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「やる夫スレ」から大重版 前島賢

蝸牛くも著『ゴブリンスレイヤー』2(GA文庫・691円)

蝸牛くも 著
『ゴブリンスレイヤー』2
(GA文庫・691円)

 ゴブリンといえばファンタジーRPGにおける「ザコ」の代名詞だ。知能でも力でも劣り、取(と)り柄(え)は繁殖力だけの小鬼であり、役どころと言えば、駆け出し冒険者の腕試しの相手ぐらい。レベルを上げた彼らがドラゴンや魔王に挑む頃には見向きもされなくなる存在だ。しかし、蝸牛(かぎゅう)くも『ゴブリンスレイヤー』(既刊2巻、GA文庫・680~691円)は、そんな「ザコ敵」のゴブリン退治を専門とする、ベテランの変人冒険者を描く異色のファンタジーである。

 倒したところで金にも名誉にもならず、けれども放置すれば繁殖して甚大な被害をもたらす……そんな厄介な怪物を駆除するためだけに特化したのが主人公・ゴブリンスレイヤーだ。「だが世界が滅びる前に、ゴブリンは村を滅ぼす」「世界の危機は、ゴブリンを見逃す理由にはならん」それが彼のスタンスである。

 魔法の剣や高価な金属鎧(よろい)はゴブリン退治には無用の長物と、安っぽい小剣と汚れた革鎧しか持たず、目的のためなら手段を選ばない。敵が待ち構える洞窟に踏み込むような冒険は極力避け、火攻め水攻めとあらゆる方法で安全かつ確実に任務を達成しようとする。ゲームで同じ事をすれば、苦労してダンジョンをつくった側が激怒しそうな戦法を平然と実行する姿は、勇者や英雄なんてきらびやかな称号とはほど遠いが、プロフェッショナルならではのストイックな格好良さがある。

 2月に刊行された1巻が即座に大重版となり、あらたな人気シリーズとなった本作はもともとウェブで連載された作品である。しかも最初は小説ではなく、掲示板サイトに投稿された「やる夫(お)スレ」と呼ばれるアスキーアート(文字や記号を使った絵図)を用いた絵物語風の形式のもの。それを著者みずから小説化したのが本書だ。主人公をはじめ、登場人物が固有名を持たず、女神官や妖精弓手などと呼ばれるのはその名残と思われる。

 「やる夫スレ」は歴史や趣味、職業の紹介・解説からノンフィクションに二次創作とジャンルも多岐にわたり、なかには数万単位の読者を獲得した人気作も珍しくない。本作のヒットがきっかけとなり、そうした名作が書籍として新たに生まれ変わる流れが出てくるかもしれない。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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