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棋士の人間味、リアルに 前島賢

白鳥士郎著『りゅうおうのおしごと!』(GA文庫・659円)

白鳥士郎著
『りゅうおうのおしごと!』
(GA文庫・659円)

 中学生でプロ棋士となり、史上最年少で竜王位を獲得したが、その後の連敗で「クズ竜王」呼ばわりされる九頭竜八一。彼のもとに女子小学生の押しかけ弟子が現れるところから白鳥士郎『りゅうおうのおしごと!』は始まる。

 農業高校への取材をもとに日本の一次産業の現在を問う異色の農業ラブコメ『のうりん』(GA文庫・既刊11巻・648~680円)がアニメ化もされるなど、著者は対象に密着した取材力が定評の珍しいライトノベル作家だ。

 そんな著者が、糸谷哲郎竜王ら関西の若手棋士で構成されたユニット「西遊棋」の監修のもと挑む、将棋ライトノベル。型破りなキャラクター造形でも評判の著者のもと、作中の棋士たちは、実在のプロたちの奇人変人ぶりを受け継いで、将棋会館の窓から放尿し、対局に空気清浄機を持ち込みとやりたい放題。けれど、そんな連中がふとした瞬間、人間らしさをのぞかせる。「棋士のズボンには、利き手の側だけ膝(ひざ)に皺(しわ)が寄る」……思いついた手をとっさに指さないよう必死で握ってこらえるからだ。ギャグの合間に挿入される、誠実な取材に基づいた現実の手触り。このギャップが著者の魅力だ。

 本作が描くのは人間としての棋士の姿だ。八一はネットの悪評が頭から離れず、背負うタイトルの重さに「奇麗に負ける」誘惑に屈しそうになる。純粋な思考力の勝負に見える対局も人間が指す以上、肉体や精神と切り離せない。夜に弱い棋士には長期戦に持ち込み、肩書を武器にハッタリを仕掛け、あるいは相手の呼吸を乱しにかかる。そんな盤外戦術を重視することで、将棋に疎い読者にも読みやすく、それでいてあらゆる手段で相手を叩(たた)きつぶそうとする勝負の世界の恐ろしさをまざまざと描き出している。

 そんな過酷な世界へと入門した小学生の雛鶴あいが、師匠とお互いを高め合う関係を築くのがこの一巻だが、今後は女流棋士にまつわるトピックにも踏み込んでいきそう。長い将棋の歴史の中でいまだ奨励会から女性プロ(四段)棋士が誕生したことがないという事実や、女流棋士の経済的な厳しさといった、盤外の事情についても、綿密な取材に基づいて描いてくれるはずと期待している。 

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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