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エンタメ for around 20

 

いじめの現実、異様な切実さ 前島賢

城平京著『雨の日も神様と相撲を』(講談社タイガ・778円)

松村 涼哉 著
『ただ、それだけでよかったんです』
(電撃文庫・594円)

 『菅原拓は悪魔です。誰も彼の言葉を信じてはいけない』……そんな遺書を残し、男子中学生Kが死んだ。自殺した彼はクラス中から愛される文武両道の天才少年。そんな彼を含む生徒4人に、日陰者の生徒・菅原拓が壮絶ないじめを行っていたのだという。弟の死の真相を探るため調査を始めるKの姉。彼女の前に浮かび上がってきたのは、人間力テストなる仕組みのもと、学力ではなくコミュニケーション能力で、すべての生徒が順位づけされる閉塞(へいそく)した教室の姿だった。

 第22回電撃小説大賞受賞の松村涼哉『ただ、それだけでよかったんです』は、いじめをテーマにした暗黒青春小説という一見ライトノベルらしからぬ小説だ。しかし、10年以上にわたりライトノベル界のトップに立ち続けてきた電撃文庫は、ファンタジー全盛の90年代に現代もののブームを起こし、あるいは「イラストのないライトノベル」を送り出すなど、常にライトノベルという枠を揺るがし、壊そうとしてきたレーベルである。その意味で本作は、ライトノベルらしくはないかもしれないが、実に電撃文庫らしい受賞作と言えるだろう。

 調査が進むうち、教室の入り組んだ人間関係は何度も反転し、読者を驚かせる。具体的な描写の不足や、説明的にすぎる語り口など、未熟に感じる部分もなくはない。だが、それは書き手自身が、ひとりの男子生徒とともに、コミュニケーションという檻(おり)の中で戦い続けている証しのようにも見え、作品に異様な切実さを生んでいる。きっと10代20代の共感を呼ぶはずだ。

 実はライトノベルには、いじめなど、教室の暗黒面をテーマにした作品が少なくない。ぜひ、一緒に江波光則『ストレンジボイス』(小学館ガガガ文庫・617円)、稲庭淳『ラン・オーバー』(講談社ラノベ文庫・648円)といった作品も手にとって読み比べてほしい。

 「10代の読者が求める小説であること」。結局、ライトノベルの定義というのはそれだけなのだと思う。だから明るい学園ラブコメや異世界ファンタジーの隣に、陰惨ないじめの現実を描いた青春小説が並ぶ。そんな混沌さこそ、ライトノベルの魅力の源だろう。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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