者でもない高校生が海の彼方(かなた)の悲劇へ推理という名の想像力を働かせるしかなかった『さよなら妖精』と、歴史的な悲劇の現場にジャーナリストとして立つ『王とサーカス』は一見すると正反対だ。けれど、ひとりのネパール軍人が問う、日本語の記事になってネパール人に何の意味があるのか、自分たちの悲劇は日本人には単なる娯楽ではないのか、という言葉に、マーヤとの別れを思い出した。

 かつて、戦火に包まれようとする祖国に帰国する少女に、自分も一緒に行きたい、ユーゴの為(ため)に何かがしたいと願った万智の友人がいた。その願いはマーヤに「観光」と呼ばれて拒絶されることになる。そして今度は万智が、けして海の向こうではない、悲劇の現場に居合わせたことで、逆に、異国の悲劇を我がことにできない無力さに直面することになるのだ。真実を知らしめるというジャーナリストの意義を問い直す万智。その真摯(しんし)な内省には、あるいは、殺人という「悲劇」を「娯楽」にする、推理小説作家としての著者自身の問いが仮託されているのかもしれない。

 変わらない誠実な姿勢が、嬉(うれ)しく、うらやましくさえ思える11年後の物語である。 

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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