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世界観同じ「公認二次創作」 前島賢

三門鉄狼著『薔薇十字叢書 ヴァルプルギスの火祭』(講談社ラノベ文庫・670円)

三門鉄狼著
『薔薇十字叢書 ヴァルプルギスの火祭』
(講談社ラノベ文庫・670円)

 TPP加入による著作権侵害の非親告罪化に関し、文化審議会からパロディー同人誌などの“二次創作”を対象外とする発表が今月なされ、ひとまず胸をなで下ろした人も多いはず。オタク文化に大きな役割を持ちつつ、長く“黙認”状態だった二次創作文化だが、最近では株式会社KADOKAWA・株式会社はてなが共同で準備中の小説投稿サイト「カクヨム」で特定作品の二次創作を許可するなど新しい動きも起きている。

 それと並行し、近年は小説でも原作者以外の書き手による作品展開が目立つ。たとえば夭折(ようせつ)した作家・伊藤計劃の作品を題材にした競作集『伊藤計劃トリビュート』(ハヤカワ文庫JA・1231円)、『屍者たちの帝国』(河出文庫・821円)や、絶筆となった長編の続編・外伝が複数の作家により書き継がれることになった栗本薫の「グイン・サーガ」。ライトノベルでも賀東招二「フルメタル・パニック!」や川原礫「ソードアート・オンライン」などの人気作のスピンオフが、別の作家によって書かれ新たなヒット作になっている。

 そして10月から刊行開始の「薔薇(ばら)十字叢書(そうしょ)」。多数の著者が京極夏彦の人気本格推理「百鬼夜行」(京極堂)シリーズの世界観や登場人物をもとに新作小説を刊行する、公認二次創作とも呼べそうな企画だ。そのうちの一冊、三門鉄狼『ヴァルプルギスの火祭』は原作登場人物の孫世代が孤島の館で“魔女”をめぐる殺人事件に遭遇する、いわば現代版でライトノベル版の「百鬼夜行」。原作の語り部である作家・関口の孫は、売れない高校生ライトノベル作家として。そして京極堂こと中禅寺や探偵・榎木津の孫はもちろん(?)女子生徒として登場する。元々、非常に個性的な登場人物ばかりなシリーズだけあって違和感なく“美少女化”を果たしている上、事件の背景に関する衒学(げんがく)的なウンチク語り、関係者に取り憑(つ)いた奇妙な論理を解き明かす“憑き物落とし”と原作の魅力も的確にまとめられていて京極夏彦未読の読者への入門編としてもオススメ。

 こうした企画は今後も続きそうで、もしかしたら小説でも、作品が一人の作家にとどまるものではなくなっていくのかもしれない。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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